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とあるの世界で何をするのか

作者:神代騎龍
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第十五話  ドラグスレイブの初お披露目


「ここね、行ってくるわ」

「はい、お気をつけて」

 運転手に見送られて、俺は破壊するように依頼された研究所に入っていく。大きさはそこそこ、建物としてはどこにでもあるようないかにも研究所ですといった感じだ。

 今現在、研究所としては機能しておらず、人も居ないということなので特に気を使うことなく中へと足を踏み入れた。当然、研究所の敷地内や建物の内部に人の気配が無いことは確認済みだ。

 依頼は研究の内容が分からなくなるほど完膚なきまでの破壊、まぁ恐らくというかほぼ間違いなく違法研究だと思われるが、その証拠を一切残すなということだろう。

 建物自体にはすでに電力が供給されていないため電気が点かないのだが、俺は設定したばかりの無光暗視(ダークネスアイ)を使ってほぼ真っ暗な中を歩く。ライティングの魔法を使っても良かったのだが、やはり新しく手にした能力は使ってみたくなるものである。

 玄関からすぐの位置にある受付の部屋を覗いてみる。中には机と椅子、保管棚のようなものがあるのは分かるが、それ以外には何も無く、まるで移転が終わった後の空っぽになった事務所のような感じになっている。

 中へ進んでいっていくつもの部屋を見てみたが、どの部屋も机や棚が残っているだけで、特に何かが残っていそうな雰囲気ではなかった。一応、机の引き出しや保管棚の中も一通り見て、書類一枚すら残っていないのを確認している。

 研究所自体、外見上は平屋の建物で、一階部分は全て確認し終わったが特に何も無く、俺はそのまま階段を降りて地下へと降りていった。地上階を確認していたときに気付いたのだが、無光暗視(ダークネスアイ)という能力は光源が存在しない状態で見える視力なので、影というものが出来ないのだ。机の下だろうが引出しだろうが戸棚の中だろうが、普通に明るい状態と変わらず見えるのには物凄く違和感を感じるのである。逆に言えばライティングの魔法なら、引出しや戸棚の中を確認するときには中に光を当てなければならないので、能力を使ったほうが遥かに楽だったというわけだ。

 地下へ降りると、最初に入った部屋でいきなりダンボールの山を見つけた。ほとんどのダンボールには『サイズミス』と書かれているので、何かのサイズを間違えて不要になったものがこのダンボールに詰め込まれているのだろう。取り敢えず手近にある開けやすそうなダンボールを開けてみる。中には服が入っていて、襟元の形からブラウスだと思うが、恐らく事務員用の制服かその辺りだろう。それにしては数が異常に多いような気もするが……。

 ダンボールの山はそのまま放置し、次の部屋に入ってみると廊下と平行するように作られた長い部屋だった。廊下と反対側は一面のガラス張りで、恐らくその向こう側で行われる実験を、観察するための部屋だと思われる。取り敢えず部屋の中には机や椅子すら残っておらず、ものの見事に空っぽの状態だった。そして、ガラスの向こう側を覗いてみると……。

「げっ!」

 そこには一面死体だらけの空間が広がっていた。この部屋より一つか二つ下の階になるのだろう、ガラス窓から見下ろせるようになっている部屋の広さは普通の学校の体育館ぐらいだろうか、その一面に広がっているのはほとんどが血の赤で、ところどころに髪の毛の色だと思われる茶色や皮膚の肌色、そして服の色だと思われるベージュっぽい色や白っぽい色も確認できた。そう言えば、見えている血の赤というのは、かなりの部分が普通なら暗くて見えない死体と死体の隙間から見えているものだろう。

 ここで俺は、7つ目に設定しておいた遠距離視(ロングレンジスコープ)を発動させてみる。

「ミサカかぁ……」

 そこに広がる死体の数々は全て、見た目が御坂美琴……つまり妹達(シスターズ)だった。御坂美琴本人を見る前にシスターズのほうを、しかも死体を見ることになろうとは……。

 だが、そうなると当然この死体の山は、DNAすら残さないように跡形も無く消滅させなければならないのだろう。というか、跡形も無く破壊しろという命令はそういう意味だったのか。しかし、まさか俺がこんな役回りをする事になるとは思わなかったが、暗部に所属する以上当然予期しておくべきことだったのだ。

 俺は部屋から出ると、下へ降りる階段へと向かった。この建物の階段は、地上階から地下一階へ下りる階段が玄関から一番遠い位置にあり、地下一階から地下二階へ下りる階段は、地上から下りてきた階段から廊下を歩いて反対側、つまり玄関の下辺りにあるのだ。恐らく、ミサカの逃亡を防ぐための構造なのだろう。

 階段を下りると今度は廊下では無くいきなりドアがあった。ドアを開けて中を覗いてみると、どうやら地下一階にあった部屋と廊下の真下がそのまま一部屋になっているようだ。壁際にはロッカーが並んでいて、一箇所だけ扉がある。位置的に考えて、そこからミサカの死体が敷き詰められた部屋へ出られるのだろう。

 俺は扉の前に立つと、一度大きく深呼吸をした。そして、ゆっくりと扉を開く。当然、開けた瞬間から目の前にミサカの死体がいくつも横たわっている状態だ。

 レビテーションで宙に浮き中へと入るが、血の匂いで気分が悪くなりそうだ。生体反応の識別能力で、部屋を一周しながらまだ生命反応のあるミサカが存在しないかを確認していくが、やはりというか残念ながら全てのミサカが完全に死んでいた。

 これ以上進める部屋は無いみたいなので部屋を出て上の階まで戻り、俺は暗部用ケータイを使って土御門さんに電話した。

『どうしたんだにゃー?』

「これから少し時間ありますか?」

『ああ、大丈夫だぜい』

「今、仕事の途中なんですけど、この前言った数発でビルが消滅する威力の魔法を使おうと思うんで、土御門さんには見ておいて貰いたいと思いまして」

『分かった、すぐ行くぜい』

「はい、待ってますねー」

 電話を切ってから、俺はダンボールの積まれた部屋へ向かった。ダンボールに入っていたサイズミスの服は、多分ミサカ用の服だと思う。そうなると、当然その服は常盤台中学の制服という事になる。というわけで、研究所を破壊する前にその服を貰っておこうと思う。

 部屋に到着すると、積み上げられたダンボールを片っ端から開けていく。一応、全てが服だとは思うのだが、もし何かしら外部に漏れるとまずい資料などが混じっていては困るからだ。

 中身が制服のダンボールをすぐに作成空間へ放り込んでは次のダンボールを開ける。上のほうに積まれたダンボールはサイコキネシスで手元まで持ってきて、中身を確認しながら次々と作成空間へ放り込んでいく。一応言っておくと、作成空間へ放り込むのもサイコキネシスを使っている。

 結局、全てのダンボールに常盤台の制服が入っていた。数量的にどのくらいだったかは覚えていないが、夏物のブラウスとサマーセーター、そしてスカートがそれぞれ100を超えるぐらいあったと思う。そして、冬用のブレザーとスカートが200以上ずつぐらいはあっただろう。サイズミスということだから当然ミサカのサイズではないということだろうが、どの程度サイズが違うかまでは見ていないので、アパートに戻った後でゆっくりと確認させてもらおう。





 常盤台の制服を有り難く頂戴してから研究所の外に出てみると、ちょうど門の前に車が止まるところだった。

「待たせたかにゃー?」

「いえ、そんなには待ってませんよ」

 車から降りて声をかけてくる土御門さんに答える。というか、電話してからまだ20分も経っていないはずなので、それを考えれば来るのが異常に早いと思うのだが……。

「で、準備なんかは全部終わってるのか?」

「ええ、すぐにでも始められるわ」

 急にシリアスモードへと切り替わった土御門さんに答える。土御門さんには隣の廃ビルの屋上から眺めてもらうことにして、念のため車もそのビルの裏側へ回って貰うことにした。

『到着したぜい。見晴らし良好だにゃー』

「では、始めますね」

 ケータイで連絡してきた土御門さんに答えてから、俺はレビテーションで上昇した。

 研究所をほぼ真上から見下ろす位置に到着すると、まず周囲を確認する。研究所の敷地は結構広く、少なくとも野球のグラウンドが一面取れそうな広さがある。その中で左側のほうに研究所の建物が縦長に建っているのだが、建物のある側の隣が土御門さんの居る廃ビルだ。そして、中央から右側は荒れ地となっているのだが、その地下には一面ミサカの死体が敷き詰められた部屋があるのだ。中で見た地下室の広さから考えれば、敷地面積一杯の広さを地下室にしていたというわけではないようである。

 俺は外部への被害を出さないように、敷地の外周に空間盾を発動させてから呪文を唱え始めた。

黄昏(たそがれ)よりも(くら)きもの、血の流れより(あか)きもの……」

 俺が唱えているのはスレイヤーズ世界の魔族の力を使う魔法である。この世界で使うのは初めてだが、今までの他の世界でも使えていたので多分大丈夫だろう。まぁ、使えなかったとしても他に使える魔法は色々あるので問題無い。

竜破斬(ドラグスレイブ)!!」

 俺の放った魔法は赤い光となって研究所敷地のほぼ真ん中へ吸い込まれていき、ドグォーンという何ともコミカルな爆発音を響かせて……いや、爆発音がコミカルだったかどうかはスレイヤーズの世界で俺の耳が慣れてしまったせいで、補正が掛かっていたのかもしれないが、取り敢えずドラグスレイブは研究所をきれいに跡形もなく消滅させていた。

「ふー……任務完了ね」

 俺は上空300mぐらいの位置で一息ついた。研究所の敷地は、俺が空間盾を設置していたので外側に被害は全く出なかったのだが、内側のほうは深さ20m程度まできれいに消滅していて、空間盾を解除したら周囲から崩れ落ちてしまいかねない状態になっていた。

「うーん、まずいわねー」

「まずいというか、後始末が大変だにゃー」

 俺が土御門さんの横に降り立ってからつぶやいた言葉に土御門さんが反応した。

「そうなのよねー。このままにしといたら絶対周囲が崩れちゃうしねー」

 もしこのまま俺が空間盾を解除すれば、恐らくこの建物や道路、そして向こう側の建物なども、研究所の敷地だった場所へ崩れ落ちてしまうだろう。

「そうだにゃー、これだけの広さを埋めるのにも相当な量の土が必要だぜい」

「あー、そっか。埋めちゃえばいいのよね」

 俺は崩れ落ちないように穴の周囲を補強する方法を考えていたのだが、土御門さんの言葉で穴そのものを埋めてしまえばいいことに気がついた。

「何か方法でもあるのか?」

「ええ、土の質さえ問わなければ、すぐに埋められるわ。じゃ、いくわね」

 土御門さんの疑問に答えてから俺は、随分前の世界で山の中に秘密基地を作るために穴を開けたときの残土を入れていた作成空間を開く。秘密基地といっても子供が作るようなものではなく、中で戦車や戦闘機を作る工場などが稼動していた本格的なものである。その為、残土の量が半端ではなく、研究所の敷地を埋めるくらいなら充分まかなえるだけの土がこの作成空間内にはあるのだ。

 まずは敷地外周に張り巡らせた空間盾を解除し、研究所跡地の穴の大きさの空間に結界を張る。そして、作成空間内にある残土の中に同じ大きさの結界を張り、二つの結界を入れ替えてから、双方の結界を解除すれば穴埋め完了である。

「なぁっ!?」

 一瞬にして埋まってしまった研究所跡地を見て、土御門さんが驚きの声を上げるが、そろそろ慣れてもいい頃なんじゃないかと思うんだけどね。

「この後の処理とか任せてもいいのかしら?」

「あ……ああ、というか、もう処理する必要もなさそうだけどな。ここまでされると暗部の仕事がなくなりそうだぜい」

「そう? でも、私がこの世界に居る限り、土御門さんの仕事は増えるわよ」

「そいつは勘弁してほしいにゃー」

 土御門さんとそんな会話をしながら車へと戻る。しかし、研究所が跡形もなく消え去ったときに、この場所に車が止まっていたことが分かれば、すぐにバレてしまいそうな気もするんだけど大丈夫なのだろうか。





 アパートに送り届けてもらって部屋に戻ると、早速常盤台の制服を出してみる。夏服の量と冬服の量が違うのは、単に今の季節が関係しているだけなのだろうか。取り敢えず夏服の上下を一式出してみるが、完全に新品のようで、まだビニール袋に入ったままである。逆に言えば、新品で無いようならミサカが触れた可能性も考えられる……つまり、服にミサカのDNAが検出できるようなものが残っている可能性も考えられるわけで、暗部の一員としては流石にそんなものを持ってくることなどできない。現に死体のあった場所の手前の部屋のロッカーにはいくつかブレザーが掛かったまま残っていたが、手を付けることなくドラグスレイブで跡形もなく消滅させたのだ。

 早速制服に着替えてみる。ダンボールに書いてあったサイズミスというのは、ミサカには合わないサイズということなのだろうが、姫羅の状態の俺にはほぼぴったりのサイズだった。

 更に冬服も取り出して着替えようと思ったのだが、箱を開けただけでサイズが大きいことが分かった。夏服のビニール袋入りと違って、冬服はしっかりとした箱に入っているのだ。しかし、あの研究所ってどれだけサイズをミスって発注してるんだ。取り敢えず冬服のほうは作成空間に戻しておくことにしたのだが、他の冬服の中に箱そのものの大きさが少し違うものを見つけた。ダンボールの中に出来ている隙間が広くなっているので、制服を入れている箱そのものはさっきのやつより少し小さいということである。

「あ、こっちはちょうどいいわ」

 どうやら、冬服が多かったのはサイズミスの発注を2回してしまったからのようだ。アニメで見た感じのミサカを思い出してみれば、恐らく今俺が着ている制服とさっきの大きい冬服の、間のサイズがちょうどいいのだろう。しかし、制服のサイズごとに箱の大きさも専用のものがあるとは、さすが常盤台といったところだろうか。

 常盤台制服の一人ファッションショーを終了し、着用した制服と袋や箱から出して無い制服もう一式を作成空間へ収めておく。制服を収めたのはダンボールごと放り込んだ作成空間のほうではなく、今までの世界の服を色々と収めている作成空間のほうだ。なお、俺が着た制服は夏冬ともにハンガーにかけた状態、新品の夏服はビニール袋に入ったまま、冬服はしっかりとした箱に入ったままの状態である。

 すでに遅い時間になっているということもあって、俺は男に戻りつつ風呂に入り、布団にもぐったのである。
 
 

 
後書き
 なんか、全然話が進まなかったので、次回に続くような終わり方をやめてみました。
 次は一応入学式になります。 
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