IS クロス Zero ~赤き英雄の英雄伝~
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Mission 3 交差する赤と青
Side --- <ゼロ>
高い位置に設置された窓から夕陽がさす。
静かな夕暮れ時の中、武道館には騒がしいくらいに声が響いている。
「はぁぁぁぁあぁ!!!」
「ぐっ!」
ホーキの突きが胸辺りにクリーンヒットする。
ただ単純な剣技なら負ける気は、というより負ける訳にはいかないのだが『突き』に関してはホーキの方が圧倒的に上手だ。素直に称賛に値する。
こちらの方が戦闘経験値の高い剣技なら、ホーキの太刀筋はいくらか正確に把握できるのだがいかんせん経験の浅い突きはどうにも太刀筋が読みにくい。
「がっ……はぁ! くっ、やるな」
「いつまでも負けっぱなしではカッコが付かないからな!」
「はっ…はぁ! なら、こちらの距離まで持って行く!」
勢い良く踏み込み、姿勢を低く落とす。振り下ろされた竹刀を何も持っていない左手で受け流す。
ゼットセイバーで慣れた三連撃……横切り、短い斜め切り、両手に持ち直し大上段からの振り下ろしを放つ。
初撃はレプリロイド相手には一撃必殺になりうるがホーキには囮にもなりはしない。
だから、普段よりも短い斜め切りで揺さぶりを掛ける。それをホーキは竹刀で受ける。
そこに大上段からの全力の振りおろし。ホーキはそれを防げない。
『ケンドー』という剣術の型らしいがホ-キのクセが出ているらしい。一撃を受けた後は一瞬反応が遅れる。
スパァァァァン!
と、快音が武道館内に響き渡る。
頭を軽く前後にふらふらとさせるとぐらりとバランスを崩すホーキ。
しまった! 加減を忘れていた。どうにも最近全力で振り切ることが多くなった気がする。
俺に責任の一因があるわけなので駆け寄り、支える。
「大丈夫か?」
問いかけてみるが応答が無い。続いて軽くゆすってみてもやはり反応が無い。
一応、心臓が動いているかを確かめる。
…………死んではいないな。いや、というよりこんな殺傷能力の低い武装で死ぬほど人間は脆くは無いか。
「しのの~ん、ぜろっち~、ごはん食べ行こう?」
武道館の扉をガラリと開けホンネがトコトコと歩いてくる。
俺とホーキを視界に収めるとぎょっとしたような顔をする。
昨日今日とほぼ一日中一緒だったが初めてホンネが目を見開いている所を見た気がする。
「ぜ、ぜろっち!? なんで、しののののんの胸に手を当ててるのかな!?」
『の』が多い。誰だそれは。
「いや、そのだな、全力で面を打ったらな? 急に倒れてしまって揺さぶっても反応が無いからな?」
何故こんなに俺も慌てているんだ。意味が分からない。
別にやましい事をしているわけではない。そんなことは断じて無い。
だが、心臓がバクバクと脈を打つ。初めての感覚だ。
「打ったら急に倒れた? 脳震盪かな? ってそれはいいの! いやいやよくないけど!」
「お、落ち着け。俺も落ちつく」
「落ち着いてるよっ! とりあえず離れるの~!」
俺とホ-キの間に割って入るホンネ。どこにそんなにムキになる要素があるんだろうか。
エルピスも俺とシエルが話していると割って入ってきたが、あれか『嫉妬』か?
それは無いだろう。多分ホンネの俺への認識は保護対象の様な物だと思う。
「じゃあ、私はしののんを保健室に届けるから、ぜろっちは後から三人分のご飯持ってきてね~」
「あ、あぁ、了解した」
人の返事も聞かずに出て行ってしまった。
問答無用という事か。
とりあえず、食堂に行って三人分貰おう。今日はホーキも見ていないし『はんばーぐ』というのを食べてみたい。和食というのは疲れる。最初こそ箸の使い方をマスターしてやると息を巻いていたが今ではもういい。
フォークやスプーンを使う方が楽だ。もう今日は疲れたんだ。
大体このような事を繰り返して、ISについて学び、剣技も鍛錬を怠らなかった。
剣技に偏らせすぎたおかげでリコイルロッドやゼロナックルを使っていたときに学んだ体術は多少精度が落ちたが。
そしてもう決闘の日だ。時の流れは速いな。
負ける訳にはいかない。
---場所移動&時間経過 クラス代表決定戦会場第三アリーナガレージ---
「アンリエット、これがお前の専用機だ」
チフユが指を指す先にあったのは灰色をしたISだった。
初めて見たものよりも背に装備されているスラスターは大きく、フットパーツも大きい。
「今は待機状態になっている。ほら、のってみろ。後ろに背を預ける感じだ」
「了解した」
チフユに言われた通りに背を預ける。
初めて触った時ののようにISが激しく発光し出す。
徐々に自分の腕や足、頭が何かに包まれていく。
光がやむと目の前には少々驚いた様な顔をしたチフユと愕然とした表情のヤマダ、ホンネ、ホーキが居た。
「まさか、形態移行までしちゃうなんて」
「いや、これは形態移行というよりも突然変異という方が正しいだろう」
「? 鏡か何かないか?」
「お前の後ろに巨大な鏡がある。振り向け」
チフユが的確な指示をくれた。
振り向くとそこには先ほどのスラスターを鋭く鋭角に変化させたような物が四機背についており、フットパーツとアームパーツは2/3くらいにシャープになっているISが見えた。
そして、中心には見慣れた『レプリロイドだったころの俺の姿をした自分』が見える。
全体的に赤を基調としたカラーリングになっている。俺のアーマーパーツに合わせて変化したのか?
いつかの『フォームチェンジ』を思い出すな。
「まさか、カラーリングまで変わるとは……元は白を基調とした『白式』という名前だったのだが。これではその名前は通用しないな」
「ならこのISの名は『ゼロ』にしよう」
「自分の名前を付けるなんてなかなかに詩人だなゼロ」
「あくまでもコードネームのような物だ」
「なんでもいいが……油断をするなよ」
「ぜろっちが怪我するのなんて見たくないからね~」
「ほらいい加減離れろ」
チフユがホーキとホンネを離れさせる。
そして俺を見上げ目線で「勝ってこい」そう言っているように俺は見えた。
出る前に武装の確認をしておこう。
ん? ゼットセイバーがアクティブになっている? ISの展開時は使えるのか?
後は…………
『バスターショット』
『トリプルロッド』
『リコイルチェーン』
『リコイルロッド』
『シールドブーメラン』
『ゼロナックル』
俺がこの世界に飛ばされたときに無くしたと思っていた武装か。
この武装たちなら扱いなれている。負ける気などさらさらしない。
「ゼロ君、時間です。発進準備完了、いつでもいけます」
「ハッチを開けてくれ。すぐに行く」
そう、ヤマダに伝えると眼前の壁の真ん中に線が入り上下に開いて行く。
光がさしてくる。
この高揚感、いつ振りだろうか。戦闘に高揚感を感じるなんて久しくなかったからな。
「ゼロ君、出れます」
「負けるなよ、ゼロ」
「負けないでね~」
キィィィィィンと甲高い音が鳴りスラスターを起動する。
ゴウッと腰回りについたアーマーの排熱口から風を排出し、空中に浮遊する。
「行ってくる」
バゥン! といった感じの音を立ててスラスターが炎を上げる。
どんどん加速し風を切る。
空を飛ぶというのはこんなにも爽快なのだな。
ばっとハッチからアリーナへ飛び出し完全に宙に浮く。
「あら、逃げませんでしたのね」
「誰が逃げるか」
お互いに言い合い、それぞれの武器を展開する。
オルコットは巨大な銃。俺はいつも通りゼットセイバーとバスターショット。
≪試合開始だ!≫
チフユの声が空から響き、戦闘が始まった。
Side --- <セシリア>
「こちらから行かせて貰いますわよ!」
『スターライトmkⅢ』で先制射撃を放つ。
青白い光が、銃口から飛び出しゼロへと向かう。
見た所彼の機体は近接型のようですわね。一応射撃武装も所持しているようですがあのおもちゃのような小さな銃では牽制にもなりわしませんわ。
「どうした、やけに直線的な攻撃だな」
「その余裕どこまで続くか楽しみですわ」
即座に、第二射、第三射、四射、五射と立て続けに放つ。
光の奔流がゼロへと向かうが彼はそれを体を少し左にひねりロールしながら全弾避ける。
並みの戦闘経験ではなさそうですわね。なら……
少し間を開けてからまた五連続で引き金を引く。
「どうしましたの? 避けてばかりの弱虫のような闘い方じゃわたくしには勝てませんわよ」
五発撃ちきると間を開けてまた放つという行動を初めのを含め五回続けた所でさらに大きく間を開ける。
これで掛かってくれればいいのですが。
「ふんっ!!」
ロールをやめスラスターをフル稼働しこちらに向かってくる。
掛かりましたわ!!
「はぁぁぁ!!!」
勢いよくセシリアを斬ろうとした彼を四本の光が狙撃する。
背に二発、腹部か胸部に二発ずつ、打ち込んだ。
ブルー・ティアーズの最も重要なBT兵器『ブルー・ティアーズ』
「遠隔操作射撃!?」
「ふふふっ。まんまとかかるなんておバカさんですのね」
即座に距離を取るゼロ。手についているシールドが緑色の残像を残す。
だがそのすきを仮にも代表候補生の彼女が見逃すわけがない。
無防備な彼の腹部めがけて彼女の主兵装である巨大な狙撃銃の弾丸を撃ち込む。
だが、弾丸は予想外にも彼女自身に跳ね返ってくる。
「反射!?」
跳ね返ってきた自身の弾丸に対し同じ弾丸を撃ち込み相殺する。
突然のことだったので銃を持ち直すと目の前に赤い翼が見えた。
Side --- <ゼロ>
「っ!!」
短い気合いと共に後ろにリコイルロッドを振り抜く。
ゴッと確かな手ごたえを感じる。
そのままリコイルロッドの反動をスラスターで加速しグルンと一回転する。
視界が高速で移動し、視界の下端に青い装甲が入る。それを思い切り蹴りつける。
「きゃあ!!」
悲鳴を上げてオルコットが吹き飛ぶ。
だが、奴の機体は遠距離型、ここで攻撃のチャンスを逃すほど俺もお人よしじゃない。
どんどん地面が近づくオルコットの機体めがけてリコイルチェーンを放つ。
かろうじて射程範囲内だったようでギリギリ右手をとらえる。
ぐっと引き寄せ、それに俺自身もブーストし近づく。
キィン……キィン……
甲高い音が頭の中を響き渡る。
オルコットが近づいてくる。
キィン…キィン…
再度、頭の中を響き渡る音。
計四回しっかり鳴った。必殺の一撃の準備は整った。
オルコットとの距離がほぼゼロになった時右手の武装をリコイルロッドに変える。
そして彼女の脇腹にバスターショットの銃口を当てそのまま放つ。
「(零距離バスター、フルチャージ!!)」
ズドン! と鈍い音がし、左手が大きく後ろへノックバックする。
先ほどより速いスピードで地面へと激突するオルコット。
そこへ教科書に載っていた加速方法『瞬間加速』で近づく。
攻撃の強さは速さと重さで決まるらしい。
だが、今の俺の武装、リコイルロッドはビーム、重さなど無いに等しい。
なら、圧倒的なまでのスピードを与えるだけだ。
瞬間加速の加速、そしてリコイルロッドのフルチャージは素早く突き出し、伸びる攻撃だ。速さ×速さ、十分な速度だろう。
「うぉぉぉぉぉおおおぉぉぉ!!!!」
すでに地面に沈んでいるオルコットに向けて必殺の、最速の一撃を放つ。
傍から見ればそれはスラスターから上げられる青い炎、彼の機体の色、そして目が霞むほどの速度から、まるで『流星』のようだったという。
ズガンッ! と大きな衝撃音が響いた。
会場に居た者は皆ゼロの勝利だと思ったが、まだ決着はついていない。
だが、そんなことゼロも重々承知だ。
オルコットがさらにもうひとつ奥の手を隠している事など容易に推測できた。
「まだ、終わりませんわ!!」
彼女の『スカート』から二基のミサイルが飛び出す。
だが、そんな実弾兵装はゼロには通用しない。
何時の間にやら切り替えたゼットセイバーでミサイルを切り裂く。
この世界に来る前、彼が英雄として何年も闘い続けていた際に習得した技能『弾丸斬り』
幾千もの相手を一人で相手にする英雄としては出来なければ死ぬかもしれない技能である。
「!? …ま、まだですわ!」
「もう止めておけ。これ以上やるなら、お前の無事は保障できない」
「情けを掛けるというのですか!?」
「女はなるべく傷つけたくない。お前はその、美しいという部類に入るだろう?もしお前に傷を付けてしまったら俺は責任を取れない」
「なっ! そんな事心配せずともわたくしは負けませんわ!」
「よしておけと言っているんだ! もうさっきの自立機動兵装を動かせるほどエネルギーは残っていないのだろう?それにこれ以上やってもお前は絶対に俺に勝てない、負けを認めろ」
オルコットの腕を掴み暴れようとするのを抑える。
先ほどの一撃の余波であの巨大な銃ももう撃てないだろう。
というよりこの距離で撃ったらオルコット自身が被弾する。
「くっ! ……降参しますわ」
≪セシリア・オルコットの降参を確認。勝者、ゼロ・アンリエット。繰り返す、セシリア・オルコットの降…………≫
「ほら、掴まれ」
「なんですの?」
「飛べるほどの元気は残っていないだろう? 連れて行ってやる」
「帰ることぐらい一人で出来ますわ!」
オルコットはスラスターを起動するが途中で音が止んでしまう。
エネルギーが完全に尽きたのか、彼女のISも自動で解除され青いイヤーカフスに戻る。
「無理はするな。こういうときくらい男の俺を頼れ」
「しかたありませんわね。少々負担を掛けますわよ」
セシリアを抱くように右手で固定するとそのまま飛びあがりガレージを目指す。
「…………あなたはどうしてわたくしにここまでしてくれるんですの?わたくしはあんなにあなたを罵倒したんですのよ?」
「ん? あぁ、それは俺が英雄だから、だ」
ニコッとオルコットに微笑みかける。
シエルはレジスタンスの皆の気分が落ち込んでいるときにはいつもニコニコして励ましていた。
戦闘に敗北した時は誰しも気分が落ち込むものだ。
なら少しは俺も励ましたっていいだろう。
「で、でも!」
「いいんだ。もう少し俺を信頼してくれ。どうしても信頼できないなら、お前が認めてくれるようになるまで強くなる。俺は……男だからな」
「!!」
「まぁ、そういうことだ。とりあえずはガレージに戻ったらホーキとホンネに謝ってもらうぞ?」
「は、はい! ゼロさん」
「ん。もうすぐ着くぞ。少し衝撃に耐えてくれよ?」
また、ひとりの少女が恋をした。
まぁ、勿論その思い人はそんなこと知る由も無いのだが。
いつか、彼にも恋心が芽生える時が来るのだろうか?
後書き
戦闘描写が…………
突っ込まないで頂けると嬉しいのです。
セシリアさんはちょーっとちょろすぎましたかね?
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