スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇
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第百四十二話 絶望と復活
エイジの予想通り斗牙はタスマニアの市街にいた。中心都市であるホバートにだ。
彼はそこの路地裏で倒れるようにして座っていた。片足を投げ出しそのうえで。
傍に野良犬が来ても見向きもしない。目が完全に死んでいた。何も言葉を出そうともしないのだった。
そしてグラヴィゴラスでもサンドマンを探して。皆大慌てであった。
「いた?」
「いいえ」
「こっちには」
メイド達が必死に彼を探していた。
「おられなかったわ」
「じゃあ何処に?」
「こっちに行ってみましょう」
彼女達はサンドマンを必死に探していた。彼の捜索もまたタスマニア中で行われていた。だがそれと同時にグラヴィゴラスの中でもそれが行われていたのだ。
その中でレイヴンはある部屋に入った。そこは誰も入ってはならないとされている塔にある一室であった。彼はそこの部屋の中に入ったのである。
そこはごく普通の部屋だった。プライベートルームのようである。そこに入るといた。
「やはりここでしたか」
「ここには誰も入ってはならない筈だが」
「状況が状況ですので」
そこにはサンドマンがいた。彼は窓の縁に座りそこからぼんやりと外を眺めている。彼にしては非常に珍しい姿であった。
「ですから」
「私はもう」
ここでサンドマンは外を眺めたまま言うのだった。
「もう戦うことはない」
「何故ですか」
レイヴンはその彼に対して問うた、
「何故そのようなことを仰るのですか」
「エイナが死んだ」
まずはこのことを言うのだった。
「もう戻っては来ない」
「確かにエイナは死にました」
レイヴンもまたそうだと思っていた。エイナのことは。
「ですが戦いです」
「戦いか」
「そうえす。戦いならば当然です」
こう主張するのだった。
「誰かが死ぬのは」
「義兄さんがやった」
サンドマンはここで義兄のことを話に出してきた。
「義兄さんが」
「御義兄様がですか」
「私を狙ってそのうえでのことだ」
「あの方のことは私も聞きましたが」
「それにより誰かが犠牲になる」
サンドマンが言うのはこのことだった。
「それはもう」
「耐えられないというのですか」
「私の為に誰かが死ぬのなら」
サンドマンの言葉は続く。
「それ位なら」
「どうされるというのですか」
「私は戦いを止める」
これが彼の考えであった。
「最早それで」
「馬鹿な」
レイヴンは今のサンドマンの言葉を否定しようとした。
「そのようなことをしても何も」
「何にもならないというのか」
「そうです。私達が何の為に戦っているのか」
レイヴンもまた言うのだった。
「そして貴方は何の為に戦っているのか」
「私が何の為に」
「そうです。何の為に戦っているのか」
レイヴンの言葉もまた何時になく感情がこもったものになっていた。
「御考え下さい。この世界の人々の為ではないのですか」
「この世界の人々の為か」
「・・・・・・・・・」
レイヴンは何を思ったのかここでその仮面を取り外した。すると。
そこから姿を現わしたのは女だった。整った顔を持つ美女だった。彼女が姿を現わしたのである。
「君は」
「ジーク」
それは紅アヤカであった。エイジが探している彼女であった。彼女がここで姿を現わしたのである。
「貴方は逃げるの?」
「私が逃げる」
「そう。この世界の人達を置いて」
アヤカとして彼に問うのであった。
「貴方は逃げるというの?」
「いや、私は」
サンドマンはそれは否定しようとする。
「そんなつもりはない。私はただ」
「ただ?」
「私の為に誰かが犠牲になることを」
恐れている。それだけだというのだ。
「望んでいない。だからこそ」
「そんなことは気にしなくていいわ」
だがアヤカは彼にこう返すのだった。
「そんなことは全くね」
「気にしなくていい」
「そうよ」
またサンドマンに対して言うのだった。
「私は、いえ私達は」
「私達は」
「どうして貴方に従い戦っていると思うの?」
「私に従ってか」
「そうよ。全ては貴方を見ているからよ」
だからだというのだ。
「この世界の人達の為に戦う貴方を見てなのよ」
「私を見て」
「だからジーク」
アヤカの声は必死なものだった。
「逃げないで。戦いから逃げないで」
これが彼女の心からの願いだった。
「決して。そして戦って」
「戦う。再び」
「そうよ。貴方が戦えないのなら」
今度はそのレイヴンの服を脱いだ。すると水着の様な戦闘服が姿を現わした。それは彼女の戦闘服に他ならなかった。
「私が戦うわ。私一人になっても」
「君一人になってもか」
「そうよ。私はこの世界の人達の為に戦うわ」
彼女は必死の声で言った。
「今から。一人になっても」
「君もまた戦う」
「貴方が戦えなくてもよ」
その決意は既に固めているのだった。
「私はそうするわ。絶対に」
こう言ったうえで部屋を後にする。後には何かを考えるサンドマンだけが残された。
「ちっ、何処だよ」
「何処にいるのよ」
皆は皆でタスマニア中を探していた。しかし斗牙は見つかりはしない。
「いた?」
「いいえ」
アイビスにシルヴィアが答える。二人は携帯で話をしていた。
「こっちにはいないわ。そっちもなのね」
「ええ、全然よ」
アイビスは寂しげな顔で電話の向こうのシルヴィアに答えた。
「いなかったわ」
「本当に何処に行ったのかしら」
「港は全て押さえた」
スレイがここで言ってきた。
「だからこの島から出ることはできない」
「そうね。まず港は押さえたから」
リーナもそのことを言うのだった。
「だからこの島から出ることは絶対にできないわ」
「だからこの島の何処かにいることは間違いないけれど」
ツグミはそれはよくわかっていた。
「けれど。何処にいるかとなると」
「念入りに探すしかないな」
シラーが言った。
「とにかく皆でそうするしかないわよ」
「その通りね」
このことはカナンもよくわかっていた。
「とにかく。この島にいるのは確実だから」
「けれど何処にいるかとなると」
ヒギンズがここで言う。
「それがわからない。そこが問題ね」
「とにかくこの場所は探した」
クインシィはいつも通り迷ってはいなかった。
「別の場所を探すぞ」
「ええ、わかってるわ」
アイビスはクインシィのその言葉に真剣な顔で頷いた。
「それじゃあね」
「行くぞ」
皆必死に斗牙を探していた。その頃彼自身はというと。街のゴロツキ達に囲まれ絡まれているのであった。
「何だ御前」
「邪魔だ、何処かに消えろ」
こんなことを言われながら殴られ蹴られていた。
「街が汚くなるんだよ」
「わかったらさっさと消えろ」
「・・・・・・・・・」
斗牙は何も抵抗も反撃もしない。為されるがままである。そのまま殴られ蹴られ続けていた。しかしここで誰かが彼のいる路地裏に来たのだった。
「汚くなるね」
「!?」
「誰だ?」
「街を汚くしているのはそっちね」
見ればシンルーだった。中国風の白い、銀に近い上着に黒のミニスカートである。彼女のその肢体をはっきりと写し出している服であった。
「貴方達の方ね」
「何だ手前」
「因縁つける気かよ」
「因縁なんてつける気はないわ」
シンルーはそれは否定した。
「ただ」
「ただ?」
「何だってんだよ」
「真実を言っただけよ」
それだけだと言ってみせるのである。
「ただそれだけのことよ」
「手前、ふざけんじゃねえぞ」
「何なら可愛がってやってもいいんだぞ」
シンルーのその顔と肢体を見ての言葉である。
「どうするんだ?それでよ」
「逃げるか謝るんだったら許してやらねえわけでもねえぞ」
「どちらでもないわ」
ここでも言うシンルーだった。
「どちらでもね」
「わかった、じゃあよ」
「可愛がってやるよ」
男達は下卑た笑みを浮かべてシンルーに向かった。
「今逃げたら間に合うけれどよ」
「覚悟しな」
シンルーに襲い掛かる。しかしだった。
彼等は瞬く間に彼女の拳と蹴りにより倒されてしまった。まさに一瞬であった。
「その程度なのね」
「げっ、こいつ」
「つええ・・・・・・」
「さあ、どうするのかしら」
一旦のしてそれでも立ち上がってきた彼等に対して問うシンルーだった。
「まだやるのかしら」
「けっ、覚えてやがれ」
「今度会ったら容赦しねえからな」
返答は実に月並みな言葉であった。
こうしてゴロツキ達が姿を消した。後に残ったのは斗牙とシンルーの二人だけになった。
するとシンルーは斗牙に顔をやって。こう言うのだった。
「無様ね」
「シンルー・・・・・・」
「私のことは覚えてるわよね」
「うん」
項垂れたままの返答だった。
「ずっと言えずじまいだったけれど」
「私と貴方は一緒の施設にいたわね」
「そうだったね」
「あの施設はサンドマンが運営していた」
彼はそういうこともしていたようである。
「それはグラヴィオンの候補者を探す為に」
「選ばれたのは僕だった」
「そう。選ばれたのは貴方」
ここでシンルーの声に何かが宿った。
「私ではなかったわ」
「シンルー・・・・・・」
「私が選ばれる筈だったのに」
こう言って己の言葉に悔しさを滲ませるのだった。
「貴方が選ばれた。そして私は施設に残り」
「軍に入ったんだね」
「そうよ。そして今ここにいるのよ」
それが彼女のこれまでの人生だったのだ。
「ここにね」
「ここにいるんだ」
「私は貴方が妬ましかった」
今はじめて己の感情を外に出してみせてきた。
「貴方が選ばれて私は選ばれなかった」
「・・・・・・・・・」
「けれど貴方はその様ね。どういうことかしら」
「僕は。もう」
「あの弱虫だった時と同じね」
シンルーは今度は具体的な過去を話した。
「いつもいじめられていて私に助けられて」
「そうだったね。あの時はね」
彼はかつてはそうだったのだ。そしてシンルーも。
「いつもシンルーに助けてもらっていて」
「貴方はグラヴィオンのメインパイロットになっていたのに」
「それでも僕はもう」
ここでまた項垂れる斗牙だった。
「戦うことは」
「いらっしゃい」
戦いから逃れようとする彼に手を差し伸べるのだった。
「私達のいるべき場所に」
「僕はもう」
「いえ、貴方は立たなくてはいけないのよ」
シンルーはあくまで彼に言うのだった。
「私と共に」
「シンルー・・・・・・」
斗牙は立った。そうしてシンルーに導かれある場所に向かうのだった。その頃アヤカが一人戦場に向かおうとしていた。しかしその彼女の後ろに。
「済まない」
「ジーク・・・・・・」
「私は怖気付いてはならなかった」
後ろからそのアヤカに対して言うのだった。
「それは許されなかったのだ」
「それで。どうするの?」
「戦う」
言いながらアヤカの真後ろに来たのである。そして。
彼女を後ろから抱いて。そのうえでまた言うのであった。
「ゼラバイアと。この世界を護る為に」
「戦うというのね」
「そうだ。もう迷わない」
彼ははっきりと言った。
「決して」
「そう。それじゃあ」
「間も無くゼラバイア達が再び来る」
彼は感じ取っているようである。
「その時に備えておく、今からな」
「待っているわ」
アヤカは自分の真後ろにいる彼に目をやって微笑んでみせた。
「貴方を」
「待っていてくれ」
こうして彼は戦場に向かう決意を固めたのだった。
シンルーが斗牙を連れて来たのは。教会だった。彼をそこに連れて来たのだ。
「教会?」
「私達がいたあの教会じゃないけれど」
夕暮れになろうとする中で彼に告げるシンルーだった。
「そっくりでしょう?あの教会と」
「そういえば」
「貴方と私はずっと一緒だった」
幼いその頃のことだ。
「そして私が貴方を護っていたわね」
「そうだったね。ずっと」
「その私だから言うわ」
声が優しいものになっていた。
「貴方が戦いたくないというのなら」
「どうするっていうの?」
「いいわ。戦わなくて」
こう彼に告げるのだった。
「私が代わりに戦うから」
「シンルー・・・・・・」
「いいわ、もう」
シンルーの声はさらに優しいものになる。
「貴方が戦いたくないというのなら」
「・・・・・・・・・」
「行きましょう」
ここまで告げてまた場所を変えるというのだった。
「貴方が休める場所に」
「・・・・・・うん」
斗牙はそれに頷きそのままシンルーについて行こうとする。しかし教会を出たところで。彼を待っていたもう一人の者がいたのだった。
「エイジ・・・・・・」
「何処に行くつもりなんだ?」
エイジは腕を組んでそこに立っていた。そうしてそのうえで彼に問うのだった。
「戦いから逃げて何処に行くつもりなんだ?」
「僕はもう」
「逃げるのかよ」
斗牙を睨みつけての言葉だった。
「怖くなって逃げるのかよ。子供みたいによ」
「けれど僕は」
「リィルをそのままほったらかして逃げるのかよ」
エイジはさらに言う。
「そのままよ。この腰抜けがよ」
「リィル。僕は」
「手前は一人の女の子も守れないんだな」
何時になくきついエイジの言葉だった。
「そんな奴の為にエイナは死んだのかよ。エイナの死は何だったんだよ」
「・・・・・・・・・」
「逃げるんなら逃げたらいいさ」
一旦突き放してみせるのだった。
「手前みてえな奴はいらねえ。とっととどっかに行きな」
「いや、僕は」
ここで斗牙の言葉が変わった。
「僕は逃げることは」
「だったら来いよ」
半ば挑発するようにして斗牙に告げてみせたのだった。
「手前の来るべきその場所にな。さっさと来いよ」
「僕の来るべき場所に」
「わかってんだろ?それとも本当にリィルをほったらかしにするのかよ」
ここでまたリィルの名前を出してみせた。
「それだったらとっとも逃げて帰れ。この腰抜けがよ」
「いや、僕は逃げない」
斗牙はまた言った。
「逃げない。もう」
「逃げねえっていうんだな」
「絶対に。逃げない」
また言った。
「だから僕は絶対に」
「じゃあよ。来いよ」
言葉はまだ挑発するようなものだった。
「いいな、すぐにだ」
「うん、わかったよ」
斗牙も頷く。これで決まったのだった。だがその彼をシンルーは止めようとするのだった。
「行ったら駄目よ」
「シンルー」
「貴方は戦うのには向いていないよ」
だからだというのだ。
「その貴方がまた戦うなんて」
「いや、もうわかったんだ」
今度の斗牙の返答は迷いのないものだった。
「僕はもう。わかったんだ」
「わかったって」
「戦うよ」
はっきりと言い切ったのだった。
「絶対にね。何があってもね」
「そうなの。戦うの」
シンルーはそれを聞いて少し悲しげになった。だがやがて顔を上げて応えるのだった。
「それなら」
「それなら?」
「死なないことね」
こう言うのだった。
「貴方は死なない。死んではいけないから」
「僕は死んではいけないって」
「これ以上は言わないわ」
シンルーはここで自分の言葉を止めてしまった。
「いえ」
「いえ?」
「これ以上言わせないで」
少し俯いての言葉だった。
「私にこれ以上は」
「どういうこと?それって」
「わからないならいいわ」
やはり言おうとはしないシンルーだった。
「それで。けれどね」
「僕は死んではいけない」
「そうよ」
それでもこのことは告げられた。
「絶対に。わかったわね」
「うん」
シンルーの今の言葉には頷くことができた。
「わかったよ。それじゃあ」
「行くぜ」
エイジがここで声をかけてきた。
「戻るぜ。いいな」
「うん、それじゃあ」
「そうね。戻るしかないわ」
シンルーはそんな斗牙を見て言うのだった。
「貴方は。やっぱりそれが運命なのね」
「戦うことが僕の運命」
「そうだったのよ。じゃあ行って」
シンルーも彼に行くように告げた。
「私も後から行くから」
「うん。それじゃあ」
こうして二人が先に行った。シンルーは今は彼の背中を見るだけだった。かつてはとても小さかったのその背中を。見るだけだった。
「レーダーに反応です!」
「来ました!」
グラヴィゴラスの艦橋が慌しくなっていた。
「ゼラバイアです!」
「その数一万!」
「よし、丁度いいわ!」
クーキーがそれを聞いて叫んだ。
「ゼラバイア修理完了したわよ!」
「えっ、何時の間に!?」
ニナがそれを聞いて驚きの声をあげた。
「グラヴィオンの修理なんて」
「徹夜でやったんですよ」
クーキーは笑顔でこうニナに答えた。
「それで間に合わせました」
「そうなの。頑張ったわね」
「だって皆も頑張ってますから」
だからだというのである。
「私だって」
「そうね。とにかくこれでグラヴィオンはいけるわね」
「はいっ」
元気のいい返事を出すことができた。
「ですから後はサンドマン様が戻られるだけです」
「よし、待たせたな!」
「帰ったわよ!」
ここでロンド=ベルの面々も次々に帰って来た。後は。
「さあ、サンドマンさん!」
「何時でもいいですよ!」
皆はサンドマンが必ず来ると信じていた。そして。
「レイヴンさん!」
「サンドマンさんは?」
「間も無くだ」
レイヴンも信じていた。もっと言えば彼女が一番信じていた。
「あの方は来られる」
「その通りだ、諸君」
そしてここで。その声がした。
「待たせた」
「おおっ!」
「来られたんですね!」
サンドマンが水の逆流の中から白い鎧の如き衣を身に纏い現われた。その口には紅の薔薇がある。
「それでは諸君」
「ええ」
「ゼラバイアが来ています」
「だからこそ私は今諸君と共に戦おう」
これこそが今の彼の決意であった。
「総員出撃!」
「了解!」
全員笑顔で彼の言葉に応える。
「そしてゼラバイア達を迎え撃とう!」
この言葉と共に全員出撃した。今彼等の士気は最高潮になっていた。キラ達に至っては既にSEEDの状態になっている程であった。
「キラ、サンドマン様は」
「うん」
そのキラがラクスの言葉に頷いた。
「決意されたんだね」
「その通りです。人々の為に戦われると」
ラクスも既にSEEDの状態になっている。目の光が変わっていた。
「そしてこの世界の為に」
「だとしたら僕達も」
「そうです。戦いましょう」
ラクスもまた彼のその心に打たれたのである。その高潔な決意に。
「この世界とここにいる人達の為に」
「そうだね。あの人と一緒に」
「思えば幸せなことです」
ラクスは自分を幸せとまで言うのだった。
「あの様な方と巡り合えたことは」
「あそこまで素晴らしい人と」
「迷いながらもそれでも己の進むべき道を見出される」
それこそがサンドマンであった。
「貴方もそうでしたね」
「僕も」
「想いだけでも、力だけでも」
かつてのキラのことであった。
「ですが貴方は貴方の剣を握られ戦場に向かわれましたね」
「あの時はどうすればいいのかよくわからなかったけれど」
「貴方は正しい判断を選ばれました」
それがよかったというのである。
「そして今こうしてここにおられます」
「サンドマンさんを知ることができて」
「共に戦うこともまた」
できているとラクスは言うのだった。
「では私達もまた」
「うん、行こう」
「バルトフェルト艦長」
ラクスは今度はバルトフェルトに声をかけた。
「進みましょう、前に」
「了解です。艦を前に」
彼はラクスに応えて指示を出す。
「そしてゼラバイアに対する」
「そうして下さい」
今ゼラバイア達との戦いが再びはじまった。だがそこにはまだ彼等がいなかった。
「ジェリド」
「何だ?」
ジェリドはここでカクリコンの言葉に応えていた。
「あいつ等は来ると思うか」
「来るに決まってるだろ」
ジェリドは迷うことなく笑ってこう返した。
「あいつ等はな。絶対に戻って来るぜ」
「そうか。御前もそう思ってるか」
「何なら賭けるか?」
ジェリドは笑ってこうまで言った。
「戻って来るかどうかな」
「二人共帰って来ると思っているのにか」
「ははは、だったら賭けにならないな」
ジェリドはまた笑った。
「皆絶対に戻って来るって思ってるんだからな」
「その通りだ。それじゃあその時まで」
「頑張るとするか」
「ああ、そうしようぜ」
彼等は今激しい戦いをはじめた。ゼラバイア達に対して攻撃を仕掛ける。あの戦士達が必ず帰って来ると確信しながら。
戦いが行われているその時に斗牙が戻って来た。エイジも。
「斗牙様!」
「戻って来られたんですね!」
「うん、御免」
こう言って謝罪する斗牙だった。
「心配をかけたね」
「いえ、戻って来られただけで」
「本当に」
メイド達は泣いて喜んでいた。
「それじゃあ今から」
「グラヴィオンに」
「うん、乗らせてもらうよ」
今度は微笑んで答える斗牙だった。
「今からね」
「そう言うと思っていたわ」
ミヅキが笑顔で彼を出迎えてきた。
「それじゃあ行くわよ」
「もう戦いはじまってるわよ」
ルナもいた。
「用意はいいわね」
「いや、ちょっと待って」
だがここで斗牙はこう彼女達に言うのだった。
「まだ。ちょっと待って欲しいんだ」
「ちょっとって?」
「どうしたの?」
「リィルが」
彼が出してきた名前は彼女だった。
「リィルも一緒に」
「リィル!?まさか」
「あの娘は駄目よ」
ミヅキとルナはリィルと聞いてこう返した。
「まだ傷が癒えていないし」
「絶対に駄目よ」
「いや、リィルなら大丈夫だよ」
しかし斗牙はまだ言うのだった。
「だってほら」
「何っ、まさか」
ここで彼の後ろにいるエイジが驚きの声をあげた。見ればミヅキとルナの後ろに。
「リィル!?」
「どうして?」
「帰って来るとわかってたから」
リィルは驚く二人の顔を見ながら告げた。
「斗牙が」
「何時か言ったよね、リィル」
斗牙はここでリィルに微笑んでみせた。
「僕は君を何があっても護るって」
「ええ」
「そして何時でも一緒にいるって」
このことを再び彼女に告げるのだった。
「だから。一緒に」
「わかってるわ。それじゃあ」
「行こう、リィル」
あらためてリィルに告げた。
「僕達の戦場へ」
「わかったわ」
「よし、じゃあ行くぜ」
エイジははっきりとした声で仲間達に言った。
「グランナイツ。今ここでな」
「グランナイツの諸君」
絶好のタイミングでサンドマンも言ってきた。
「それでは今より」
「はい」
「それじゃあ」
「発進せよ!」
この命令を出すのだった。それと共に今グラヴィオンは再び戦場にその姿を現わした。
そして同時にシンルーの乗るグラントルーパーもまた。戦場に姿を現わしたのだった。
「隊長!」
「遅かったじゃないですか!」
「御免なさい」
シンルーはグラントルーパーの面々に謝りながら出て来た。
「遅れてしまって」
「いいですよ、丁度今から本番ですしね」
アレックスが明るい声でシンルーに告げる。
「それより。指揮を御願いしますね」
「ええ、すぐに」
「もうゼラバイアが迫って来ていますから」
「わかっているわ。それじゃあ」
シンルーもまた仲間達の言葉に応えていた。
「グラントルーパー、全機突撃!」
「了解!」
「行きましょう!」
「斗牙・・・・・・」
シンルーは仲間達と共に突撃に入りながらこの名前を呟いた。
「私はそれでも貴方を」
それ以上は言わなかった。そしてそのうえで戦闘に入った。そしてグラヴィオンも戦場に姿を現わしたのであった。
「ヤザン大尉!」
「グラヴィオンが出て来ました!」
「よし、待たせてくれたな!」
ヤザンはラムサスとダンケルの言葉を受けて笑顔になった。
「全くよ。今か今かって待ちあぐねていたぜ」
「おや、あんたも戻って来るって思ってたんだね」
ライラはそんなヤザンの言葉を聞いて楽しそうに声をかけてきた。
「どうやら」
「当たり前だろ。俺は絶対に戻って来るってわかってたんだよ」
ヤザンはこうライラに返すのだった。
「ただ、何時かまではわからなかったけれどな」
「そうかい。けれど戻って来たからには」
「歓迎させてもらうぜ」
ハンブラビを操縦させながら楽しそうな笑みを浮かべるヤザンだった。
「手前等、さっさと前線に出やがれ!」
「わかってるわ」
ミヅキが微笑んでヤザンのその言葉に応える。
「それじゃあ今からね」
「行こう、皆」
斗牙もまた言う。
「僕達の戦いに!」
「おうよ。ゼラバイアがどれだけいようともな!」
エイジの士気も既に最高潮だった。
「叩き潰してやらあ!」
グラヴィオンもまた前線に出る。だがここで。彼等の頭上に光が差してきた。それは。
「太陽!?」
「いや、違う」
「あの光は!?」
皆その光を見て驚きの声をあげる。
「太陽じゃないとすると」
「一体」
「希望の、いや勝利の光だ」
サンドマンがここで言った。
「この世界に平和をもたらす光だ」
「平和の光!?」
「それって何ですか!?」
「女神が再び戻って来たのだ」
サンドマンは驚くメイド達にこうも告げた。
「今まさにここに」
「女神!?」
「それは誰ですか!?」
「戻って来たのだ」
やはりサンドマンはメイド達に対してすぐには答えないのであった。
「今、新たなグラヴィオンと共に」
「新たなグラヴィオン!?」
「それは一体!?」
「さあ、今こそ姿を現わすのだ!」
サンドマンは何が何なのかわからない一同をよそにさらに言った。
「ソル=グラヴィオンよ!」
「おい斗牙!」
「うん」10
斗牙はエイジのその言葉に応える。
「新しいグラヴィオンが来たぜ」
「けれど中に乗っているのは」
「一体誰なの!?」
リィルにもそれは全くわからないことだった。
「あのグラヴィオンに乗っているのは」
「斗牙様!」
しかしここで。その新たなグラヴィオンから懐かしい声が聞こえてきました。
「お待たせしました!」
「!?その声は」
ミヅキがその声を聞いてその整った眉を動かした。
「まさかと思うけれど」
「そんな筈ないわ」
ルナはすぐにミヅキが言わんとすることを否定した。
「だってあの娘は」
「けれどよ、間違いねえ」
だがそれでもエイジはこう言うのであった。
「この声はよ。あいつのよ」
「そうですよ」
またその懐かしい声が聞こえてきた。
「私ですよ」
「間違いないよ」
斗牙は今の声を聞いて確信したのであった。
「この声は。やっぱり」
「帰って来ました!」
グラヴィオンの傍に降り立ったその新たなグラヴィオンのコクピットが開いた。そうしてその中から出て来たのは。
「エイナ!」
「やっぱり!」
「生きていたのかよ!」
グランナイツだけでなくロンド=ベル全員が驚きの声をあげた。
「まさかと思ったけれど」
「あの時確かに死んだんじゃ」
「はい、今の私が本当の私なんですよ」
見れば今のエイナは髪が赤紫でそのうえ服はレオタードの様なものになっていた。それに性格もかなり変わっているようであった。
明るく右手を振ってきている。これは控えめだった今までのエイナとは全く違っていた。
皆はそれを見て。思わず言うのだった。
「声はエイナだけれど」
「別人!?」
「そうかも」
こう考えるのだった。
「私だってねえ」
「そうだな」
ミリアリアとクランが言うのだった。
「クランと声が似てるし」
「ミリアリアと似ている」
確かに同時に話せばそう聞こえるものであった。二人がお互いに最もよく自覚していることでもある。
「俺だってなあ」
「そうだよなあ」
「こういうことはよくある」
「その通りだ」
今度はリュウセイにナンガ、クルツ、ロックオンが言う。
「声が似てるっていうのはな」
「同じように聞こえるのも」
「いつものことだ」
「嫌になる程わかることだ」
「おい、俺も入れろよ」
サブロウタも彼等の中に入ってきた。
「俺だって嫌になる位わかることなんだけれどよ」
「というか誰が誰なのよ」
シルヴィアがそんな彼等に突っ込みを入れた。
「私もまあ人のこと言えないけれど」
「それはね」
彼女に応えたのはゼオラであった。
「だからよくあることだから」
「声が似ていても同じ人とは限らないんだよ」
今言ったのはキャラだった。
「それはあんたもわかってるだろ?」
「はい、わかってます」
エイナはキャラに対しても明るく答えるのだった。
「けれど私は私ですよ」
「本当か?」
「どうだろうね」
今度言ったのは勇とサイだった。
「やっぱり今一つ信じきれないな」
「声じゃね」
「けれど顔も一緒じゃないですか」
エイナが次に言うのはこのことだった。
「それはわかりますよね」
「確かに顔はね」
「一緒だけれど」
皆もそれは認める。
「けれど顔なんてねえ」
「そもそも髪の色ちゃうぞ」
アスカとトウジが今度言う人間だった。
「あんたの髪緑だったじゃない」
「今赤紫やで」
「嫌だなあ。本当に私なのに」
「その通りだ」
ここでやっとサンドマンが言うのだった。
「彼女は本物のエイナだ」
「本物!?」
「そうなんですか」
彼の言葉でやっと話を聞けるようになった一同であった。何しろこの部隊にいるメンバーのかなりの人数が似ている声をしている人間を持っているからである。
「本物のエイナちゃん!?」
「じゃああのエイナちゃんは」
「あれも私なんですよ」
またエイナが明るく言ってきた。
「ただ。本当の私は月の裏側にいまして」
「月の裏側にって」
「それでいざという時には目覚めて参上するようになっていたんです」
「その通りだ」
ここでまた言うサンドマンであった。
「こうした時に備えて。新たなグラヴィオンと共にだ」
「斗牙様」
エイナはにこりと笑って斗牙に言ってきた。
「言いましたよね、私」
「エイナ・・・・・・」
「何があっても斗牙様を御護りするって」
「うん」
「ですから。私戻ってきました」
じっと斗牙を見ての言葉である。
「斗牙様の為に」
「僕の為に戻ってきてくれたんだ」
「ですからまた一緒に」
そしてさらに言うのであった。
「戦いましょう」
「うん、一緒に戦おう」
「はいっ」
こうして今エイナが戻って来たのだった。するとサンドマンがここで指示を出した。
「それではグランナイツの諸君」
「ああ!」
「はい!」
エイジとルナが大きな声で応える。
「ソルグラヴィオンに乗り込むのだ」
「了解!」
こうして今ソルグラヴィオンを構成しているそれぞれのマシンに乗り込む。今二機のドリルが空を舞う。
「さいっこーーーーーーーーっ!!」
ルナがこれ以上はないまでの明るい声で叫ぶ。
「エイナも戻って来たしドリルも空を飛ぶし」
「ルナさん、また御願いしますね」
「わかってるわよ」
ルナは相棒に対して言葉を返す。
「二人に戻ったらもう無敵よ。見ていなさい!」
「それにしても」
ミヅキも己の乗る新たなマシンの中で言うのだった。
「空を飛ぶドリルっていうのもシュールな光景ね」
「私が乗る新しいマシンは」
「そうだ。それだ」
サンドマンがその機体に乗る娘に告げていた。
「租の機体は御前の為にあるものだ」
「私の為に」
「その翼に乗り舞うのだ」
娘に対してさらに告げる。
「この世界の平和の為に」
「わかったわ。御父様」
今ここでサンドマンを父と呼ぶリィルだった。彼女もまた戦士に戻っていた。
そしてエイジと斗牙は。今二人は共にいた。
「エイジよ」
「ああ」
エイジはその中でサンドマンの言葉に応えていた。
「君は最早自由だ」
「自由?」
「そうだ。君が今乗るその翼は自由の翼だ」
こう彼に告げるサンドマンであった。
「その翼で自由のままに戦うのだ」
「ああ、わかったぜ」
「エイジ」
エイジがサンドマンの言葉に頷くと斗牙が彼に声をかけてきた。
「それじゃあ行くよ」
「ああ、わかってるぜ」
「それでは今最強のグラヴィオンが降臨する」
またサンドマンが言った。
「さあ、今こそ」
「今こそ」
皆サンドマンの次の言葉に対して固唾を飲む。その言葉は。
「炎皇合体!」
「炎皇合体!」
斗牙もまた叫ぶ。そうして。
今全てのマシンが一つになった。そうして今最強のグラヴィオンが姿を現わしたのであった。
「す、すげえ・・・・・・」
「あれが最強のグラヴィオン」
「ソルグラヴィオンかよ」
「さあ、ロンド=ベルの諸君」
サンドマンはグランナイツだけでなく彼等全てに対して告げた。
「今こそ勝利を手にする時だ」
「ああ、やってやらあ!」
「もうゼラバイアなんか怖かねえ!」
彼等の士気はグラヴィオンの復活によりさらに高まっていた。最早それを阻むことは誰にもできない状況であった。
戦いはそのまま勢いに乗ったロンド=ベルが一気に攻勢を仕掛けた。それによりゼラバイア達は瞬く間に全滅した。戦闘は何なく終わった。
だが話はまだ終わってはいなかった。戦闘が済んだその瞬間に。
「!?」
「何だあれは!」
「人!?いや」
「巨人!?」
皆突如として現われたその巨大な姿を見て声をあげた。
「いえ、違います」
「あれは映像です」
だがここでメイド達が驚く彼等に対して告げた。
「ですがあれは」
「あの人・・・・・・」
「義兄さん・・・・・・」
ジークがその映像に映る男を見て苦い顔になっていた。
「やはり出て来たか」
「ジークよ」
その男、ヒューギ=ゼラバイアがサンドマンの名を呼んできた。
「久し振りだな」
「言いたいことはわかっている」
サンドマンはその苦い顔で彼に返した。
「私を・・・・・・いや僕を」
「そしてこの星をだ」
地球もだというのだ。
「私は全て破壊する。今からな」
「そんなことはさせないと言ったら」
「そう言うと最初からわかっていた」
既に読んでいるというのだった。
「だからだ。来るのだ」
彼は言うのであった。
「私のいる場所にな。いいな」
「そこで最後の決着を」
「ジークよ、そこが貴様の死に場所になる」
ヒューギはこうまで彼に告げたのであった。
「そこがな」
「僕は・・・・・・負けない」
だがサンドマンも言った。
「この世界の為に。何があろうとも」
「ならば来るのだ」
またサンドマンを挑発するように言ってきた。
「私のところにな」
「いいだろう。そこで決着をつける」
サンドマンはもう臆してはいなかった。
「そこで最後の戦いを」
「ジークよ、貴様だけではない」
彼だけではないというのだった。
「ロンド=ベルよ」
「俺達もか」
「俺達にも来いっていうのかよ」
「その通りだ」
彼等に対しても告げるのであった。
「御前達も来るのだ。私のところにな」
「ええ、行ってやらあ!」
甲児が真っ先に叫んできた。
「それで手前をぶっ潰してやる。覚悟しな!」
「そうよ、負けないわよ!」
次に叫んだのはアムであった。
「あんたなんかには絶対にね!」
「では行ってやる」
ダバは冷静だったがその声は確かなものだった。
「御前のその傍に。そして倒す!」
「言うな。ならば来るのだ」
やはり一連の言葉を受けても悠然としているヒューギであった。
「では待っている。ジーク、そしてロンド=ベルよ」
「義兄さん、次で全てを終わらせる」
ジークは今堅い決意の中にあった。
「何もかも」
ヒューギは姿を消した。後にはロンド=ベルの者達が残っていた。しかし彼等は今は戦いの勝利を味合うようなことはできなかった。
すぐに然るべき場所に向かおうとする。そこは。
「宇宙だ」
「宇宙ですか」
「そう、宇宙だ」
サンドマンはこうレイヴンに告げていた。
「義兄さんは宇宙にいる。そこで私を待っている」
「ならばすぐに宇宙に出ましょう」
ブライトがそのサンドマンに告げてきた。
「今すぐに」
「いや、君達が来る必要はない」
だがサンドマンはこう言ってロンド=ベルの面々を去らせようとする。
「グラヴィゴラスもグランナイツの諸君も皆。来る必要はない」
「それは一体」
「どういう意味なんだよ」
レイヴンとエイジがそれに抗議してきた。
「グラヴィゴラスなしでどのようにして戦えと」
「グラヴィオンはゼラバイアの為の兵器じゃなかったのかよ」
「そもそも。水臭いですよ」
洸もサンドマンに言ってきた。
「俺達はもう長い間この世界で一緒に戦ってきたじゃないか。それでどうして」
「私も同感だ」
「私もだ」
ギャブレーとバーンもサンドマンに告げてきた。
「折角だ。ここまで来たのだ」
「共に戦わせてもらう」
「これは私と義兄さんの問題だ」
だがサンドマンはまだこう言うのであった。
「他の皆を巻き込むわけにはいかない。二人だけで全てを終わらせたいのだ」
「ナンセンス!」
それを一言で否定したのはジャックであった。
「ミーはミスターのその意見に反対デーーーース!」
「ジャック」
「君も言うのか」
「オフコース。ミスターサンドマンはわかっていません」
彼は皆に対しても言うのであった。
「ミー達もまた彼に誘いを受けています」
「そうだったな」
宙がジャックのその言葉に頷いた。
「俺達も来いってな。はっきり言っていたな」
「誘いなら断らない」
宗介も言う。
「相手をしてやる。それだけだ」
「その通りよ。何で誘いを断らないといけないのよ」
かなめもここぞとばかりにサンドマンに聞こえるように述べた。
「そうでしょ?もう一気に行ってぶん殴ってやらないと」
「男が廃る。ついでに女もね」
カナンはわざとおどけてみせていた。
「そういうことね」
「だからだ。皆わかるな」
「ええ」
「勿論ですよ」
そのうえでフォッカーの言葉に頷くのであった。
「全軍宇宙へ!」
「ゼラバイアと最後の戦いよ!」
「しかしそれは」
だがそれでもサンドマンは言うのだった。
「皆は。私の為に」
「その通りですぞ」
兵左衛門は穏やかな声でサンドマンに告げてきたのであった。
「皆貴方と共に行きたいのです」
「私の為に」
「その通りです。貴女が悩みながらも立ち上がり戦いを決意したその姿」
彼自身のことを告げてきていた。
「それを見て共に戦いたいというのです」
「私を見て」
「はい、その通りです」
アランも彼に対して声をかけてきた。
「我々は全てその考えです」
「皆が。私の為に」
「ではサンドマンさん」
ハイネがそのサンドマンに対して問うてきた。
「御命令は」
「命令は」
「一つしか聞けないぜ」
黄金は笑って彼に言ってきた。
「今はな」
「行きましょう」
シンルーは微笑んでいた。
「私達の場所に一緒に」
「一緒に。そうか」
サンドマンはここで完全にわかったのであった。
「私は一人ではない。私には」
「はい、そうです」
テッサも微笑んでいた。
「私達は共にいますので」
「ですから」
遥もそこにはいた。
「行きましょう」
「わかった。では諸君」
「ええ」
「それじゃあ」
「ロンド=ベル全軍宇宙へ!」
ロンド=ベルと言い切った。今完全に。
「そしてゼラバイア達と最後の決着をつけよう!」
「よし」
フォルカは今のサンドマンの言葉を聞いて頷いた。
「ならば行こう」
「フォルカもそれでいいのね」
メイシスがそのフォルカに問うてきた。
「あの人の為に戦うのね。修羅として」
「御前はどうなのだ?」
フォルカはそのメイシスに対して逆に問い返した。
「御前は戦わないのか。どうなのだ」
「私は自分の心に従うわ」
うっすらと笑ったうえでの返答であった。
「だから一緒に」
「そうか」
「よし、燃えてきたぜ!」
「そうね!」
ラウルとフィオナは戦う前から燃えていた。
「宇宙に出たらな!」
「一気に決めるわよ!」
「俺も行こう」
刹那はぽつりと呟いた。
「仲間の為にな」
「では統夜さん、カルヴィナさん」
「マシンの調整に入ります」
「それでいいですよね」
カティアとテニア、メルアはこう二人に尋ねてきた。
「今から」
「宜しいですか?」
「あら、もう済ませてあるんじゃないの?」
カルヴィナはにこりと笑ってその三人に言葉を返した。
「もうそれは。こうなるとわかっていて」
「皆がサンドマンさんの為に戦うって」
統夜の顔も笑っていた。
「もう済ませてあると思うけれど」
「ま、まあそれは」
「そうですけれど」
「実は」
三人はこう言われて照れ臭そうな顔になった。
「それじゃあ私達も」
「サンドマンさんと一緒に」
「宇宙へ」
「ええ、行きましょう」
「あの人の為にね」
皆今戦いに向かう決意を定めていた。サンドマンと共に。そうしてオーストラリアのシドニーにまた入りそこの宇宙港から宇宙に出ようとするのだった。
「敵は?」
「いません」
「来る気配は全くありません」
レイヴンにメイド達が答える。
「ではレイヴン様」
「今こそ」
「うむ、行こう」
レイヴンは静かに彼女達に述べた。
「宇宙に」
「はい、戦場に」
「決戦の場に」
「全艦艇出港準備完了」
ここで報告があがった。
「全員配置につきました」
「何時でもいけます」
「よし、ならばだ」
レイヴンが一連の報告に頷く。
「後はだ」
「諸君、行こう」
ここでもサンドマンが言う。
「いざ宇宙へ!」
「はい!」
こうして彼等はゼラバイアとの最後の戦いに向かった。いよいよサンドマンとヒューギの果てしない因縁にピリオドが打たれる時が来たのである。
第百四十二話完
2009・8・14 第百四十二話 絶望と復活
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