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IS クロス Zero ~赤き英雄の英雄伝~

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Mission 2  成長の証

Side --- <箒>

「あ~あ~、そうじゃないと言っているだろう。こう、中指に置いて、人差し指と親指で支えるんだ」

 隣でポロポロとこぼしながら魚を食べているアンリエットの手を掴む。
こぼれた魚は布仏がもったいないからと言って綺麗に拾って食べている。
まぁ食堂の机はいつも清潔だから確かに問題は無いと思うが、どうにも私は生理的に無理だ。

「どうしてホーキはそんなにきれいに食べられるんだ?」

「慣れ……だな。ほら時間も無いからもうフォークとスプーンを使え」

「もう少し練習したい。ダメか?」

「午後の授業に遅れてしまうからな……部屋に箸があるから特訓が終わったら部屋で練習しよう」

「私も行ってもいいかな~?」

 モグモグと咀嚼をしながらどこから出しているのかは分からない鮮明な声で布仏が尋ねてくる。
下を向いて箸とにらめっこをしていたゼロは急に顔を上げる。

「ホンネも来てくれるのか?」

「しののんが許可してくれるならね~」

「ホーキ、ホンネを呼んでもいいか?」

「別に……構わないぞ。教える側は多いに越したことは無い」

「本当か!? ありがとうホーキ!」

「わっ! お、おい、アンリエット!!」

 急に抱きつかれて後ろに仰け反る。感謝してくれるのはありがたいが、行動が少々大胆すぎる。
このままではあらぬ疑いを掛けられてしまう。

「ホーキ? 昨日ゼロと呼んでくれと言っただろう。アンリエットは呼ばれ慣れてないんだ」

「あ? あ、あぁ、すまない。ゼロ」

「しののんいいなぁ~、私もぜろっちにそこまで懐かれたいよ」

 布仏が羨望の眼差しを送ってくる。何だ、ゼロに好意でも抱いているのか?
確かにこうしてみると、小さくて守ってやりたくなるし、顔立ちも整っている。
だが……それだけで……好意を抱くのはいささか早まり過ぎ……

「?」

 じゃないな。この笑顔は惚れても仕方がない。
私はまだ陥落する気はないが男に飢えているIS学園の生徒なら十分落せるだろう。
でも、何故ここまで純粋なんだこいつは。

「あ~っ! 篠ノ之さんがアンリエット君と抱き合ってる~っ!」
「あっ! ホントだ!ずるいずるい!!」
「私と変わってよー!!」

「何を騒いでいますの?」

 周りの女子が騒ぎ出したのを止めるかのように腰まで伸ばした金の髪を揺らしながらオルコットが近寄ってくる。
どうにもいけすかない奴だな。無視だ無視、こんな奴。

「まぁ、白昼堂々それもこんな公衆の面前でそんな事をしているなんて、恥を知りませんの?」

「なぁ、ゼロ、感謝を示すのになんで抱きつくんだ?」

「昔の友人が言っていたんだ『昔の文明には感謝や感激の意を示すのには抱きつくという風習があったのですか…………興味深いですね……』と」



Side ---  <ゼロ>

「昔の友人が言っていたんだ『昔の文明には感謝や感激の意を示すのには抱きつくという風習があったのですか…………興味深いですね……』と」

 エルピスが情報を引きだして呟いていたからな。なんだかんだ言ってもあいつも優秀だったんだ、人間へのコミュニケーションの参考にさせて貰ったのだが、間違っていたか?

「ゼロ……それはごく親しい友人にやることだ。少なくとも出会って数日の私にやることではない」

「そうか……すまない」

 エルピスでも間違えはあるのだな。データ保存されていたものだから正しいと思っていたのに、やはり断片的なデータ回収では限界があるか。

「ちょっと? わたくしを無視しないで頂けます?これだから東洋人は嫌なのですわ」

「オルコット…今の発言は聞き逃せないな。そうやって他人を見下すことしかできないのか」

 ホーキが少しいらついた様な顔で立ち上がりオルコットを睨む。
確か東洋人とは人種だったか? 人間には一つの種族に色々なタイプがあるのだな。
オルコットは白人と呼ばれる部類のようだ。白人は東洋人をバカにするのか?

「そうだよ~、温厚な私でもちょ~っといらっときちゃったよ~」

 ホンネも醸し出している雰囲気に似つかわしくない鋭い目つきでオルコットを見る。
二人に睨まれているオルコットはそれでもひるまずにフフンと鼻で笑い、口を開く。

「あら? あなた方にもプライドや誇りがあったんですの? こんな所で堂々と恥をさらしているのだからそんなもの無いのだと思っていましたわ」

「ふん。何かと言えばやれ代表候補生だ、やれオルコット家だ、と権力を振りかざすお前に誇りを語ってもらいたくないな」

「で? 二人してそこの泣き虫さんの面倒を見ているのですか? まぁ、あなた方のような弱い方々は三人ぐらい束になりませんと、わたくしの相手にもなりませんものね」

「おい、オルコット」

 立ち上がり、オルコットの前に立つ。
立ち上がるとは思っていなかったのか多少オルコットは怯みながら一歩後ずさる。

「あんな醜態をさらしたのだから、俺をどう言おうと構わない。だが、この二人に対する侮辱は撤回してもらおう」

「弱い方々を弱いと言ってなにが悪いんですの? わたくしは思ったことをそのまま申し上げただけですのよ? わたくしに非があるとは思えませんわ。なので、撤回する気などサラサラありません」

「この二人は決して弱くない。俺という弱い存在を助けてくれているんだ。しかもあってまだ、そう経っていないのに、いわば恩人だ。恩人への侮辱は許さない」

 一歩一歩詰め寄りながら言う。オルコットはそのたびに後ずさりしている。

「な、なんなんですの! わたくしから言えば十分弱いですわ!」

「ならば、俺がクラス代表になったらこの二人に謝ってもらおう。そして二度と馬鹿にするな」

「ふん! あなたみたいな泣き虫な方に負けるわけがあるわけ無いでしょう!」

「なら、なおさらだ。この二人は俺よりも強い。この二人より弱い俺に負ければお前は、この二人よりも弱いということだろう。だから、俺に負けたらこの二人が弱いという発言を撤回してもらう」

「いいですわよ。負けるわけがありませんもの! せいぜい腕を磨いておくんですわね!」

くるりと後ろに向くとスタスタと歩き去るオルコット。
二人の名誉のためにも負けられないな。だが、ヤマダいわくISを使って練習できるのはもう少したってかららしい。ならISでの練習はできないという事だ。
なら、どこで何を学び、鍛錬するか。

「ぜろっちだいじょーぶなの? せっしーにあんな啖呵切っちゃって」

「そうだぞ。まだISを使った練習はできないというのに。まだ、千冬さんがお前の専用機の配達を決闘当日に間に合うようにしてくれたのが救いだが」

「ホーキ、ホンネ、どっちがISについて詳しい?」

「あ~、なら私だと思うな~。これでも生徒会役員なんだよ?」

「ならホンネ、俺にISの基本構造などの知識を教えてくれないか?」

「ん、りょ~か~い」

「私にはなにか、出来ることはあるか?」

「ホーキは、俺の剣術の特訓に付き合ってくれないか。チフユが言うには俺のISは近接特化らしいからな」

「構わないぞ。というより聞いておいてなんだがそれくらいしかできないからな」

「それじゃあ、そういう事で頼む」

「わかったよ~。ってそういえば時間は?」

 キーンコーンカーンコーン。鐘が鳴った。
これは、確か授業開始の合図だった気がする。

「手遅れ……だな」




~~~~時間経過 夕食後~~~~

「だから~、いかにして自分の『シールドエネルギー』を残しつつ闘うかがIS同士の戦闘だと重要になってくるんだよ~」

 本音がダボダボの袖を振りながら身ぶり手振りで教えてくれる。
ISでもエネルギー問題があるのか…………。

「ここまでは分かった~?」

「勿論だ」

「それじゃ~あとは~、明日、主にどんな装備を積んでるのか織斑先生に聞いてから三人で戦略を練ろうか~」

 こんなにホンネがしっかりと考えているとは思わなかった。
どちらかというと『のほほん』としているからもっと軽く流しているのかと思った。

「ぜろっちなんか失礼なことかんがえたでしょ~」

「い、いや、そんなことは無い」

「いいけどね~」

「オルコットは遠距離型のようだし、こちらに射撃武装が無かった場合少し相性が悪いな」

「ん~……まぁ、代表候補生はISの扱いに慣れてるわけだしこっちは素人同然なんだから基本は、当てて逃げての『ヒット & アウェイ』になるだろうね~」

 ホーキとホンネが難しい顔をして長考している。
だが、下手に遠距離型でも俺には扱いきれないんだが。
射撃は一応バスターショットで心得はあるが『エックス』のように精密な射撃はできないからな。

「俺はなるべくなら剣が一つあったほうが嬉しい」

「剣かぁ~……あっ!ぜろっちに一つ説明し忘れてたよ~」

 ホンネが再び教科書を開く。そしてページをパラパラとめくり『武器』の項目でとめる。

「あのね~、武器にも使うときにエネルギーを使うやつと使わないやつがあるんだよ~。大体は実弾かそうでないかで分けられるんだけど、実弾はエネルギー使わないんだ~」

 ホンネが『攻撃時の消費エネルギーの有無』について記述されている個所をトントンと叩く。
トントンと言っても袖がダボダボのせいでボスボスといった感じの音になってはいるが。
 しかし、攻撃中のエネルギー消費か……前の俺にはその心配はなかったからな。
逆に考えればそれが異常なのか……俺の創造主はよほど腕が良かったのだろう。

「ということは実弾でないものはその逆でエネルギーを使うのか」

「おぉ~、しののん理解早いね~。まぁそのかわり実弾には弾数に決まりがあるから撃ちきるとただの鉄の筒になっちゃうんだよ~」

「どちらにしろ無駄撃ちはできないと言うことか」

「そうだよ~。あと剣、てゆーか近接武装はもう少し種類があって、『何においてもエネルギーを使わないタイプ』『出す時にだけエネルギーを使うタイプ』『出す時も出した後もエネルギーを使うタイプ』『特殊な攻撃の時にだけエネルギーを使うタイプ』がメジャーな4つのタイプかな~」

「それはやはりエネルギーを使うものほど強力なんだな?」

「さすがぜろっち、察しが良いね~。その通りだよ~、そしてもちろん、使う量が多ければ多いほど強力なんだよ~。これは銃の方にも言える事だよ」

「まぁ、等価交換というわけだな。強力な攻撃にはそれ相応の代償が必要ということだろう、ホンネ?」

「まとめるとそういう事だよ~。時間も遅いし今日はここまでにしようか~、あんまり色々詰め込んでも効率悪いしね~」

 だら~っと全身の力を抜き寝床に伏せるホンネ。
疲れきった顔をしているが、まぁ、無理もないだろう。人にものを、それも何の知識も無い所に、分かりやすく教えるというのは考えている以上に頭と体力を使う物だ。

「助かった、礼を言う」

「そんな堅苦しいあいさつしなくてもいいよ~。昨日どんどん頼ってねって言ったでしょ~。そういえば明日も教えた方がいいのかな?」

 ニコニコとしながらそんな事を言ってくれる。余っている袖がブンブンと宙を舞う。
色々と世話になって……本当に感謝しきれないな。

「いや、明日はホーキとの鍛錬がある。ホンネも一緒にやらないか?」

「ん~ん、私はいいや~。どっちかって言うと射撃の方が得意だしね~」

「そうか。それじゃあホーキ明日はよろしく頼む」

「分かった。まぁ私がゼロに教えるよりも、ゼロに教わることの方が多そうだがな」

「じゃ、私はそろそろ帰るね~。ルームメイトも心配してるだろうしね~。ば~いば~い」

 トコトコと昨日のようにぽわ~っとした雰囲気を残して去ってい行く。
俺も早く寝ないと明日が辛いな。
 だが、昨日で身をもって体感したが睡眠というのはどうにもなれないな。まず疲れがたまるというのが初体験だったが睡眠はやり方が分からずに苦労した。俺の『スリープモード』とは違うんだな。



Side --- <セシリア>

「まったく。本当に何なんですのあの方は」

 ダンッと机にグラスを叩きつける。勿論飲んでいるのはジュースだ。
予想以上に大きな音がしてルームメイトを起こしてしまったかと心配になり見てみるが規則正しい寝息を立てている。
 あの、ゼロ・アンリエットという殿方。このわたくしにむかってあのような口のきき方は失礼すぎますわ。
それに、急に泣き出しますし、殿方はもっと強くありませんと。精神的にも肉体的にも。

「でも、今日の昼食事のあれは……迫力がありましたわ」

 昼食の折に見せたあの気迫はわたくしでも軽く恐怖を覚えましたから。
 睨んでも怯まないなど精神力も昨日と比較にはならないくらいに強くなっていましたし。
彼は誰かのためになら強くなれるのでしょうか?

「いえ……そんなおとぎ話のような事がありえる訳無いがですわ」

 気持ちの持ち方で変わったというには余りにも変わり過ぎですわ。
あれはまるで別人のような、まとう雰囲気からなにから全てが昨日感じたものとは違いましたもの。
カランとグラスの中の氷が揺れた。

「あら、もうこんな時間ですのね」

 あれこれと考えを巡らせているうちに真夜中になっていたようだ。
いい加減寝ませんと、もうこの窓から見えるくらいに月が傾いていますし。
 こんなにも誰か一人に興味を持ったのは久しぶりですわね。
興味と言っても決して恋愛感情などではありませんが。

「絶対にわたくしの前に倒れ伏して貰いますわ」

 まだ、約束の日まで残り六日。どこまで強くなっているかは楽しみですわ。
まぁ、どんなに強くなっていてもわたくしと『ブルー・ティアーズ』に勝てるという可能性は0でしょうけどね。
 でも万が一という事もありますし、まだ完璧ではない『BT兵器』の操作をもっと練習するべきでしょう。
さて、もう寝ましょうか。 
 

 
後書き
前回と今回のセシリアとの口論を経てゼロは精神的に少し成長しました。

口論も立派な戦いですよね。 
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