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マクベス

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第四幕その五


第四幕その五

「マクダフ殿」
「スコットランドの敵はスコットランドの者の手で」
 そう言ってマクベスの前にやって来たのだった。
「御願い申す」
「ではマクベスは貴方がはい」
 強い声で頷いてみせた。
「是非共」
「わかりました。それでは」
「はい」
 小シェアードはそれを受けてマクダスに譲った。そうして自身は別の場に向かうのであった。
 マクダフはじっとマクベスを見ていた。だがやがてゆっくりと前に出て来た。
「この時が来るのを待っていた」
 マクベスに対して告げる。
「家族の仇を取る時を」
「わしを倒せるのか」
「貴様が何者であろうとも」
 マクベスを見据えて言葉を返す。
「私には神の御加護があるからな」
「ふん、神の加護だと」
 マクベスはその言葉を冷笑した。
「わしには予言があるのだ。わしは女から生まれた者には倒されはしない」
「女からだと」
「そうだ」
 マクベスの影はさらに薄くなる。しかしそれは誰も見てはいない。
「だからこそわしは」
「ならば私が勝つ」
「何っ!?」
 マクベスはその言葉にギクリとする。
「何が言いたいのだ、貴様は」
「私は母の腹から引き出された男だ」
 そうマクベスに告げた。
「そのおかげで母は死んでしまったが。それがこの私だ」
「何ということだ・・・・・・」
 マクベスの言葉が止まった。影が完全に消えてしまった。
「全ては魔女の悪戯だったか」
「話は済んだか」
 魔女の話なぞ知らないマクダスはまたマクベスに問うた。
「それならば。参るぞ」
「それによりわしは・・・・・・だが」 
 影はもうない。それでもマクベスはゆらゆらと前に動いた。
「それでも・・・・・・最後まで」
 その手に持っている巨大な剣を横に薙ぎ払う。だがそれにはもう力がなくマクダフにはじき返された。そうして返す刀で喉を貫かれてしまった。
「これが・・・・・・僭主の末路か」
 マクベスは死相を浮かべながら呟いた。
「魔女に誘われ罪を犯してきた男の。これが末路か」
「仇は取ったぞ」
 マクダフはそのマクベスの喉から剣を抜いた。マクベスはさながら木の葉の様にその場に崩れ落ちるだけであった。
「これで」
「終わりましたな」
「はい」
 そこにマルコム達が来る。将兵達は既に城を陥落させあちこちで凱歌が聞こえていた。
「暴君は倒れました」
 マクダフはマクベスの亡骸を見下ろしながらマルコムに告げた。マクベスの亡骸は生きていた時からは想像も出来ない程小さくみすぼらしかった。
「これでスコットランドは救われました」
「しかしあの彼がどうして」
 そこにシェアードの親子が来た。父親がマクベスを見下ろしながら言うのだった。
「立派な武将だった彼がどうしてこうしたことになったのでしょう」
「全ては。運命の悪戯でしょう」
 マクダフは言う。
「彼はそれに誘われそうして」
「破滅したと」
「そういうことになります。運命は時として残酷なものです」
 小シェアードにこう答える。
「それにより破滅したのでしょう」
「運命とは。惨いものですね」
 マルコムが言う。
「それによりこうして破滅するならば。人はあまりにも愚かでちっぽけなものです」
「いえ、むしろ」 
 マクダフは新しいスコットランド王に対して述べた。
「それに誘われ、抵抗できないことが愚かなのです」
「そうなりますか」
「人は。運命は変えられるものだと聞きます。彼がそれを知っていれば」
 またマクベスを見る。やはりその亡骸は小さく呆気ないものであった。
「こうはならなかったでしょう」
 マクダフの周りからも城内からも凱歌が聞こえる。だが皆マクベスを見てはいなかった。運命に誘われ破滅した彼のことはもう倒された反逆者でしかなかったのだった。


マクベス   完


                  2007・10・8
 
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