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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
  まさかの一泊

「ぐああぁぁぁー」

あたしが発した女子力皆無のため息に、レンも同じくため息をつきながら返す。

「しょうがないでしょ。リズねーちゃんが言ったんだよ」

「うー、そうだけどさあ」

あたしは呻きながらもそう言った。










遡ること数十分前。

「はあ!?9時間!?嘘でしょ!?」

あたしはうがーと叫ぶ。

「まあ、僕もこんなに長いのは初めて見たけどね~」

レンはポリポリと後頭部を掻きながら、のんびりと言う。あたしは思わずその胸倉を掴んで高速振動させる。

「あ~ん~た~は~、何でそんなにのんきなの!」

「りりりりりりりリズねーちゃん、んんんん。やややややめ止め止~め~て~!」

悲鳴さえもどことなくのんびりとしたレンが、どことなく面白かったのでしばらくぶんぶんと振っていた。が、さすがにかわいそうになり手を離す。

はあ~とでっかいため息を一つ。幸せがどんどん逃げていく。

レンはといえば、のんびりとどこからともなく取り出した煙管を吸いつつ、アイテムウインドウを操作し、野宿に必要そうなものを次々と実体化させていく。

それにしてもよく出てくるものだ。あんたはドラ〇もんですか?

野営用の大きなランタン、火打ち石、鍋に携帯食料、寝袋に……………テント?

「って何であんたはこんなもん持ち歩いてんの?」

「外で泊まることなんてしょっちゅうだからだよ」

テントを張りながらのレンに、ナチュラルに返される。その表情から見て、冗談でもなんともなく、本当のことだと思える。

ふーん、とあたしは気のないような返事を返しておきながら、今のことを脳裏で激しく反復させる。

外、つまり圏外に泊まると言っても、間正直にMobの反応圏のど真ん中で寝るわけではない。

そんなことをすれば、二、三分で間違いなく死ぬ。そんな命がけのことではなく、圏外にはMobの反応圏から逃れた小部屋、あるいは広場のようなものが点在する。壁の四隅に飾られた、特徴的な色合いの松明で解るそういう所を通称《安全地帯》と言う。

狩りやマッピングの足場となる非常にありがたい場所だが、とは言えせいぜい一時間程度の小休止くらいにしか使えない。

床は冷たい石敷きでベッドなどあるはずもないし、すぐ近くの通路から頻繁にモンスターの足音やら唸り声が聞こえてくるのだ。

どんなに豪胆なプレイヤーでも、熟睡は絶対に不可能だろう。

だが、先の台詞を額面通りに取れば、この紅衣の少年は安全地帯を街の宿屋代わりにしてダンジョンにこもりっぱなし………ということ、なのだろうか?

無論、そんなアホな芸当、攻略組では当たり前───何てことはあるはずもない。

攻略組の大半のプレイヤーの心の底にあるのは、決して《攻略》ではなく《自分の安全》なのだから。

この事から考え見るに、この少年は特異だと認めざるを得ない。

安全地帯に寝泊まりするなどという芸当をできるのは、よっぽど自分の腕に自信がある、つまり大手攻略ギルドの幹部クラスか、あるいは…………

《六王》か………。

──まさか、ね。

馬鹿げた思考を払い落とすべく、ぶんぶんと頭を振る。だが、一度鎌首をもたげた思考はなかなかこびりついて離れない。

だいたい、《六王》は全員が全員、特異な者が多いと伝え聞くではないか。眼前の少年の武器はまさに、特異そのものではなかったか?

そして先刻、あのバケモノと対峙したときの、あの眼。あの瞳。

あれはまるで、まるで………

まるで?

まるで……

獲物を狩る肉食獣の眼?

違う!あれは……まるで………

まるで……アリを踏み潰すような、そんな無感情の眼………

ぞくりと寒気が走る。意味もなく、手に汗がじわりと滲む。眼前の自分のアイテムの火打ち石と格闘している少年。

こちらに背中を向けているのに、その背中さえもなぜか別次元の生き物に見えてしまう。

怖い──

こわい──

コワイ──

息が自然と荒くなる。手が冷たい。

「ね、ねぇ…………レ───」

「リズねーちゃん」

遮られた。まるでこちらを見ていたようなジャストタイミング。

少年は振り返る。

その顔には、今までと同じようにあどけない笑みが浮かんでいた。

「僕は人間、だよ?」

その声に、あたしはただただ頷くことしかできなかった。










鍋で沸かしたお湯から作った、ほのかにラベンダーの香りのするお茶を啜りながら、とりあえず二人してテントの中にもぞもぞ入ってみた。

野営用の大きなテントは、あたし達二人にはもったいないほどの充分な広さがあり、寝るのに不自由はなさそうだった。

飲み干されたマグカップをレンのほうに突き出す。数秒後、並々とお茶を入れられて突き返されてきたそれをずずーっと飲み干す。レンの料理スキルが高いのだろうか、このお茶、なかなかにうまかった。

そんな無意味な循環をどれくらい続けたのであろうか。

その間、ぽつりぽつりとレンは語ってくれた。

二十五層で守れなかった、黒猫のこと。

半分自暴自棄で人を殺しまくったこと。

壊れかけていた自分を守るために死んだ女性のことを。

そして────


自分が、《冥王》だと言うことも。

それを聞いても、あたしの心は不思議と震えなかった。むしろ穏やかといっても過言ではないだろう。

なぜか、なぜだか、目の前にいる少年が、怯えて縮こまる小動物のように見えた。

キミは……キミは、人が嫌いなんじゃないんだね。ただただ、怖かっただけなんだね──

そんな言葉は、自然に口から漏れでた。

少年は力なく首を振る。それは違う、と。自分は最低で最悪のバケモノだ、と。

ねぇ、ひとつ聞いていい?

あたしは訊いた。

レンは無言だったがそれを肯定と取って、構わずあたしは続けた。

人を殺すのって、どういう感じだったの?

そうあたしは訊いた。聞きようによっては、その質問は恐ろしく鋭利で残酷だったことだろう。それでも少年は答えた。答えてくれた。

ただ一言。

楽しかったよ、と。

だがその答えと反して、その表情に明るさは皆無だった。覇気がなく、眼が濁っている。

だから、あたしは言った。

今は?

レンは力なく笑いながら答えた。

悲しいよ、と。

悲しくて哀しくてかなしいよ、と。

そして、レンの瞳から大粒の涙が溢れだした。それは宝石のように美しく頬を伝い、足元の葉の上に落ちて音もなく消えた。

その涙をこぼしている少年を、思わずあたしは抱き寄せた。限りなく優しく、けれどしっかりと。

レンはしばらくの間、あたしの腕の中で嗚咽を漏らしていたが、やがてそれも聞こえなくなった。代わりに聞こえてくるのは、すぅすぅという可愛らしい寝息。

おやすみ、と言いながら、あたしの意識も優しい闇の中へと落ちていった。 
 

 
後書き
なべさん「始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「良い話だったな~」
なべさん「まあねえ♪何しろこの私が作ったのだからね(ドヤ顔)」
レン「(無視)そーいやぁ、途中で出てきた、助けてくれた女性ってのは?」
なべさん「あぁー…………っと」
レン「ああ、フラグ立てか」
なべさん「やめて!可哀想なものを見る目で見ないで!」
レン「まあ、立てるのは良いけど、回収するのも忘れんなよ?」
なべさん「はいはい、それはもう厳重に」
レン「………………………嘘クセ~」
なべさん「はい、お便り、感想を送ってきてくださいね♪」
──To be continued── 
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