IS《インフィニット・ストラトス》~星を見ぬ者~
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第十話『雲のように』
ドイツIS配備特殊部隊“シュヴァルツェ・ハーゼ”の基地へ衛星が落下した事件。何故廃棄済みの衛星が落下したのか、基地のミサイルの発射も発射台の謎の故障により第2波が撃てない状況にあった。原因は不明で、現在解決の糸口すら見えていない状況だ。
そして、あの事件より4年。上層部は事件後のスウェンに対する評価を改め、更なる活躍を期待していた。そして部隊の隊員達も、スウェンのことを認め一人の隊員として尊敬の眼差しで見ている。その一方、部隊で変化した事がある。
ラウラだ。
この4年でラウラはスウェンの訓練により良い成績を出せるようになり、他の隊員達もどんなに辛くても頑張るラウラの姿を見て、誰も彼女の事を“出来損ない”等と呼ぶことは無くなり“努力家”と呼ばれるようになり隊員達と良好な関係を築く事が出来た。
「うむ、良い天気だ」
シュハイクは隊長室にて、窓の外を眺めていた。今日は雲一つ無い青空が広がっていて快晴だ。シュハイクの隣に居るクラリッサも頷き
「はい、前まで雨続きでしたから。ジメジメしているよりは何倍もいいですね」
「全くだ。しかし、スウェンが部隊に来てから4年か……早いものだ」
「この黒ウサギ隊の結束力も固まり、ラウラ少尉の問題も見事解決できましたし……全てはスウェン少尉のお陰ですね。いや、今はスウェン“中尉”でしたか」
「ふふっ、そうだな」
そう、スウェンは先日上層部からの令を受け、中尉へと昇格した。本人は差ほど喜んだそぶりも鼻にかける様な事も見せず、今までどおり過ごしていた。その時シュハイクから「相変わらずだな」と言われていた様だ。
「けど……本当に良いのですか?シュハイク隊長」
「……ああ、上に立つ者は彼のような人間が相応しい。それに――」
「失礼します」
「来たか」
ノックの音の後に、スウェンが隊長室に入室する。シュハイクの前に立ち敬礼する。
「よく来てくれた。待っていたよ」
「お呼びしたのは隊長では?」
「ふふふ……まあ、そうなのだが。今日来てもらったのは他でもない……」
シュハイクは一息置き
「お前にこの部隊“シュバルツェ・ハーゼ”の隊長に任命するためだ」
「!?」
スウェンの僅かに表情が変わる。スウェンが言葉を放とうとする前にシュハイクが遮る。
「上層部も承認済みだ「スウェン・カル・バヤンならば、隊長という位置に居ればより良い部隊の向上に繋がるだろう」だと」
「そんな事……」
「勿論、クラリッサも同意済みだ」
「そうなのですか?クラリッサ副隊長」
クラリッサの方を向き、そう言うと肯定を示すように頷く。
「私も上層部と同じ考えだ。スウェン中尉ならば黒ウサギ隊の任せられる。そう思っている」
「そう言う訳だ。実質、私は隊長を辞める訳だが……責任者を辞める訳ではない」
「……」
沈黙を続けるスウェン。シュハイクは立ち上がり、スウェンの元に歩み寄り肩にポンッと手を置き
「私達はお前に期待してるんだ。期待に裏切るわけにはいかないだろう? 一人の男として」
その言葉にスウェンは軽くため息を吐き
「……わかりました、その席、快くお受けしましょう」
「そうか! お前ならそう言うと信じていたよ。そうと決まれば、スウェン、私は君に隊長として最後の頼みがある」
「?」
/※/
「……」
「さあ、全力で来い!」
スウェンとシュハイクは、模擬戦場でISを展開して向かい合っている。シュハイクの最後の頼み、それは――
“私と戦ってくれ”
隊長として、隊長の位置に座る者の実力を実際に手を合わせ、しかとこの目に刻みたいというものだった。スウェンは勿論承諾し、今に至るのだ。
シュハイクを見る。ツヴァイクと同型のISだが、各所には白いラインがあり、何処か違う雰囲気を出す。
武装面は差ほど大差ないようにも見えるが、何より目立つのは右肩に担がれた全長にも及ぶ、拳大はある刃が並んだ両刃の巨大なブレード。
「それが隊長のIS“シュバルツェア・ヴォルケ”ですか。実際に見るのは初めてです」
「そうか?……まあ、確かにそうだがな。他の者にはあまり見せた事がないからな」
スウェンはあれは近接型のISと外見判断をする。ここは距離をとりつつランチャー……といいたい所だが、外見から相手を判断をしたら手痛い攻撃を受ける事もある。機動性に優れ、武装面も平均的なエールを装備する。
そしてスウェンは動き出す。ビームライフルを粒子展開し、シュハイク目掛け放つ。予測していたとおり、シュハイクはそれをかわすがスウェンは回避方向へ射撃を続ける。
「当たりはしないぞ!」
回避から一変、急激に方向を変え
「はぁああ!!」
「くっ!!」
突進してきたシュハイクの振り下ろしたブレード。スウェンはビームライフルを粒子化しエールストライカーに搭載されたビームサーベルを抜刀し防ぐ。
両者は一度離れ、再び近づきすれ違いざまにブレードとビームサーベルを振る。スウェンが方向転換すると、シュハイクは右方の肩部にあるレールカノンの砲口を向けていた。
「これはどうだ?」
砲口から放たれる弾丸は爆煙を起こし、スウェンを包み込んだ。直撃かと思われたが
「……ほう」
煙が晴れると、シールドによって銃弾を防いでいたスウェンが現れる。
「やるな、スウェン」
「貴女こそ」
シュハイクは笑みを浮かべながら言う。
(隊長の武装は、まだ手の内を全て出していない事を省くと主に近接寄り、ランチャーで挑まなくて正解だったな)
次の手を考えようとするスウェンだが、シュハイクは直ぐに動く。
「考えている暇など無いぞ!」
「そうでしょうね」
スウェンがビームサーベルを振ろうとした瞬間、ビームサーベルが一瞬粒子化し違う武装が現れる。
「ッ!?」
「これは……!?」
シュハイクのブレードを防いだスウェンの手に握られていたのは、彼の身の丈ほどはあるライトブルーの配色の剣、そして左腕に小型のシールド状の武装、左肩にユニットが装備される。
「ふっ!」
スウェンはその剣。対艦刀“シュベルトゲベール”を思い切り振りかぶり、シュハイクと距離を離す。すると、スウェンの目の前に文字が現れる。
「何故“ソードストライカー”が……? まあいい」
シュベルトゲベールを構えると刀身にビームが発生する。
「巨大な実体剣であり、巨大なビームサーベルでもあるか……面白い、エールとランチャーに以外にそのようなものがあるとはな……ククク、ハハハハ!!」
空へと響きそうな笑い声を上げるシュハイク。
「血がたぎる……私はお前のような奴と戦いたかった! 初めてだ……このような気持ち、初めてだ!」
「……まるで戦闘狂のような発言ですね」
「フフフ……そう言うな。さて、そろそろ私も手の内を明かそうか……」
するとシュハイクのブレードは突然唸る様に、並んだ刃がチェーンソーのように回転しだした。
「火が点いた私とこの“クロコディール”は止められんぞ?……さあ、もっと私を楽しませてくれ!!」
後書き
VSシュハイク戦、前編後編と分けました。後編は近日更新しようと思います
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