| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第百九話 遥か久遠の彼方

                 第百九話 遥か久遠の彼方
その新たに出て来たもう一体のラーゼフォン。ロンド=ベルの面々はそれを見てまずは思わず動きを止めてしまった。
「ラーゼフォンがもう一つ!?」
「嘘だろ!?」
口々にこう言った。
「そんなこと聞いてねえぞ」
「どういうことなんだ?」
「それにあれは一体」
キムはその中で顔を顰めさせていた。
「誰なのかしら。何処かで見たような」
「久遠さんですね」
八雲にはそれが誰かわかった。
「あれは」
「久遠ちゃんが!?」
「そうです」
何時になく真剣な顔で述べる。
「あれは彼女です」
「どうして彼女が」
「彼女は。おそらくは」
八雲は己の読みをここで述べる。
「もう一人の綾人君だったのでしょう」
「もう一人の」
「そうです。これは運命だったのです」
運命とも言うのだった。
「彼女が。ここで姿を現わすのは」
「そして何を」
「闘うのでしょう」
八雲はまた言う。
「間違いなく」
「じゃあまさか」
「はい、そのまさかですね」
八雲はその黒い翼の久遠を見つつまた述べる。
「彼女と綾人君は闘います」
「そんな、闘いが終わったと思ったら」
「これが最後の闘いってことなの?」
恵もまた今の流れを見ていた。綾人に向かう久遠を。
「綾人君とその久遠ちゃんが」
「おい、こんなの納得しねえぜ」
アレックスが出ようとする。
「ムーリアンとの戦いは終わったんだ。それでどうしてまだ」
「駄目です」
しかしその彼をシンルーが止める。
「隊長」
「手出しはできません」
「できないって!?」
「これは。神と神の闘いなのでしょう」
彼女はこう言うのだった。
「ですから。私達は」
「見ているだけしかできないっていうのね」
キャシーが言う。
「つまりは」
「忌々しいがそうみたいだな」
ジャンも言う。
「この闘いはな」
「では隊長」
トニーがエルフィに問う。
「今は」
「そうね。東京ジュピターに入る用意はしておきましょう」
「はい」
「今はそれだけね」
彼女もこう言うしかなかった。
「残念だけれど」
「いや、それでいい」
しかしサンドマンが彼女の今の決断に賛同した。
「どちらにしろ東京ジュピターには行かなくてはならない」
「だからですか」
「諸君、ラーゼフォン同士の闘いには不介入だ」
あらためてこのことを言う。
「若し入れば死ぬのは君達だ」
「私達がですか」
「そうだ」
サンドマンはルナに対しても答える。
「だからだ。この闘いには入ることのないよう」
「わかりました」
ミヅキがその言葉に頷く。
「それでは今は」
「陣形を整えなおし東京ジュピターに入る用意を整える」
サンドマンはあらためて指示を出す。
「次の行動に備える。諸君、行くのだ!」
「了解!」
「それなら!」
こうして彼等はサンドマンの指示に従い次の行動に備える。だがふとその中で気付く者もいた。
「んっ!?そういえば」
「どうしたの?豹馬」
ちづるが豹馬に対して問う。
「いやよ、何かサンドマンさんってよ」
「ええ」
「何か知ってる感じしねえか?」
こう言うのだった。
「俺の気のせいかも知れねえけれどよ」
「そういえばそうかもしれんな」
十三も言われてみれば、という感じになった。
「何かな」
「そうでごわすかな」
大作はそこまでは感じていなかった。
「気のせいでないでごわすか?」
「まだ判断はできませんね」
小介はこう言った。
「その辺りは」
「そうかね。まあだったらいいけれどな」
豹馬にしろここでは深く考えようとはしなかった。
「俺の気のせいだったらよ」
「そうじゃないの?」
「けれど。そもそもよ」
豹馬はそれでも言う。
「あの人ってかなり謎だよな」
「それはね」
これは皆同じ意見だった。
「その通りね」
「何なんだろうな、あの人」
豹馬はまたちづるに言う。
「一体全体」
「大富豪じゃないの?」
ちづるは一応公になっていることを述べた。
「確か」
「経歴は?」
だが豹馬はさらに突っ込む。
「どうなってるんだよ」
「経歴!?」
「そうだよ。そっちも謎だろ?」
「言われてみれば」
「それで何でも知ってるしよ」
サンドマンについてさらに述べる。
「かなり謎の人だろ」
「言われてみればそうね」
考えてみればその通りであった。
「あの人も」
「とにかくよ。何かあると思うぜ」
豹馬はまた言うのだった。
「俺の勘だけれどな」
こうした話も行われていた。そして教会では。如月がエルンスト及びヘレナと向かい合い続けていた。まるで敵同士であるかのように。
「そしてです」
如月はまだ話していた。
「貴方はまだ」
「そうだ」
エルンストが彼のその言葉に答える。
「生きる」
「それだけ生きられてですか」
「私は何時までも生きこの世界を治める」
こう言うのだった。
「そう、何時までもな」
「ノスフェラトゥとしてですか」
「その通りだ」
また彼の問いに答えてみせた。
「私は何時までも生きるのだよ」
「その為にっ」
如月の声に感情が強く篭った。
「兄さんや母さんを犠牲にしてですか」
「兄さん?ふむ」
エルンストは今の言葉に僅かだが反応した。
「あの少年のことか。ラーゼフォンの」
「その兄さんを母さんと闘わせ」
彼はさらに言う。
「そうして世界を自分の思うがままに」
「その通りじゃよ」
エルンストの声には悪びれたものはなかった。
「そうして私は永遠に」
「間違っているっ」
如月は今断念した。
「少なくとも私はそれは」
「認めないというのか?我が子よ」
エルンストはその如月をじっと見て問うた。
「それは」
「かつてはそれでいいと思っていた」
如月はそれは素直に言った。
「しかし。今は」
「壊れたというのか」
「壊れているのは貴方だ」
こう言い返す。
「私は過ちに気付いた。だから今ここに」
「それでどうするつもりかね?」
「因果を終わらせる」
言いながら懐から拳銃を取り出した。
「これで貴方を」
「ふむ」
エルンストはどういうわけかその拳銃を見ても動じた様子はなかった。
「それで私を撃つのか」
「何もされないのですか?」
「撃ちたいのなら撃ち給え」
何とこう言うのだった。
「好きなようにな」
「!?何故」
「撃てばわかる」
彼はいぶかしむ如月に対して告げた。
「それでな」
「本当に宜しいのですね?」
如月は怪しむ気持ちを抑えられず彼に問うた。
「私は貴方を」
「何度でも言おう」
やはりその言葉は変わらない。
「撃ちたければな。好きなだけ撃つのだ」
「・・・・・・・・・」
「さあ、どうした?」
逆に問うてくる程であった。
「撃たないのか?私は逃げも隠れもしないぞ」
(罠か?)
如月がこう思った。その時だった。
「撃ってはならない」
突如後ろから声がした。
「君は彼を撃ってはならない」
「その声は!?」
「まさか!?」
如月だけでなくエレナも声をあげた。その声が。
「なっ!?声が」
「そうだ」
驚く如月に応える形でまた声がした。
「如月君、君はその老人を撃ってはいけない」
声の主は彼に対してまた言った。
「決して。撃つのは」
「撃つのは!?」
「私だ。そして」
その声の主は言葉をさらに続ける。そのうえで。
「撃つべき相手は。彼女だ」
言いながらその右手に持つ銃を放った。それによりエレナの胸を撃ち貫いたのだった。
「ぐふっ・・・・・・」
「またその声を・・・・・・」
「今の声。聞いた筈だ」
功刀が出て来た。声の主は彼だったのだ。
「既に心を乗り移らせていたのだ」
「心を」
「ノスフェラトゥというのは不死者の意味」
功刀は前に歩きつつ語る。
「その謎がこれだったのだ」
「他者に心を移らせそのうえで生き永らえる」
「その通りだ。青い血の一族の主としてな」
「青い血の」
「エルンスト卿」
足を止めエルンストと対峙をはじめた。
「貴方の野望はこれで終わる」
「貴様・・・・・・」
「これで。もうムーリアンは世界を支配することはない」
「裏切り者が・・・・・・」
「私は裏切ってはいない」
エルンストの忌々しげな言葉に落ち着いた態度で返した。
「ただ」
「ただ。何だ?」
「気付いただけだ」
こう言うのだ。
「私はムーリアンの真実に気付いただけだ」
「どういうことだ」
「青い血が流れていることには何の意味もない」
彼は言う。
「それはただそれだけのことでしかない」
「馬鹿な、それこそが我等の」
「青い血が流れていても心が人ならば」
そして言うのだった。
「それは人だ。ムーリアンであろうとも」
「我等は赤い血の者なぞより遥かに尊いのだぞ」
エルンストはその老いさばらえた顔で功刀を睨み据えていた。
「それすらも否定するというのか」
「それも誤りだ」
やはりそのことも否定した。
「私はロンド=ベルを見ていてわかった」
「あの者達をか」
「そう、異界から来た彼等を」
言葉が強いものになった。
「見てわかったのだ。青い血が流れていようと多少の力があろうとそんなことは些細なことでしかない」
「些細な・・・・・・」
「真に尊い、真に強い」
さらに言う。
「それを定めるのは心だ。人としての心だ」
「では貴様は何なのだ」
「私はムーリアンだった」
それは認めた。
「だが」
「だが?」
「人になる。今ここでな」
「人になるだと」
「全ての決着を着ける」
今度はエルンストに銃を向けた。
「これで。ムーリアンの因果を」
言いながら銃を放った。銃弾はエルンストの胸を撃ち貫いた。彼は青い血を流しながら倒れその場で事切れた。これがエルンストの最期であった。
だが同時に功刀の最期でもあった。彼もまた銃弾に胸を撃たれていたのだ。
「ぐっ・・・・・・」
「司令!?」
「私だけでは死なん」
心がエルンストのものになったエレナがうつ伏せになりその口から青い血を流しながら彼に対して銃弾を放っていたのである。
「ムーリアンの夢を壊した罪はあがなってもらうぞ」
最期の力を振り絞って銃を放ったのである。それが終わってから力尽きその場に眠った。やはりその血は青い、ムーリアンのものであった。
「司令っ」
如月は倒れ伏した功刀に近寄りその頭を抱いて声をかけた。
「どうして、こんなことを」
「あの男に言ったのと同じだ」
功刀は血を吐きながら如月に述べた。
「因果を終わらせる為に」
「ですがそれは」
「私がやるべき仕事だった」
如月がやろうとしていたと言いかけたところでの言葉だ。
「だからだ。私は」
「そうして命を捨てられるのですか」
「君はまだ若い」
如月に優しい言葉をかけた。
「まだ。人生というものを楽しんで欲しい」
「人生を」
「私の分までな。それだけだ」
これ以上は言おうとしなかった。
「それではな。ふふふ」
最期を迎えるところで不意に笑ってきた。
「おかしなものだ」
「おかしいとは」
「この青い血は」
ここで己の血を見るのだった。その青い血を。
「最初は誇りだった」
「誇りですか」
「それはやがて憎しみと蔑みの対象になった」
次にはこう述べたのだった。
「そして今は」
「今は?」
「受け入れられる」
最期はこうであるというのだ。
「笑顔でな。変われば変わるものだ」
「確かに。それは」
「人間とは変わるものだったな」
上を見上げていた。自然に教会の天井を見る形になっている。
「それを考えれば私は」
「はい、人間です」
功刀の意を汲んだ言葉をあえてかけた。
「司令は。素晴らしい人間です」
「そうか。人間か」
その言葉を聞いて微笑む顔になった。
「私は。人間なのだな」
「間違いなく」
「私は人間になりたかった」
今度はこう言った。
「人間にな。しかしそれはなれるものだった」
「こうして」
「人の心さえあればな」
またそれを話に出した。
「なれるな。そういうことだな」
「そうです。ですが」
如月は彼の言葉を聞きつつ今度は自分から言ってきた。
「これで満足だ」
「満足ですか」
「人間になれた」
やはり言うのはこのことだった。
「それでな。それではだ」
「はい・・・・・・」
ギルバートの返事がこれまで以上に辛いものになる。
「また。何処かで会おう」
最後にこう言い静かに目を閉じたのだった。因果の一つは確かに終わった。
そして東京ジュピターでは。闘いが続いていた。
「ラアアアアーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
「ラアアアアーーーーーーーーーーーーーーーッ」
綾人と久遠がそれぞれ歌声を出しお互いを攻撃する。
両者は一歩も引かない。だが少しずつだが綾人にダメージが見えてきた。
「まずいわね」
エルフィがそれを見て言う。
「綾人君攻撃を受けだしたわ」
「けれど久遠ちゃんは全くですね」
「ええ」
キャシーの言葉に応えた。
「だからね。これは」
「まずい」
結論はこれであった。
「綾人君が倒れればどうなるかわからないけれど」
「それだけは嫌よ!」
遥が叫んだ。
「折角一緒になれるようになったのに。これでお別れなんて」
「遥・・・・・・」
「綾人君!」
遥は完全に少女になっていた。
「負けないで!生きて!」
こう叫ぶのだった。
「私は。貴方が生きてくれたらそれで」
「お姉ちゃん・・・・・・」
恵も姉の今の言葉を聞いていた。
「やっぱり。それじゃあ」
「そうみたいね」
キムが彼女に応える。
「大尉は綾人君をね」
「そういえば」
恵はここであることを思い出した。
「お姉ちゃん昔東京にいて」
「東京に!?」
「それで東京ジュピターになる直前にたまたま奈良にいて」
「えっ!?それじゃあ」
「やっぱり」
ここで謎がまた一つ解けた。
「遥さんと綾人君は」
「昔に」
「そうだと思います」
恵もそのことがわかった。
「それで。ずっと」
「じゃあやっぱり」
「遥さんは綾人君のことを」
「それにしても」
ここで言ったのはタケルだった。
「どうなるんだ?」
「どうなるって?」
「綾人君が敗れれば」
万丈に応える形で述べた。
「その時は。どうなるんだ」
「その時は終わりです」
不意に何者かが出て来たのだった。
「久遠さんが勝たれればそれで。世界は消えていくのですよ」
「なっ、あんたは」
「まさかここで」
「シュウ!」
マサキが不意に出て来たネオグランゾンを見て叫ぶ。
「手前今まで何処に行っていやがったんだ!」
「野暮用がありましてね」
シュウはこう言うだけだった。
「それで。席を外していました」
「席をかよ」
「そうです。それで今は」
言葉を続けるのだった。
「その野暮用が終わりまして」
「終わったのかよ」
「そうですが」
「一時中断してってところじゃねえのか?」
マサキは疑うような目でシュウを見つつ言った。
「手前が何をしてるかは知らねえけれどな」
「何か疑っておられるようですけれど」
シュウは平気な顔で言葉を返した。
「私は今用件がありここに来たのです」
「手前が大事なことはその時になって言わねえのもわかってるけれどな」
流石にシュウのことはよくわかっているマサキだった。
「それは今じゃねえっていうことかよ」
「さて、それはどうでしょうか」
「だから言わねえのはわかってるんだよ」
だからいいというのだった。
「それでシュウ」
「はい」
「何の用なんだ?」
こうシュウに対して問うのだった。
「その手前がここに来た理由は。どうしてなんだよ」
「はい、それです」
シュウもまたマサキの言葉に応える。
「東京ジュピターの障壁はなくなりました」
「ああ」
「そして今」
今度は綾人と久遠の戦いに目をやる。
「彼等の戦いも終わろうとしています」
「それもかよ」
「おそらく勝つのは」
シュウは冷静な目で戦いを見続けている。
「彼です」
「彼!?」
「御覧になるのです」
言うその側からだった。
それまで優勢だった久遠の動きが鈍くなった。そして逆に綾人の動きはそのキレを増していた。そうしてその中で次第に久遠を追い詰めていっていた。
「さて、後は」
「後は」
「戦いの決着がつきます」
こう言うのだった。
「今まさに」
綾人はまた歌った。
「ラアアアアアアアーーーーーーーーーーーーッ!!」
その歌声が久遠を撃った。久遠は動きを止めそのまま何処かへと姿を消していった。シュウの言葉通りやはり勝利したのは彼だった。
「まずはこれでよしです」
「これでよし?」
「そう、これでよしです」
一同にも答える。
「本来は彼女が勝つ予定でしたが」
「勝つ予定!?」
「彼女っていうと」
「この世界での運命を一つ崩しました」
シュウは言うのだった。
「そう、一つに過ぎませんが」
「本当に何か知ってるのね」
今度はリューネがシュウに言うのだった。
「あんた、それで来たってわけね」
「先程から申し上げている通りです。ですからこちらに」
「それで何の用だ?」
ヤンロンもまた彼に問う。
「御前の言う用件は必ずかなり大きな出来事だが」
「一つの街に行きます」
「街!?」
テュッティはその言葉に首を捻った。
「どういうこと、街って」
「街なら幾らでもあるんじゃないの?」
ミオは単純に考えていた。
「それこそ誰も行ったことのないなんて街じゃない限り」
「そう、それです」
シュウはミオのその言葉に応えた。
「その誰も行ったことのない街に行くのですよ」
「パラダイムシティ」
ここでレイヴンが呟いた。
「あの街のことか」
「パラダイムシティ!?」
「あの街か」
その名に反応したのはエイジとグラハムだった。
「俺もガキの頃から噂は聞いているさ」
「私もだ」
二人も名前は聞いているようである。
「けれどよ。実際に何処にあるのかは」
「誰も知らない」
「幻の街ということか」
凱は二人の言葉を聞いて呟いた。
「つまり。そうなんだな」
「しかし実在するのは間違いない」
レイヴンがまた言うのだった。
「そういうことになっているな」
「その何もない街に行くのです」
シュウの言うことはまた突拍子もないことであった。
「私達は今から」
「待て」
それを聞いてシュウに声をかけたのはカティだった。
「パラダイムシティに行くというのか」
「そうですが」
「そんなことができるというのか」
彼女もまた信じていなかった。
「まさかとは思うが」
「それでです」
今度はビリーがシュウに問うてきた。
「何故パラダイムシティに?」
彼が問うのはこのことだった。
「我々が行くというのか」
「世界の理を正す為に」
シュウはビリーのその言葉に返す。
「その為にです」
「世界の理を正す為に」
「だからこそパラダイムシティにです」
こう言うのだった。
「我々は今から行くのです。今から」
「今から」
「そしてその方法は」
シリウスはその街に行く方法を気にしていた。
「どの様にして。あの街に」
「それです」
シュウもまたそれについて言うのだった。
「パラダイムシティは確かにこの世界にあります」
「はい」
「それは」
「しかしです」
だが彼はさらに言うのだった。
「ですが普通に行き来することはできないのです」
「普通にって」
「異世界なのか!?」
「異世界ではありません」
それは否定するシュウだった。
「それは決して」
「何か話がよくわからなくなってきたニャ」
「そうニャ」
シロとクロにも話が読めなくなってきていた。
「異世界でないけれど普通に行き来できないって」
「それでこの世界にあるって」
「それでシュウ」
マサキの問いは二匹に比べて遥かにストレートなものであった。
「どうやって行くんだ?」
「パラダイムシティにですか」
「そうだよ。この東京ジュピターにな」
「東京ジュピターに」
「関係あるんだよな」
それはわかるのだった。
「そうだよな。それはな」
「はい、そうです」
シュウもそれは認める。
「それはその通りです」
「で、どうやって行くんだ?」
マサキはあらためてシュウに問うた。
「その街によ」
「コインと同じなのですよ」
「コインと!?」
「どういうことなんだ!?」
ロンド=ベルの面々は彼の話をまず理解できなかった。
「コインっていっても」
「何かあるの?」
「コインには表と裏があります」
シュウは今度はこう話した。
「そう、表と裏なのですよ」
「ということは?」
「どういうこと?」
彼等はそれを聞いても首を傾げるのだった。
「表と裏って」
「いや、待て」
ところがここで大介は考えた。
「表と裏か」
「大介さん、何か」
「わかったんですか!?」
甲児と鉄也がその大介に問うた。
「表と裏ってよ」
「どういうことか」
「そう、東京ジュピターは隠されたコインだった」
大介は二人に応えるようにしてまた話した。
「そしてそのコインの表だったんだ」
「パラダイムシティが表!?」
「じゃあ裏は」
「はい、そうです」
シュウは大介の言葉に頷くのだった。
「パラダイムシティは裏です」
「やはり」
「そして東京ジュピターは表です」
このこともあらためて言う。
「その表と裏の関係にある」
「じゃあ東京ジュピターの裏に」
「そのパラダイムシティが」
「その通りです」
ここで謎が一つ解けた。
「パラダイムシティはここにあります。東京ジュピターの裏に」
「どうやって!?」
「その裏に行くのは」
「パラダイムシティに行くには一つのコツがいるのですよ」
今度はコツであった。
「コツがあるのですよ」
「コツが!?」
「何が」
「それです。まず我々は表にいます」
「ああ」
「ここにな」
それは皆わかった。
「そして裏に行くには」
「どうするかってことだけれど」
「どうなるんだ?」
「それを行うことができるのがこのネオグランゾンなのです」
シュウは今度はこう言った。
「言うならば鍵です」
「鍵か」
「表と裏を返す鍵です」
また話す。
「そう、今その力を開放させる時です」
ネオグランゾンの全身に黒い光が宿るのが見えた。
「今ここで。パラダイムシティに向かう為に」
「何っ!?」
「ネオグランゾンが」
「さあ参りましょう」
シュウはその黒い光の中で言うのだった。
「そのコインの裏に。今こそ」
「黒い光が」
「拡がる・・・・・・」
その黒い光は瞬く間にロンド=ベルを包み込んだ。そうしてそれが消えた時。彼等は見たこともない場所にいた。そこは海の中だった。
「海の中!?」
「けれどここって」
「潜望鏡を出して下さい」
トゥアハー=デ=ダナンは出ていた。テッサが咄嗟に指示を出す。
「それで外を」
「了解です」
「わかりました」
マデューカスとカリーニンがそれに応えすぐにその潜望鏡を出すのだった。するとそこから見たのは。
「街があります」
「はい」
モニターにその街が映し出される。その街は。
「!?ニューヨーク!?」
「似ている」
一見すると確かにニューヨークであった。
「けれど何かが違う」
「ああ」
しかし細かい部分が違っているのだった。
「ここはニューヨークじゃない」
「ではやはり」
「そうです、ここで」
そしてシュウが言うのだった。
「この街こそパラダイムシティです」
「ここがか」
レイヴンも目を光らせていた。
「ここがパラダイムシティか」
「貴方もはじめてのようですね」
「その通りだ」
レイヴンもそれを認める。
「私もまた。噂には聞いていたが」
「そうでしたか」
「だが諸君」
サンドマンはここで声をあげた。
「今我々はそのパラダイムシティに着いた」
「その街に」
「さて諸君」
だがサンドマンの声は今では積極的なものではなかった。
「今は様子を見よう」
「えっ!?」
「様子を!?」
「見るって」
「下手に動いても何にもならない」
サンドマンは言うのだった。
「だからだ。ここは静観だ」
「静観って」
「折角来たのに」
「いや、サンドマン氏の言う通りだ」
しかしここで大文字が一同に告げた。
「確かに我々はパラダイムシティに辿り着いた」
「はい、その通りです」
「だからこそ」
「しかしパラダイムシティのことは何も知らない」
彼はこう話した。
「何もな。だからこそだ」
「今は静観ですか」
「そうだ。様子を見る」
彼は告げた。
「今はな。情報収集に努めよう」
「おいシュウ」
マサキは情報収集の話が出たところでまたシュウに声をかけてきた。
「何ですか?」
「知ってるよな」
声に棘が入っていた。
「この街のこと。そうだな」
「ある程度ですが」
シュウは今は知らないふりをした。
「知ってはいます」
「今全部言うつもりはねえんだな」
「知っている限りは教えさせて頂きますよ」
一応はこう話す。
「ですが」
「何だってんだ?」
「それは確かになっていることだけです」
「確かにだと?」
「私もこの街のことを全て知っているわけではないのですよ」
シュウの言葉はそういうことだった。
「全てはね」
「全部知らねえってことかよ」
「確かに私はこの街を行き来することはできます」
「だから知ってるんじゃねえのか?」
「それである程度は確かに知ってはいます」
「その中で知ってることを全部言えって言ってるんだけれどよ」
マサキも引かない。
「こっちだって遊びに来たわけじゃないんだからな」
「それはわかっていますよ。ですがやはり知らないこともあるのです」
「それだけ謎が多いということなのか」
ジノは冷静にこう述べた。
「あの街には」
「知っていてそれが確かだとわかっている情報」
シュウは言った。
「私が今言えるのはこういったくぐりの中にある情報だけです」
「で、言える情報は何なんだ?」
今度はバサラが彼に問うた。
「言えることは言えるんだろ?」
「はい」
バサラの問いには静かに言葉を返した。
「それはその通りです」
「じゃあそれは何なんだ?」
バサラはさらに彼に問うた。
「その知ってる情報はよ」
「まずあの街は犯罪者が活発に活動しています」
「それって何処でもじゃないの?」
ミレーヌは今のシュウの話にこう言って首を傾げさせた。
「よくないことだけれど」
「その犯罪者達がロボットを操り活動しているのです」
「ロボットを!?」
「またそりゃえらく物騒だな」
それを聞いたミレーヌとバサラが声をあげた。
「ロボットを使って犯罪を働くなんて」
「厄介な話だな」
「そして交渉人もいます」
「交渉人!?」
「ネゴシエイターといいますが」
シュウは言葉を変えてみせた。
「あらゆる交渉を成功させる人物です」
「そんな人間がいるのか」
「はい。あの街はとかく治安が悪い街ですので」
シュウはまたこのことを話した。
「それでです。そうした職業も必要なのです」
「ネゴシエイターが」
「そのネゴシエイターの名はロジャー=スミス」
名前も教えた。
「私の知り合いでもあります」
「あんたの知り合いねえ」
セニアは今のシュウの言葉を聞いて顔にあからさまに疑問符を出してみせた。
「それはまた変な人みたいね」
「紳士ですよ」
しかしシュウはそのセニアにこう返す。
「彼は。少し色にこだわり砂時計が好きですが落ち着いた紳士です」
「砂時計って」
「それに色って」
皆はそこに引っ掛かるものを感じていた。
「何か妙なんだけれど」
「どうせそれがまた変な方向にいってるんだろ?」
「偏執狂的と言いましょうか。それだけ黒が好きですね」
「やっぱり」
「おかしな人間じゃねえか」
皆それを聞いてやはり、と思うのだった。
「黒ばかりってよ」
「ハウスマヌカンみたいね」
「しかし能力は確かです」
シュウはそれは保証した。
「そしてそのマシンも」
「マシンも!?」
「そうです。彼はマシンを操ります」
「マシンを操るネゴシエイター!?」
皆今度はこのことに顔を顰めさせた。
「何!?それって」
「マシンで交渉って」
「何度も申し上げますがあの街は治安がよくありません」
シュウはまたこのことを話した。
「ですから。交渉が決裂した場合」
「そのマシンで犯罪者と闘うのね」
「何かなあ」
「そういう街なのです」
だがシュウは至極落ち着いたものだった。
「それもまた必要なことなのです」
「何かととんでもねえ街だな」
マサキもこう言うしかなかった。
「話を聞く限りじゃよ」
「そもそも交渉が決裂したらすぐに戦闘って」
「物騒だニャ」
シロとクロはこのことを問題にしていた。
「何か西部劇か武侠みたいだけれど」
「おいら達の今度行く場所はそんな所かよ」
「それだけではありませんよ」
しかしシュウはさらに言うのだった。
「あの街にはもう一つはっきりしたことがあります」
「何だ、それは」
サコンがそのことに問うた。
「その一つはっきりしていることは」
「あの街には記憶がありません」
彼は言うのだった。
「そう、記憶がないのです」
「記憶が!?」
「あの街は四十年前の記憶しかありません」
彼はさらに言う。
「そう、四十年前の記憶がないのですよ」
「四十年前の記憶がない!?」
「何だそりゃ」
皆またしても首を傾げることになった。
「そんなことあるのか!?」
「四十年前の記憶がないってよ」
皆そのことにさらに首を捻る。
「ってことは?」
「覚えているのは四十年だけ?」
「そうなのです」
シュウは首を捻るその彼等にまた話した。
「四十年前の一切の記憶がないのです。街に何があったのか、誰も知らないのです」
「理屈に合いませんね」
デメクサは珍しく真剣な顔になっていた。
「記憶は永遠に重ねられていくもの。それがないとは」
「しかも街にはご老人もおられる筈」
ティアンもいつもの破戒僧ぶりはなかった。
「四十を超えておられる。その方々も御存知ないのか」
「はい、誰もです」
シュウの返答は謎を深めさせるものだった。
「覚えていないのですよ。誰もね」
「やっぱり筋が通らないわね」
「そうね。しかも外からは普通の方法で入られなかったし」
シモーヌとベッキーも当然ながら疑問に思っていた。
「四十年前に何があったのか」
「その謎を解きたくなったわね」
「はい。それでは」
シュウはここぞとばかりにまた彼等に話した。
「宜しいですね」
「ああ、わかったさ」
「それじゃあまずは」
「何人か街に行ってもらおう」
大河が告げた。
「諸君、それでいいな」
「はい、それじゃあ」
「街に」
この方針も決まったのだった。何はともあれ彼等はパラダイムシティに入った。そうしてそこで新たな謎と戦いに向かうのだった。

第百九話完

2009・2・23 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧