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『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』

作者:零戦
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第十四話

 
前書き
今週は都合によりこれのみとなります。 

 





 戦闘後、樹達はフォルマル伯爵の館へ入り調印式をしていた。

 レレイが通訳としてその場で一番階級が高い健軍大佐の言葉を訳していた。

 それをピニャはポケ~っとしていたが樹や健軍達は気に止めなかった。(健軍大佐は草原に着陸して急遽参加していた。出席予定だった加茂大佐が流れ矢で負傷したためである)

 あれほど手を焼いていた盗賊達をあっという間に蹴散らして壊滅させたのだ。無理もない。

「捕虜の権利は此方側にあるものと心得て頂きたい」

 ハミルトンの言葉をレレイが訳す。健軍はそれに頷く。

「イタリカ復興に労働力が必要であるなら了承します。せめて人道的に扱う確約を頂きたい。我々としては情報収集の為に数名の身柄が得られればよいので確保されている捕虜の内、三~五名を選出して連れ帰る事を希望する。以上約束して頂きたい」

「ジンドウテキという言葉の意味がよく理解出来ぬが……」

 首を傾げるハミルトンにレレイは上手く言葉を伝えるのにどうするかを考えて彼女なりの理解で説明する。

「私の友人や親戚がそもそも平和に暮らす街や集落を襲い、人々を殺め、略奪などするものかッ!!」

「良かろう。求めて過酷に扱わぬという意味で受け止める事にしよう。此度の勝利はそなたらの貢献は著しいのでな。妾もそなたらの意向を受け入れるに吝かではない」

 怒鳴りかけたハミルトンを制するようにピニャはそうレレイに言った。

「そのような意味で解していただければよい」

 健軍の言葉を通訳したレレイはそう伝えた。

「あぁ姫様、漸くお心が戻られましたか」

 ハミルトンがピニャの目に生気が戻った事に気が付いて声をかける。

「済まない」

 ピニャはそう言って健軍大佐と向き合う。

「それではもう一度条件を確認したい」

 ハミルトンはそう言って条件を挙げていく。ハミルトンは読み終わるとピニャにその羊皮紙を渡した。

「(こんな条件で良いのか?)」

 ピニャはそう首を傾げながらサインをする。ミュイ伯爵公女にも渡してサインと捺印をした。

 そしてピニャは周りを見ると、健軍とレレイの他にテュカ、ロゥリィ、伊丹、樹がいた。

 樹の左目の周りには黒々としたアザがあったがピニャは別に気にしなかった。その隣ではロゥリィはそっぽを向いて不機嫌な様子ではあったが……。

 兎も角、調印式はそこで終了となり協約は直ちに発効される事になった。

「総員撤収準備ッ!!」

 健軍大佐の叫びに派遣部隊の兵士達は撤収準備に入る。

 その頃、伊丹はアルヌスへ連れて行く捕虜を決めている途中だった。

「隊長、流石に女性ばかりは……これからの事を考えれば分かりますけど……」

「そう? じゃあ男一人追加で」

 黒河軍曹の言葉に伊丹はそう言って新たに男を一人選んで五人の捕虜を獲得した。

 そして五人の捕虜は歩兵第二八連隊が乗ってきた九四式六輪自動貨車に乗せられる。全員が乗った事を確認した健軍は自動貨車を出させた。

 第一戦車連隊と歩兵第二八連隊は次々と去っていく。住民達も帽子や手を振りアルヌスへ帰還する派遣部隊に声援を送る。なお、健軍大佐も九七式司令部偵察機で離陸して帰還の途についた。

「さて俺達も帰るとするか」

 伊丹の言葉に皆が頷いた。樹はハミルトンに近づく。

「すいませんけど、自分達の国の話はまた今度で」

「あ、はい。異世界の国の話はとても新鮮でした」

 普通に別れの言葉を言っている樹とハミルトンを自動貨車の中からロゥリィとヒルダがじぃっと見ていた。

「……こりゃ帰ったら中尉も地獄を見せられるな」

「だな」

 片瀬の言葉に水野は笑う。

 そして第三偵察隊はイタリカの街を後にするのであった。



 ……と思ったはずであった。

「何て事をしてくれたんだッ!!」

 ピニャは怒り狂い、到着したボーゼスに持っていた銀製酒杯を投げる。

 勿論酒杯はボーゼスの右眉を傷つけて血を噴き出させる。

 その一方で、ボーゼスはピニャの怒号で完全に竦み上がっていた。

「イタミ殿ッ!! セッツ殿ッ!!」

 壁に寄り掛かるように気絶している伊丹と樹にハミルトンは声をかける。二人は顔中赤く腫れていて、服も泥まみれの擦り傷だらけだった。

「姫様、二人とも相当に消耗されています。直ぐにでも休ませませんと」

「分かった。そこのメイド達と協力して二人を運べ」

「はい」

 ハミルトンとメイド達は二人の手を自分の肩に回して急いで退出する。

「ひ、姫様。我々は一体何をしたと言うのですか?」

 ショックで座り込んでいたボーゼスの額に手巾を当てていたパナシュはそう説明を求めた。

「……はぁ、今から説明する」

 ピニャは額に手を当て、溜め息を吐くと二人に説明をした。

 ボーゼスとパナシュはイタリカへ向かう最中に第三偵察隊と遭遇、兵士がアルヌスへ帰る途中と説明するとボーゼスは敵だと判断して第三偵察隊を攻撃しようとするが、それを聞いた樹と伊丹がボーゼス達に訳を説明しようとするが、初陣であるボーゼス達は聞く耳を持たずにピニャへの手土産として樹と伊丹を捕らえた。

 隊員達は小銃を構えるが伊丹が「今は逃げろッ!!」と叫び、隊員達も渋々と自動貨車等を発進させあっという間に姿を消した。

 そしてそこに残されたのはボーゼス達と樹達であった。

「……どうしたらいいんだ……」

 ピニャは深い溜め息を吐いた。しかしボーゼス達を責める事は出来ない。

 彼女達は必死にイタリカへ来る途中だったし、協約は自分達で決めたのだ。彼女達が知るはずもない。

「取りあえず二人が起きないと動けない」

 ピニャはそう言って再び深い溜め息を吐いたのであった。






 
 

 
後書き
形式的に捕虜をとっていますが、この場合、日本軍は情報源としての確保です。
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m 
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