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ノルマ

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第二幕その二


第二幕その二

「私は死ぬことにしたわ」
「死・・・・・・」
「けれどね」
 死という言葉を聞いてさらに蒼ざめたアダルジーザに対してさらに言ってきた。
「子供達は別よ。それはとてもできないわ」
「そうですか」
 その心境はアダルジーザにもわかった。彼女の心は。
「それでね」
「ええ」
 話はさらに続く。
「子供達を貴女に預かって欲しいのよ」
「私がですか」
「子供達を連れて行って」
 またアダルジーザに対して頼む。
「あの人のところに。いいわね」
「それは・・・・・・」
「私はもうそれでいいの」
 諦念した声になっていた。
「だから。御願いしたいのよ」
「それは」
 しかし。アダルジーザはそれには顔を曇らせるのであった。
「私には」
「あの人の子供の為なのよ」
 顔を曇らせたアダルジーザに対してまた言うのであった。
「守って欲しいの。私はもう誇りも名誉もいらないわ」
「何もかも」
「そう、何もかも」
 それをも言ってきた。
「けれど子供達が不幸の神に魅入られては欲しくないの。だから御願い」
「駄目です、ノルマ」
 だがアダルジーザは言うのであった。
「貴女はこの子供達の母としていて下さい。それに」
「それに?」
「私はこの国からは離れません」
 それを今言うのであった。
「決して」
「今誓ったというのに」
「確かに誓いました」
 それは認める。
「それでもそれは貴女にとってよいことだけです」
「私だけに」
「そうです。私は今またそれを誓います」
 再び誓ってからまた言葉を告げる。
「ローマ軍の陣地に行きあの方を説き伏せましょう。貴女の御心を受ければきっと」
「どうなるというの?」
「私の心が動きました。きっとあの方も」
「心変わりするというのかしら」
「心変わりではありません」
 そうではないとノルマに告げた。
「むしろこれは」
「これは」
「本来の愛に戻るだけです」
「私とあの方の愛に」
「そうです」
 それをはっきりとノルマに対して告げる。
「望みを持たれて下さい。あの方もきっと本来の愛を思い出して貴女を再び思い出されるでしょう」
「まさか。そんな」
「希望だけは忘れないで下さい」
 アダルジーザはまた言うのだった。
「何があっても」
「けれど私はもう」
「御覧になって下さい」
 アダルジーザは遂にその眠っているノルマの子供達を指し示すのであった。
「彼等を。貴女の子供達を」
「私の子供達を」
「そうです。御自身のことは構わないと仰られててもこの子達を可哀想とは思っておいて下さい」
「何故私にそんな言葉を」
 ノルマの蒼ざめていた心が溶けようとしていた。
「私にかけるの。私の心を動かすというの。これから死のうとしている人間に幻や望みを述べるというの?」
「私の言うことを聞いて下さい」
 アダルジーザはまだ言う。
「そうしてあの方と共に」
「それが貴女が」
「いえ、それは私ではありません」
 アダルジーザはなおもノルマに声をかけるのであった。
「ですからどうぞ」
「貴女はいいのね」
「あの方に相応しいのは貴女だけです」
 身を引くというのだった。
「ですから」
「それで私は」
「あの方と一緒になれるのです」
 今またノルマの心に囁いた。これまでになく優しい声で。
 
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