FAIRY TAIL 星と影と……(凍結)
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ララバイ編
EP.12 ジークレインとワタル
前書き
それでは第12話です。
よろしくお願いします。
「集まったようじゃな……では、これより会議を始める」
魔法評議会会場、ERAにて、10人の魔法評議員が集まり、会議を行っていた。
「議題は、先日の鉄の森によるギルドマスターへのテロ未遂事件、そして……」
「呪歌、ゼレフの負の遺産か……」
議長の言葉に続いて、魔法評議院第二議員・オーグがテーブルの上に安置してある『封』の札が張り付けられた箱の中にある魔笛、呪歌を見て言った。
「うむ、何故こうも簡単に、一介の闇ギルド如きにゼレフの魔法が持ち出されたのか……問題は管理側にまで及びそうじゃな」
「それにしても……」
高齢者が殆どを占める評議員の中で、およそ似つかわしくない、若い男の声が響いた。
「あれだけ煙たがっていた妖精の尻尾に、今回はばかり助けられたみたいだな……」
「むぅ……」
「それに、今回は4、5人でギルド一つ潰しちゃったんでしょ? 凄いわね。それに……」
男の名前はジークレイン。そして、彼に加わった若い女の名はウルティア。
どちらも若いが、れっきとした評議員の一員である。魔法評議員の中にはその存在を軽く見ている者もいるが、ジークレインは最年少の聖十大魔導であり、ウルティアは失われな魔法、時のアークを使う優秀な魔導士である。
「ああ、事件の一週間ほど前も、妖精の尻尾の魔導士、それもたった一人によって闇ギルド、傷持ちの吸血鬼の構成員がまとめて拘束されたようだな……今回、呪歌を沈めたのも、そいつの仕業らしいぜ」
「……“黒き閃光”……いや、“最後の星屑”か。ヤツの扱いも、悩みの種だな……」
ワタルが悩みの種となっている理由は……公にはなっていないが、彼の特殊な出自である。
評議院としては、保護の名目で監視させておきたい程に特殊且つ危険な出自なのだが……彼自身は頭の切れる優秀な魔導士である。
それに、妖精の尻尾の魔導士にしては、その素行は他の者と比べるまでもなく良好なものであるため、扱いに困っているのだ。
「ヤツが我々評議員の元に下ってくれれば……」
「いや、奴自身は妖精の尻尾の“ストッパー”のようだし……下手に引き抜くのも、かえって妖精の尻尾の暴走を引き起こすだけでは……?」
「どうですかね……ヤジマさん?」
話を振られたのは、魔法評議員六ノ席、ヤジマだ。
妖精の尻尾のマスターマカロフと仲が良い事で知られる彼は、ワタルに対してこう言った。
「フム……申し訳ないが、今の妖精の尻尾から誰かを引きぬくのは難しいと思うわい。それに……少し議題がズレとるンじゃあないか?」
「チッ……」
思わず、といった風に舌打ちをしたのはジークレインだった。
「ン? どうした、ジーク?」
「いえ、何も……。まあ、アンタらが認めたくないのも分かるが、アイツらに助けられた事は事実だ。素直にねぎらいの言葉でもかけておくんだな」
――俺の理想のために必要なエルザ……それに近い奴を牽制する材料が欲しかったんだが……まぁ、焦らなくても大丈夫か……。もとより期待もしていなかったし、な。
全ては己の理想のために……。ジークレインの狂気じみた内心は、誰にも悟られることなく、会議は続いた。
= = =
場所変わってマグノリア、妖精の尻尾のギルド前。
「ちょっと、ホンキなの!? ナツとエルザが戦うなんて……!」
ルーシィは、グレイから知らされてギルド前に来るなり、近くにいたワタルに尋ねた。
「おー、ルーシィか。おはよーっす」
「あぁ、ワタル、おはよう……って、そうじゃなくて!! なんでナツとエルザが戦ってるの!?」
「なんでって言われても……そういう約束だったみたいだしな……。まぁ、妖精の尻尾流の交流会みたいなモンだよ、これは。それに……こういう手合わせじゃあ、手加減した方が返って怪我しやすいから本気だよ、二人とも。……じゃあ、俺審判だから」
そう言うと、ワタルは向かい合っている二人のもとへ歩いて行った。
ルーシィは止めようとしたが、止められず、グレイに向かって言った。
「あ、ちょっと……! どうするのよ、最強チームの二人がぶつかったら……!」
「最強チーム?」
「アンタとナツとエルザでしょ!? 妖精の尻尾トップ3の……」
「……あほらし。どこの馬鹿だ、そんな事言ったのは……って、ミラちゃんだったの!?」
「……(フルフル)」
「……泣かした……」
グレイとルーシィの会話を、ニコニコしながら聞いていたミラジェーンだったが……グレイの言葉で、顔を覆って泣き出してしまった。
……それはさておき、グレイの言葉に待ったを掛ける者がいた。エルフマンだ。
「ちょっと待った! “最強”と聞いたら漢として黙ってられねぇな……。まだまだこのギルドには強者がいるんだよ……俺とか」
「最強の女はエルザで決まりだろうけどね……」
「あぁ。だが、最強の男となると……ワタルにラクサス、ミストガン……」
「それに、あのオヤジも外せないしな……」
エルフマンに続いて声を上げたのは、妖精の尻尾の中堅チーム“シャドウ・ギア”のメンバーであるレビィ、ジェット、ドロイだ。
「私は……ナツとグレイとエルザの相性が一番いいと思ったのよ……グス」
「あれ? 絶対纏まりそうにない、とか言ってませんでしたっけ?」
「……なんにせよ、面白そうな戦いになりそうだな」
「そうか? エルザの圧勝だろ、どうせ」
最強談義に花を咲かす者、勝負の結果を予想して賭ける者……外野には様々な者がいたが、当事者のナツとエルザ、そして審判のワタルは、それほど気にしていなかった。
「こうしてお前と力をぶつけ合うのはいつ以来だったかな……」
「あの時はガキだったが……今は違う! 今日こそお前に勝つ!! ワタル! 次はお前だからな!!」
「ほう……なら、私が勝ったら……次は私と戦ってもらうぞ、ワタル」
「……そういう話だったか? ……まぁいいや、分かったよ、エルザ」
エルザの言葉に首を捻ったワタルだったが、どうせ戦うなら別にいいか、と思って了承した。
「おいこら! 俺を無視するな、エルザ!!」
「別に無視してないさ。だが、そうだな……せっかくワタルと戦えるんだ……全力で行かせてもらうぞ、ナツ!!」
そう宣告すると、エルザは鎧を換装……赤と黒の鎧をその身に纏った。
その鎧の名は……
「“炎帝の鎧”、か……随分気合入ってるな、エルザ」
「まあな。安心しろ、ワタル。お前用にとってある鎧もある」
「……正直“煉獄”とか勘弁なんだが……まぁ、期待してるよ。……で、ナツ、どうする? 耐火能力の鎧だぞ?」
降参するか? とニヤニヤしながら聞いたワタルに対し……ナツは、不敵な笑みを浮かべ、両方の拳に炎を纏わせて合わせた。
「ヘッ! 誰が降参するかよ! 耐火能力の鎧なら……心置きなく全力を出せるだろ!?」
喧嘩っ早くて好戦的なこの青年に対し、ワタルは、相変わらずだな、と内心で苦笑して、審判の仕事をすることにした。
「……それでは……準備はいいな、エルザ、ナツ?」
「ああ」
「いつでもいいぜ!」
「では……始めっ!!」
ワタルの合図と共に、ギャラリーの歓声の中、ナツとエルザの試合が始まった。
「だりゃっ!!」
「フッ……!」
まず仕掛けたのはナツだ。炎を纏った拳はエルザに躱され、カウンターの剣閃はしゃがんで躱した。
続いた低い位置からの蹴り上げも、首を捻る事で躱され、再び剣閃が走った。
ナツはこれをバク転の要領で逆立ちして回避したのだが……
「甘いっ!」
「グッ」
エルザはすかさず足を突きだして地に着いた手を払い、ナツの体勢を崩し、切り掛かろうとしたが……
「カッ!!」
「クッ……」
ナツはそのまま、四つん這いの姿勢で火を噴きそのまま薙ぎ払った。
エルザは跳んで避けたが、当然火はそのまま観客席へ……
「“魂威・防”!」
行くはずもなく、ワタルの“魂威”に弾かれて霧散した。
――随分成長したな、ナツの奴……だが、それではエルザには勝てないぞ。ここからどうする?
「な? いい勝負してるだろ?」
「ハッ、どこがだよ」
「……僻みか、グレイ?」
「な、何だと!?」
「冗談だよ……試合、動くぞ」
ちょうど近くにいたエルフマンとグレイの会話に混ざりながら、魔力の高まりを察知したワタルは試合の様子を注視した。
「随分強くなったな、ナツ」
「ハッ、まだまだこれからだぞ、エルザ!!」
ナツの拳とエルザの剣がぶつかり合う、その瞬間……!
パァン!!
乾いた音がその場に響き、両者の動きが止まった。
「全員動くな、私は評議院の使者である」
現れたのは……カエルだった。
「先日の鉄の森によるテロ未遂事件において、器物損壊ほか11件の罪の容疑で……」
思わね乱入者に騒ぐギルドの魔導師達をよそに、使者と名乗ったカエルは罪状を読み上げ……
「ワタル・ヤツボシの身柄を拘束する」
ワタルの拘束を宣言した。
「なんだとー!?」
「何故ですか!? だって、ワタルは……!」
「止せ、ナツ、エルザ。……俺だけ、ですか?」
驚きと怒りを込めた声を放ったナツとエルザを制すと、ワタルは確認するように使者に尋ねた。
「あぁ、そうだ。こちらとしては大人しく従ってもらいたいのだが……」
――なるほど、茶番って訳か……。囲まれてるし、下手にごねても面倒か……なら、俺がするべき事は……。
「分かりましたよ……ルーンナイトの配置、解いても大丈夫ですよ」
「チッ……おい、部隊を集めろ」
舌打ちをして、観客に紛れ込ませていた検束部隊・ルーンナイトの隊長に指示を出す使者を尻目に、ワタルはエルザに向き直って言った。
「じゃあエルザ……皆をよろしく、な」
「! ……ああ、任せておけ……」
「エルザ!? いいのかよ!?」
「「黙ってろ、ナツ!」」
「ハ、ハイ!!」
大人しくワタルの拘束を認めたエルザに対し、ナツは何か言おうとしたが……当の本人たちに凄まれ、大人しくなった。
――よし、エルザには伝わったみたいだな……。
「……じゃあ行きましょうか、使者殿?」
「フン……」
使者は鼻を鳴らすとワタルに手錠を掛け、その場を去り、ワタルも抵抗することなく使者に続いて行った。
= = =
評議院フィオーレ支部、ワタルは広い廊下を歩いていた。
「……別に暴れやしませんから……この手錠、外してくれませんかね? 窮屈でしょうがないんですけど……」
「我慢しろ。自分の状況が分かってないのか、まったく……って、あなたは!?」
ワタルの軽口に使者は文句を言っていたが……柱に誰かが寄り掛かっているのが見え、それが誰なのかが分かると、急に跪いた。
「久しぶりだな……“黒き閃光”、ワタル・ヤツボシ」
「……フェルナンデス第九評議員、何か用ですか?」
「フッ、相変わらず固いな……二年前に会った時と変わらない……」
ジークレインの苦笑しながらの言葉に、ワタルは目の前で笑う、青髪の右目に紋章のある男と会った時を思い出した。
時を遡る事二年前……ワタルはマカロフの代理として、エルザと共に、評議院フィオーレ支部へ妖精の尻尾の魔導士がやらかした事の始末書を提出しに来ていた。
「ったく……色々壊し過ぎだ、アイツら……。なんで俺がこんな事を……」
「まぁ、起きてしまった事は仕方ないだろう。次に生かせばいい」
「……お前が言うか? ナツの次に被害が大きいんだが……」
「う……面目ない」
ワタルの溜息交じりの指摘に、エルザは凹んでしまったため、ワタルはどうしようかと考え、ある提案をした。
「……ま、お前のいう事にも一理あるな……。これ終わったらどっかで飯でも食べるか? クロッカスの方まで来る事なんて滅多にないし」
「! そうだな、それが……ッ!?」
提案に顔を輝かせたエルザだったが……ワタルの肩越しに、見覚えのある青髪の男を見つけ、全身を硬直させた。
「? ……どうした、エルザ?」
「……なんでアイツがここに……いや、いるはずが……」
「エルザ? ……あ、おい!」
不審に思ったワタルが声を掛けても、エルザは心ここに在らず、と言った状態で呟き始め……いきなり駆け出した。
ワタルは面食らったが、放っておく訳にもいかないので、彼女を追いかけた。
幸いすぐ近くに目的があったようなので、エルザに追いつくのに時間は掛からなかった。
「やはりそうか……何故貴様がここにいる!? ……ジェラール!!」
――ジェラール? 聞いた事ある名前だな、確か……って、それは後だ!
追いついたはいいが、剣を手にその男に襲い掛かったエルザを、ワタルは手で制して止めた。
『ジェラール』という名前には聞き覚えがあった。妖精の尻尾に入る前のエルザとの旅の途中で、彼女の寝言で言っていたのを思い出したのだ。
自身も人には言えない過去を持っているため、それについてエルザに言及する事は無かった。だが……悪夢に魘されている彼女を見るのは、正直辛かった。
「止せ、エルザ……それは思念体だ。それに、確か彼は……」
「ほう、知っているのか……俺は魔法評議員九ノ席、ジークレイン・フェルナンデスだ。……君が言っているジェラールは俺の弟の事だ、エルザ・スカーレット」
「弟だと……!? そんな事が信じられる訳……」
「まぁ、同じ顔だしな……間違えるのも無理はないさ。……そっちも、それでいいか?ワタル・ヤツボシ……」
「……俺は『ジェラール』っていうのが誰か知らないので、何とも……」
――……何だ、コイツは? 普通の思念体じゃないな……それに……。
ジークレインは軽薄な笑みを浮かべながらエルザにそう言うと、ワタルの方に向いて言った。
ワタルは、目の前の男が孕む、思念体越しでも分かる狂気と敵意、それに普通の思念体に比べて言いようのない違和感を抱く思念体に、警戒レベルを上げていた。
「……なら、お前はアイツのやろうとしている事を知っているのか?」
「ああ……だが証拠が無いからな。捕まえる訳にはいけないのさ……難儀な立場だよ、まったく」
「黙認するというのか!? ふざけた事を……!!」
「……それぐらいにしておけ、エルザ。何の事かは知らないが、周りに知られたい事ではないんじゃないのか? ……じゃあ、俺達はこの辺で……」
ワタルは、ジークレインに対する不信感を後回しにして、爆発寸前のエルザを抑える事にした。
頭に血が上り過ぎていた事に気付いたエルザはハッとして、黙り込んでしまったため、ワタルは彼女の手を引いて、その場を後にした。
用を済ませて評議院の支部を出ても、エルザの顔は晴れる事は無く、食事、という気分でもなかったため、そのままマグノリア行きの列車の中で、漸くエルザが口を開いた。
「……」
「……あの、ワタル……」
「なんだ?」
「いや、その……聞かないのか?」
「聞いて欲しいのか?」
何を、とはエルザもワタルも言わなかった。もう付き合いも長い。互いに聞かれたくない事がある事ぐらい、ワタルもエルザも知っていた。
「いや……すまない」
「……違うだろ、こういう時は」
「……そうだな。ありがとう、ワタル」
「……どういたしまして」
フッと微笑み、礼を言うエルザの顔を見て、心臓を大きく鳴らしつつも、何とか落ち着いたみたいだな、と胸を撫で下ろしたワタルだったが……
――このままで済む……とは思えないな、流石に……。
ジークレインに対して、予感じみた物を感じていた。それはマグノリアに帰っても晴れる事は無く、ワタルの胸で燻り続けていた。
そして二年経った今だが……
「それで……こんな見え見えの茶番はアンタが……?」
「心外だな……俺は妖精の尻尾を弁護したんだがな。……じじいどもが責任を取りたくないからって、身代わりにお前を選んだんだと」
「……くだらない。ところでなんでアンタがこんなところにいるんですか? もう裁判の時間だと思いましたが……」
「自分の裁判なのによく言うよ……。なに、大した事じゃないさ。次の聖十大魔導の筆頭候補の顔を拝みに来ただけさ」
「それこそくだらない。自分が最年少の聖十のくせに……それに、俺はそう言うの、興味ないんですよ……」
そう言い捨てると、ワタルは跪いている使者を無視して、ジークレインの横を通り過ぎるその瞬間、使者に聞かれないように、小声で話し掛けられた。
「じゃあ、一つだけ……あの事はじじいどもには言うな」
「……弟の事ですか?」
「分かっているならいい……じゃ、俺はこれで失礼するよ。評議員の一人として、な……」
そう言うと、ジークレインの思念体は消えた。跪いていた使者は立ち上がると、ワタルに話し掛けた。
「アンタ、凄い人と知り合いなんだな……」
「そうですか? ……それより急がなくていいんですか? 時間……」
「あ……そうだな……」
――弟、ね……ホントにそうならいいが……。
使者に応えながらも、ワタルはその足を進めた。
= = =
場所変わって妖精の尻尾では……一番暴走しそうなナツをマカオが捕まえてトカゲにして、コップの中に閉じ込めていたのだが……実はそのトカゲは借りを返すためにマカオ本人が変身したものだった、という事が判明していた。
ギルドのメンバーは、アイツなら評議員すら殴りかねない……などと狼狽え、マカロフがそれを鎮めたり、という事があったのだが……。
その日の夕方。
何故かワタルが逮捕されてからギルドに姿を見せていなかったエルザが、ぐったりしたナツを引きずってギルドに帰還した。
「今帰ったぞ……」
「あ、どこ行ってたの、エルザ……って、ナツ!?」
「ああ、このバカが『アイツらに一言言ってやるんだ』とか言って聞かなかったのでな……少し仕置きした」
「す、少しって……って、そうじゃなくて! エルザは心配じゃないの!?」
ルーシィは、ナツのやられ具合に少し引きつつも、エルザに詰め寄った。ギルドの他の大多数のメンバーも、ルーシィと意見は同じようだった。
「心配って……何がだ?」
「何がって……ワタルが連れてかれちゃったのよ!? それを……」
何を言っているのか分からない、と言う風に首を傾げるエルザに対し、ルーシィが尚も詰め寄ろうとしたその時……
「俺が……なんだって?」
この場にいないはずのワタルの声がして、入り口に姿を見せた。
「そうよ、ワタルが……って……」
「「「えーーーーー!!??」」」
「うるさいなぁ……」
ギルド中に、大声が響き、ワタルはその音量に両手で耳を塞いだ。
「な、なんでいるのよ!? 逮捕されたんじゃ……」
「なんで、って……いたら悪いような言い方だな……」
「そうじゃなくて……裁判はどうしたのよ!? まさか、逃げてきたんじゃ……」
「んな訳有るか!ったく……これは単なる“儀式”、魔法評議会としては、建前でも“逮捕”って形を取りたかっただけの“出来レース”なんだから……」
ルーシィの言葉にワタルがそう言い返すと、今度はグレイが口を開いた。
「じゃあ、つまり罰は無いって事か……じゃあ、なんであんな事言ったんだ?」
「あんな事?」
「エルザに言ってただろ、『皆をよろしく』って……」
グレイの疑問に、ワタルは頭を掻きながら言った。
「ああ、悪い。言葉が足りなかったな、それは……」
「ナツみたいに暴走して、評議院に殴り込みをかけようとする連中を抑えてくれ、って意味だ……そうだろ、ワタル?」
「俺の言葉取るなよ、エルザ……まぁ、そういう事だ」
「「「紛らわしいわ!!」」」
エルザがワタルに代わって説明し、ギルド全体からの突っ込みが入った。
「え、でもエルザには伝わっただろ?」
「……ま、まあな。伊達にお前の相棒は務めてないしな……」
「相棒って言うとなんかこそばゆいが……まぁいいだろ? こうやって帰ってきたんだし」
「……まぁ、文句はねぇよ……」
エルザが嬉しそうに答え、グレイはニヤニヤしながらも納得したみたいだった。
「……なんで笑ってるんだ、お前?」
「さぁ、なんでかな……そういや、ナツとエルザの戦いは……ナツの負けだよな。つーか、まだコイツ気絶してんのか、情けねえな……」
「なんだと、グレーイ!!」
「起きた!?」
グレイはワタルの問いにぼかして答え、ナツとエルザの試合の事に話題を移した。
当の本人の一人であるナツは絶賛気絶中……だったのだが、グレイが悪口を言った途端に復活し、ルーシィが驚いた。
「俺はまだ……」
「ほう、あれだけやられてもまだ負けてないと?」
「う……エルザ! 次はゼッテー勝つからな!!」
「フン、いつでも相手になってやるさ。……という訳だ、次は私と戦ってもらうぞ、ワタル!!」
ナツはエルザの形相に怯えて、負け惜しみを言い、エルザはワタルに勝負を挑んだ。
「あー、そういやそんな話だったっけ……。いいだろう、表に出ろ! ……と言いたい所だが、今日は遅いし疲れた。だから明日の朝、場所は……今日と同じでいいか?」
「む……了解だ。私が勝ったら、そうだな……新しくできたケーキバイキングの店があるんだが……そこで奢れ。いいな?」
「分かったよ」
一瞬、今すぐにでも始まりそうになったが、エルザはワタルの提案を了承した。
そして次の日の午前9時……ワタルはエルザと向かい合っていた。
因みにナツだが……昨日エルザに負けた事を認めて、今回の結果にいちゃもんをつける事は無かった。……あまりにあっさり認めたため、トラウマになってないかなぁ、とワタルは若干心配になったが。
だが、観客に紛れて野次を飛ばしている姿を見た限りでは大丈夫そうだな、と思い、思考を切り替えた。
「フフフ……」
「どうした、エルザ?」
「いや……いつ以来かな、と思ってな。ワタルと剣を交えるのは……」
「……そういや俺も覚えてないな。ま、関係ないだろ、それは……」
「そうだな……」
エルザはそう言うと、いつもの鎧姿で魔法剣を、ワタルは鎖鎌を出して構えた。
「ああ……どれぐらい強くなったか見てやる。掛かって来い、エルザ!」
「行くぞ!!」
ここに、妖精の尻尾でもトップクラスの実力を持った者同士の試合の幕が切って落とされた。
後書き
ワタルVSエルザは次回へ。
感想、意見等ありましたらよろしくお願いします。
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