八条学園怪異譚
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第十八話 トイレの花子さんその七
「おトイレに逃げて母親に殺されたっていうのは」
「その母親が旦那さんの浮気で気が狂って娘を殺そうとして追かけてたっていうのね」
「これが違うっていうと」
「そのお話は誰かが勝手に作ったお話なの」
それに過ぎないというのだ。
「実際はそういうことは全然なかったから」
「じゃあどうして花子さんは出て来たの?」
聖花は二人の話を聞きながら花子さんに問うた。
「妖怪にしても」
「何か気付いたらよ」
「気付いたらなの」
「そう、気付いたらこうして学校のおトイレにいたのよ」
「そうだったの」
「そうよ、私みたいな妖怪は都市伝説系っていうけれど」
ルーツはそこにあるというのだ。
「他には口裂け女さんね。この人も学園にいるから」
「えっ、口裂け女がいるって」
「それって」
二人は口裂け女と聞いてすぐに引いた。
「確か四つんばいでバイク並の速さで追いかけて来るのよね」
「大鎌で電話ボックス真っ二つにするらしいけれど」
「三人連れで来て殺すとか」
「何言っても殺すのよね」
「それも間違いだからね」
花子さんは二人の話に顔をかなり崩した。
そのうえで腹を抱えだして大笑いして言った。
「っていうか何よ、そのお話。何時聞いても笑っちゃうけれど」
「いや、そんな話お父さんから聞いたから」
「私も」
それぞれの父親から聞いた話だったというのだ。
「岐阜県から出て来て日本中を暴れたのよね」
「お隣の韓国にも出たって」
「ああ、韓国旅行が趣味だからね、あの人は」
話は一部合っていた。
「けれどそれでも普通にそういうのないから」
「人は襲わないのね」
「そうなのね」
「そうよ、人は襲わないから」
それはないというのだ。
「ついでに言えばお一人だし口も傷じゃなくて普通に耳まで裂けてるだけだから」
「映画にあったみたいな切り傷じゃないのね」
「それで子供も殺さないの」
「ただ驚かせるだけだから」
「じゃあ狐さんとか狸さんと一緒なのね」
「特に怖い妖怪さんじゃないのね」
「だからこの学園の中にそんな妖怪は入られないじゃない」
このことは口裂け女についても当てはまることだった。妖怪でも幽霊でもこのことは変わりはしないことである。
「だからね」
「口裂け女さんっていい妖怪さんなのね」
「危ない妖怪さんじゃないのね」
「だから安心してね。っていうか四つんばいで追いかけてくるって」
花子さんはこの話にまた腹を抱えて笑いだした。
「無茶苦茶じゃない」
「ううん、確かにそうだけれど」
「夢に出そうだけれど」
「普通にいい人よ。好物はベッコウ飴でね」
このことは変わらなかった。
「後ポマードが大嫌いだから」
「そこは変わらないのね」
「一緒ね」
「そうよ。まあ今度会ってみればいいから」
こういう話にもなった。
「あんた達の探してる泉も見付かるかも知れないしね」
「そうそう、泉よ」
「それだけれどね」
二人は花子さんが出した泉についてここで言った。
「おトイレにはあるの?」
「泉は」
「はっきり言うとね」
花子さんはこの前置きから二人に答える。
「ないわよ」
「あっ、ないの」
「そうなの」
「うん、高等部だけじゃなくて大学も中学もね」
無論小学校や幼稚園でもだ。
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