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八条学園怪異譚

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第十九話 口裂け女その一

                第十九話  口裂け女
 愛実と聖花は今は愛実の家の中、食堂の奥のそこにいてそこのちゃぶ台のある居間で愛実の姉愛子の話を聞いていた、愛子は玄米茶を飲みながら二人に言った。
「うちの学園って怪談話が多いわよね」
「そうそう、そうよね」
「多いですよね」
「ええ、何か最近二人共それに凝ってるみたいだけれど」
「ちょっとね。面白いかね」
「色々調べてます」
 実際にそうだと言う二人だった。ただし日下部や博士達と会っていることは話していない。流石にこれは話せなかった。
 その中で二人はこうも言った。
「何か色々あってどれだけあるかわからない位よね」
「七不思議どころじゃないですよね」
「ええ、七つどころじゃないわ」
 実際にこう答える愛子だった。
「もっと多いわね
「本当にどれだけありますか?」
 聖花はこう愛子に尋ねた。
「うちの学園の怪談って」
「百もないと思うけれど」
 流石にそこまではなかった。八条学園においても。
「それでも確かに多いわよね」
「具体的にはどれだけあるかもよね」
「私も知らないの」
 愛子は首を捻って聖花、そして愛実にこたえた。実際に彼女にしてもこのことについてはよく知らないのだ。
「何十もあるのは間違いないけれどね」
「普通の学校ってそんなに多くないわよね」
 愛子もまたここで首を捻る。
「やっぱり」
「だから七不思議なのよ」
 数字的にも丁度いいからであろうか、学校のこうした話は大抵この数だ。
 だが八条学園は広いせいかそれどころではなかった。愛子はその中でこの人の名前も二人に対して言った。
「大学に仙人みたいな教授がいるしね」
「悪魔博士よね」
「あっ、知ってるの」
「ちょっと研究室にも出入りしててね」
 このことは言えた。出入りして何を話しているのかは言えなかったが。
「だから知ってるけれど」
「あの博士確か理学博士だけれど」
「えっ、文学博士じゃないんですか?」
 聖花は愛子の今の話に少し驚いて問い返した。
「確かそうだったと思いますけれど」
「何か一杯博士号持っててね」
「工学博士でもありますよね」
「医学博士でもあるのよ。他には経済学に社会学に」
 とにかく色々な博士号を持っているのが博士だ。愛子も言うのだ。
「両手に余る位の博士号持ってるのよね」
「しかも何歳かわからないわよね、あの人」
「百二十歳位じゃないの?」
 愛子はここでまた首を捻って述べた。
「百五十って噂もあるけれど」
「そういえば日清戦争の頃には生きておられたそうですね」
 聖花はこのことを愛子に言った。
「確か」
「そうらしいわね。坪内逍遥の直筆のサインも持ってるし」
 明治初期の文学者だ。近代文学の創始者と言ってもいい存在だ。
「二葉亭四迷も知ってるし」
「夏目漱石より前ですよ」
 聖花は彼女の基準の古い小説家から見て言った。
「その頃の文章って殆ど文語ですよね」
「あれで一応かなり砕けたけれどね」
 二葉の文章でかなり口語になってきている。森鴎外や芥川龍之介も口語、候文での作品を残してはいる。
「それでも。当時の文章も知ってるから」
「本当に古い人なんですね」
「今時文語の文章書けてすらすら読める人は少ないわよ」
 既に昔の存在だからだ。戦前はまだいたが。
「それこそ正しき日本語を伝ふる会とかいう組織でもないとね」
「何か名前聞いただけで口煩そうな団体ね」
 愛実はその名前を聞いただけでこう察した。
「あまりよさげじゃないけれど」
「とりあえずあの博士が幾つかわからないっていうのは確かよ」
「そうよね。本当に幾つなのかしら」
 愛実はこのことについて首を捻った。何度考えてもわからないことだった。 
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