ソードアートオンライン VIRUS
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七十五層ボス攻略
前書き
もう一個投下
回廊結晶を通り、透明感のある黒曜石のような材質の扉が目に入った。後に入ってきたユキは、この空間の異様な寒気でゲツガの身体に引っ付く。
「嫌な感じだな」
「うん……」
なぜ、そんなことを言ったのか。今日までの二年間、七十四層までのボスモンスターを倒してきたわけだが、かなりの経験を積むごとにその棲家を見ただけで主の力量を何となく推測することが出来るようになる。この層の雰囲気からゲツガとユキは大体のボスの強さを予測したのだ。
「ゲツガ君、ユキ」
不意に後ろから、聞きなれた女性の声に名前を呼ばれた。後ろを振り向くとキリトとアスナがいた。
「アスナにキリトか」
振り向いてそう言った。
「来る前の宣誓、よかったよ。士気も一気に高まったと思うよ」
「ああ、さすがゲツガだ」
「ありがとな」
そう言ってユキの方を見る。
「どうしたの、ゲツガ君?」
ユキは急にゲツガが視線を向けてきたため、疑問符を浮かべていた。
「少し、アスナと待っててくれるか。俺はちょっとキリトと話をしたい」
「いいよ。でも、もうすぐ突入するから早めに切り上げてね」
「いいけど、ゲツガ君、キリト君、二人とも変な話はやめてね」
そう言ってユキとアスナは少し離れたところに行った。
「キリト、今から言うことを約束しろ」
ゲツガはまじめな表情になって言う。
「なんだよ?改まって」
「この戦いでお前はアスナを命がけで守れ。俺もユキを命を賭けて守る」
「何言ってんだよ。そんなの当たり前だろ」
キリトは真剣な表情で答えた。
「よし」
ゲツガはそう言って、ゲツガはキリトの手に肩に置き、小声で言った。
「必ず守れよ。俺の予想だがこの城のもう一つの脱出口を開いてやるから」
「……ッ!!どういう意味だゲツガ!!」
そう言ってキリトの肩から手を離し、ひらひらと手を仰ぐ。
「どういう意味かはこの戦いが終わったらわかるさ。それよりもさっさと準備しとけよ。そろそろ突撃だ」
ゲツガはそう言って扉の前に歩いて行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
みんなの準備が完了し終えたのか全員ウインドウを閉じていた。そしてヒースクリフは声を出した。
「皆、準備はいいかな。今回、ボスの攻撃パターンに関してまったく情報がない。基本的にはKoBが前線で攻撃を食い止めるので、その間に、可能な限り攻撃のパターンを見極め、柔軟に反撃に転じて欲しい」
ゲツガ達は無言でその言葉に頷いた。
「では、行こうか」
あくまでソフトな声音で言うと、ヒースクリフは無造作に黒曜石の大扉に歩み寄り、右手を扉にかけた。全員に緊張が走る。
「死ぬんじゃねえぞ、お前等!!」
ゲツガは横にいるキリト、エギル、クライン、それにアスナとユキに言った。
「へっ、お前こそ死ぬんじゃねえぞ、ゲツガ!!」
「今日の戦利品で一儲けするまではくたばる気なんてないぜ!!」
「この戦いが済んだら、あのことを教えろよ。ゲツガ!!」
「いいぜ。その前に分かるかも知れねえがな!!」
「ゲツガ君、キリト君、ユキ。危ないことはしないでね!!」
「アスナ、私は大丈夫だよ!!」
皆それぞれ、言いたいことを口にした。そしてヒースクリフが重々しく黒曜石のような扉を押し開けた。
「全員、突撃!!」
そして、ゲツガ達は扉の中に足を踏み込んだ。踏み込んだ部屋の内部はかなり広いドーム上だった。ヒースクリフと戦ったコリニアの闘技場ほどあるだろう。円弧を描く黒い壁が高くせり上がり、遥か頭上で湾曲して閉じている。全員が入ると、背後の扉は大きな音を立てて脱出を拒むように閉じた。そして、数秒の沈黙。だだっ広い部屋にはボスの姿どころか影すら現れていない。しかし、ゲツガは何処からか視線を感じていた。その視線を探して上を向く。
「おい」
そして誰かが耐え切れないように声を上げた後にに叫んだ時
「「上だ!!」」
ゲツガとアスナが同時に叫んだ。その声に全員が頭上を見上げる。ドームの天頂部にそれは張り付いていた。とてつもなくでかい骨のムカデだ。しかし、身体の骨の形は人のものと酷似している。だが、その先にある頭の形はまったくといっていいほど酷似していない。
流線型に歪んだその骨には、二対四つの鋭く吊り上った眼窩があり、内部で青い炎が瞬いている。大きく前方に突き出した顎の骨は鋭い牙が並び、頭骨の両脇からは鎌のような尖った骨の腕がついている。視線を集中してイエローカーソルとともに出てくるモンスターの名前を確認する。
(《The Skullreaper》……骸骨の刈り手か。この前の運命の鎌といい、こいつといい茅場(作者)はどんだけ人の恐怖心を生むものを付けたいんだか)
そう思った。その後大きな声で指示を飛ばす。
「固まるな!今この状態は格好の的だぞ!!」
ゲツガが叫びと同時に大ムカデが地上へと落ちてくる。全員、落下予測地点からあわてて飛び去るが、中心にいた三人は反応が遅れた。どちらに移動するかを迷っている。
「「こっちに!!」」
ユキとアスナがあわてて叫ぶ。その声に呪縛から解かれた三人が走り出す。しかし、その背後にムカデが地響きを立てて落下した瞬間、床全体が大きく揺れた。
その振動に足をとられ三人がたたらを踏む。そこに向かってムカデの右腕、長大な鎌を横なぎに振り下ろす。
三人が同時に切り飛ばされ宙を飛ぶ。その間にHPが猛烈な速さで減って行く。注意域のイエロー、危険域のレッド。
「……!?」
そして、あっけなくHPがなくなった空中にまだある三人の身体は立て続けにガラスの割れるような音とともにポリゴン片へと変化した。
「嘘だろ……」
クラインはそう呟く。それは全員思った。さっき消えたプレイヤーは決して弱くない。ここまで実力で上ってきたプレイヤーが一撃で倒されたのだ。
「こんなの無茶苦茶すぎるよ……」
掠れた声でユキがそう呟く。
一撃で三人を葬ったムカデが上体を高く持ち上げて轟く雄叫びを上げた。その瞬間、ゲツガとムカデが同時に飛び出した。そして、大きな鎌と両手剣が大きな音を立ててぶつかり合う。その瞬間、ヒースクリフが叫ぶ。
「立ち止まるな!!今この状態で戦意を失えば、死んでしまうぞ!!」
そして、ヒースクリフは飛び出してゲツガに向かってくるもう一つの鎌を弾いた。その瞬間、ゲツガも今までつばぜり合いをしていた鎌を弾く。
「ゲツガ君。この鎌は私に任せてくれ!!君は、他のプレイヤーの指揮を頼む!!」
「……分かった!!」
ゲツガは警戒した目でヒースクリフを見た後、後ろに飛び去る。そしてそれと同時にキリトとアスナがヒースクリフが抑えている反対側の鎌を受け流していた。
「ゲツガ!!お前に後は任せる!!指揮をとってこいつを倒せ!!」
「お願い、ゲツガ君!!こっちは私達が何とかするから!!」
ゲツガはそう言われた後すぐに指示を飛ばす。
「全員、奴の足を狙え!!ただし一人で行くな!!二、三人と組んで攻撃しろ!!」
そう叫ぶとゲツガはユキの所に行ってユキを持ち上げる。
「え……な、何するのゲツガ君!!今こんなことしてる場合じゃ……」
「ユキ、俺らは背中に上って身体を半分に切り落とす」
「……分かった」
ユキは一瞬、唖然とした表情になったがゲツガの力を知っているからこそ言ったのだろう。
「ありがとな。じゃあ、しっかり捕まっとけよ!!」
そう言ってゲツガは床を力強く蹴って跳躍した。そして、一度鎌がゲツガを襲おうとしたがキリトとアスナがそれを防いだ。
「ありがとな!!キリト、アスナ!!」
そう叫び、骸骨の頭部に着地してユキを下ろす。
「ユキ、上だからって安心するなよ。この揺れだとすぐに振り落とされてやられる」
「このくらいなら大丈夫」
「よし、じゃあ始めるぞ!!」
そしてゲツガとユキは攻撃を始めた。まず、ゲツガとユキは身体の半分辺りまで走る。そして、最初にゲツガが、骨と骨の継ぎ目に斬撃を叩き込んだ。しかしゲツガの全力を叩き込んでも傷一つ付くことがなかった。
「硬えな」
そう呟く。
「ゲツガ君!!上!!」
ユキの叫びにすぐに上に向く。そこにあったのはゲツガに向けて突き落とされる尖った尾だった。
「チッ!!」
ゲツガは横に飛びそれを避ける。骨の足の関節の部分を掴み落ちるのは何とか免れた。素早く上がり、ユキの横に行く。
「サンキュー、ユキ。危なかったぜ」
「よかった無事で……」
ユキは少し息を吐いて安堵したような表情になったあと、まじめな表情になる。
「でも、これじゃあ作戦が成功しないね。何か案がある?」
「特に今んとこは無い。だけど、この尻尾を崩すだけでも十分に攻撃のパターンが減る。こいつから潰すぞ。ユキ、援護頼む」
「分かってるよ。でも、無茶はだめだよ」
「OKだ。行くぞ!!」
ゲツガは飛び出して先端の部分を叩き落す。そして背骨を走ってユキがその叩き落された尻尾にシールドバッシュを食らわした後、素早い連撃を繰り出す。尻尾が動き始め、攻撃しようとするのを見計らいユキは距離を取る。そして降り立ったゲツガは、その攻撃を弾く。このような連携が出来るのは、ユキとゲツガの呼吸が合ってるからなのかもしれない。
ユキが連撃、ゲツガが必殺の一撃。攻撃の種類はまったく違うものの、合わさると物凄い一撃が生まれる。その攻撃に耐えられなくなった尻尾はひびが入り、割れた。
「よし!!ユキ!!半分にするぞ!!」
「了か……きゃあ!!」
急に大きなゆれに襲われユキが背中から落ちる。
「クソ!!」
ゲツガは素早く飛び出してユキを片腕でキャッチし、もう片方の腕を足に捕まった。
「ユキ、だから気を抜くなって言ったろ」
「ゴメン」
そして素早く背中に戻る。
「終わらせようぜ、ユキ」
「分かった!」
そしてゲツがとユキは背中を半分に落とすために攻撃を再開した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その後、一時間にも及ぶ戦いが終わった。死闘の末、ようやくボスモンスターがその巨体を四散させた時、誰一人歓喜の声を上げる余裕のある者はいなかった。皆倒れこむように黒曜石のような床に倒れこむ、もしくは仰向けに転がって荒い息を繰り返していた。
「終わった……の?」
「ああ、終わった……」
ユキの問いかけにゲツガは答える。ユキとゲツガはあの後、背中を切り落とすことに成功した。
キリトとアスナは背中合わせに座り、動いていない。とりあえずクライン、エギルも死んでなかった。しかし、どう見ても入った時の人数と今いる人数が違う。ゲツガは誰でもいいという風に言った。
「何人やられたんだ?」
クラインがウィンドウを開き、確認した。一応自分でも確認するため、ウィンドウを開く。
「九人死んだ……」
信じられない。トッププレイヤーの奴らがこんなに死ぬなんて。しかし、キリトが言った。
「多いけど、ユキとゲツガの働きがなきゃもっと犠牲者が増えていたかもしれない…お前らが尻尾と身体を半分に切ってくれたおかげだ」
「うん、ゲツガ君とユキの働きがなきゃもっと犠牲が増えてた」
アスナが言ってユキは照れくさそうにありがとうと言った。しかし、その後のことをキリトたちは考えたのか再び暗い表情になる。
(じゃあ、今から確認を始めるか)
そう心の中で呟き、素早くウィンドウから弓を取り出す。
「どうしたの?ゲツガ君。弓なんて取り出して」
ユキの反応に何も答えず、短槍を番える。そして、短槍をある人物に向けて放った。その短槍は、剣撃と同時にその人物を守る障壁に当たった。
「お前の言っていた、出口ってこいつの事だったんだな。ゲツガ」
「おいおい、お前も気付いたのかよ。キリト」
そして、ゲツガとキリトは同時にその男の名を呼んだ。
「「ヒースクリフ、いや、茅場晶彦」」
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