【完結】剣製の魔法少女戦記
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第一章 無印編
第十八話 『聖剣開放!』
前書き
ジュエルシードの後始末をします。
結構シホには無茶をさせました。
Side シホ・E・シュバインオーグ
これですべて終わった…。
罪悪感はあったけど、これでフェイトも前を向いて歩いていけると思う。
心内で安堵していた私だが、そこで異常な魔力の気配を感じその先を見ると空中のジュエルシードが光り輝いていた。
他のみんなも気づいたらしく動揺を隠せないでいる。
「クロノ! まだ今なら間に合うわ。早く転送の準備を!
どういうわけかジュエルシードは周囲の魔力を勝手に吸収して一気に開放しようとしている!」
「わかっている! エイミィ!」
『了解! 転移ゲートを作るよ。でも、まずいよ!
さっき消えたと思った次元震反応が再度活性化して次元断層が起きちゃうかもしれない!
艦長も必死になって抑えているけど時間の問題。このままじゃ付近の世界が次元断層に巻き込まれて消滅しちゃう!』
エイミィさんのその報告を聞いて全員の表情が戦慄する。
でもまだ手は残っている。
「…エイミィさん。ようはアレ――ジュエルシード――を破壊すればこの次元震は納まるんですね?」
『そうだけど…もう暴走は止められないよ! あと少しで庭園も崩壊しちゃう!』
「でしたらそれは私がなんとかします。だからクロノ達だけは先に脱出させてください」
「ばっ! 馬鹿な事をいうな!!
アレを抑えることはもう君の力でも不可能だぞ!」
「今は論議している時間は無いわ!
ジュエルシードを破壊するか、世界の終わりを待つかの二者択一なら私は分が悪くても破壊を選ぶ。
幸いそれだけの威力を秘めたものを持っているから!
だからみんなは先にいって!
巻き込んでしまうかもしれない!」
「お姉様…!」
「フィア…それにみんな。私は大丈夫。絶対いなくなったりしないから…」
そして私は安心させるように笑顔を作った。
「その言葉、信じるぞ。シホ・E・シュバインオーグ。
ただし必ず生き残って生還すること…これが絶対条件だ!」
「わかっているわ。私もそうやすやすと死ぬ気はないし…お母さん達のいる地球を壊させもさせない!」
「シホちゃん…!? お母さんの事!」
私は笑顔を浮かべながら無言で頷いた。
それでなのはは涙を浮かべた。
「さぁ、行って!」
「シホ、気をつけて…!」
「死ぬんじゃないよ!?」
「待っていますから!」
次々と声をかけられみんなは庭園から転移していった。
そして残されたのは私と…いまだに次元震を庭園の入り口で抑えているリンディさんのみ。
おそらく先程のプレシアとの攻防で監視されていたスフィアはすべて消滅しているはず。
だからこれで心置きなく全力を出せる…!
私はかつての相棒の剣を投影しようとしている。
しかしあのアーチャーですら完璧な投影は無理と言っていた代物。
今の私にできるかはわからないけど、やるしかない…!
本当に一か八かの賭けね…。
「投影開始…!」
私は27本の魔術回路の撃鉄を引き上げる。
でも、それだけではまだ足りない…!
もっと、あの聖剣を投影するには大量の魔力が必要になってくる。
まだ構成段階だと言うのにもう無茶が出てきたのか、先程の戦闘での魔力消費も後押しをして回路が悲鳴を上げだす。
そして同時に頭痛が激しくなり倒れそうになるがなんとか踏みとどまるがやはり無理か…?
という考えが頭を過ぎった。
《シロウ! あきらめちゃダメだよ!》
「え…?」
そこでこの場ではありえない人の声が聞こえてきた。
もう二度と聞けることのないと思っていた私の大事な姉の声…。
「イ、リヤ…?」
気づくと私の手に薄っすらとだが違う手が添えられる。
《久しぶりね、シロウ…いえ、今はシホだったわね》
《ど、どうしてイリヤが…イリヤは確かに死んだはず》
《私はこれでも小聖杯…だから死ぬ間際に願ったの。
シロウの役に立ちたいって…そしたら願いが叶ったのか私の魂は気づいたら魔術回路と一つになっていた…》
《で、でもそれじゃ今までどうして…!》
《一定の条件が起きない以上私の意識は魔術回路の中で眠り続けているの…。
そしてその条件はシホが無茶をしようとした時に覚醒すると言うもの。
だから今の状態なら私の魔術回路にもシホの魔術回路と接続できる。
…もうシホは『大切な者達を守れる正義の味方』なのでしょう?
だったら私はシホといつまでも一緒に歩んでいくよ…!
だから、もう一人で無茶はしないで…一緒にアレを破壊しよう!》
…そうだね。もう私は一人じゃない。
なのは達みんなや、イリヤがいつでも傍にいてくれる。
覚悟を決めて私は増大したすべての撃鉄を叩き落とす。
《イリヤ、一緒にいこう!》
《うん!》
――――創造の理念を鑑定し、
…私達は一つの聖剣を作り出すために一切の妥協をせず、一本の剣を創造する。
――――基本となる骨子を想定し、
…もう何度も過去に見た神々しい剣の姿。
――――構成された材質を複製し、
私のパートナーであり最愛の女性の聖剣。
――――制作に及ぶ技術を模倣し、
…難しいことじゃない。
――――成長に至る経験に共感し、
…不可能なことでもない。
――――蓄積された年月を再現し、
…もとよりこの身は、
――――全ての工程を凌駕して幻想を結び剣と成す!
ただそれだけに特化した魔術回路…!!
そして私の手に握られるは彼の騎士王の聖剣。
人々の願いが凝縮された神造兵装であり、星の鍛えた『最強の幻想』。
私一人の力では到底これを振り上げることも不可能…。
だけど今は一人じゃない…!
《イリヤ、いくわよ!》
《ええ、いつでもいいわ。私はシホのすべてをサポートしきってみせる!》
そして聖剣を構えて魔力を込め始める。
しかしやはり私とイリヤの魔術回路を持ってしても魔力が周囲の魔力も一緒に無尽蔵に次々と喰われていく。
だけど決して挫けない! ここまで来てもう後戻りはできない!
世界を救うなんて陳腐な台詞は吐かないけど、みんなの居場所を無くさせはしない!
その想いが届いたらしく聖剣は魔力充填を済ませて神々しい輝きを発する。
《もう、これで後は…!》
《振り下ろすのみ! やっちゃえ、シホ!!》
私は聖剣をジュエルシードに向けて振り上げ渾身の力を込めて、
「《―――約束された………勝利の剣ーーー!!》」
二人して真名解放をして放たれた黄金の極光。
それは文字通り光の線と化し、それは眼前のすべてのものを斬り裂き、焼き払い、飲み込んでいく。
それはジュエルシードと次元震の源も例外なくすべて飲み込み、時の庭園の外側まで貫き奔っていき、極光は虚数空間の彼方まで消えていった。
これで次元震反応は消滅したはず。
だってジュエルシードも粉々に砕け散ったのだから。
聖剣は役目を果たしたのかその手から消えうせた。
そして…
《イリヤ…もう眠りについちゃうんだね》
《うん。でも安心して…。私はいつでもシホと共にあるから…だからそんな泣きそうな顔をしないで》
《そうだね…うん。私、泣かないよ》
《うん! それでこそ私の弟…いや、もう妹ね。ねぇ、シホ…最後に言っておきたい事があるの》
《なに…?》
《とっても申し訳ないんだけど、世界を越えた時に修正が働いてシホの魂、完全に女性に塗りかえられちゃったみたいだから♪》
《……………、えっ!?》
《それだけ。それじゃまたいつか会おうね、お姉ちゃん♪》
《ちょ、ちょっと! イリヤーーーーー!!?》
胸中で叫んだけど、もうイリヤは眠りについてしまったので少し気まずい空気が私の中で流れた。
だけど次第にしてやはり無理が祟ったのか私の体はその場に崩れ落ちた。
装備していた武装も解除されたのだからイリヤの魔力も私の魔力と一緒に一気に枯渇したことを意味する。
なんとか意識をかき集めてアヴァロンを起動して魔術回路の暴走だけは防げたけど私の意識はそこで途絶える。
◆◇―――――――――◇◆
Side リンディ・ハラオウン
現在私は再び発生した次元震を防ぐためにディストーション・シールドを展開してこれ以上の進行を防いでいる。
クロノ達は息を引き取ったプレシア・テスタロッサとアリシア・テスタロッサの遺体とともにアースラに無事帰還したようだ。
…一人の少女だけを残して。
その少女、シホさんはジュエルシードを破壊すると言った。
サーチャー越しに聞いていた私はもちろんクロノ達、そしてブリッジでそれを聞いていた全員も無理だと思ったことだろう。
でも、それと同時にシホさんという異世界の少女ならできるのでないかという最後の希望も捨て切れていなかった。
そして機械越しでのサーチャーはシホさんとプレシアとの戦闘の影響で全滅してしまったから現存、私の魔法でのサーチャーしか残っていない。
それでもシホさんの使う術は私達の常識を覆すには十分のものだった。
『そう…これ――宝石剣――は並行に存在する無限に連なる世界に向けて人も通れないほどの小さな孔を穿つだけの道具。
そして空けた孔から並列して存在するここ『時の庭園』から魔力を拝借しているだけ…。
私はあくまで弟子だからそれが今の限界だけど今はそれだけで十分よ!』
と、シホさんが言った時にはブリッジの全員も驚愕の念しかなかったでしょう。
いまだにこちらの技術では解明されていない『並行世界』という代物。
シホさんはそれを完全とは行かずとも行使できる術を持っている。
それだけでシホさんの言葉どおりならば『魔法使い見習い』というのは納得がいく。
だけどそれとは別に私は怖い想像が浮かぶ。
他の並行世界の『時の庭園』から魔力を汲み取っているといったけど、だとすると他の世界でも同じ事象が起きていることになる。
それはつまり、シホさんがこの世界に介入しない世界もあるということで、もしかしたらこちらの完全敗北という無残な結果だけが残った世界もあるかもしれない…。
それを考えるとシホさんの存在はこの世界を救ったということになる。
シホさん本人は謙虚な性格でそんな事を言われても否定すると思うけど、それでもありがとうと言いたい。
だけどその後のプレシア・テスタロッサの行動は思いもしなかった。
あれほどフェイトさんの事を嫌っていたのに、やっぱり心の奥底ではフェイトさんの事を完全に嫌いにはなれなかったのだろう。
…そして話は戻って私のサーチャーだけでシホさんの姿を撮っているけど今すぐにでも助けに行きたい。
だけどここを離れるともう抑えが効かなくなり崩壊は秒読みになってしまうから無理なのだ。
だから本当の意味でシホさんが最後の希望なのだ。
私は精神を集中させながらもサーチャーで観測していたら少し苦悶の表情を見せながらもその手に黄金に輝く綺麗な剣が握られていた。
しかしその剣だけでなにができるのか…という疑問が過ぎったがすぐにその考えすらも忘却に葬り去らされる。
そこには異常が存在していた。
シホさんの構えている剣はもう、そうシホさんの魔力だけでは飽き足らず周囲の魔力すらも…まるで、そう……貪り食う勢いで吸収していく。
それと同時にその剣が少しずつ光り輝いていく。
そして充填が完了した時にはその剣はもう形が見えないほどの輝きを宿していた。
『か、艦長! シホちゃんとあの輝く剣から計測されるランク値が測定不能です!!』
「それは本当!?」
エイミィの報告に私はもちろんブリッジに戻ってきていたクロノ達もその光景に見とれていた。
そしてシホさんはその光り輝く剣を苦悶の表情をしながらも振り上げ、
『―――約束された………勝利の剣ーーー!!』
その名と共に振り下ろされた剣からは、ありえないほど強大な魔力が凝縮された一筋の極光となり放たれた。
それはいとも容易くジュエルシードすべてを飲み込み、それだけでは飽き足らず時の庭園の内壁をも撃ち貫き、次元震の源である次元の渦すらも飲み込み虚数空間の彼方まで消えていった。
『……………』
私はもちろん、アースラの全員も声が出せないほどに驚いているだろう。
あれはもう人間が出せる威力ではない。矛先が変わればアースラすらも一瞬で落ちることは確実でしょう。
そして、
『艦長…ジュエルシード及び次元震反応が完全に消滅。
次元も静寂を取り戻してもう少しすれば完全に収まるそうです』
「そう…報告ご苦労様、エイミィ」
それでシホさんをサーチャーで再度確認したら先程まで武装していた服装もすべて解けて私服に戻り、その場で倒れこんだ。
もうここでとどまる必要はないと私は判断しすぐにシホさんの元へと飛んでいった。
そして着いた時にはシホさんは気絶をしているが、ただそれだけ…安らかな寝息を奏でていた。
私はそれでシホさんの事を硝子細工を扱うように優しく抱きしめて、
「ありがとう、シホさん。あなたは世界を救ってくれました」
気絶しているから聞いていないだろうけど、それでも私はその事をシホさんに伝えた。
その後、シホさんとその場に唯一残っていた宝石剣という今はもう魔力も何も感じない剣を抱えてアースラに帰還した。
後書き
これで戦いはおしまいです。
イリヤが実は、というのが今回のツボです。
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