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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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王女来襲!?

「合同訓練!?」

 キャンベラの本社に呼び戻された私に母から伝えられたのは信じられない内容だった。
 クロエは戻って直ぐ任務ということで呼び出されていましたから、今いるのは私だけ。

「そう、赤道連合、EU、米国、そしてアジアの4勢力によるISの合同訓練よ。名目上はね。しかも国際IS委員会直々の招集でね」

 世界初の全世界規模IS合同訓練……今まで数カ国、ないし連合、同盟国内でならばありえない話ではなかった。でもそれを全て取っ払ってだなんて突拍子がないにも程がある。

「あの、それってやっぱり私の……」

 恐る恐る私は思っていることを口にする。このタイミング、どう考えても臨海学校からの一件繋がりだ。多分シャルロットさんが女だと言うのもばれてそれがEUに発破をかけたんだと思う。

「まあそれもあるけど、。『ディープ・ブルー』を作った段階で結局は避けて通れなかったのかもしれないわね」

「水中用はIS条約の軍事利用禁止の項に抵触するものである、ってことですか」

 先に見た通達文の内容を思い出す。やっぱりあれ以降の外交は上手く行ってないみたいだ。

「より正確に言えば……その水中用を開発していたのに発表していなかったって言う条約に関わる部分に対する物の方が大きいわね。水中用パッケージは海中資源の採取にも役立つし、出来たならさっさと公開しろっていうのが世界の本意じゃないかしら?」

 う、その取っ掛かりを作ったのは私ですし、やっぱり私のせいですね……

「それに米国の軍用ISが暴走した時点で委員会が動くのは予想できていたし、いずれこうなったのが早まっただけ」

 母さんがあくまで開発局長としての顔でそう言ってくれたのは、私を気遣ってくれたからでしょう……おかげで少しだけ気持ちが楽になりました。
 それにしても委員会が直接召集したということですか。流石にここまでの事態になると委員会側も黙っていないんですよね。
 でも国際IS委員会って名前は有名ですけどその実体は全くと言っていいほど不明なんですよね。主要国の首相とかでも政府関係者とかでもないみたいだし、一体どの国の誰が、なんていうのが一切明かされていません。
 明かされたら明かされたでテロリストに狙われる可能性や買収しようとする人がいますからそういう面から見てこういった情報操作は大事だと思います。でもどういう基準で会議が開かれてるのかも分からないからどういった理由でどうなっているかなんていうのは不明。うーん、そう考えると謎の組織って言えたりします。

「それに貴方にもこれに参加してもらうんだから」

「はい……ってええ!?」

 唐突に告げられた言葉に思わず声を上げてしまいます!
 今考え事していてスルーしそうになりましたけど何サラッと重要なこと言ってるんですかこの母親は!
 演習に私が!? 『デザート・ストーム』を公開するんですか!?

「ちなみにドイツからは例の部隊の隊長のラウラ・ボーデヴィッヒ、イギリスからセシリア・オルコット、中国から凰 鈴音も参加予定。あの事件の関係者がほぼ揃い踏みってわけ。流石にどこの代表候補でもない例の2人は来れないらしいけど……」

「えっ……」

 ま、まあ考えればそうですよね。今から始まるのは国同士の喧嘩みたいなものです。そこに部外者を入れて……そもそもこの召集が国際IS委員会のお達しなら扱いに困っているあの二人をこの場に連れてくるのは混乱にしかなりませんし、この争いを収めるのが目的なら呼びはしないでしょう。

「先の事件の関係者は全員参加するようにとの国際IS委員会からのお達しよ。どの国も拒否すればそれ相応の報いを世界から受けるでしょうね。まあ貴方の参加予定は、機体の修理ってことでオブサーバー。ようするに見学ね」

「は、はあ」

 な、なるほど。それに私の場合はその他にも参加できない理由がありますからね。公には参加できません。良かったです。
 ということは目的はやっぱりこの騒動を表向きにでも収めるために国際IS委員会が開いたって考えでいいんでしょうか?
 ん? あれ、シャルロットさんはどうなるんでしょうか?

「ああ、ちなみにデュノアの御曹司……じゃなくて、ご令嬢だったわね。現状は音沙汰なし。フランスとしても扱いに困ってるみたいだわ。男だと申請したのが女だった、なんて受け入れれば世界中から非難を受けかねない。向こうでも扱いに困ってるのよ」

「ひ、酷い……そんなことって」

 いくら不利になるからってそんな切り捨てるようなこと……愛人の子供だからって実の子供でしょうに!

「そ、そのことを本人は……」

「知ってると思うわ。ま、学園に戻ったら貴方が確認してみなさい。いざとなったら……こっちに呼んであげなさい。今の段階なら何とかできると思うから」

「………はい」

「ふう、そんな顔しない。可愛い顔が台無しよ?」

 どうやら私は酷い顔をしていたみたいですね。母さんが仕事の話の途中で言ってくるなんて相当です。
 でも……ううん。戻そう。私がいくらここで足掻いたところで変わらない。今はシャルロットさんを信じるしかないですね。
 私がこんな立場じゃなければ連絡も……連絡してなんて声を掛ける気ですか私は。

「話、戻すわよ?」

「はい」

「参加国は今のところ問題のアメリカ。イギリス、ドイツ、イタリアを中心にEU各国の代表と候補生。アジア圏からは日本と中国を中心とした数カ国。そして赤道連合からはオーストラリア、ニュージーランド、それについ先ほど加盟したばかりの国の代表としてベトナムの3国を中心に。その他も合わせて今のところ合計38ヶ国、60近いISがソロモン諸島沖に集結予定よ」

「さ、38……60!?」

 そんな数今まで聞いたことも……
 あれ、でもちょっと待って? 場を収めるだけなら唯単に話し合いの場だけでもいいんじゃないでしょうか? わざわざ各国の軍を出動させてまでISをここに集結させる意味って一体……

「言うまでもなく、規模としては今まで行われてきた中でも最大のものとなるわね。各国の船も続々と集結中だし」

 そう言って母さんが映し出したディスプレイを見る。既にアメリカの第7艦隊の『ジョージ・ワシントンⅡ』と護衛艦12隻とEUの連合艦隊13隻がソロモン諸島に接近しつつあります。3日後には到着予定らしい。

「開始予定日は8月25日。期限は予定で一週間。まあどうなるかは分からないけどね」

「え、でもこの速度だと8月15日に着きますよね?」

 画面に映し出された情報には既にソロモン諸島まで数日の距離まで接近した艦隊が映し出されています。

「ま、それは表向きだからね。ISの合同演習なんてマスコミや他の国から見たら喉から手が出るほどの情報だし、偽情報を流すのも手ってことよ」

 なるほど、以前のニュースのように秘密裏にということですか。ということはもうあの福音事件が終わった直ぐ後に各国の首脳の会議があったというのは確実のようですね。そこで今回のことももう決まっていたと。

「別の目的もあったりするんでしょうか?」

「さあ。そこら辺は政治家の問題で私は詳しくないから分からないけど……ただ訓練しに来るって国はあまり無いんじゃないかしら?」

 で、ですよねやっぱり……
 各国の思惑も当然ながら、多分ですけど国際IS委員会の方も把握できてないISをこの場で確認したいんでしょうか。

「ま、それでもマスコミにはばれそうな気もするけど……ね」

「え?」

「そもそもこの合同訓練自体さっき言った国際IS委員会のお達しで決まったものでね。今回の見届け役に『ブリュンヒルデ』を……ってね」

「な!?」

「第1回優勝者の織斑千冬は都合で来れないらしいけど……第2回優勝者、イギリスのヴィクトリア・ウィンザーは既に現地入りしてるわ。貴方達がダーウィンに言ってる間に挨拶にも来たしね」

 それはまあ、織斑先生はIS学園の教諭ですし……? でもIS学園って国際IS委員会の方で管理運営が為されているはずですよね? なら命令があれば織斑先生も招集できそうなものですけど。

「世界に2人しかいない『ブリュンヒルデ』の片方が動けば少なくともいくつかのマスコミや政府が気付くはずよ。それを狙って、ていうのもあるかもしれないわね」

「そろぞれの国にそれぞれの思惑……ですか 」

 『ブリュンヒルデ』が動くとなればマスコミの報道は全世界へ波及する。そうなれば秘密裏なんていうのは不可能でしょうし……見届け役として『ブリュンヒルデ』を呼ぶのは分かるんですけど、うーん。

「国だけじゃないっていうのもあるわ。とにかく、カルラ・カスト少尉。貴方にはオブサーバーとして赤道連合所属の『ハーバーブリッジ』に乗艦してもらいます。これは決定事項ですからね」

「は、はい! 了解しました」

「それと……」

「それと?」

「別件でもう一つ貴方に仕事よ」

 母さんはそういいながら意味ありげに笑って見せました。い、嫌な予感しかしないんですけど……


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「もう少し笑顔でー」

「は、はい。こうですか?」

 ニコリ

「はいそのままでー」

 パシャ!

「はい、オッケーです。一旦休憩にしましょう」

 眩しいフラッシュで一瞬だけ目がくらむけどどうやら上手く撮れたみたいです。休憩時間になって一度下がります。
 んー、意外と汗かいてますね。

「ほい、お疲れ様」

「あ、父さん。ありがとう」

 イスに座ると見ていた父さんがタオルとスポーツドリンクを差し出してくれたので受け取ります。今は赤道連合宣伝用の写真集の撮影で撮影所に来ています。
 今の服装はいつもより少しスカートの丈の短い灰色の軍服……って通常はスカートじゃなくてズボンなんですけどいいんでしょうか?

「ほらカルラ、これもつけろ」

「わぷ! と、父さんやめてよもう!」

「ははは、似合ってるぞ」

 父さんがいきなり大きめのグリーンベレーを頭にのせてきた。ってこれなに!? 大きすぎですよ! ぶかぶかですぐ頭から落ちそうになるベレー帽を慌てて押さえる。
 それにオーストラリア関係ないじゃないですか。

「なに、どうせ宣伝が目的だ。多くの人に名前と顔が売れれば問題ないよ」

「そんなものですか?」

「そんなもんだ」

 ふう、父さんも大雑把だなあ。私と一緒にいるからか生き生きしているのでいいですけどね。
 今回父さんは私のマネージャー役みたいな立場……っていうかマネージャーですよね。本当は休暇の日らしいから休めばいいのに。
 それにしても母さんも急に仕事入れるんだから。確かにこういうのも代表候補生の仕事ですけどこんな時期に入れなくても。
 こんなことしてるなら少しはシュミレーションの練習した方が……

「こんな時期だからだな」

「ふえ?」

 私の心を読んだように父さんが声をかけてきました。

「良くも悪くも、今までどおりって所を見せておかねばならん。IS操縦者一人が謹慎中なんてのは他の国からしたらメリットにしかならんからな。だから我々はこの程度のことは何も問題にしてないですよ、っていうのを周囲の人や国にアピールせねばいかんのだ。そのためにはこういう通常の業務も必要なんだ。体裁や面子ってのも大事だということだよ」

「はあ……」

 な、なんで私の考えてること分かったんだろ。

「子供の考えてることも読めんで何が親か!」

 そう言うと父さんは豪快に笑って見せました。けどそれってなんというか……うーん、隠し事できないですね。

「うん? そうだろうそうだろう。父さんはカルラのことなら何でも分かるんだ。もっと尊敬してもいいぞ!」

 ……心を読んでるんじゃなくて私の表情とかから見てるんですね。落ち込みそうだから何も言いませんけど思いっきり外しましたよ父さん。
 私は両手を腰に当てて笑っている父さんを見ながら手に持ったペットボトルに口をつける。

「あら、今は休憩中ですのね?」

「? はい、そうですけど……って!」

 後ろから掛けられた声に振り返ると、何故かそこには長い金髪と青い瞳の見知った顔にIS学園の制服を着た……いやもう分かりますよね。セシリア・オルコットその人が立っていました。
 
「ふふ、お久しぶりですわね。カルラさん」

「………」

「カルラさん?」

「はぅ! すいません!」

 あまりの出来事に固まっていましたよ。私は我に変えると慌てて立ち上がってセシリアさんの前に行く。

「お久しぶりです。何故……っていうのは野暮ですよね。いつこちらに?」

「つい先日に。カルラさんのお母様、アイシャ開発局長にご挨拶伺って以来こちらに滞在しておりますの」

 つい先日にいなかった……ってことは私がダーウィンに行ってるときですね。
 あれ、ってことは……


「セシリア? もうそっちの話はいいのかしら?」

「あ、はい。申し訳ありません」

 セシリアさんのさらに後ろから掛けられた声にセシリアさんが勢いよく振り向いて頭を下げました。そのおかげで私からもセシリアさんに声を掛けた人物が見えました。
 セシリアさんと同じくらい長い金髪に顔は……サングラスをかけているのでよく分かりませんが、多分すごい美人だと思います。その隣の一歩分後ろには背中の半分辺りまで延びた綺麗なブラウン色の髪を持った長身の女性。
 お2人ともスーツ姿ですが、何ていうか隙がありません。どっちも相当の実力者だって言うのは何となく分かります。

「ふーん、貴方がカストさん? セシリアから話は聞いてるわ」

「え、えーっと」

 サングラスを掛けた女性が私の方に歩いてくると鼻がぶつかりそうなくらいの距離まで顔を近づけられました。あのー、そのー……
 戸惑っている私に気付いたのかその女性はクスリと笑うとサングラスを取ってくれました。その瞳は深い緑色で……ってあれ? この人どっかで……

「申し遅れたわね。私はヴィクトリア・ウィンザーよ。よろしくね」

「ヴィクトリア……ウィンザー!?」

 ってもしかしてもしかしなくても世界で二人目の『ブリュンヒルデ』にしてイギリス王家第1王女のあの!?
 それに気付くや否や私は姿勢を正して敬礼をする。

「わ、わ! し、失礼しました! 代表候補生のカルラ・カストと申しましゅ!」

 か、噛んだー!

「ふふ、可愛い子ね。でもこの場で形式はいらないわ。私は今ここにはいないことになってるから。ほら、他の人も注目してるしね?」

 ウィンザー様がそう言って後ろを指差すと撮影所の人が皆こっちを向いていました。あああ、何か私だめだめだぁ…

「では移動しましょうか?」

 そんな私を見かねたのか父さんが声を掛けてくれました。

「あら、貴方は?」

「申し送れました。カルラの父のゼヴィア・カストと申します。以後お見知りおきを」

「ふふ、ご丁寧にどうも。では案内してくださる?」

「ではこちらに」

 そう言って父さんが先頭に立つ。その後にヴィクトリア様を先頭に後ろに居た人、セシリアさんと私が一番後ろにつきます。

「驚きましたか?」

「驚かない人はおかしい人ですよきっと」

 セシリアさんが悪戯っぽい笑みを浮かべて聞いてきたので肩を大げさに落としてため息をついてみせます。はっきり言ってしまえば雲の上の存在の人が目の前にいるわけですから驚かないわけは無いんです。でも多分……一夏さんは驚かないかも……

「まあお察しの通り、私とジェーン先輩……ああ、ジェーン先輩はウィンザー様の後ろに居る人なのですけれど」

「聞こえていますよ。セシリア? 人の紹介を勝手にしない」

 いつの間に目の前まで歩調を変えてきたのか、ジェーンさん? 下の名前分からないから、うん。がセシリアさんに少し注意しました。
 ジェーンさんはそのまま前を向いた状態で私たちの一歩前を歩き出します。

「紹介が遅れましたね。ジェーン・コールフィールドと言います。一応貴方と同じ代表候補生です」

「ジェーン先輩は去年までIS学園にいましたの。つまり私たちの先輩ということですわ」

 セシリアさんが自慢そうに話してくれました。

「あ、えっと……カルラ・カストです。セシリアさんにはいつもお世話になって……」

「聞いてます。こちらのセシリアも何か迷惑をかけていませんか? どうもこの子はプライドが高すぎるきらいがありましてね」

「ちょ、ちょっとジェーン先輩!」

 そのまま歩きながら軽い自己紹介をしているうちに近くの会議室に着きました。各々の席に着くとヴィクトリア様が口を開きました。
 父さんはそのままお茶を入れてくると退出してしまいました。普通それは私がやる仕事なんじゃあ……

「さっきも言ったけど私は今ここにいないことになってるわ。だから極力私の名前は出さないようにね。OK?」

「は、はい。分かりました」

 何でも折角きたのでセシリアさんの話しに聞いていた私に観光ついでに会いに来たと言うことです。やっぱり王族の人ともなると自由な時間はほとんどないんでしょうね。
 なので身分を隠して内密にキャンベラを観光していたそうです。

「えっと、どうでしょうか。オーストラリアは」

「ふふ、さあどうかしらね?」

 ウィンザー様はそうやって笑うってはぐらかしてしまいました。うう、何かすごい大人だなあ。

「それよりセシリアに聞いてたより可愛いじゃない。どう? イギリス(ウチ)に来ない? 歓迎するわよ?」

「じ、冗談でもそういうことは止めてください」

「あら、残念」

 ウィンザー様は全く表情を崩さずにそう言ってきます。冗談とは分かっている内容ですけどこの人の冗談は冗談に聞こえないんですよね。

「ウィンザー様、私の友達をあまり困らせないでくださいませ」

「あら、貴方の友達だからこそからかいがいがあるってものじゃないかしら?」

「え、えーっと……」

 セシリアさんが溜息をつき、ウィンザー様は相変わらずの笑顔でその言葉に返します。結構親しそうですね。どういう関係なんでしょう?
 あ、でもセシリアさんは貴族の家系ですし王族の人と関係を持っていてもおかしくないんですよね。小さいころから関係があったとすれば親しいのはおかしくないですね。

「ふふ、私とセシリアの関係が気になるみたいね」

「ふえ!?」

「この子の家とはかなり昔からお付き合いしてるの。その関係で独り身になったこの子の世話をさせてもらったわ」

「ひ、人の昔話を勝手にしないでくださいませ!」

「ああ、あの頃のセシリアは素直でしたね。どうしてこうなってしまったのやら」

「ちょ、ジェーン先輩まで!」

 独り身? セシリアさんが? どういうことでしょう?

「あら、セシリアって自分の身の上話してないの?」

「ま、まあ聞かせて面白い話でもありませんし……」

「ふーん、それもそうね。」

 私の不思議そうな顔を見て分かったのかウィンザー様がセシリアさんに尋ねて勝手に納得してしまいました。
 そこまで言われると逆に気になるんですけど……事故、とかなんでしょうか。深くは聞かないでおきましょう。聞かれたくないこともあるでしょうし。

「まあそれよりもジェーンの言う事も最もね。昔のセシリアはそれはそれは素直でお姉さまお姉さまって懐いてきて……」

「ちょ! ウィンザー様……!」

「ウィンザー様。そろそろ……」

 懐かしそうに語りだしたウィンザー様と止めようとしたセシリアさんの間にコールフィールド候補生が入って自身の腕時計を見せて指差しています。

「あら、もう次の所に行く時間? 惜しいわね。色々聞いてみたいこととかあったんだけど」

「やっぱりお忙しいんですか?」

「うん? ああ、そういうわけじゃないのよ。折角お忍びで来ているんだし、観光位したいじゃない?」

「……そ、そうですか」

 なんというか、行動的な人だなあ。それともここまでの立場の人になると自分の時間が持てないからなんでしょうか?

「やっぱり貴方には改めて時間を取ってもらってじっくり話したいわ。福音のこととか水中用パッケージのこととか、ね?」

「う……」

 や、やっぱり海外でも有名なんだ。ウィンザー様がウィンクしながら言ってきた言葉に私は思わず首を竦めてしまう。
 それを静止したのはコールフィールドさんでした。

「それは公式の場のほうがよろしいかと」

「そうね、それはまたの機会にしましょう。御免なさいね。お仕事の邪魔しちゃって」

「い、いえ……」

「そうそう、セシリアを残していきましょうか? 積もる話もあるんじゃない?」

「カルラさんも仰っていましたが冗談でもそういうのはやめてくださいませ。私は事件の当事者という役割もありますが、ウィンザー様の護衛で来ているのですわよ? ウィンザー様の身に何かあったら私、自分を許せませんわ」

 セシリアさんが半ば諦め気味に言っている分、この人はいつもこんな性格なようです。セシリアさんも苦労してますね。

「んー、残念ね。じゃあそう言うことだからカルラさん? ゼヴィアさんには悪いけどよろしく言っておいてくれるかしら? それじゃあ行くわよ2人とも」

「はい」

「は、はい。カルラさん、名残惜しいですけどまた今度」

「あ、はい。何のおもてなしも出来ずすいません」

 私がそう言って深々と頭を下げると3人は会議室を出て行きました。あれがイギリスの……何かすごい人だったな、2人とも。
 でもセシリアさんも元気そうで良かった。私も頑張らないと!

「いやー、申し訳ない! 遅くなって……あれ、他の御三方はどうした?」

 とりあえず父さんに説明しないといけませんね。
 
 

 
後書き
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