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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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SAO:アインクラッド~神話の勇者と獣の王者~
  白銀の金竜

「コォオオオオオォォオオオオ……!!」

 白銀の竜と化したアマテラス…否、もはやその名は《ジ・アマノイカヅチ》…は、雄々しく吠え――――その咢を、いっぱいに開いた。中に並んでいるのは鋭い歯。

 だが、別に噛みつき攻撃をしようというワケではないらしい。

 その正体は、それよりもずっとタチの悪いモノだった。

 ―――――ギュワァァァッ!! というようなサウンドと共に、黄金の光が咢の中に集約していく。あれは……ブレスの、予備動作!!

 そして。

「来る! 全力でよけるぞ!! 射程は前方長距離、横に飛べ!」
「はい!!」

 ゲイザーの言葉に従って、思いっきり射程圏外へ飛んだ、その直後。

 眩いばかりの光線が、一瞬前までセモン達が立っていた場所を薙ぎ払った。

 ――――速い!

 ――――発射の瞬間が、見えなかった……!

「これがこの形態の奴の恐ろしい所だ……以前はこれで片腕を持っていかれてな……継続ダメージが蓄積しすぎて、逃げざるを得なかった」
「そんな……」

 今でもセモンの体に着いた爪痕は、継続的にダメージを発生させている。

 だがあれは、直接攻撃されなければ発生しないという弱点があったからこそ、どうにかなったのだ。それが、遠距離まで発生可能範囲を広げるとなると……。  

「幸いなことに、一度口を開いたら発射される位置は固定だ。ただしタイムラグが恐ろしく短いから余裕を持って回避するぞ」
「了解」
「よし」
  
 セモンが頷いたのを確認して、ゲイザーが走り出した。

 それを追うように、イカヅチに突進。片手剣技《ヴォ―パルストライク》と同じモーションを取る。ジェットエンジンめいた轟音が鳴り響くき、まばゆいエフェクトライトが飛び散る。しかし、そのスピード、エフェクト量は比べ物にならない。ちなみに威力や射程距離もけた違いだ。

 《神話剣》専用片手剣技、《バーニン・ストライク》。 

 《神話剣》専用の刀剣技に《アラブル》とつくのに対し、専用片手剣技には《バーニン》がつく。何というか、作成した奴のセンスが問題だよな……と思わなくもないが……威力が高いのは、今は非常に助かることだ。

「セァァァッ!!」

 オレンジのエフェクト光が炸裂し、イカヅチの一段目のHPバーを三割も削り取る。《神話剣》のエクストラ効果で威力がブーストされている影響だ。

「コォォォッ!」

 苦悶の叫びをあげて身をよじり、刃のような尾を振るうイカヅチ。素早く薙ぎ払われたそれが、セモンを切り裂かんと迫る。

「くっ!」

 難とか回避。するとすぐ後ろから、

「スイッチ!」

 ゲイザーが飛び出す。

「セッ……」

 小さい気合いと共に、握られた拳が彗星の如く光の尾を引きながら突き出される。目にも留まらぬ光速の打撃。

 《流星拳》基本ソードスキル、《星閃打》。 

「いああああ!!」

 続けてコハクの追撃。三連撃の刺突からの、上段切り――――《スラストアンドフォール》。

 本来は両手槍の上位スキル、《薙刀》にしか使えないスキルなのだが、《妖魔槍》専用装備《オクタスン》はあらゆる槍系装備のカテゴリに入っているので、一切問題ない。さらに、エクストラ効果で衝撃波のおまけつきだ。

「コォォォァアアアアァァアッッ!!」

 身をよじるイカヅチ。だがその隙を、逃してやるわけにはいかないのだ。

「シィイイッ!!」

 《刀》ソードスキル、《紫電》。神速の斬撃を以て、イカヅチを切り裂く。 

「どうだ……?」
「まだだ――――」

 すり抜けるようにゲイザーが前に出る。

「こぉぉぉぉ……ッ!!」

 尋常ではないスピードで走りながらも、ゲイザーは両手の指をゆっくりと閉じ、息を吐き出しながら拳を握る。

 直後――――

「覇、ぁぁああああああッッ!!」

 裂ぱくの気合いに乗せて、ゲイザーの両手が、信じられないスピードで突きこまれていった。

 一撃一撃が、流星の如き素早さを持っていながら、確実な重さを持っている。ヒットするたびに、イカヅチが苦悶の悲鳴を上げ、そのHPが大きく削れていくのが何よりの証拠だ。

 その連撃数、一つ、二つ、三つ、四つ――――十、十一、十二――――二十!!

 総、二十連撃。かつてその存在を聞かせてもらった、《流星拳》高位ソードスキル、《リバーズフォール・スクランブル》に違いない。激流のごとき拳撃が、イカヅチのHPを大きく減らした。

 順調にことは進んでいる。

「行ける……?」

 コハクが呟く。以前セモンが《草薙の剣》を獲得した時は、全員で挑んでそこそこクエストに苦労した覚えがある分、今回はたった三人で敵を追いこめていることに安心しているのだろう。

 だが、ゲイザーは銀色の髪をなびかせて、厳しげな表情を取って答える。
 
「何度も言っているがまだ気を抜くな……ここからが本当の……奴の実力を発揮する場。この先からは、俺も見ていない」

 それはつまり。

 此処からは未知、という事だ。急激に不安感がセモン達を襲う。

 そしてそれを見透かしたかのように――――

 最後の変化が始まった。

「キュォァアアアアアアッッ!!」

 しゃりりぃぃぃぃん……

 鈴のような音が響き、《アマノイカヅチ》の背後に、仏教の仏像の光背の如く、光のリングが出現した。

 光り輝くそれが、さらなる光を纏わせ―――――。

「くるぞ!!」

 無数の矢が発射された。その数、目算千以上。

「うわぁぁぁっ!?」
「きゃぁぁっ」
「チィ……ッ!」

 恐ろしいスピードで迫ってくる、無数の矢たち。己の武器を駆使しながら…ゲイザーはなんと拳で…それらをはじきながら、徐々に、徐々に、後退していく。
 
 矢の射出はとどまる所を知らない。

 これでは――――攻撃できない!!

「どうする……!!」
「これじゃぁ……ジリ貧よ……!」

 思わず、セモンとコハクは悲鳴を上げる。

 その時だった。

「セモン!」
 
 名前を呼ばれて振り向くと、ゲイザーがいつの間にか寄ってきていた。

「俺が時間を稼ぐから、その隙に奴に最上位剣技をたたきこめ! 一度でいい!」

 ――――無茶だ!!

 セモンはその時、半ば本気で叫びかけた。

 まず理由の一つとして、セモンの代用の剣が、《神話剣》の強力な最上位剣技に耐えられる可能性が限りなく低かったから。繰り出せば、間違いなく折れる。

 もう一つは――――ゲイザーに、凄まじい危険が及ぶからだった。

 彼のレベルは自分達よりずっと高い。だが、彼とて無傷ではない。光の矢の嵐の中を、龍に向かって突き進むのは至難の技だろう。

 だが――――その眼。

 セモンを。コハクを。《聖剣騎士団》の仲間たちを、信頼しているという。

 あの頃――――よく見せてくれた、その静かな声援に後押しされて。

「わかりました」

 セモンは、答えていた。

 それを聞いて、ゲイザーはうなずく。

 直後、いきなりイカヅチに向かって突進した。今までの彼の動きも凄まじかったが、それを超える恐るべきスピードだ。

 一瞬にして龍に接近。まずは《体術》スキル足技、《旋回脚》。筋力、敏捷両値全開でブーストされたその一撃が、《流星拳》の衝撃波補正も加えて、常人(一般プレイヤー)が繰り出す其れの何十倍もの威力を以て打ち出された。

「キュォォオオオン!!」

 悲鳴を上げる龍。ついに、光の矢が、止まった。

「今だ! やれ、セモン!!」
「うっ……お、お、お、お、おぉぉおおおお!!」

 セモンは《神話剣》の、今使える中で最上位の剣技――――《アラブル・ランブ》、二十七連撃を繰り出す。
 
 斬撃、斬撃、また斬撃。

 回避することを知らない、ヒット&ヒットの斬撃の嵐。荒ぶる戦神の魂を内包したソードスキルが、すべて余すことなく白銀の竜へと吸い込まれていき――――

「――――おおぁああああああ!!!」
「コォァアアアォォ――――――――……ン……」

 そのHPを、0にした。
 
 ぴたり、と止まる《ジ・アマノイカヅチ》。直後、無数のポリゴン片へと変化し、霧散した。 

 それと同時に――――セモンの剣も、粉々に砕け散った。

 ――――やっぱり、耐えられなかったか。

「……お疲れ様。ありがとう」

 ねぎらいの言葉をかける。代用、と言っても、今回のつらい戦いを一緒に勝ち抜いてくれた剣だ。いなくなるのは、やっぱりどこか寂しかった。

「セモン!!」

 コハクが飛びついてくる。

「うわぁ!?」

 勢いで地面に倒れるセモン。その胸に顔を寄せて、コハクは満面の笑顔を浮かべた。

「やったね! セモン! あぁもう、最後の方なんてほんと心配したんだからぁ……」
「ご、ごめん……」

 彼女の頭を撫でてやっていると、ふふふ、という軽快な笑いが聞こえてきた。

 声の主は、ゲイザーだった。珍しく、声を上げて笑っている。

「……ありがとうございました、ゲイザーさん」
「いや、いいさ。またお前たちと戦えて楽しかった――――ああ、本当に久しぶりだ。こんなに、楽しかったのは……」

 そう言って、ひどく懐かしそうな表情を取るゲイザー。

 そう――――楽しかった。《聖剣騎士団》の皆と騒ぐのは、心の底から楽しかった。

 あの頃のことを思い出したのだろう。コハクも、目を閉じて微笑んでいる。

「ゲイザーさん……」
「……悪い。感傷的にしてしまったな……それよりセモン。クエストの報酬アイテム……というか、ドロップ品が出ているはずだ。確認してみろ」
 
 そうだった。

 戦いの趣旨を忘れるところだった。

 セモンはコハクを名残惜しくも引きはがすと、アイテムウィンドウを開く。

 最上位に――――その名前は、在った。
 
「《ソード・オブ・アマノムラクモ》……《天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)》……?」
「日本神話か。《草薙の剣》といい、《神話剣》といい……本当にお前とは相性がいいな」

 ふふふ、と再び笑うゲイザー。

「装備してみろ」
「はい」

 装備フィギュアを操作し、空欄になっていた武器の欄に《天叢雲剣》を収める。すると直後、しゅわあ!! という軽やかなサウンドと共に、それは現れた。

 抜刀してみると、デザイン的には《草薙の剣》となんら変わるところのないことが分かった。

 しかし、《草薙の剣》が赤を基調としたデザインだったのに対し、こちらは青を基調としたデザインだ。

 それに――――輝きが、違う。鑑定のスキルは持っていないので詳しくは分からないが、恐らく《草薙の剣》よりもプライオリティは高いはずだ。

 ――――これから、よろしくな。

 セモンは新たな相棒に、心の中で語りかける。

 それに答えるように。

 きらり、と刀身が光った気がした。

 セモンはそれに笑うと、納刀。もう一度ゲイザーに感謝の言葉をかけた。

「……ありがとうございました」
「いいさ――――また、一緒に戦おう」
「はい!」
「もちろん」
 
 コハクとセモンが口々に答えると。

「……ありがとう」

 白銀の拳術師は、微笑み、森の奥へと消えていった。即ち――――ダンジョンの、奥地へと。

 これから、またこのフィールドをさまよい、新たなクエストやモンスターの情報を探すのだろう。ゲイザーらしいと言えばそうだが、すこし寂しくもあった。

「……俺達も、帰るか」
「うん」

 セモンとコハクも、移動を開始する。

 ゲイザーとは逆――――即ちダンジョン出口へと。

 朝日が、昇り始めていた。
  
 

 
後書き
 2014年12月22日、修正しました。ゲイザーさんのDEBANN強化!! 
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