スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇
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第百十五話 エイジの決断
第百十五話 エイジの決断
エイジがロンド=ベルを跳び出てから戦闘はなかった。しかし全体の雰囲気はかなり悪いものになってしまいどうしようもない状況になっていた。
「で、あいつは今何処にいるんだ?」
「さてな」
ディアッカにジュドーが答える。
「何処に行ったんだろうな。本当にな」
「わからないっていうかよ」
「俺達だけじゃねえけれどな。探してるのは」
彼も探しているのだった。
「けれどな。それでもな」
「足跡一つ見つからねえってわけかよ」
「そういうことさ。まあ出て来て二日だしな」
「そうそうわかるものじゃねえか」
「残念だけれどな。しかしよ」
ジュドーはここでテーブルの上のサンドイッチをつまみながら述べた。
「このまま帰らねえかもな、あいつ」
「二度とってこと?」
「あんなふうに跳び出たからよ」
エルに応えながらそのサンドイッチを口の中に入れる。
「そうそう戻ることなんてできねえだろ」
「そういうものなのね」
「まずいんじゃないの?それって」
イーノはその話を聞いて不安な顔になった。
「エイジがいないとグラヴィオン自体が」
「ああ、それは心配ないらしい」
アスランがイーノに述べた。
「それはな」
「心配ないの?」
「グラヴィオンは一人いなくとも動かせることはできるそうだ」
アスランはまた述べた。
「そして戦うこともな」
「じゃあそれは大丈夫なの」
「そうなる」
アスランはまたイーノに答えた。
「だからそれは安心できるが」
「そういう問題じゃないよね、やっぱり」
「そうですよね」
ニコルは沈んだ顔でモンドの言葉に頷いた。
「エイジさんがいないと。やっぱり」
「うん。けれどあの時の選択は」
「俺だったらあの時は」
ビーチャは聞いた話を思い出しながら述べた。
「セシルちゃん達を助けていたな」
「俺もだ」
これはイザークも同じだった。
「武器を持たない者を助けるのが俺達だからな」
「あんたもいいところあるじゃない」
ルーはわざとイザークのその言葉を茶化してみせた。しかしこれは悪意あってのものではない。
「っていうか私もそうするわよ。絶対にね」
「それが普通よ」
ルナマリアも同じ意見だった。
「何の為に戦っているのよ、私達って」
「しかしあいつは違った」
レイの言葉は冷徹なものになっていた。
「セシル達よりも勝利を優先させた」
「それがおかしいんだよ」
ビルギットも顔を顰めさせて言う。
「確かに勝たなくちゃいけないんだけれどな」
「市民を見捨てる戦いなんて意味ないですよね」
「誰かそんなこと言う奴いるか?」
ビルギットは顔を顰めさせたままシーブックに問うた。
「今このロンド=ベルによ」
「いませんね」
シーブックにも心当たりのない話だった。
「そうした人は。確かに」
「市民を見捨てるなら自分が楯になって死ね」
ジュンコの言葉は厳しい。
「そうした考えならあるわよ」
「けれどあの子は違うわ」
マーベットは斗牙のことを話していた。
「あくまで。勝利の為に」
「前から思っていたけれど」
「どうしたの?ウッソ」
シャクティがウッソに対して問う。
「斗牙さんって何か人形みたいな感じしない?」
「人形!?」
「感情が乏しくて。世の中のこともあまり知らないし」
こう話すのだった。
「そういうの見ていたらね」
「ああ、そうだな」
「確かにな」
オデロとトマーシュもウッソの今の言葉に同意して頷く。
「あの人ってな。言われてみれば」
「戦うことだけ考えていて」
「ずっとあのお城で暮らしていたから?」
ミリアリアはこう考えた。
「やっぱり。それって」
「そうじゃないの?結局のところ」
「そうだよな。あのお城から一歩も外に出たことないらしいし」
トールとカズイも言う。
「だからああした人になったと思うよ」
「人形っていうかね」
「そしてそれはエイジにとって我慢できないことだった」
サイは冷静に述べた。
「あの行動が」
「それでその斗牙さんは」
シホはその斗牙自身のことを皆に尋ねた。
「今どうしておられますか?」
「変わらないわよ」
エルフィが彼女の問いに答えてきた。
「今はトレーニングルームに」
「何か本当に凄いね」
ジャックはある意味賞賛さえしていた。
「自分が言われたことなのにあんなに冷静なんてね」
「最初はほんの少し戸惑っておられたようです」
フィリスはこうは述べはする。
「ですが。昨日にはもう」
「いつも通りってわけなんだ」
「その通りです」
こうカツに答えた。
「何も変わりありません」
「やっぱり何かおかしいだろ」
シンは誰よりも眉を顰めさせていた。
「あいつよ。絶対によ」
「人形って言いたいのね」
「他に言い様がねえよ」
メイリンに返す言葉も誰よりも感情が含まれていた。
「マジで人間めいたものを感じねえな」
「人間、ね」
その言葉に少し微妙な顔になったのはフォウだった。
「それはテムジンさん達も入れてのことね」
「テムジンさんは人間だぜ」
シンはテムジン達はこう言って認めるのだった。
「ちゃんとしたな」
「そう。ちゃんとした」
「姿形なんかどうでもいいんだよ」
彼はそれはいいとするのだった。
「そんなこと言ったら俺達なんて全員人間じゃねえだろうがよ」
「そうだよね、それって」
シンジはシンの今の言葉にかなり同意して強く頷いていた。
「僕達の中って色々な人がいるからね」
「あたしみたいな天才もいるしね」
「私の様なしっかりした人間もいるしな」
「牝猿も二匹いるしな」
ここでまた余計なことを言うシンだった。
「勘違いしてマシンに乗ってるしな」
「何ですってえ!?」
「誰が牝猿だ、誰が!」
やはり激昂して怒りの声をあげる二人だった。早速いつもの様にシンにつっかかり返す。
「もう一度言ってみせなさいよ!」
「その言葉訂正しろ!」
「うるせえ!猿に猿って言って何が悪い!」
そしてシンもシンだった。
「何処の誰が天才で気品があるっていうんだよ!」
「全く以ってその通りじゃない」
「その通りだな」
二人にはそもそも自覚すらなかった。
「それよりもあんたの方こそ」
「このシスコンのロリコンが!」
「誰がシスコンでロリコンだ!」
シンも席を立ち上がって激昂する。
「この牝猿コンビが!」
「もう許さないわよ!」
「覚悟しろ!」
ここで遂に二人も立ち上がった。こうしてまたまた喧嘩に入るのだった。
「まあこの連中はいつもだけれどね」
「そうね」
とりあえず三人は放置する面々であった。
「とりあえずエイジだけれど」
「本当に何処なのかしら」
「戻って来たらいいけれど」
こう言い合うのだった。
「本当にどうなるのかしら」
「このままじゃグラヴィオンは五人で」
「心配無用だ、諸君」
しかしサンドマンが突然出て来て一同に言うのだった。
「そのことに関しては何の不安も心配も無用だ」
「サンドマンさん」
「どうしてですか?」
「運命」
彼はまずこう答えた。
「全ては運命に導かれているからだ」
「運命!?」
「それって一体」
「運命は運命だ」
答えになっていないが彼だからこその説得力のある言葉だった。
「彼もまたその中にいるのだ」
「エイジがですか」
「その通り。だからこそ心配は無用」
こう言うのである。
「決してな」
「信じられる?」
「何となくって感じ?」
皆サンドマンの今の言葉にまずは顔を見合わせて言い合った。
「っていうかこれで説得力あるなんていうのが」
「わからないけれど」
だが実際にそれを感じているのだった。
「まあとにかく。サンドマンさんが言うんなら」
「安心して待っていようかしら」
「全ては運命なのだよ」
サンドマンはまた言った。
「ここに諸君が集まったのも彼が戻るのもな」
「そうですか。それじゃあ」
「ここは」
まずはエイジのことはこれといって動かないことになった。そして斗牙であるが今は何の変わりもなく城の中でトレーニングを行っていた。それだけだった。
「おい斗牙」
その彼に同じくトレーニングを行っていたトウマが声をかけてきた。
「どうしたんだ?急に動きが止まったぜ」
「うん、ちょっとね」
少し俯いて彼の言葉に応えてきた。
「気になることがあって」
「エイジのことか」
「僕はあの時正しい判断をしたのに」
語っているが表情は変わらない。
「それでどうして怒るのかなってね」
「それか」
トウマは今の斗牙の言葉に少し考える顔を見せた。
「それはな。皆どう思ってるかわかるか?」
「皆?」
「そう、皆だよ」
こう斗牙に言うのだった。
「皆がどう思ってるか。考えたか?」
「ううん、それは」
首を横に振ってトウマに述べた。
「ないけれど」
「それだな。御前に足らないのはな」
「僕に足りない?」
「ああ、足りないものだ」
斗牙にさらに話すのだった。
「御前に足りないものはな。それだ」
「皆がどう思っているか」
「一人で生きちゃいないんだよ」
「一人で生きてはいない」
「誰だってな。俺だってそうだ」
今度は自分自身のことについても語った。
「一人で生きちゃいないんだ。誰もな」
「僕も一人で生きてはいない」
「だからエイジはあの時怒ったんだよ。セシルや街の人達を無視してたよな」
「無視!?」
「それよりも戦いを優先してたな」
このことを指摘するのだった。
「あの時。そうだな」
「それが悪いの?」
やはり斗牙にはそれがわからなかった。
「正しくないの?」
「悪くもないし正しくないこともないさ」
トウマはそれは違うと言うのだった。
「けれどな」
「けれど?」
「俺達は何の為に戦ってるかなんだ」
「この世界を脅かす敵を倒す為じゃないの?」
「正しいけれど完全なものじゃないな」
トウマはこう答えた。
「それはな。違う」
「違うって」
「世界を守る為なんだよ」
こう斗牙に話した。
「俺達が戦っているのはな」
「世界を守る為・・・・・・」
「そしてな」
「そして?」
「その世界にいる皆を守る為なんだよ。皆はそう考えているんだ」
「皆は。そうなんだ」
斗牙にとってははじめて聞く言葉であった。自然と心に染み入ってきた。
「だからエイジはあの時」
「そういうことさ。まあ今は当人はいないけれどな」
相変わらず何処に行ったのかわかっていないのである。
「それでもな。だから」
「あの時あんなに」
「もう一度考えてみてくれ」
トウマの言葉と声がこれまでよりも強いものになった。
「戦う意味をな。よくな」
「・・・・・・戦う意味を」
「じっくりとな。それじゃあな」
「何処に行くの?」
「トレーニングも終わったし帰るさ」
こう言って踵を返したトウマだった。
「今はな」
「そう。帰るの」
「帰ってシャワーでも浴びてゆっくりさせてもらうか」
「お風呂ならあるけれど」
「おっと、そうか」
斗牙の今の言葉で気付いたのだった。
「それじゃあ悪いけれどな」
「お風呂が一番身体の疲れが取れるよ」
「そうだよな。何かかんだでな」
それはちゃんとわかっているトウマだった。
「身体の疲れはあれが一番だよな」
「うん。だからね」
「けれどな。ここの風呂ってな」
「どうかしたの?」
「俺はやっぱり止めておくな」
バツの悪そうな考える顔でこう返したのだった。
「悪いな。今日はな」
「どうしてなの?遠慮することはないのに」
「遠慮はしてないさ」
それは否定したのだった。
「けれど。ちょっとな」
「ちょっと?」
「メイドの娘達がいるからな」
だからだというのであった。
「だから止めておくな。悪いな」
「別に気にすることないのに」
「気にするよ」
この辺りにも今の斗牙が現われていた。トウマの気持ちを察していなかったしそれがどうしてなのかも全くわかってはいないのだから。
「俺はな。ミナキもいるしな」
「ミナキさんが?」
「ああ、だからだよ」
とにかく城の風呂には入ろうとしないのだった。
「ここは止めとくな。それじゃあな」
「うん。じゃあ」
こうして今は彼はシャワーで済ませるのだった。斗牙にも何かが伝わった。しかしそれが実を結ぶのはまだ先で今はただ話を聞いていただけだった。
そしてその時エイジは。学校にいた。彼の通っていた学校だ。
「あれっ、エイジじゃない」
「久し振り」
皆学校の制服に身を包んでいる彼に声をかける。
「どうしたのよ、最近」
「学校に全然来ないでよ」
「色々とあったんだよ」
バツの悪い顔で皆に言葉を返していた。彼は今学校の教室にいてそこで皆と話をしていた。それを見る限り彼も普通の学生に見える。
「色々とな」
「色々とって?」
「変な城に入ってよ」
まずはこのことから話す。
「それで怪しいメイドの娘達に囲まれてな」
「メイド!?」
「何、それ」
「俺も何かよくわからねえ間によ。それでメイドの娘達に囲まれてよ」
「それって天国か?」
「そうだよな」
男にしてみればそんな話だった。
「そんないい世界にいたのかよ、今まで」
「羨ましいな、おい」
「その全然知らない相手に囲まれて何かあれこれされてよ」
「余計いいじゃねえかよ」
「完全に極楽じゃねえか」
「だから全然違うんだよ」
エイジはとにかく天国にいたことは否定するのだった。
「何かよ。もう完全にな」
「完全に?」
「どうだったんだ?」
「何が何だかわからなかったんだよ。それに」
「それに?」
「今度は何だよ」
「人形みたいな奴もいたしよ」
斗牙のことを思い出したのだった。思い出して忌々しげな顔になってしまった。
「ったくよ。何なんだよ」
「何なんだよって言われてもよ」
「俺に言われてもよ」
「なあ」
彼等にとってみればそもそも何が何なのかわからない話だ。とはいっても話しているエイジ本人ですらあまりわかっているようには見えなかった。
「とにかくよ。もうここに戻ったからよ」
「そうか。戻ったんだな」
「学校にな」
「ああ。ここから出ねえ」
もう決めているのだった。
「絶対にな。何があってもな」
「そうか」
「まあ何よりだけれどな」
皆とりあえずエイジが戻って来たことには喜んでいるのだった。
「まずは何よりだよ」
「とりあえずな」
「それでエイジ」
「今日だけれど」
女の子二人が彼に対して言って来た。
「どうするの?これから」
「予定ある?」
「いや、ねえけれどよ」
「じゃあハンバーガー食べに行かない?」
「どう?」
こうエイジに提案してきたのである。
「時間あったらだけれど」
「どうかしら」
「いいのかよ。それで」
エイジは女の子二人の話を聞いて顔を向けた。
「じゃあ俺もな」
「俺も」
男二人も話に入って来た。
「これでいつものメンバーだよな」
「エイジが戻ってな」
「そうだな。そういえばな」
エイジは彼等の言葉を聞いてそれで笑顔になって頷いた。
「ずっと何かこういう生活忘れていたぜ」
「じゃあ今まで通りここはね」
「ハンバーガーをね」
「食べるか」
そんな話をしながら楽しい日常を過ごす彼だった。放課後には実際に皆でハンバーガーショップに入って楽しく談笑していた。彼にとってはまことに楽しい日常が戻っていた。
「それでね。昨日なんかね」
「こんなことがあったんだよな」
「へえ、そうだったのかよ」
エイジはそのハンバーガーを食べながら話を聞いていた。
「あいつがねえ」
「意外でしょ?」
「俺達も驚いたんだよ」
「何か俺がいない間に色々とあったんだな」
こうも思うのだった。
「ちぇっ、話に入り損ねたぜ」
「まあまあ」
「それにしてもよ」
ここで男友達の一人が彼に言ってきた。
「御前何か変わったな」
「そうか?」
「雰囲気が鋭くなったな」
こう彼に言うのだった。
「何かな。何かあったのか?」
「いや、別に」
グラヴィオンに乗っていたこともロンド=ベルにいたことも今は隠していた。
「何もねえけれどよ」
「そうよ。エイジずっと旅行に行ってたのよね」
「あれっ、病気じゃなかったっけ」
「馬鹿、こいつが病気なんかするかよ」
「そうだよ。それはないと思うよ」
男友達は少なくとも病気の可能性は否定したのだった。
「何とかは風邪ひかねえっていうからよ」
「ないって。やっぱり」
「おい、そりゃ一体どういう意味だよ」
エイジもまた予定調和の如く彼等の言葉に対して怒った声でクレームをつけるのだった。
「俺が馬鹿だっていうのかよ」
「って違うのか?」
「そうとしか言えないじゃない」
「何でこんなに言われるんだ?俺ってよ」
彼にとっては実に不本意なことであった。
「ったくよお。まあとにかくよ」
「ああ。何だ?」
「まだ何か食い足りねえよな」
エイジは実際にまだ満足していなかったのだった。
「注文しようぜ。何かよ」
「そうね。それなら」
「チーズバーガーなんてどう?」
早速女友達二人が彼に対して言ってきた。
「それともダブルバーガー?」
「どっちにするの?」
「両方がいいんじゃねえのか?」
「そうだよね。お腹空いてるのなら」
男友達二人がエイジに代わって言うのだった。
「頼もうぜ」
「それでどうかな、エイジ」
「ああ、それならいいな」
エイジも実際にその話に乗るのだった。
「じゃあ両方な」
「わかったわ。それじゃあ」
「チキンナゲットにフライドポテトもつけてね」
「コーラもな」
「僕はバニラシェイク」
皆それぞれ注文しハンバーガーショップでの一時を楽しんだ。店を出ても外を歩くことを楽しみエイジは朗らかに笑っていた。だがふとこう思うのだった。
「なあ大島、高須」
「んっ、どうした?」
「何かあったの?」
すぐに男友達二人が彼の言葉に応えてきた。
「いや、今色々とややこしいよな」
「まあそうだな」
「今のところガルラ帝国も天使達も大人しいけれどね」
「それで。今俺達の為に戦っている奴等がいる」
「ロンド=ベルだったわよね」
「あの精鋭部隊」
女友達二人も言うのだった。
「私達だって知ってるわよ」
「ねえユミ」
「ええ、カオリ」
「戦える奴が戦う」
エイジはここでまたポツリと言った。
「それで戦ってるんだよな」
「そうね。それはね」
「連邦軍だってそうし」
「連邦軍もかなり酷いことになったけれどね」
高須が言ってきた。
「それでも。今はね」
「少し落ち着いたのか」
「うん、少しずつだけれどね。ロンド=ベルがかなり戦ってくれているから」
「だからか」
「とりあえず今のところは落ち着いてるよ」
また言う高須だった。
「皆が皆平和とは言えないけれどね」
「この街だってよ」
大島もエイジに言ってきた。
「一ヶ月前に派手な戦闘があったぜ」
「ああ、そうだったな」
エイジもこれは知っていた。何故なら彼が戦ったその戦闘だからだ。言うまでもなくグラヴィオンに乗ってそのうえで戦ったのである。
「あの時な。派手にやったからな」
「派手にやった!?」
「やったって!?」
「あっ、何でもねえよ」
ユミとカオリの突っ込みにとりあえず誤魔化しで返した。
「派手に戦ってたからな」
「そうよね。派手な戦闘だったわよね」
「私達だって安全な場所に避難したし」
「大変だったわよね」
「ああ、そうだよね」
「いつものことだけれどね」
大島も高須もこれは同じ意見だった。
「命があるだけよかったけれどな」
「そうだよね。何だかんだでロンド=ベルに助けてもらったよね」
「あいつ等に助けてもらったのか」
「だってそうじゃない」
「ロンド=ベルが来てくれなかったら大変なことになってたわ」
ユミとカオリはまたエイジに告げるのだった。
「本当にあの時あの人達がいなかったら」
「どうなっていたか」
「そうか」
エイジは周りの言葉を聞いて考える顔になっていた。
「俺達・・・・・・」
「俺達!?」
「今何て?」
「あっ、いや」
また失言を取り繕うことになった。それでまた咄嗟に訂正するのだった。
「あいつ等がな。いなかったらか」
「そうよ。若しいなかったら」
「私達だって危なかったわよ」
二人はここでもエイジの失言の中身には気付かず彼の言葉に頷いた。
「それ考えたらロンド=ベルって凄いわよ」
「私達を助けてくれるんだから。いつもね」
「そうか。いつもだったのか」
「ロンド=ベルがいないとそれこそどれだけの人が戦闘に巻き込まれたか」
「全然わからないわよ」
こう言うのだった。そしてこれは大島と高須も同じであった。誰もがロンド=ベルに感謝しているのだった。
「俺は」
エイジはその皆の話を聞いて呟いていた。
「だが俺は」
「?またどうしたの?」
「急に黙りこくって」
またユミとカオルが彼に問う。
「何かおかしいわよ、本当に」
「気になることがあるの?」
「何でもねえよ。ただな」
「ええ。ただ?」
「俺変な奴に会ったんだよ」
また脳裏に斗牙のことが浮かんできたのだった。
「もうよ。何考えてるのかわからねえ天然野郎でよ」
「へえ、天然かよ」
「どんな人なの?」
「人形みたいな奴でよ。人間らしさなんか微塵もねえ」
こうも言うのだった。
「あんな奴見たこともねえ」
「そんなに変な人だったの」
「嫌な人なの?」
「嫌な奴じゃなかったわ」
そうした人間ではないことはわかっていたのだ。
「けれどよ。それでもよ」
「付き合いにくかったのかよ」
「ってことは」
「付き合えねえよ。あいつはあいつの好きにやればいいんだよ」
忌々しげに言い捨てたエイジだった。
「勝手によ。やればいいんだよ」
「ふうん。とにかく嫌なことがあったのね」
「そうみたいね」
ユミにもカオリにもそれはわかった。
「けれどエイジ」
「何だよ」
エイジは今度はユミの言葉に顔を向けた。
「あんたはあんたよ」
「俺は俺!?」
「そうよ。あんたはあんた」
またエイジに言うユミだった。
「だから別に気にすることないじゃない」
「そうなのか」
「そうよ。別にね」
ユミは言葉を続ける。
「あんたはあんたのやりたいことをやればいいじゃない。違うかしら」
「俺のやりたいことをか」
「それか信じてることをね」
エイジにこうも言うのだった。
「やればいいんじゃないの?」
「俺のたりたいこと、信じていることをか」
エイジはユミの今の言葉を受けて考える顔になった。
「だったら。俺は」
「何か悩んでるみたいだけれど」
彼女にもそれは何となくだが感じ取ることができたのだ。
「それでいいじゃない。私はそう思うわよ」
「そうか」
またユミの言葉に対して頷いた。
「俺の信じるようにか」
「そう思うけれどね。私はね」
「俺は俺の信じる道を進むってわけか」
エイジはこう考えだした。
「なら」
「どうするの?それで」
「いや、まだわからねえ」
答えはまだ出せなかった。
「今はここにいるさ」
「ここにって?」
「いや、何でもねえ」
また言葉を誤魔化すことになってしまった。
「何でもねえよ」
「そうなの。何でもないの」
「ああ。それよりもよ」
また話を変えることにしたのだった。
「今度は何処行くんだ?」
「本屋行くか?」
「本屋!?」
「ああ。どうだ?」
大島の提案であった。
「本屋よ」
「ああ、いいな」
エイジも微笑んで彼の提案に応えた。
「そういえば本屋ってよ」
「ああ」
「久し振りだしよ」
「本屋が久し振りなんだ」
高須はそこが気になるのだった。
「また随分と変な所にいたんだね」
「ああ、まあな」
今度はあのメイドだらけの城を思い出したのだった。
「そうかもな。まあとにかくよ」
「うん」
「本屋、いいよな」
笑顔で応えた言葉だった。
「じゃあ行くか。皆でな」
「そうね。丁度今日あのファッション雑誌の発売日だし」
「丁度いいわよね」
ユミとカオリもそれで賛成なのだった。
「行きましょう。これからね」
「駅前の本屋がいいわね」
「だよな」
こんな話をしながらその本屋に向かおうとした。しかしその時だった。
「!?」
「何っ!?」
周りが急に騒がしくなってきたのだ。
「まさか・・・・・・」
「また何か出て来たの!?」
「間違いないわ」
ユミが険しい顔で述べた。
「向こうから」
「あれは・・・・・・」
エイジが険しい顔になっていく。
「ガルラ帝国か?」
「それだけじゃないよ」
高須は右側を見ていた。
「ほら、あっち」
「あっち!?」
「あそこに何かいるよ」
「何だありゃ」
大島が高須の指差した方を見て声をあげる。
「見たこともねえ化け物がいるぜ」
「天使じゃないわね」
カオリも天使は知っているようである。
「あれって・・・・・・」
「どっちにしろここにいたら危ないわ」
ユミが皆に対して言う。
「早く非難しましょう、早く」
「え、ええ」
カオリは彼女のその言葉に頷く。
「それじゃあ。早く」
「ちっ、よりによってここで出て来るかよ」
エイジはガルラ帝国の軍勢を見て歯噛みした。
「逃げるか。仕方ねえ」
「あっ、見てよ」
高須は今度はガルラ帝国軍の向かい側を指差した。
「あそこから。来るよ」
「!?ロンド=ベルだ」
「来てくれたのね」
大島とカオリは彼等の姿を見て喜びの声をあげた。
「やった、助かったぞ!」
「これで何とかね」
「助かるのか」
エイジはロンド=ベルと聞いてまた呟いた。
「それで。けれど俺は」
「?エイジどうしたの?」
ユミはエイジが俯いて呟いているのを見ていぶかしんだ。
「急に静かになって」
「あっ、いや」
また誤魔化すことになってしまった。
「何でもねえよ」
「そう。それよりもエイジ」
「ああ」
「早く避難しましょう」
エイジに対しても言うのだった。
「今のうちに。早く」
「あ、ああ」
「ロンド=ベルは来てくれたけれど」
彼等は丁度今出て来たところだった。
「それでも。避難しないと」
「危ないよな」
「戦えないのなら逃げるしかないわ」
ユミはまた言った。
「だから。早く」
「戦えないのなら逃げるしかない」
この言葉がエイジの胸に突き刺さる。
「だったら。戦えたら」
「!?」
ユミはまたエイジの異変に気付いた。
「どうしたの?また」
「俺は戦える」
グラヴィオンのことを思い出しての言葉である。
「けれど。それから逃げて」
このことを考えるのだった。
「今ここにいる。あいつに反発してるってそれだけのことで」
「ちょっとエイジ」
「立ち止まっている場合じゃねえぞ」
「そうよ」
高須に大島、カオリも彼に声をかけてきた。
「早く逃げないと」
「どうなっても知らねえぞ」
「あっちに」
「俺は・・・・・・」
だがここで。エイジは言うのだった。
「戦える」
「えっ、戦えるって!?」
「何言ってるんだよ」
「何もないのに戦える筈ないじゃない」
「いや、俺にはある」
彼はこう四人に返した。
「あるんだよ。けれどそれから逃げていた」
「逃げていたって」
「今度は何を」
「逃げても何にもならねえ」
エイジはまた言った。
「今は逃げてもな。何にもなりゃしねえんだ」
「それはいいけれど」
「どうするの?」
「それは・・・・・・」
ここからは言えなかった。何故なら彼はロンド=ベルであることを隠しているからだ。それを言えば日常が崩れる、そのことを恐れているのだ。
「ちょっとな」
「ちょっと?」
「やっぱりおかしいぜ御前」
高須も大島もいい加減気付いてきたのだった。
「何かね。隠してるし」
「本当にどうしたんだよ」
「俺は・・・・・・」
言おうとする。しかしどうしても言えなかった。
「それは」
「あっ、大変よ!」
だがその時だった。右手にいるそれがこちらに攻撃を仕掛けてきた。それにより前の道路が破壊されてしまった。
「きゃっ!」
「ユミ!」
その衝撃でユミが弾き飛ばされた。他の市民達もだ。
幸い死者はいなかった。しかし怪我人が何人か出ていた。皆苦しそうな呻き声をあげていた。
「ユミ、大丈夫!?」
「え、ええ」
カオリに助け起こされていた。
「大丈夫よ。ちょっとすりむいただけ」
「そう。よかった」
「とにかく。早く逃げましょう」
カオリはまた皆に言うのだった。
「さもないと。今度こそ本当に」
「ああ。皆逃げるんだ」
ここでエイジは正面を向いた。
「ここは俺が引き受ける」
「引き受けるって!?」
「一体何を言ってるんだよ」
「俺は戦えるんだ」
彼はまた皆に告げた。
「だから。ここで」
「ここで?」
「何を」
「グラヴィオーーーーーーーーン!」
そして遂に叫んだ。
「俺は戦う!御前と共に!」
「えっ、グラヴィオンって!?」
「おい、嘘だろ!?」
グラヴィオンと聞いて高須と大島が声をあげる。
「まさかあのマシンにエイジが」
「嘘だよな!?」
「嘘じゃねえ」
その証拠に今エイジの横にあの棺が出て来ていた。
「俺は今から行く」
「行くって。それじゃあ」
「エイジ、あんた」
「ああ、そうさ」
今度はユミとカオリに対して告げていた。
「皆ここは任せて早く逃げろ!」
彼はまた叫んだ。
「俺が引き受ける!だから早くよ!」
「エイジ!」
ここでグラヴィオンが合体した姿で出て来た。
「あんたそこにいたのね!」
「その声はルナかよ」
「そうよ。私よ」
憮然とした声ではあった。
「全く。今まで何処ほっつき歩いてたのよ」
「もう止めようかって思ってたんだよ」
エイジはグラヴィオンの中にいるルナに顔を向けて言った。
「もうな」
「それで今はどうするの?」
「戦う」
これが彼の結論だった。
「戦う。だからここにいるんだ」
「そうなの。だからなの」
「ああ。今から行く!」
今度は左手のその棺を見るのだった。
「じゃあな。今からな!」
「ええ。来たいなら来なさい!」
ルナの言葉もかなり素直ではない。
「期待していないから!」
「へっ、そんなのどうでもいいぜ!」
今のエイジにとってはそれはもうそういうことになっていた。
「俺は皆の為に戦うんだからな!」
この言葉が最後だった。棺に飛び込みそのうえでグラヴィオンに乗り込む。そしてそのうえで今戦いに入るのだった。
「戻ってきたな」
エイジのコクピットのモニターに姿を現わしたのはサンドマンだった。
「戻って来ると信じていた」
「信じていたって?」
「そうだ。君もまた運命の中にいるのだから」
だからだというのである。
「この時にな」
「俺が運命の中に」
「話は後だ」
サンドマンは今はここから先は言わなかった。
「グランナイツの諸君」
「はい」
当然ながら斗牙もここにいた。
「今我々の右手にいる敵は」
「ゼラバイアですか?」
「そうだ。我々の本来の相手」
彼は言う。
「彼等を倒すことが我々の使命なのだ」
「使命ですか」
「その通りだ。だからこそ」
彼はさらに言葉を続けてきた。
「グランナイツの諸君」
「ええ」
「戦闘に入るのだ。攻撃目標ゼラバイア!」
「了解!」
こうして彼等はすぐにゼラバイアに入る。しかしここでエイジはふと斗牙に対して言ってきたのだった。
「おい」
「何?」
「言いたいことはあるけれどよ」
相変わらずその雰囲気は険悪だった。少なくともエイジはそうだった。
「それは後だ」
「そうなの」
「まずは戦うぜ」
こう斗牙に言うだけだった。
「それでいいな」
「うん、わかったよ」
「敵を倒す為じゃねえ」
エイジはこのことは確かに言うのだった。
「護る為だ」
「それは聞いたよ」
「聞いた?」
「うん。僕達が戦う理由」
斗牙は無表情な声ながらもエイジに告げてきていた。
「それはね。護る為だって」
「そうだったのかよ」
「まだわからないけれど」
理解も把握もできてはいなかった。
「そう言われたよ」
「そうか」
「君はその為に戦うんだね」
自分のことを話したうえでまたエイジに問うてきた。
「君は」
「ああ、そう決めた」
彼の決断はもう迷わないものだった。
「だから俺は今ここにいるんだ」
「そうだよね」
「戻ってきたんだ、もう逃げねえ」
決断は固かった。
「だから行くぜ、斗牙!」
「うん」
「グラヴィオン攻撃開始だ!」
エイジが言った言葉だった。
「それでいいな!」
「わかってるよ。攻撃目標はあのゼラバイア」
既にグラヴィオンはそのゼラバイアの前にいた。
「あれを倒すよ。いいね」
「ええ、わかったわ」
「あれね」
ルナとミヅキが彼の言葉に応える。
「それならすぐに」
「やりましょう」
「わかりました」
エイナも彼の言葉に頷く。
「それなら」
「行きましょう」
リィルはいつもの調子だった。
「このまま」
「剣を出すよ」
斗牙が選んだ武器はそれだった。そしてそれを手にしてゼラバイアに襲い掛かる。だがそのグラヴィオンにゼラバイアは攻撃を仕掛けて来た。
「ぐっ!」
エイジの乗っている左足に当たる。エイジは思わず声をあげた。
「エイジさん!」
それを見たエイナが心配する声を出した。
「大丈夫ですか?」
「ああ、何ともねえ」
しかいエイジは無事だった。
「安心しな。おい斗牙!」
そして斗牙に対してまた言う。
「遠慮することはねえ。このまま突っ込め!」
「正面からだね」
「そうだよ、このままだ」
既にグラヴィオンは正面から突き進んでいる。彼の言葉は言われるまでもなかった。
「いいな。このままな」
「わかったよ。それじゃあ」
「一撃で決めろ!」
エイジはまた叫ぶ。
「一撃でだ。いいな!」
「よし」
今グラヴィオンは前に向かって突き進みながらその剣を両手に持って構えた。
「これで。決めるよ」
「いけるわ、斗牙!」
今度はルナが彼に言う。
「このままよ。切って!」
「うん」
ルナの言葉にも頷く。
「このまま」
「ええ、振り被って!」
ルナの言葉のまま剣を振り被る。既に間合いだった。
攻撃は受け続けている。しかしそれでも突き進む。そうして剣を振り下ろし。勝負を決めたのだった。
グラヴィオンはゼラバイアの前で剣を振り下ろしたままの格好で立っていた。斬られたゼラバイアはまずは動きを止めていたがやがてあちこちから火を噴き爆発した。こうしてグラヴィオンはぜラバイアとの闘いを終えたのだった。
「勝ったな」
「はい、これで」
レイヴンがサンドマンの言葉に頷いていた。
「グラヴィオンの力も確認できました」
「ゼラバイアの攻撃に充分耐えられる」
「そして攻撃で倒せます」
「やはり。グラヴィオンはゼラバイアに勝てる」
サンドマンはこのことを確信していた。
「確実にな」
「そうですね。これで間違いなく」
「そうだ。そして」
「あの者も戻ってきました」
「それが最も大きい」
サンドマンはグラヴィオンを見ながら語る。
「それがな」
「戦士達も揃った」
サンドマンは勝利よりもその方を見ているようだった。
「戦いはより激しいものになる」
「はい」
「しかし。心確かな戦士達がいれば」
彼はまた言う。
「何も問題もない」
「ではあの者の復帰を認めるのですね」
「拒む理由はない」
サンドマンにしてみればそうだった。
「何もな。それではだ」
「これであの者は復帰です」
エイジの復帰が正式に認められたのだった。
「処罰は不要ですか」
「それはいい」
サンドマンにはエイジを処罰する気はなかった。
「彼がわかったからな」
「そうですか。それではこのままで」
「うむ。そうしてくれ」
戦いは終わりゼラバイアは倒されガルラ帝国軍は退けられた。エイジも復帰した。復帰したエイジは今はアルト達と共にいた。
「復帰が認められたか」
「ああ」
エイジはアルトの言葉に頷いていた。
「何かな。あっさりとな」
「処分とかは?」
「ないらしいな」
ルカの言葉に応える。
「てっきり営巣入りかって思ったんだけれどな」
「まあ普通はそうだな」
ミシェルが彼の言葉に応えて頷く。
「けれどサンドマンさんがな」
「あの人がかよ」
「いいって言ったんだよ」
ミシェルはこのことを彼に話すのだった。
「それで御前の処分はなしになった」
「それでかよ」
「まあもっともな」
ここでアルトはふと言うのだった。
「御前よりずっと命令違反とかしてても何も処罰されてないのもいるしな」
「バサラさんですよね」
「あの人はまた凄過ぎるだろ」
アルトから見てもそうなのだった。
「命令とか全然聞かないよな」
「そうだな」
ヘンリーが彼の今の言葉に頷く。
「最早制御不可能だ」
「あの人でも処分何もなしですからね」
ルカがまた言う。
「もっともバサラさんに営巣入りを言っても効果があるとは思えませんけれど」
「早瀬大尉も困ってるけれどな」
イサムは彼女がバサラに手を焼いているのをよく知っていた。
「あの人にそんなのできるのもあいつだけだぜ」
「あいつは規格外だ」
ガルドもバサラに対して言う。
「完全にな」
「俺でもあそこまで滅茶苦茶じゃねえぞ」
エイジも流石にそれは否定した。
「あそこまで。どうやったらできるんだよ」
「そういうことだ。御前はまだコントロールできる」
オズマがエイジに告げた。
「だが。あの男はな」
「けれどよ」
しかしここでエイジは言うのだった。
「何かサンドマンさんってよ」
「どうした?」
「バサラさんもかなり高く評価してるんだよな」
「ああ、そうだな」
アルトもそれは感じ取っていた。
「それはそうだな」
「御前もだよな」
「ああ」
今度はアルトが頷く番だった。
「どうしてかはわからないけれどな」
「あの人の考えてることってよ」
エイジは珍しく考える顔になっていた。
「よくわからねえところあるんだよな」
「謎の人ではあるな」
ミシェルは彼をこう見ていた。
「確かにな」
「そうですよね。お金持ちなのはわかっていますけれど」
ルカも言う。
「わかっていることは他には」
「何もない」
オズマが続く。
「そう。何もな」
「本当に何者だ?」
クランはそこを疑問に思っているのだった。
「あの人は一体」
「そもそも幾つだ?」
「それもわからないしな」
「全くの謎だらけだな」
「確かに」
「しかも」
ヘンリーは首を傾げながら言ってきた。
「何もかも知っている感じでもある」
「そうなんだよな。何か俺のこともよ」
エイジは手を頭の後ろで組みながら述べた。
「最初から全部知ってる感じだったしな」
「この世界のこともな」
アルトもそこを言う。
「知っていた」
「あと俺達の世界も知ってるみたいだな」
「そうだな」
イサムとガルドはそれを感じ取っていた。
「やっぱり何かあるのは間違いないな」
「少なくとも只者ではない」
「わからない人だ」
クランは言いながらふと思うことがあった。
「いや。人だが」
「人だが?」
「この星の人とは限らないな」
こう言うのだった。
「そうともばかりな」
「それはあるな」
ミシェルもその可能性は否定しなかった。
「俺達の世界でもそうしたことは多くあるからな」
「タケルさんや勝平君達がそうですね。あと大介さんも」
ルカはざっと思い出すだけの事例を出してきた。
「他にも多くの方が。ロンド=ベルには」
「それを考えたら有り得るな」
アルトは考える顔で述べた。
「当然な」
「そうだ。その可能性はある」
オズマもそれは否定できなかった。
「充分にな」
「他の星の人か」
エイジは彼等の言葉を聞いているうちに考える顔になった。
「だよな。この世界だって色々あるしな」
「そうですね。それでエイジ君」
ここまで話したところでルカが話を変えてきた。
「これからですけれど」
「ああ。何だ?」
「よかったら何か食べませんか?」
こう彼に提案してきたのだった。
「丁度おやつの時間ですよ」
「ああ、もうそんな時間かよ」
言われて気付いたエイジだった。
「早いな。何かよ」
「それで何がいいですか?」
「何って言われてもよ」
エイジは考える顔になった。
「ちょっとな」
「パンケーキがいいな」
何故かここで高須の声が出て来た。
「ここはね」
「んっ!?」
エイジもすぐにその言葉に気付いた。
「まさか。今の声はよ」
「そう。そのまさかだよ」
「よお、エイジ」
高須だけでなく大島も出て来たのだった。
「俺もパンケーキな」
「御前等どうしてここにいるんだよ」
「私達もロンド=ベルに志願したの」
「そういうこと」
ユミとカオリも出て来た。何と二人はメイドの格好である。
「私達二人はメイドさんになったのよ」
「宜しくね」
「宜しくにじゃねえだろ」
エイジは驚きを隠せないまま彼等に言った。
「何でこうなったんだよ」
「僕達も考えたんだよ」
「御前戦ってるだろ?」
また高須と大島が彼に言ってきた。
「だったら友達の僕達もね」
「そう考えてよ」
「けれどよ。それでもよ」
エイジは彼等の言葉を聞いても渋い顔だった。
「ロンド=ベルの戦いってよ」
「激しいっていうの?」
「そうだよ」
高須に返した言葉こそ彼の本音だった。
「それだよ。下手したら死ぬんだよ」
「それって街にいても同じじゃない」
「ねえ」
ユミとカオリは二人に顔を見合わせて言い合った。
「そんなのね。今の御時世」
「だったらこうして戦った方がずっといいわよ」
「それでもよ」
「僕はグラヴィオン関係のコンピューター担当することになったから」
「俺は整備な」
高須と大島はエイジの言葉より先に言ってきた。
「そういうことでね。これからもね」
「宜しくな」
「ったくよ。何かどんどんメンバーが増えていってるじゃねえかよ」
エイジはこう言いながらも結局は彼等を受け入れていた。
「しかもよ。御前等」
「何?」
ユミが彼に問い返す。
「まだ何か言いたいの?」
「学校どうするんだよ」
彼が次に言うのはこのことだった。
「俺は旅行ってことになるんだろうけれどよ」
「それは心配することがない」
ここでまたサンドマンが登場した。
「君達」
「っていうと俺もかよ」
「そうみたいですね」
ルカが今のエイジの言葉に応える。
「お話を聞いてると」
「そうだよな。それでどうなるんだ?」
「君達は転校することになった」
「えっ、転校!?」
エイジにとっては全くの寝耳の水の話だった。
「俺が何時何処の学校に転校するんだ?」
「マクロス7のシティの学校だ」
サンドマンは驚く彼に平気な顔で告げ続ける。
「そこに転校してもらうことになった」
「マクロス7に学校があったのかよ」
実はエイジはそのことを知らなかったのだった。驚きの顔がそれをはっきりと物語っている。
「今はじめて知ったぜ」
「そうだったのかよ」
アポロも知らなかったのだった。
「っていうか学校って何だ?」
「あんた、今までどういう人生送ってたの?」
シルヴィアが呆れた声でそのアポロに問い返した。
「学校知らないって」
「ただ食い物探してるだけだった」
こう答えるアポロだった。
「生まれてからずっとな」
「だからそんなに馬鹿なのね」
「おい、俺が馬鹿っていうのかよ」
「それそのものじゃない」
「そう、学校だな」
シリウスはこの中でも冷静な顔だった。
「私もそうだが君達も学校に行かなくてはいけない。だからだ」
「学校か」
「既に転入手続きは済ませてある」
サンドマンはそこまで用意していた。
「戦いの合間は無理だが時間があれば行くといい」
「そういえばジュドーとかが時々いなくなると思っていたけれどよ」
「俺もだ」
アルトが言ってきた。
「俺もまだ学生だ」
「そうだったのかよ、おい」
本当に色々なことを知らないエイジだった。
「俺何も知らなかったのかよ」
「って学生だって言いませんでした?」
ルカはここでも彼に話す。
「このこと」
「ちゃんとマクロスの学校に通っている」
ミシェルもまた彼に話す。
「皆な。その前はマクロスの中の学校だったらしいし今もそこにも通っている」
「マジかよ」
「そういえば御前は馬鹿だったな」
クランは身も蓋もない言葉を話した。
「グラヴィオンのメンバーの中で一番馬鹿だったな」
「何で俺が馬鹿なんだ!」
「馬鹿と言わずして何と言う?」
クランの言葉は容赦がない。
「今まで学校があるということさえ知らなかったというのにだ」
「くっ・・・・・・」
「しかしよ」
イサムがここで首を捻って述べた。
「エイジといいシンといいよ」
「何かあるのか?」
「声そっくりだよな」
「そうだな」
ガルドもそれは感じていた。
「同じに聞こえてならない」
「この手の声の連中の頭は皆こうなのか?」
彼も随分と酷いことを言う。
「学校に通う必要のねえ俺だって知ってたのによ。マクロスの学校のことはよ」
「かもな」
ガルドもこのことを否定しなかった。
「だから。おそらくは治療不可能だ」
「だよな」
「ちっ、皆で皆言いやがって」
「言われても仕方ないでしょ」
「そうよ」
不平を言ったところでまたしてもユミとカオリに言われる。
「とにかく。学校はそういうことになったから」
「皆で行きましょう、いいわね」
「わかったさ。そうか、皆も来たんだな」
エイジはあらためてこのことを考えた。
「また。賑やかになるな」
「うん。それじゃあまずは」
「パンケーキ食おうぜ、パンケーキ」
高須と大島が言うともうそこにはパンケーキが出ていた。
「皆でね。仲良く」
「食って。ロンド=ベル入隊を祝ってくれよ」
「ああ。よく来てくれたな」
今度は笑顔で友人達に話すエイジだった。
「歓迎するぜ」
「諸君等の入隊を歓迎する」
サンドマンもまた彼等に告げたのだった。
「これからの長い運命の戦い。共に最後まで戦おう」
こう告げてそのうえで彼もパンケーキを食べるのだった。こうしてエイジはロンド=ベルに戻りそれと共にあらたな仲間が加わったのだった。
第百十五話完
2009・3・26
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