スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇
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第八十八話 フォルカとアルティス
第八十八話 フォルカとアルティス
「そうか、マグナスが倒れたか」
「・・・・・・はい」
アルコはミザルの前に片膝をつき報告していた。その顔が忌々しげに歪んでいる。
「残念なことに」
「惜しい男を亡くした」
こうは言うが感情は見られない。
「それはな」
「マグナスは惜しい男でした」
アルコもそれを言う。
「ミザル様にとっては右腕であったというのに」
「右腕!?」
しかしミザルはその言葉には冷たい笑みを浮かべてきた。
「あの男がわしの右腕か」
「違いますか?」
「わしの右腕はここにある」
こう言ってその冷たい笑みで己の右腕を左手でポン、と叩いてみせた。
「ここにな」
「な・・・・・・」
「何を驚くことがある?」
言葉を失ったアルコに平然と返す。
「我等は修羅だ」
「それは」
「では当然のことだ。修羅が戦いで倒れるのは道理」
「確かに」
それは否定できなかった。アルコもまた修羅なのだから。
「ではわかる筈だ。あの男が死んだのもな」
「左様ですか」
「それよりもだ。アルコ」
「はっ」
ミザルは何事もなかったようにアルコに対して言う。
「次の作戦だが」
「どうされますか?」
「アルティスだ」
今度は名前を出したのはアルティスだった。
「あの男だが」
「ではいよいよ」
「そろそろ邪魔になってきたな」
今度は残忍な笑みでの言葉になっていた。
「もうな。だからだ」
「はっ、わかりました」
「抜かるな」
このことを念押しすアルコだった。
「これが成功すれば貴様は」
「将軍ですね」
「そうだ。貴様が将軍だ」
アルコの誇りを煽るような言葉であった。
「楽しみにしていろ。いいな」
「わかりました。それでは」
「ではまた全軍に伝えよ」
こうもアルコに告げた。
「再びロンド=ベルに攻撃を仕掛けるとな」
「はっ」
こうしてまた戦いがはじまるのだった。修羅もまた退くつもりはなかった。その中に謀をも秘めようとも。それでも退きはしないのだった。
修羅がまた動きはじめた頃。ロンド=ベルもまた東に向かって進み続けていた。その行く先には今のところ敵は存在してはいなかった。
「とりあえずここまで順調だな」
「ええ」
サンダースがシローの言葉に応えていた。
「とりあえずは、ですが」
「だがまた出て来るだろうな」
「そうね」
今のシローの言葉にはアイナが答えた。
「残念だけれどね」
「敵も馬鹿じゃないか」
「ちぇっ、いつものことだけれどね」
ミケルがついつい舌打ちした。
「どうにもならないのかな」
「敵が出て来たら潰すだけじゃないか」
カレンはその点割り切っていた。
「それだけだろう?」
「確かに」
それに頷いたのはノリスだった。
「出て来れば出て来たで。それだけです」
「整備は満足に受けているしね」
「ええ。それが一番助かるわ」
マーベットはジュンコの言葉に頷いていた。
「あと補給もね」
「そうね。だから戦えるわね」
「そう、それだ」
オリファーもそれを言う。
「俺達の元の世界には負担をかけているがな」
「いえ、この物資はどれもラ=ギアスからのものです」
その彼等にシュウが述べた。
「どれも。実は」
「そうだったのかよ」
「ええ、そうです」
シュウはオデロの言葉に答えた。
「それに地上では時間が経っていません」
「時間も!?」
「そうです。ですから一瞬いなくなっただけなのです」
「そうだったんですか」
ウッソはそれを聞いてかなり驚いていた。
「一瞬ですか」
「はい。ですからあちらの世界では混乱もありませんよ。ただ」
「ただ?」
「あちらの世界から援軍を頼みましたが」
「援軍!?」
「誰ですか、それって」
「キングビアルです」
こうオデロとウッソに答えた。
「神北兵左衛門氏とお話しまして。来て下さるとのことです」
「じっちゃんがかよ」
「戦艦も一隻でも欲しい状況だと思いますが」
「確かに」
ブライトがシュウの今の言葉に頷いた。
「今の我々には少しでも戦力が欲しい」
「だからなのですよ。快諾して頂きました」
「何時の間にそんなことが」
恵子はこのことに少し唖然としていた。
「キングビアルまでやって来るなんて」
「だが戦力としては有り難いな」
宇宙太は素直にこのことを分析していた。
「キングビアルまで来てくれたらね」
「そうか、父ちゃんや兄ちゃん達も来るのか」
勝平もこのことを思う。
「何かどんどん凄くなってきたな」
「戦いはまだまだ続きます」
シュウはまた言った。
「まだまだ。ですから」
「よし、じゃあキングビアルの合流を楽しみにしておくか」
ジョナサンが笑って声をあげる。
「地上の戦力がどうなのか不安だけれどな」
「確か今ダカールの戦力はかなり拡充されています」
カントがここで思い出したように述べた。
「ですから少なくともキングビアルが抜けてもダカールは」
「大丈夫なんだな」
「はい」
カントはシラーの言葉に答えた。
「少なくともキングビアル一隻分の戦力は補充できています」
「ではいいか」
「最近連邦軍も戦力が回復してきたみたいね」
カナンは話を聞いてこう述べた。
「それは私達にとってはいいことだけれど」
「あれだけ損害ばかり出していたのにか?」
勇の言葉は少しきつかった。
「それでこんなにすぐに」
「最近戦っていない」
ヒギンズはここでこう言った。
「そのせいだ」
「そうだな。戦うのは最近は私達ばかりだ」
クインシィの言葉はその通りだった。
「それでは彼等が戦力を回復させるのは当然のことだ」
「それはいいことなのかよ」
ナッセが問うのはこのことだった。
「どうなんだよ、そこは」
「悪いことじゃないと思うよ」
ヒメはそう見ていた。
「だって。皆楽になってるから。私達の分」
「自己犠牲?違うか」
勇はそれを聞いて呟いた。
「ただそういう巡り合わせなのか」
「結果論ね」
また言ったのはヒメだった。
「それってやっぱり」
「そうなるかな。じゃあシラカワ博士」
「何でしょうか」
「今は地上は気にしなくていいんですね」
「はい、そうです」
勇の言葉に静かに頷いて返す。
「ですからそれは」
「わかった。じゃあこれまで通り思う存分やらせてもらう」
「そうして下さい。さて」
ここで言葉を替えるシュウだった。
「皆さん」
「!?」
「どうしたんですか?」
「これからキングビアルと合流します」
「はい」
「その時は警戒を怠らないで下さい」
こう一同に告げるのだった。
「是非。宜しいですね」
「はい、それは」
「わかっています」
彼等にとっては最早言うまでもないことであった。
「こういう時にこそ来ますからね、奴等」
「合流だの降下や打ち上げの時に限って」
「だからです。そしておそらく今回も」
「来ますか」
「まず間違いなく」
ここでシュウは断言さえした。
「わかりました」
「それじゃあ」
「備えておきます」
「やれやれだけれどね」
「しかしだ」
ここでカミーユが言った。
「敵もそろそろ後がない筈だ」
「どうしてそう言えるんだい?」
カツがそのカミーユに対して尋ねる。
「何か根拠があるの?」
「まず敵の将軍が一人倒れた」
言うまでもなくマグナスのことだ。
「それに一人はこちらについている」
「俺のことだな」
「そう。それが彼等にとってかなり大きな痛手なのは間違いない」
こう言うのだった。
「それに戦力もかなり失っているし敵の本拠地にも近付いてきている」
「その通りさ」
アリオンはカミーユのその言葉に答えた。
「もうそろそろだぜ」
「そうなんだ。もうすぐなんだ」
カツはそれを聞いて呟いた。
「修羅王との戦いも」
「もう一回戦って修羅を倒すとな」
「倒すと?」
「後は宮殿まで少しだ」
こうカツに言った。
「本当にな。少しだぜ」
「いよいよ」
「だからだ。気合入れていけよ」
「決戦なら望むところだぜ」
サンシローはいつもの彼だった。
「さっさと倒して俺達の世界に戻ろうぜ」
「そうだな。向こうの世界じゃ時間は経っていないにしろ」
リーが言う。
「それでも。気になる」
「ええ。どうなっているのか」
ブンタも彼に続く。
「気になります」
「日本に帰ってカツ丼やら何やら食いたくなってきたぜ」
ヤマガタケはそちらに関心がいっていた。
「こうガツガツってな」
「それは今でも食べていないか?」
ピートはこうヤマガタケに突っ込みを入れた。
「さっきは親子丼とうどんだったな」
「丼とうどんの組み合わせか」
それを聞いて言ったのはフォルカだった。
「あれはいいものだな」
「けれどあれだぜ」
凱も参戦してきた。
「やっぱりな。うどんや丼は日本が一番だ」
「あら、私の牛丼は駄目なの?」
「違う違う。日本人が作るのが一番って意味なんだよ」
こう命に返した。
「うどんとか丼はな」
「そうよね。やっぱりね」
「とにかく。早く帰りたいな」
これは皆が思うことだった。
「向こうも気になるし」
「懐かしいしね」
「いきなり帰って来たら敵のど真ん中だったりしてな」
リョーコは何気に物騒なことを言う。
「そん時はどうするんだ?」
「やっぱり戦うしかないだろうな」
ダイゴウジの答えはこれしかなかった。
「このダイゴウジガイ様に任せておけ」
「ヤマダさん、迂闊な行動はいけませんよ」
その彼をルリが注意する。
「また怪我をされては」
「俺はダイゴウジガイだ!」
ムキになってルリに言い返す。
「何度言った!覚えておいてくれ!」
「っていうかこの展開久し振りだな」
「そうですね」
ヒカルがサブロウタに応える。
「旦那の本名いい加減忘れていたぜ」
「ヤマダさんだったんですね」
「ヤマダがヤメダ」
またイズミが呟く。
「今回はどうかしら」
「ええと、今のは」
ジュンがイズミに話を振られて戸惑っていた。
「何ていうか」
「最近どんどん無理が出て来ているんじゃないの?」
ハルカがあえて言う。
「何かもうね」
「それはそれで味がありますけれど」
メグミはある程度認めてはいた。
「それでも。やっぱり」
「けれどリラックスはできますよ」
ハーリーはそこに価値観を見出していた。
「だからいいんじゃないですか?」
「まあ緊張ばかりだと疲れてしまうのは確かね」
エマがハーリーのその言葉に応えた。
「最近緊張の連続だし」
「全くですよ、本当に」
アスランが疲れた顔で出て来た。
「最近疲れが溜まっていますし」
「何かあったのかい?アスラン」
「いや、シンがまた」
こうシーブックに返す。
「喧嘩ばかりして」
「ああ、あいつ等とかよ」
ビルギットはすぐに相手が誰かわかった。
「あの三人とだな」
「そうなんです。それもしょっちゅうで」
「っていうかシンはいつものことでしょ?」
アンナマリーは随分と達観していた。
「何でそんなに疲れてるの?」
「ティスがなんです」
三人といよりティスなのだった。
「ティスとカガリ、アスカって相手が変わってもそれぞれの喧嘩の時間は同じで」
「うわ・・・・・・」
「シンも・・・・・・」
シンの体力にまず呆れる皆だった。
「あとフレイともしょっちゅうだし。おかげで止める俺は」
「放置しようとは思わないのか?」
フェルナンドはさりげなく究極の解決方法を提示してきた。
「闘いは当然のことだからな」
「放置したらそれだけ被害が出ますから」
実に始末が悪かった。
「それも。やっぱり」
「始末に悪いなあ」
「っていうかカガリやアスカも」
彼女達も問題があるのだった。
「しょっちゅう喧嘩してるし」
「フレイもね」
「困ったことに」
「それで俺がいつも止めに入っているんですけれど」
「全然ってわけね」
「はい」
こうエマに答えた。
「どうしたものでしょうか」
「薬を打ち込んではどうかな」
さりげなく暴言を言ったのはギャブレーだった。
「猛獣を止めるのならあれが一番だが」
「薬か」
「そうだ」
レッシィに答える。
「象や虎を止めるのならば一番でだと思うが」
「シンは猛獣だったんだ」
カツはこのことに驚いていた。
「人間じゃなくて」
「少なくとも始末の終えなさは猛獣かもね」
エマもさりげなくきつい。
「やってることが動物園に入れられたばかりのニホンザルだし」
「猿だったんだ、あいつって」
バーニィがその言葉に驚く。144
「確かに凶暴だけれど」
「その凶暴さが問題なのよ」
クリスもそこを指摘する。
「闘争心がそれだけ高いってことだけれどね」
「その闘争心の高さがシンの売りだけれどね」
セレーナはそれはよしとした。
「けれどね。極端なのよ」
「あいつは確かに頼りになります」
アスランもそれは認める。
「けれどあの喧嘩っぱやさは。本当に」
「しかも女の子とばかり喧嘩してるわね」
「はい」
今度はフォウに答えた。
「そうなんです。何故か」
「そういえばアスカやカガリもな」
オデロが言った。
「男とばかり喧嘩するよな」
「ああ、そうそう」
それにファが頷く。
「いつもね。女の子とは喧嘩しないのよね」
「それどころか仲がいいぞ」
トマーシュはこう指摘した。
「女の子にはな」
「何でだ?」
皆それは言う。
「何でお互いばかり喧嘩するんだ?」
「何故かしら」
「まるで縄張り争いの猿だな」
また猿を言葉に出したのはアレンだった。
「あいつ等の行動見ていたらな」
「つまりガキってことだろ?」
フェイもばっさり切り捨てる。
「あいつ等は」
「結局そうなんですよ」
アスランはそこに結論を見出した。
「シンは。あれで結構成長もしているんですけれど」
「何だかんだでシンを認めているんだな」
「凄い奴なのは確かです」
カミーユに対してこう返した。
「ザフトでもあいつより上のトップガンはいません」
「そうか」
「ただ。ここで一皮剥けてもらうとな」
アムロはそこを見ていた。
「かなり違うんだがな」
「キラはかなりよくなったがな」
ブライトはその点ではキラの方を認めていた。
「少なくとも戦いを受け入れるようになった」
「ああ。そうだな」
「後はシンの冷静さだが」
「それについては今はいいと思う」
だがアムロはここでこう言うのだった。
「いいのか」
「あいつの場合はそれが戦闘に直接に出ている」
シンらしいと言えばシンらしかった。
「デスティニーガンダムにもな」
「あのガンダムにもか」
「あれはシンにしか扱えない」
そういうガンダムなのだ。
「かえって角を溜めてはな」
「駄目か」
「名馬は扱いにくいものだしな」
シンを名馬だと言った。
「それを考えればな」
「そうか。下手に止めては駄目か」
「俺はそう思う。シンにとっては人間としてもパイロットとしてもな」
「じゃあ今のままですか?」
アスランはこれを聞いてまた顔を曇らせた。
「シンは。あのまま」
「暖かい目で見守ることだ」
これがアムロの考えだった。
「今はな。そうすればきっと」
「今でかなり暖かいつもりなんですが」
「ははは。それはわかるさ」
アムロもアスランのその気遣いはわかっていた。
「それはな。けれどだ」
「より暖かくですか」
「そう。シンに対してはあれこれ言ったらかえって駄目だな」
「ですか」
「人によってはあれこれ言わない方がいい」
こうも言う。
「シンはまさにそうだな」
「わかりました。それじゃあ」
「そうしてくれ。さて」
「ああ」
今度はブライトがアムロの言葉に応える。
「そろそろだな」
「ああ。御前も感じるか」
真剣な顔でブライトに対して問う。
「この凄まじいまでのプレッシャーをな」
「私もそうしたものを感じるようになったのだな」
薄い苦笑いと共の言葉だった。
「御前と付き合うようになってな」
「どうだ?ニュータイプの気分は」
「それは別にな」
特に思うところはないといった感じであった。
「何も思わないな」
「普通の人間と変わりないか」
「そう思うが。違うのか」
「いや、その通りだ」
だがアムロの答えはそうだというものだった。
「ニュータイプも人間なんだ。ミュータントじゃない」
「そうだな」
「それを誤解されることが多いが」
「ああ。私はそれはないつもりだった」
ブライトは自分で述べる。
「だが。実際になってみるとだ」
「余計にそれを感じるか」
「ニュータイプも人間だ」
ブライトは今度ははっきりと言った。
「そういうことだな」
「そうさ。そしてこれは」
「ニュータイプだけで終らないか」
「修羅もだ」
今戦っているその修羅に対してもそうだというのだ。
「彼等もな。人間だ」
「人間か」
「そこに心があるか」
また言うアムロだった。
「問題はそれだけじゃないかな」
「心か」
「逆にこれがないと人間じゃない」
こうも話す。
「これがないとな。だから」
「それを見極めることか」
「俺はそう思う。それではな」
「うむ」
またアムロの言葉に頷いてみせる。
「では行くとするか」
「そうだ。また戦いにな」
この話の暫く後だった。警報が鳴った。
「むっ!?」
「来たか」
「敵発見!敵発見!」
ザズが皆に告げる。
「来たよ!前方にね!」
「数は六千です!」
サンユンも言ってきた。
「かなりの数です!」
「おい、六千って何だよ」
「どれだけいるのよ!」
皆その数を聞いて思わず叫ぶ。
「それだけ来るなんてな」
「メール=シュトローム作戦以来!?」
「それだけ向こうも本気だということだ」
クワトロがクールに皆に言った。
「修羅も。正念場だ」
「正念場ですか」
「ここが」
「そうだ。だから我々も気が抜けない」
アポリーとロベルトに対して告げる。
「いいな。それではだ」
「はい。それでは」
「行きましょう」
「全軍出撃して下さい」
「行くで!」
タトラとタータが言う。
「敵の皆さんが待っていますよ」
「気合入れていくで!」
「了解・・・・・・って言いたいけれどな」
「何か今の言葉って」
ダッカーとフィジカが難しい顔をしている。
「調子が狂うな」
「チゼータの乗りはどうも」
「うだうだ言わんと早く行かんかい!」
ここでタータが叫んできた。
「敵は待ってくれへんのや!」
「聞こえてたのか」
「そうみたいだね」
彼女は地獄耳だった。このことを確かめつつ今出撃するのだった。
出撃するともう。目の前には修羅の軍勢が展開していた。やはりかなりの数だ。
「確かにいるな」
「ええ。六千はね」
レイに対してルナマリアが答える。
「洒落にならないわよ、これは」
「数では圧倒的な差がある」
レイは冷静に双方を分析していた。
「しかしだ。それでも戦い方はある」
「どうするの?」
「広範囲攻撃だ」
彼が選ぶのはそれだった。
「ここはな」
「じゃああんたはドラグーン使うのね」
「そのつもりだ」
クールにルナマリアに答える。
「御前はどうする?ルナマリア」
「あたし?」
「お姉ちゃん、補給のことは心配しなくていいから」
ミネルバからメイリンの通信が入った。
「ガンガンやっちゃって」
「やっちゃっていいの」
「お姉ちゃんの下手な射撃でもまず大丈夫よ」
これは言わなくていいことであった。
「これだけ数いればね」
「最近当たってるわよ」
少しムキになって妹に返す。
「百発百中よ。多分ね」
「っていうか昔が酷過ぎたんじゃない」
こうクレームをつけるメイリンだった。
「全く。出鱈目だったんだから」
「うう・・・・・・気力下がるわ」
「上がってるように見えるが」
「横から言わないの」
レイに対してまた言う。
「まあこれだけ数がいればね。いちいち狙わなくてもいいわね」
「それにだ」
「カミーユさん」
二人にカミーユが言ってきた。
「宇宙怪獣との戦いはこんなものじゃない」
「数がですか」
「十万やその辺りは普通だ」
「十万・・・・・・」
数を聞いて絶句するルナマリアだった。
「何なんですか、その数って」
「それだけの数だ。こんなものじゃない」
「また宇宙怪獣とも戦うことになるんですよね」
「それ普通に避けられないみたいよ」
今度はミリアリアから通信が入った。
「どのみちね。ガンバスターだってその為に太陽系の外で頑張ってるし」
「そうなの」
「っていうか宇宙怪獣までいるんだ」
トールはそれを聞いて青い顔になった。
「折角助かったのに何でそんな奴等までいるんだよ」
「俺、やっぱり降りた方がよかったかな」
カズイは今更そのことを後悔していた。
「十万って何なんだよ」
「これはかなり大変だね」
サイは冷静だったがそれでも顔は青かった。
「十万どころじゃないだろうし」
「っていうか今からそんなこと言わないのっ」
横からフレイが言って来た。
「今ここにいる修羅だけでも壮絶なんだからね」
「そういうフレイはどうなのよ」
「どうなのよって?」
ルナマリアに対して返す。
「敵は六千よ」
「ええ」
「あんたはどうやって戦うつもりなの?」
「ドラグーンね」
彼女の出した結論はこれだった。
「それで一気にやるわ」
「ドラグーンってレイと同じよね」
「あると全然便利よ」
笑ってルナマリアに返す。
「ミーティアだけじゃ足りないじゃない」
「そういえば」
今のフレイの言葉でキラはあることに気付いた。
「ミーティアは今フリーダムとジャスティスの二つだけれど」
「それがどうかしたの?」
「これからこの二つだけで大丈夫かな」
キラもまたこれからのことを考えだしていた。
「フリーダムとジャスティス以外にも。いるんじゃないかな」
「ああ、それね」
ユウナがそれに応える。
「キラ君、一つ聞きたいんだけれど」
「何ですか?」
「フリーダムとジャスティスも専用パイロットだよね」
「はい」
「それ、書き換えることできるかな」
「専属パイロットの書き換えですか」
「そう。それできる?」
こうキラに尋ねるのだった。
「パイロットの書き換えは。どうかな」
「はい、大丈夫です」
キラはユウナの問いに答えた。
「少し手間がかかりますけれどそれは」
「大丈夫ですか」
「ただ」
「ただ?」
「何かあるんですか?」
ユウナが何か考えているのではと思い尋ねた。
「オーブの方で何かあるんですか?」
「あっ、いや」
こう言われると急に慌てだすユウナだった。
「それはね。まあ」
「まあ?」
「何でもないよ」
何故かここで誤魔化してきた。
「別にね。何でもないから」
「ないんですか」
「うん、だから気にしないで」
こう言うのだった。
「別にね。ただ聞いただけだから」
「はあ」
「そうか。書き換えできるんだ」
あらためてこのことを言うユウナだった。
「じゃあイザーク君がジャスティス、ディアッカ君がフリーダムかな」
「それがいいですね」
何故かアズラエルもユウナの言葉に頷く。
「ここは」
「そうですね。あとニコル君がデスティニーで」
「はい。それで」
「何かおかしいな」
シンもここで気付いた。
「ユウナさんとアズラエルさんの今のやり取り」
「そうだよね」
キラはシンのその言葉に頷いた。
「シンもそう思うよね」
「ああ。何か」
そして言うのだった。
「何か企んでいるな」
「企んでいる?」
「そういう感じだな。何を企んでいるか知らないがな」
「気のせいですよ、シン君」
しかし当のアズラエルは涼しい顔である。
「企んでいるというのはあれですね」
「あれ?」
「そう。悪いことをする時です」
とは言っても今のアズラエルの顔は如何にもであった。
「ですが今は違います」
「違うって何か」
「悪いようにはなりません」
今度はこう言ってきた。
「ですから御安心を」
「けれどアズラエルさん」
次はキラがアズラエルに対して問うてきた。
「悪いようにはしないって言葉って」
「はい」
「悪いようにする時の言葉ですよね」
身も蓋もない言葉だった。
「結局のところ」
「そうともばかり限りませんよ」
あっさりと受け流してしまった。
「ですから御安心を」
「はあ」
「どちらにしろキラ」
ここでシンがキラに声をかけてきた。
「今は敵の数が多い」
「うん」
「一斉射撃できるか?」
「できるよ。それじゃあ」
「ミーティアはこういう時に役に立つからな」
「確かにね」
大勢の相手をする為のものだ。これは言うまでもない。
「だから頼むぞ」
「わかったよ。じゃあ」
「二つでも足りない感じだがな」
シンはできれば自分もと考えていた。しかしそれは無理なことはわかっていた。ロンド=ベルも戦力の限界を感じだしていたのである。
だがその中でも皆果敢に戦っていた。
「そこだっ!」
ギュネイが攻撃を仕掛ける。
「喰らえっ、ファンネル!」
「行けっ、ファンネル達!」
そしてクェスも。無数のファンネルを放ちそれで敵を倒していく。
「これでこの戦い十機目だな!」
「私は十二機よ」
「ちっ、それでもよ」
「そうね」
クェスはギュネイの言いたいことがわかっていた。
「減らない、全然」
「こいつ等、冗談抜きで戦力をかき集めてきやがったか」
「驚くことではない」
その二人にクワトロが言う。
「この程度のことは予測済みだ」
「じゃあ大尉」
「どうするの?」
「いつも通り戦うまでのこと」
クワトロの言葉は至って冷静だった。
「こうしてな。ファンネル!」
彼もまたファンネルを放つ。
「オールレンジ攻撃!」
それで二人よりも広範囲の修羅達を攻撃し倒す。今ので十機は撃墜した。
「こうするだけだ」
「流石ですね」
ギュネイも今の攻撃には感嘆するしかなかった。
「十機一度になんて」
「やっぱり大尉、凄い」
「二人にもこの程度のことはできる」
クワトロはここで二人に対して言った。
「すぐにな。では頼むぞ」
「とにかくがむしゃらにやってくしかないか」
「そうね」
クェスがギュネイの言葉に頷く。
「ここはね」
「行くぞクェス」
またクェスに声をかける。
「とにかく撃って撃って撃ちまくる!」
「ええ!」
二人もまた果敢に攻撃を続ける。そしてその中で。ハマーンもまたキュベレイを縦横無尽に駆り修羅達を撃墜していたのであった。
「ハマーン、大丈夫!?」
「ミネバ様」
そのハマーンにミネバが通信を入れてきた。
「もう随分と戦ってるけれど」
「御心配には及びません」
モニターから心配する顔を見せているミネバに対して話す。
「この程度はいつものことではありませんか」
「けれどもうかなりの敵を倒しているし」
「疲れですか」
「ジュースを用意してあるわ」
言うまでもなくハマーンの為である。
「何だったら一度グワダンに戻って」
「ミネバ様・・・・・・」
「とにかく無理はしないで」
ハマーンを気遣っての言葉だった。
「この戦いが幾ら激しくても」
「わかりました。それでは」
「ハマーン様、ここはお任せを」
いいタイミングでマシュマーが出て来た。
「不肖このマシュマー=セロが」
「本当に最近不肖って感じでしたよね」
ゴットンも言わなくていいことを言う。
「出番がなくて」
「ゴットン、御前は黙っていろ」
早速マシュマーに怒られる。
「だからいつも一言多いのだと」
「すいませんって、それは」
「全く。いつもいつも」
「とりあえず今度はあたし等が前に出ますよ」
キャラも出て来た。
「ゲーマルクとザクスリー改じゃそう感嘆には負けませんよ」
「そうか。では私は一旦」
「はい。ここはお任せ下さい」
こう言うマシュマーだった。
「思う存分戦ってみせましょう」
「やっぱり私もですか」
「当然だ」
ゴットンに対しては容赦がない。
「見事戦い散れ。いいな」
「死にたくはないんですけれどね」
「たわけ者!」
今のゴットンの言葉には少し本気だった。
「ゴットン!貴様それでもかつてはネオ=ジオンのパイロットか!」
「今はロンド=ベルですけれど」
「それでもだ!恥を知れ!」
こう言って怒るのだった。
「私は悲しいぞ!貴様がそんな男だったとはな!」
「それはわかりましたけれどマシュマー様」
「何だ!?」
「来ましたよ」
ここでこう彼に告げた。
「敵が。それもかなり」
「くっ、来たか」
「任せておきな」
キャラが前に出た。
「このゲーマルクはそう簡単にはいかないよ!」
言いながらメガ粒子砲とファンネルを放つ。彼等も健闘していた。
修羅達は数で押す。しかしロンド=ベルは広範囲の攻撃でそれに対する。戦いは何時しか膠着状態となり修羅が次第にその数を減らしていっていた。
「アルティス様」
「うむ」
メイシスの言葉に応える。
「今数が半数を切りました」
「そうか」
「どうされますか」
あらためてアルティスに問うてきた。
「ここは」
「全軍戦術を変更する」
ここでアルティスはこう言った。
「全軍集結しろ」
「集結ですか」
「そうだ。そして一点突破を仕掛ける」
こう作戦を変更したのである。
「敵の中央を集中攻撃してだ」
「わかりました。それでは」
「全軍中央に集結せよ!」
アルティス自身が指示を出す。
「そこを突破する!私が先陣を務める!」
自らも先陣を務めるとも言った。そしてその言葉のまま来た。その四本足のマシンを見てロンド=ベルも思わず声をあげてしまった。
「来たか!」
「閃光のアルティス!」
「フォルカ!」
その中フェルナンドがフォルカを呼ぶ。
「来たぞ、遂に」
「わかっている」
フォルカもまたそれはわかっていた。
「アルティス、遂に」
「どうする?」
今度はこうフォルカに問うてきた。
「行くか?御前が」
「うむ」
返答は決まっていた。
「行く。いや」
「いや?」
「行かねばならない」
これがフォルカの考えだった。
「やはりここはな。俺が」
「そうか。そうだな」
「そうだ。だからこそだ」
「わかった」
フェルナンドもその言葉を受けた。
「では行け。そして掴んで来い」
「無論だ。その為に俺は」
既に迫る修羅の軍の前にいた。
「戦っている。そして!」
叫ぶ。全身に闘志をみなぎらせ。
「掴む!俺の見るべきものを!」
「フォルカ!」
そこにアルティスが迫る。
「やはりここに来たか」
「その通りだ」
既に構えに入っていた。
「アルティス!今度は貴様の番だ!」
「私の番だと?」
「そうだ、俺は御前に見せる」
両手をゆっくりと旋回させていた。手を開いて。
「この俺が目指すものを。新しい修羅を!」
「戯言よ」
だがアルティスはフォルカのその言葉を切り捨てた。
「何が新しい修羅か。貴様も知っている筈だ」
「修羅の掟をか」
「そうだ。裏切り者は滅ぼす」
このことをフォルカに対して告げた。
「このことをな。だからこそフォルカ!」
アルティスの言葉が強いものになった。
「私は貴様を倒す!行くぞ!」
「来い!」
フォルカもそれを受けて前に出た。
「今ここで!」
「決着をつける!」
「アルティス様!」
だがここでメイシスも来た。
「ここは私が!」
「ならん!」
しかしそれはアルティスが止めてきた。
「メイシス!そなたは来るな!」
「何故ですか!」
「これは私の闘いだ」
それが理由だというのだ。
「この私のな。だからこそ」
「私はならないと」
「そうだ」
やはりこう答えてきた。
「決して来るな。いいな」
「うう・・・・・・」
「これは命令だ」
アルティスの言葉が強くなった。
「いいな」
「・・・・・・わかりました」
命令とまで言われては仕方がなかった。メイシスも従うのだった。
「では私は」
「よお」
しかしここで出て来た者がいた。
「丁度暇だ。相手をしてもらいたいんだがな」
「アリオン」
「風に呼ばれてやって来たぜ」
いつもの軽い調子でメイシスにも語る。
「だからよ。いいか?」
「手加減はしないぞ」
メイシスの目も真剣だった。
「私もまた修羅なのだからな」
「生憎フェミニストとかそういうのはないんだよ」
アリオンもまたメイシスに応えて身構える。
「女でもな。全力で倒す」
はっきりと言い切った。
「だからだ。行くぜ」
「来い。氷にして」
「この風の呼び掛けで」
「砕いてやろう!」
「風穴を空けてやる!」
二人もまた闘いに入る。二組の闘いがはじまった。そうしてその中で。フォルカはフェルナンドと激しい闘いをはじめていた。
「はああああああああああああああああああっっっ!!」
あの二匹の龍を放った。それでアルティスを襲う。
「まずはそれか」
「この龍、かわせるか!」
技を放ったうえでアルティスに対して問う。
「貴様にこの龍が。どうだ!」
「かわす必要はない!」
これがアルティスの返答だった。
「この程度の攻撃!」
「この程度だと!」
「そうだ!」
強い光をたたえた目で言ってきた。
「この程度では。私は倒せん!」
「何っ!」
「受けよ!」
フォルカに対して叫ぶ。
「紅蓮妖光弾!」
「それか!」
「はあああああああああああっ!!」
フォルカもまた叫んだ。そしてその炎で二匹の龍を打ち消してしまった。
「なっ、おい!」
「まさか!」
ロンド=ベルの者達はそれを見て思わず叫んだ。
「フォルカのあの龍を」
「消した!?」
彼等が驚くのはこのことだった。
「まさかあの龍を消すなんて」
「あいつ一体」
「驚くことはない」
その一同にフェルナンドが言ってきた。
「この程度のこと。あの男にとってはな」
「造作もないことだっていうのかな」
「そうだ」
万丈に対して答える。
「あれもな。何でもないことだ」
「成程ね」
万丈はそれを聞いても普段の落ち着いた様子を崩さない。
「それはまたね。凄いものだね」
「っていうか万丈さん」
今の万丈の言葉にゼオラが突っ込みを入れる。
「何でそんなに冷静なんですか?」
「そうでしょ」
アラドも彼に言う。
「あんなの見て。それでそんなに冷静だなんて」
「簡単な力学だからね」
「力学!?」
「っていうと」
「馬鹿、物理でしょ」
力学が何かわからないと見てすぐアラドに対して言うゼオラだった。
「物理の基本中の基本じゃない」
「そうだったっけ」
「そうだったっけってね。本当にわかってないの!?」
「物理はわかるよ」
「本当に!?」
「スクールで習っただろうがよ」
このことを話の根拠にしてきた。
「それで何でわかんねんだよ」
「あんたずっと落ちこぼれだったじゃない」
ゼオラの言葉は厳しい。
「特に物理とかそういうのは。どうなのよ」
「だからよ。わかってるって言っただろ」
まだ言うアラドだった。
「そんなことよ」
「どうだか。とにかくね」
「ああ、今度は何だよ」
「フォルカさんのことよ」
話をかなり強引に戻してきた。
「そしてあの」
「フォルカさんのお兄さんか」
「そういうこと。わかってるわよね」
またアラドに対して言ってきた。
「あの龍が簡単に消えるなんて」
「だからさ。驚くことはないよ」
しかしここで万丈はまた二人に話す。
「これ位のことはね」
「想定の範囲内ですか」
「そういうこと。けれど」
あらためてアラドに対して言ってきた。
「けれど?」
「あの龍を消すなんて」
「かなりの実力者なのは問題ないね」
そういうことだった。
「これはね」
「そうですよね。この強さは」
「まさかって思いますけれど」
また言うアラドだった。
「フォルカさん以上」
「少なくとも勝るとも劣らないだろうね」
万丈はそう見抜いていた。
「これはね」
「フォルカさん・・・・・・」
「けれどゼオラ」
不安になったゼオラにオウカが言ってきた。
「行っては駄目よ」
「それはわかってます」
わきまえてはいるゼオラだった。
「ですが」
「安心しなさい」
オウカはまた言ってきた。
「彼は勝てるわ」
「勝てますか」
「ええ、必ずね」
強い言葉になっていた。
「だから。安心しなさい」
「・・・・・・わかりました」
「頼みますよ、フォルカさん」
アラドは純粋にフォルカに声援を送っていた。
「絶対に。勝って下さいよ」
「アルティス・・・・・・」
フォルカは己の龍を消されてもまだ闘志を失ってはいなかった。
「まだだ」
「まだだというのか」
「そうだ。この程度で!」
強い言葉で叫んできた。
「俺は敗れはしない!まだだ!」
「面白い。ならば」
アルティスの全身も闘志が覆っていく。
「私も今最大の技を見せよう」
「むっ!?」
「行くぞ!」
叫びつつ構えに入って来た。
「この閃光のアルティス最大奥義」
「!?このプレッシャーは」
「尋常じゃない!」
アムロとショウがまず感じ取っていた。
「これがあの男の」
「オーラだというのか」
「ショ、ショウ」
チャムが青い顔でショウに言ってきた。
「これだけのオーラ力って」
「ああ。ハイパー化しかねない」
こうチャムに返した。
「俺達なら」
「そうよね。これだけの気って」
「修羅なら神化。そこまでの力だ」
「けれどそれだとよ」
トッドがそのショウに言う。
「フォルカの旦那だって同じだろうが」
「神化か?」
「そうだ。いや」
トッドならばわかった。
「こりゃ。旦那以上かもな」
「どうやらな。この強さは」
「大丈夫かしら」
チャムもまたゼオラ達と同じ不安を感じていた。
「このままだと。フォルカ」
「いや、それでも」
そのチャムに対して言うショウだった。
「俺達は動いてはいけない」
「駄目なの?」
「そうだ。何があっても」
こう言うのだった。
「動いちゃいけない。ここはフォルカに任せるんだ」
「任せる・・・・・・」
「今目の前の敵を倒す!」
ビルバインの剣を掲げて言う。
「それが今の俺達がやることだ!」
「そうだ、ショウよ!」
いいタイミングでトッドがまた声をかけてきた。
「行くぜ。いいな!」
「わかってる!」
「そうよね。それじゃあ!」
チャムもそれに乗ってきた。
「いっけえええええーーーーーーーっ!!」
「だから耳元で怒鳴るな!」
彼等も彼等で戦っていた。そして二人もまた。互いの技を放とうとしていた。
「行くぞ」
「来い!」
フォルカがアルティスに返す。
「我が紅蓮の炎!」
あの紅蓮の炎を放ってきた。
「またそれかよ!」
「いや待って!」
皆その攻撃を見てまた言う。
「それだけじゃないわ!」
「何だって!?」
「アルティスが」
「突っ込む!?」
「この程度は!」
フォルカも炎は避けていた。しかし。
「紅蓮の衝撃受けてみよ!」
「来たな!」
「溶解せよ!その身もろとも!」
「な、何だあれは!」
「マルディクトが炎に包まれた!」
まず見たのはそれだった。
「そしてまだ来るか!」
「なおも!」
「くうっ!」
その突撃を受けてヤルダバオトが天高く吹き飛ばされた。
「フォルカ!」
「フォルカさん!」
「空を見ろ」
アルティスは吹き飛ばされたフォルカに対して告げる。
「そこに死兆星がある」
「何っ、死だって!?」
「それじゃあ」
「フォルカ!」
「うおおおおおおおおおおおおおっ!」
吹き飛ばされたヤルダバオトは紅蓮の炎に包まれている。しかしそれでもまだフォルカはまだ健在であった。
落ちそのまま地面に叩き付けられる。それでもそこから立ち上がったのだ。
「・・・・・・まだだ」
「生きているか。やはりな」
アルティスはそれを見ても驚いてはいなかった。
「相変わらずの生命力だ。それは認めよう」
「言った筈だ」
起き上がりながらアルティスに対して告げる。
「俺は死なないと」
「死なないか」
「そして倒れない」
こうも言った。
「決してな。俺は俺の見るべきものを掴む」
「掴むだと?」
「そうだ。俺は掴む」
アルティスを見据えつつ彼に対して言う。
「この拳で。新しい修羅を!」
「面白い。それならばだ」
アルティスはそれを聞いて再び身構えた。
「私もまた貴様を倒そう」
「俺をか」
「修羅王様を倒すつもりだな」
「如何にも」
このことを隠すことはなかった。
「何があってもな。だからだ」
「来るというのだな」
「そうだ。そしてアルティス」
「何だ」
「貴様を倒す。だが」
「だが?」
「貴様の命は取らない」
今はっきりと告げていた。
「決してな。それはな」
「ないというのか」
「そうだ!」
今度は叫んできた。
「御前もまた俺の兄弟だ。それならばだ」
「ふむ。よかろう」
アルティスはフォルカの今の言葉を受けて言ってきた。
「それならばな」
「いいというのか」
「如何にも」
また言うアルティスだった。
「以前誓った筈だ」
「むっ」
「覚えているか。我等が義兄弟となったその時のことを」
「あの時のことをか」
「忘れたわけではあるまい」
フォルカに対して問うてきた。
「あの時の誓いを」
「あれか」
「そうだ。互いが拳を交えた時」
「うむ」
「その命だけでなく全てを手に入れると」
「あれか」
「そうだ。修羅の誓いだ」
アルティスはフォルカを見返しつつ言うのだった。
「その誓いを忘れたわけではあるまい」
「その通りだ。だからこそ俺は」
「私を倒すというのか」
「その時にまた言おう」
アルティスに対して告げた。
「俺の真意を。その時に」
「面白い。ならば」
アルティスのマルディクトの全身を再び紅蓮の炎が覆った。
「この拳で。全ての決着をつけるとしよう」
「望むところだ!」
フォルカの全身もまた気が覆っていく。
「この拳で!貴様を!」
「御前を!」
「決めてやる!」
「覚悟!」
「いよいよかよ」
ロンド=ベルの者達はそれを見て呟く。
「これで決まるな」
「ええ」
「この一撃でね」
彼等はこのことを確信していた。次で決まると。
「何があってもな。これでな」
「終わりね」
「フォルカ・・・・・・」
フェルナンドは二人の闘いを見ていた。
「アルティス、御前達もまた」
闘いを見ながら言う。
「俺と同じになれるのかもな」
「ふむ」
しかしアルコだけは。何故かここで笑っていた。
「そろそろだな」
「はいっ!?」
「アルコ殿、今何と」
その言葉を受けた彼の部下達が問うてきた。
「仰ったのですか」
「そろそろ?」
「ふふふ、何でもない」
彼はその髑髏を思わせる顔を笑わせただけであった。
「何でもな」
「ないのですか」
「はあ」
「しかしだ」
だがここでまた言うアルコだった。
「ここは暫く御前達に任せる」
「はい!?」
「我々にですか」
「そうだ」
楽しげに笑って彼等に言うのであった。
「わかったな」
「わかりました」
「御命令とあらば」
彼等は部下としてアルコの言葉を受けた。
「それではその様に」
「お任せ下さい」
「頼んだぞ。では」
これで彼は何処かへと向かった。だが彼は何故か姿を消してしまったのだった。
今二人が激突する。闘志と紅蓮が今ぶつかり合った。
「はああああああああああああああああああっ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
拳と拳が打ち合う。まずはその力がせめぎ合う。
「す、すげえ」
「何て力なんだ」
皆二人の激しい力を見て言うのだった。
「あれだけの力がぶつかり合うなんて」
「しかも」
まだ力はせめぎ合っていた。
「どうなるんだ?一体」
「このまま決着がつかないっていうの!?」
「いや」
しかしここでフェルナンドが言った。
「それはない」
「ない!?」
「ああ、ない」
はっきりと告げるフェルナンドだった。
「それだけはない」
「決着がつくっていうのね」
「絶対にだ」
こうも皆に告げる。
「決着はつく。見ろ」
「むっ!?」
「今それがわかる」
見ればそれまで完全に膠着していた力と力が次第に動きだしていた。
「どちらが勝つのかな」
「ま、まさか」
「フォルカさん・・・・・・」
彼等は今その力と力の動きを見ていた。
「倒れたら・・・・・・」
「倒れるんじゃねえ!」
思わず叫んだのはコウタだった。
「ここで終わるのだけは許さねえからな!」
「に、兄さん」
「見せてみやがれ!」
ショウコの言葉をよそにまた叫ぶ。
「その力!そんなものかよ!」
『案ずるな、コウタ』
だがここでロアが彼に言ってきた。
『あの男を信じろ』
「信じてるさ」
『信じているのか』
「ああ、だから今こうして叫んでやる!」
彼もまたその心を向けていた。
「フォルカ!勝て!」
こう叫ぶのだった。
「そしてまた俺と闘え!いいな!」
「兄さん・・・・・・」
コウタの言葉はフォルカに向けられたものだった。それを受けてか。力は少しだけフォルカの方に傾いたのだった。
「むっ!?」
「よし!」
それを見たフォルカがまた叫ぶ。
「今だ!」
「くっ、来たか!」
「終わりだアルティス!」
アルティスに対しても叫ぶ。
「これで!俺は!」
「来るというのか!」
「そうだ!」
また叫ぶのだった。
「これで俺は!」
そして。
「貴様を倒す!!!うおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーっ!!!」
最後の絶叫だった。フォルカの力がアルティスのそれを圧倒した。そして。
「うおおおおおおおおおおおおっ!!」
フォルカの気が遂にアルティスを吹き飛ばした。それが勝敗が決した時だった。
「アルティス様!」
それを見てメイシスが叫ぶ。彼女もまたかなりのダメージを受けていた。
「ううう・・・・・・」
「勝負ありだな」
「くっ、見事だ」
己の前に立つヤルダバオトに対して言った。6
「まさかこれ程までとはな」
「俺の勝ちだ。つまりだ」
「わかっている」
何とか立ち上がる。だがそれで精一杯であった。
「貴様の勝利だ。私は敗れた」
「俺と共に進むつもりはないか」
「何っ!?」
「フェルナンドにも言った。俺は倒さない」
「私に情とかけるというのか」
そう解釈したアルティスの顔が曇った。
「それは修羅に対して」
「それも見て欲しいのだ」
だがフォルカはここでまた言った。
「それもだ。新しい修羅をだ」
「新しい修羅だと」
「ただ。命を削るだけ」
フォルカは今度は話に命という言葉を出してみせた。
「それが正しいのか」
「何が言いたい」
「俺は思うようになっていた」
またアルティスに対して言う。
「修羅は果たしてこれが正しいのかとな」
「互いに命を賭け合うことがか」
「それは違う」
また言った。
「そう思うようになってきていた」
「だからフェルナンドに情をかけたのか」
「その通りだ」
このことも語った。
「そしてだ」
「修羅を抜け今また私に情をかけるというのだな」
「情をかけるのではない」
それは否定した。
「だが」
「だが。何だ」
「俺は命を奪わない」
彼が言うのはこのことだった。
「命は。だからこそ俺は」
「今も私を殺さぬというのか」
「そうだ。不服なら去るといい」
こうまでアルティスに言うのである。
「去り。そして」
「そして?」
「また俺の前に出て来るのだ。不服ならばな」
「フェルナンドと同じくか」
「俺は何時でも闘うことはできる」
「何時でもか」
「だから。アルティスよ」
アルティスを見据えての言葉だった。
「俺は御前の命は奪わない。決してな」
「わかった」
そしてアルティスは彼の言葉を静かに受け止めたのだった。
「フォルカ、御前の心はな」
「わかったというのか」
「そうだ。そして」
「そして?」
「御前のその心を見てみたくもなった」
アルティスもまたフォルカを見据えて言う。
「是非共な。だからこそ」
「俺と共に歩むというのか」
「それはまだわからない」
それについては流石に即答はなかった。
「しかしだ」
「俺と共にいるというのか」
「そうだ。今からな」
その言葉には迷いはなかった。
「貴様のその心を見たい。いいか」
「わかった」
フォルカもまた彼のその言葉を受けた。
「ではアルティスよ」
「うむ」
「また再び共に」
「見せてもらおう」
今二人も誓い合おうとした。しかしその時だった。
「んっ!?何だあいつ」
「急に出て来た!?」
「一体あれは」
ここで皆が言った。修羅のうちの一機が急にアルティスに対して向かって来たのである。
「危ない!」
咄嗟にメイシスが動こうとする。だが。
「くっ・・・・・・!」
アリオンとの戦いでかなりのダメージを受けてしまっていた。咄嗟に動くのは不可能だった。
「くっ、無念・・・・・・」
「死ね、アルティス!」
「!?御前は」
ここでその男が叫んできた。
「まさか」
「その通りだ!貴様は最早用済みだ!」
男は叫びながらアルティスに対して向かう。
「死ね!苦しまないようにはしてやろう!」
「くっ、だが!」
アルティスも彼に対しようとする。しかし。
「ぐうっ・・・・・・!」
彼もまたダメージを受け過ぎていた。それが動きを止めてしまった。
「しまった、このままでは・・・・・・」
「この時を待っていたのよ!」
男はまた叫ぶ。
「貴様を倒して俺が将軍だ!」
「ぬかった・・・・・・」
「くそっ、何なんだよ!」
「折角アルティスさんがわかってくれたのに!」
ロンド=ベルの面々も間に合う場所にいない。だから彼等も歯噛みすづだけだった。
「あの野郎、誰だ!」
「一体何処から!」
「これで終わりだっ!」
そのマシンがマルディクトに技を繰り出そうとする。
「死ねえっ、アルティス!」
このまま拳がアルティスの胸を貫こうとする。しかしその時だった。
「させんっ!」
「なっ、何っ!!」
「はああああああああああああああああっ!」
フォルカだった。咄嗟に前に出た彼はアルティスとその男の間に入って構えを取りはじめていたのだ。両手が再び旋回しだしている。
「喰らえっ!」
「うおおおおおおおおおっ!!」
男はその技を受けて吹き飛ぶ。こうしてアルティスは何とか守られたのだった。
「アルコだな」
「くっ、何故俺の正体までわかった」
「気配だ」
フォルカは吹き飛ばしたその男に対して言った。それはまさしくアルコであった。
「貴様のその陰鬱な気配でわかった。全てな」
「おのれ、まさか俺の気まで読むとか」
「だがこれで貴様の謀略は退けた」
「くっ・・・・・・」
「誰の指図だ」
彼が次に言ったのはこのことだった。
「答えろ。誰の指図だ」
「言う筈がなかろう」
しかし彼はこう言って白を切ってきた。
「誰の指図によるものか?そんなもの俺が知るものか」
「知らない筈がない」
しかしフォルカはこう言ってそれを否定した。136
「ミザルの腹心の貴様がな」
「ミザルだと!?」
その名前に反応したのはメイシスだった。
「ではまさか」
「間違いない」
実はフォルカもそう読んでいたのである。
「ミザルは以前から何かを企んでいた。ならばな」
「あの男が私を除こうというのか」
アルティスにも事情はわかった。
「そうか。そういうことか」
「くっ・・・・・・」
「アルコよ」
フォルカがまたアルコに対して告げた。
「帰ってミザルに伝えろ。次は御前の番だとな」
「ええい、退け!」
見ればもう修羅の軍はその多くが倒れていた。残っているのはミザルの軍、つまりアルコの手勢達だけであった。他には誰もいなかった。
「退け!撤退だ!」
「は、はい!」
「フォルカ=アルバーク!」
アルコは最後に彼に言ってきた。
「今度は貴様だ!貴様こそ倒す!」
「来い。何時でも受けて立つ」
「覚えていろ!」
こう捨て台詞を置いて戦場を後にした。だがそれが負け犬の遠吠えであるのは誰の目にも明らかであった。勝敗は完全に決していたからだ。
戦いが終わるとアルティスはそのままロンド=ベルに下った。そしてメイシスも。
「あれっ、あんたもかよ」
「そうだ」
メイシスはアリオンの問いに対して答えた。
「それがどうかしたのか」
「いや、意外だなって思ってな」
「意外だというのか」
「あんたは生真面目だからな」
軽い言葉をメイシスにかけす。
「そのあんたがな。こうして来るなんてな」
「私にも考えがある」
ここでこう言ってきた。
「だからだ」
「考えだって?」
「そうだ。それに従っただけだ」
こう言うのである。
「ただそれだけだ」
「何かよくわからねえがな」
「あら、そうかしら」
「よくわかるわよねえ」
しかしリツコとミサトはそうではないようであった。
「これはもうかなりね」
「単純明快よね」
「そうね。ただそれにしても」
「どうかしたの?」
「あのメイシスって女将軍には」
リツコはここで眉を少し顰めさせた。
「何か親近感が湧くわね」
「親近感が」
「似てるのよ。私と」
自分でこう述べたのであった。
「何処かね。似ていない?」
「そういえばそうね」
これはミサトもわかった。
「かなり似てるわね」
「そうでしょ。そっくりさんみたいにね」
自分でも言う。
「似てるのよね」
「私とマリューみたいなものね」
ミサトも自分に思い当たる相手があった。
「そういう感じよね」
「こういうのははじめてね」
微笑んで言うリツコだった。
「けれどそれでも」
「悪い気はしないでしょ」
「ええ」
そしてミサトにもその笑顔で返す。
「その通りよ」
「それがわかるようになればかなり大きいわよ」
「今まではどうしてもわからなかったわ」
このことを言うリツコだった。
「そういう相手がいなかったからね」
「まあそれはね」
「けれどこれからは違うから」
「気持ちがうきうきしてくるでしょ」
「ええ、とても」
実際に顔が笑っていた。
「向こうもそうなのかしら」
「不思議とそうなのよ」
ミサトはこのことも笑顔で話す。
「類は友を呼ぶ、いえ」
「いえ?」
「まるで分身みたいにね」
「そう、分身なの」
「マヤちゃんとスレイちゃん、イズミちゃんなんかそうでしょ?」
「ああ、あの三人ね」
思い当たるふしはすぐそこにいた。
「あの三人もそうよね」
「そうよ。ヒカリちゃんとマクロス7のサリーちゃんもね」
「案外以上に多いものね」
「シンジ君だってイーグル君といい感じでしょ」
「ええ」
シンジにもそんな相手がいるのだった。
「トウジ君なんかね」
「ドモン君にイザーク君にって多いわよね」
「そうよ。何かとね」
「そういう関係ってロンド=ベルに多かったの」
「まあ中にはね」
特異な例もあるのだった。
「あの凱君とアズラエルさんみたいなのもいるけれどね」
「ちょっとねえ」
リツコは彼等については微妙に苦笑いになった。
「何て言うか」
「複雑な関係よね」
「なまじっか似ているとね。ああいう感じになったりするし」
「そういうケースもあることは確かね」
「まあもっとも」
また言うミサトだった、
「アズラエルさんが変人過ぎるんだけれどね」
「そういうことね。まあとにかく」
「ええ」
話が変わってきた。
「あのアルティス将軍が加わったってことはね」
「大きいわよね、やっぱり」
「多分ね。ただ」
「ただ?」
「修羅王までの最後の関門」
ミサトの言葉はこれまでとは一変して真剣なものになった。
「あの激動のミザルかしら」
「鎌髭のね」
「そう、あの彼よ」
見ればミサトはその目も強いものにさせていた。
「あの彼がね。どうしてくるかよ」
「どうしてくるか」
「そう、それよ」
「それね」
「今度の戦いで出て来るでしょうね」
「どうしてそう言えるのかしら」
「順番よ」
順番だと言ってきた。
「これはね」
「順番っていうと」
「まずフェルナンド君がこっちに入ったわね」
最初はそれだった。
「アリオン君もだったけれど」
「まずはその二人ね」
「そう。それに続いては」
ミサトはさらに言う。
「あのでかい将軍だけれど」
「確かマグナスっていったわね」
「そう、彼が死んだし」
「それでアルティス将軍がこちらに入って」
「あんたそっくりな人もね」
「そうね。じゃあ」
「そういうことよ。後はあの人だけよ」
そういうことであった。
「あの軍師さんね」
「あとはあのアルコっていう男ね」
「その二人よ。出て来るわ」
「これで二人ね」
「そう、来るわ」
また言うミサトだった。
「ここが修羅との決戦になるかしら」
「修羅王との前のね」
「ええ。さて、ここでの戦いもそろそろ大詰めだけれど」
「これで元の世界に帰るって言われても」
「ちょっち信じられないところがあるわよね」
「そうよね」
皆が言うのはこのことだった。
「何か。まだありそうで」
「あるとしたら何かしら」
「最後の最後で何か出て来るか」
「他には?」
「また別の世界に行くことになるかしら」
ミサトの言葉に少し苦笑いが入った。
「今までのパターンだとね」
「できれば起こって欲しくないけれど」
「ただね」
だがここでミサトはまた言うのだった。
「私達の世界でも偶然色々なことが起こってるけれど」
「他にもあるっていうのね」
「セフィーロの時に妙に思ったわ」
話はかなり遡っていた。
「どうしてこうも色々な世界がおかしくなってるのかしらってね」
「そういえばバイストンウェルもよね」
「そう。それもあったし」
争いがない筈の世界で争いがある。これだけでも妙なことなのだ。
「それでセフィーロまで」
「そしてこの世界もね」
「無数に世界があるけれど」
ミサトはさらに言う。
「私達が行く世界は必ずおかしくなっている」
「これも偶然かしら」
「いえ、これは多分違うと思うわ」
ミサトはこう読んでいたのである。
「これについてはね」
「じゃあどうしてかしら」
「さあ。ただ」
「ただ?」
「神様めいたものは感じるわ」
「神様、ね」
「ええ」
リツコの言葉に対して頷いてみせた。
「どうもそういうものがね」
「そういえば碇司令だけれど」
「あの人がどうかしたの?」
「死んだわよね」
「ええ、間違いないわ」
ミサトはリツコのその言葉に頷いた。また。
「死体も発見されたし」
「ただ。思うのよ」
ここでリツコの顔が曇った。
「まさかとは思うけれど」
「何?」
「あの人は本当に死んだのかしら」
「!?どういうこと?」
リツコのその言葉に顔を向ける。
「何かあったの?」
「死体がクローンだとしたら」
「クローン」
「それよ。可能性はあるわよね」
「確かにね」
リツコの言葉に顎に右手を当てたうえで考える顔になった。
「少なくともゼロじゃないわ」
「あの人だったらそれ位はね」
「するわね」
「そうよ」
流石に二人共ゲンドウのことはよくわかっていた。特にリツコは。
「そして生きていても」
「おかしくはないわね」
「冥王計画は人類補完計画の予備計画だったわ」
「若し人類補完計画が失敗したその時に」
「そうよ」
このことも二人はよくわかっていた。
「その時にすぐに銀河を消し去る為のものだったわ」
「けれどそれも」
ミサトは言う。
「結果として失敗に終わったわね」
「そうね」
「だとしたらよ」
ミサトの言葉が続く。
「ネルフ、そして碇司令は」
「司令は?」
「こうした場合いつもどうしていたかしら」
「いつも?」
「常に既に手は用意してあったわよね」
このことも語られる。
「何があってもいいようにってね」
「じゃあまさか」
「裏の裏よ」
こう言うのだった。
「それがないとも限らないわ」
「そうかもね」
そしてリツコもミサトのその言葉に頷いた。
「今までが今までだから」
「どちらにしろこれからも」
「ええ」
「何が起こっても不思議じゃないわね」
「そうね。けれどまずは」
「目の前の敵ね」
「そう、彼等よ」
結局話はここに至るのだった。
「修羅、そして修羅王ね」
「フォルカ君の活躍は大きいけれど」
「油断はできないわよね」
「修羅は強いわ」
ミサトもこのことはよくわかっていた。
「それもね。かなり」
「今は優勢でもこっちの僅かなミスで」
「そうよ」
リツコが何を言いたいのかはわかっていた。
「忽ちのうちに崩れるわよ。注意しないとね」
「じゃあそれを念頭に置いてね」
「ええ。いよいよ」
ミサトは前を見据えた。
「修羅王の宮殿よ。行くわよ」
「それまでにね」
リツコはここでその場を離れる動きを見せてきた。
「ちょっと行って来るわ」
「メイシスのところね」
「そうよ。一度話してみたいと思っていたのよ」
ミサトのほうを振り向いての言葉だった。
「それもじっくりとね」
「わかったわ。じゃあ」
「暫くここを御願いね」
「ええ。待っておくわ」
「有り難う」
こうしてリツコはメイシスに会いに行った。また二人仲間が加わったのだった。そして遂に。彼等は修羅王の宮殿へと迫るのであった。
第八十八話完
2008・10・29
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