エターナルトラベラー
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第七十九話
甘粕が予約した宿舎は中々広い露天風呂で、少し時間は早いが使わせてもらい、アオ達は旅と戦いの疲れを癒した。
男風呂に一人だったアオは少し早めに風呂から上がると、一人廊下を歩き部屋へと戻る。
そろそろ部屋に到着すると言ったとき、メガネをかけたショートの赤毛の髪をしたスーツ姿の外国人とすれ違う。
観光地だから別に外国人が珍しいわけではない。だが、観光に来たと言う雰囲気ではないなとアオは思った。
すれ違う一瞬、此方に視線をよこした気配がしたが、面識も無かったのでアオはスルーして部屋へと入る。
この部屋は大部屋で、甘粕、翠蓮、後は翠蓮の弟子である陸鷹化を除けばこの部屋に宿泊する予定だ。
部屋の奥にある机の上に備え付けであるはずの無いバスケットが一つ置かれている。
下山して、途中の店で見つけたバスケットにタオルを敷いたそこに、アーシェラが寝息を立てて横たわっていた。
様子を見ようと覗き込むとパチリとその目が開き、首を上げた。
「気分はどう?」
外傷もオーラの流れも問題は無いし、ユカリとのラインもしっかりと出来ていた為に後は目覚めるのを待つだけだったのだ。
「悪くは無い」
と、蛇の姿でアーシェラが答えた。
「ただ、心の中に何か暖かい物を感じる…これは…」
「少しだけど、使い魔になった事でアーシェラと母さんは精神リンクしている。それは母さんの感情の一部だよ」
「…そう…か」
何やらアーシェラは少し戸惑っているようだ。
そんな時、引き戸が引かれ、ユカリ達が部屋へと入ってくる。
ザザーッ
「あら、アーシェラちゃん起きたのね」
ユカリは起きたアーシェラを確認すると近寄り安堵の声を上げた。
「あ、本当だ」
「外傷は無いし、オーラの過剰流出も止ってる。もう大丈夫ね」
なのは、ソラも寄る。
「皆でそんなに見つめたらアーシェラさんも気分悪くなるんじゃ」
「そうだよ。病み上がりなんだから」
と、シリカ、フェイトに窘められてなのはとソラは距離を開けた。
アテナと翠蓮は我関せずと用意された酒類を開けている。
「それで、妾にそなたは何をさせたい?妾は何をすれば良い?」
「別に何も。…と言いたい所だけど、とりあえずこれから家の家事の半分は手伝ってもらおうかしら」
他は別に何処で何をしようと自由よとユカリは言う。
「家事などやった事は無い」
「それはこれから覚えればいいのよ。教えてあげるわ」
こうしてアーシェラはユカリの家で家政婦のような立場で生活をする事になる。
余談だが、生まれたアオの子守やおしめを変えるなどと言う雑事もこなしていたので、未来ではベビーシッターもその内容に含まれたと言う事だろう。
「蛇の姿では出来ぬと思うが?」
「あら、あなたは元々人では無いの?私が使ったこの禁忌魔法は人間を縛して双型を与える魔法。元に戻ろうと思えば大丈夫よ」
ユカリが使ったのは人間を使い魔にと言う倫理を度外視した禁忌の技だ。
古代ベルカでは魔導資質が低い人にたまにこういった手段でリンカーコアそのものを強化させていた。戦争での戦力確保と言う狂気に取り付かれた為に生み出された非道である。
「そうか…」
と言ったアーシェラの足元に剣十字の魔法陣が展開され、その姿をゆがめると、体積が伸びるように増え、その形を人間の物へと変化させた。
「む?今のはユカリ達が使う呪法よな?そやつは神祖であるはずなのだが」
アテナがはじめて興味を持ったように誰に問うでもなく口にした。
「基本的な魔導技術は使い魔生成の術式で使い魔に変化させる時に生成されたリンカーコアに刷り込んである。主の技量にも寄るが、変身魔法くらいは使い魔の基本と言う所だね」
と、アオが答えていた。
現れたのはアテナと変わらないくらいの背格好の少女だ。初めて目をしたときよりも大分血色は良い。
「それと、主に好意を持つようにも刷り込んであるから、よほどの事が無い限り主を裏切らない。その辺もあるから禁忌魔法なんだけど…ついでに言えばこの使い魔の術式がアーシェラが崩壊するのを留めている。契約が切れれば自然と衰弱して死んじゃうんじゃないかな」
とアオは続けた。
「なかなかうまく出来た魔術よの」
「魔術じゃなくて魔法ね。まぁ、魔導でも良いけど」
ザザーッ
「遅れました」
再び戸が開けられると別行動をしていた甘粕が到着したようだ。
一応エリカが甘粕に事の次第を伝え、翠蓮が起こした事件の後始末に追われ、目処が付いたので後の事を部下に任せ、こちらへと来たらしい。
エリカ、リリアナは何とか護堂と合流、別の宿で疲れをとっているだろう。
帰りは明後日の予定なのでそれまでは自由時間だ。
甘粕をユカリは招き入れ、その後に待機していた仲居さんがろそろそろ夕食の時間のようで、配膳を開始する。
「ユカリさん、少しよろしいですか…」
ささやかな宴会が始まる前に甘粕はユカリに耳打ちし、初めて見る華人へのご紹介をと願い出た。
本来であれば自ら進み出て自己紹介をすれば良いのだろう。しかし、その麗しの華人に甘粕はあたりを付けていた為に自ら声を掛けるのは躊躇われたのだ。本来であればこの部屋に入ることすら胃の痛い思いだったが、ユカリとの約束も有るし、上司からも面識を得て来いと言われ入る以外の選択肢は無かったのだ。
「あ、そうね。でも私よりもあーちゃんに取り次いでもらった方が良いかも」
「そうですか…アオさんに頼んでもらってもよろしいですか?」
「あーちゃん、ちょっとー」
「何、母さん」
「甘粕さんが翠蓮さんに紹介してもらいたいんだって」
「ああ…分かったよ」
何故甘粕がそこまでしてワンクッション置きたがるのか。それは翠蓮の残虐な噂の所為だ。彼女のその噂にその声を聞いたのなら耳を削ぎ落とし、その姿を見たのなら目を潰すなどと言う物がある。普通なら冗談で済むのだが、相手が神殺し、カンピオーネともなると冗談では済まされなくなる。
アオは事情を察して甘粕を連れて翠蓮の所へと移動した。
「おや、どうしました、弟よ」
「翠蓮お姉さまに紹介しておきたい人が居てね。この国で厄介事に巻き込まれた時に頼ると事がスムーズに運ぶかもしれないから」
「ふむ…よろしいでしょう。普段ならこの羅濠の姿を見ただけでその目を抉り出している所ですが、宴会の席であり弟の紹介です。弟の顔を立てねばなりませんね」
「ありがとう、翠蓮お姉さま」
と、一応礼を言って後ろの人物を紹介するアオ。
「こちら、正史編纂委員会の甘粕冬馬さん。この国の魔術関連を取り仕切る組織に属しているらしいよ」
「そうですか。以後良きに計らう様に」
甘粕自身は一言も言葉を発さないままそのまま頭を下げる。
それで用は済んだと翠蓮はアオに酒の酌を頼み、甘粕を視界から追い出した。
それを察して甘粕もその場を辞す。
「ふう、心臓が止るほど緊張いたしました。かの御人と平然と会話が出来るのはやはりカンピオーネと言った所ですね」
と、ユカリの所まで戻った甘粕は死地から戻ったとばかりに安堵した。
「あら、大げさですよ」
「いえいえ、実際私はいつ殺されるかとビクビクしていましたよ」
「ふふっ…ああ、そう言えば、私も甘粕さんに一つお願いしたい事があります」
「何でしょうか?私の力が及ぶ限りでしたら何とかいたしましょう」
「そうですか?…では、一人分の戸籍を用意してください」
「戸籍…ですか?用意できない訳では有りませんが…どう言った事情でしょう?」
「えっと、あの子…アーシェラ、ちょっとこっちに来て」
ユカリはソラやシリカと一緒に居たアーシェラを呼びつける。
「む、何だ?」
呼ばれたアーシェラは不承不承を言った感じでユカリの所までやってくる。
「この子を家で預かる事になったのだけれど、少し事情がある子でね、まともな戸籍が欲しいのだけれど。何とかなりませんか?」
と、アーシェラを紹介するユカリ。
「ええと…こちらは?」
魔術師関連の人物で有るのだろうと甘粕も予想するが、まずはどう言う人物なのかと問いかけた。
「元神祖で今は私の使い魔なの」
「し、神祖!?」
「何だ人間、神祖如きに何を驚いている。ここにまともな人間なぞお前くらいしか居ないのは見て分かるだろうよ」
とアーシェラはカンピオーネにまつろわぬ神が同席しているこの宴に招かれておいて何を言っているのかと言う。今更神祖の一人くらい驚くほどのものでは無かろう、と。
「…確か、ロサンゼルス近郊を根城にしていた闇の魔術師達のトップがそのような名前だったと記憶しているのですが…」
「…嫌な事を思い出させてくれるものだ。あのジョン・プルートー・スミスにやられ、そのまま朽ちるくらいならとグィネヴィアの企みに乗り、こんな島国にまでやってきたが…まさかこのような結果になろうとはな。今の妾はそこのユカリに縛されている。ユカリの望まぬ事は出来ぬよ」
甘粕は今のアーシェラの言葉の中で縛されたと言う単語よりも気になる物があった。
「グィネヴィアとは?」
「妾と同じ神祖だ。どうやらどこかに眠っている『鋼の英雄』を探しているらしいと言う事くらいしか知らん」
その言葉を聞き甘粕は今回の騒ぎは羅濠教主も利用されたのかといぶかしむ。つまりそのグィネヴィアが何かの目的で斉天大聖の封印を解きたかったと言う事だろう。また面倒事かと辟易した後フッと表情を崩して言葉を発した。
「ユカリさんの頼みですからね。私共の方で彼女の戸籍は用意させましょう。しかし、彼女は本当に危険は無いので?」
それの答えたのはユカリではなくアーシェラ自身だ。
「ふっ…これだけの数の神殺しに囲まれる中で事を起こせると思っているのか?それに先ほども言ったように妾は縛されている。忌々しい事だ」
甘粕はどうやって神祖などと言う存在を縛したのか気になったがユカリもカンピオーネだ。常識外の事も容易いのだろうと考えるのをやめた。
次の日の朝。
「では、偶にはわたくしの所まで遊びに来るのですよ。歓迎してあげましょう」
翠蓮がそろそろ帰ると皆に別れの挨拶をして瞬間移動でもするかのようにその身を消した。
「さて、それじゃあ今日はもう少し観光をしてから何か美味しい物を食べに行きましょう。あ、その前にアーシェラの服なんかも適当な物を用意しないとね。今のその格好は少し浮くから」
「そうだね、少し街の方まで行けばファッションセンターかデパートかあるだろうし、そこで選んでから観光と言う事で良いんじゃないかな」
と、ユカリの言葉にフェイトが簡単に補足した。
「うん、賛成」
「それで良いと思います」
なのはとシリカも賛成し、ソラとアオは首を縦に振って肯定の意を示す。
「別に服など着れれば良いじゃないか」
と言うアーシェラに、ここで何故かアテナも意見する。
「ふむ、確かにそなたの服装は時代のトレンドと言うものを知らぬな」
「なっ!?」
まさかのアテナのだめ出しにアーシェラは押し黙った。まさか人間社会など塵芥にしか感じないまつろわぬ神にまでダメだしされるとは、まさか本当に自分がズレているのではと思ってしまったのだろう。
「では、車を用意しますね」
と、甘粕は先に駐車場へと向かい、ユカリ達は荷物を纏めるとチェックアウトを済ませ、日光の街へと繰り出した。
さて、昨日あれだけ面倒な事が起きたばかりだと言うのに、厄介ごとは時を選んではくれない。
アーシェラは一人、土産屋の前に備え付て有るベンチに座り一人ごちていた。
「まったく、何故あやつらは妾に構う。…それも当然のように親しげな感じで」
人に構い倒されるなどど言う慣れない事にアーシェラはどっと疲れ、ベンチで休むと言い、ほんのひと時彼女は一人で空を見上げていた。
しかし、今までアーシェラはかしずかれる事や、敵対し攻撃しあう事は有っても、対等に扱われる事は無かった。それを考えて心の中に何か暖かい物が生まれ、ほんの少しだが昨日の自分との違いを感じる。
「その違いも嫌じゃない…か」
そうアーシェラは自分の感情を整理していた。
そんな時、ガチャリと言う何か引き金が引かれる音が聞こえたかと思うと、いつの間にかアーシェラの後ろに仮面とマントで身を隠した場違いの男が立っていた。
さて、こう言った場合の周囲の人々の反応はどうだろうか。
一昔前なら直ぐに警察へと連絡した事だろう。
しかし、昨今なら?
通行人は見てみぬ振り、いや、遠くからスマートフォンで写真を取っている奴まで居る始末だ。
銃を突きつけている男がコスプレっぽいと言うのも理由の一つだろうが、倫理観、危機感の低下が主な理由だろう。
「ジョン・プルートー・スミスか。遥々妾を追ってこんな島国まで来るとは、余程暇と見える」
「何、貴様と私の因縁に決着を付けたいだけさ」
等とキザったらしく言い返したこの男は、名をジョン・プルートー・スミス。ロサンゼルスを拠点とするチャンピオン…カンピオーネである。
スミスはロサンゼルスでアーシェラを仕留めたはずなのだが、この日本でまつろわぬレヴィアタン…つまりアーシェラの竜蛇の姿が確認された為に急遽来日したのであった。
「妾を討つか?」
「貴様を生かしておいてもろくな事が無い。貴様はこんな島国で何を企んでいる」
「ふむ。特に何も」
と、アーシェラは何の感慨も無く答えた。
「嘘をつくなっ!」
「妾は使われていただけだ。その計画も昨日失敗した。…いや、ある意味成功したか?」
「まつろわぬ神の招来か」
「さて?もう終わった事だ」
「では何故お前はあのまつろわぬ神に近づいた?」
と、スミスはアテナの事を言っているのだろう。
「妾が近づいたのではない。向こうからやって来たのだ」
アーシェラの返答にスミスはいぶかしむ。
「お前が招いたのだろう?」
「妾が手を貸してやった件で降臨した神は別の手合いだ。それも既に討たれている。お前の同属にだぞ?」
スミスは今朝まで一緒に居た中華系の麗人を思い浮かべた。
中国の山奥に居を構えるチャンピオンが居たはずだと。
「羅濠教主か」
「そう言う名らしいな」
「……それならば貴様はここで何をしている?教えてもらおうか」
そう言うとスミスの威圧が増した。
「討つなら早く撃った方が良いぞ?今の妾は何故か分からぬが怖い奴らの庇護下にあるからな」
「あのまつろわぬ神か?」
「いや。…そう言えばお前達神殺しは同属を見分ける事は苦手なのだな。神を前にすれば否応にもその体が反応すると言うのに」
「…?何を言っている」
「今世界に何人神殺しが居るかお前は知っているか?」
「この日本に一人起ち、かのヴォバン侯爵が倒れたのだから6人だろう」
と言ったスミスにアーシェラはバカにしたように言う。
「ははっ!これは愉快だ。それでは半分では無いか」
「半分…だと!?貴様はまだ6人も神殺しが居ると言っているのか?」
「と…時間切れだ。だから早く撃った方が良いと言ったのだ」
「なにを…」
アーシェラが視線を向けた方向へとスミスも向ける。するとそこには6歳児ほどの幼女がソフトクリームを両手に持って歩いてきていた。
「あら、アーシェラのお友達?」
「この状況で友達であったのなら妾は友達と言う言葉の意味を辞書で引かねばならんな」
と、アーシェラはソラの言葉に冗談めかして返した。
「じゃあどう言った方なの?」
「わざわざロサンゼルスから妾を討ちに来た神殺しだ」
「へぇ」
とソラは言うと視線を仮面の男、スミスへと向けた。
「その子、アーシェラは私達の家族なの。だからこのままロサンゼルスに引き揚げて欲しいのだけれど」
「あなたはこいつがどう言う奴か知っていて言っているのかな、お嬢さん」
ソラは少し考えてから答える。
「少し前までかなりヤンチャしていたらしいわね」
「ヤンチャで済ませられる問題ではないっ!彼女が起こした事件の数々を語れば凄惨たるものがある。今も家族や恋人を殺されて嘆く者が居る。そんな事を起こした奴を放って置く訳にはいかないと思わないか?」
「だって。ねぇ、アーシェラ。あなたは何人、人を殺したの?」
ソラはアーシェラに問い掛けた。
「さて、何人だったか…妾が直接手を下した数など高が知れているな」
数えた事は無いとアーシェラは答えた。
ほとんど部下がやってきたことなのだろう。だからと言ってアーシェラに責任が無い訳ではないが。
「そう、私よりは全然少ないのでしょうね」
生きる為に、国を守るために万を殺したソラにしてみれば百や二百なんて端数もいい所だろう。しかし、その言葉にスミスは動揺した。
「君は人を殺した事があるのか?」
「殺さねば成らない状況に陥ったら人間は生きる為に相手を殺すものよ。…まぁ、それ以外でも任務だからと、お金の為に殺したこともあるわね」
そうソラはスミスの問いに答えた。
忍者だった頃、敵対してしまった忍びを殺した事くらいはあったのだ。
「何か妾よりも多くの人を殺していそうだな」
「人に歴史有りよ」
「幼児が言う事では無いな」
と、アーシェラはソラに軽口を叩いた。
「話がそれたわ。その子は今私達の管理下に有るのよ。私達はこの世界で無闇矢鱈に人を殺す事はしない。私達に大きな責任がある訳でも無いのだしね。今後アーシェラにもさせない。…だから見逃してくれないかしら」
「だが、そこの神祖が暴走したらどうする?その時貴女に神祖を止める力はあるのか!」
スミスが問う。
「さあ?戦った事無いから分からないわ。でも、きっと大丈夫よ」
「ならば証明して見せよ」
スミスが役者もかくやと言った感じに、バッと左手を前に突き出し、バサリとマントがなびく。
「どうやって?」
「私と戦い、そして打倒して見せろ。そうすれば貴女の言う事を聞き、私はロサンゼルスへと戻ろう」
もはやスミスは目の前のソラをただの幼児とは思っていない。おそらく強力な魔術師…いや、アーシェラの言葉から推測すればチャンピオンであるだろうと考えていた。だからこその提案であった。
「私が受けなかった場合や負けた場合は?」
「アーシェラには死んでもらうことになる」
ソラはため息をつく。
「はぁ、なんか面倒な事になったわね」
「面倒なら妾の事など見捨てれば良いのだ」
「そう言う訳にも行かないわ。未来の家族を守らないとね」
ソラは家族運が低い。大概の場合ソラが幼い時に死に別れるのだ。だから、家族と言う物を人一倍意識する。
戦う事を決意したソラに呼応するように周りに突然突風が吹き荒れる。
「わっ!?」
「なんだ!?」
等と、通行人の声が響き、土埃が彼らの視界を遮る。
ソラの手放したソフトクリームが宙を舞うくらいの突風だ。周りの人たちは誰も目を開けていられないだろう。
野次馬の視界を遮った所でソラは封時結界を張る。
「ほう、何かしらの結界のようだな」
「この中なら好きなだけ暴れても良いわよ。現実世界には影響は出ないから」
「ほう、それはありがたい。チャンピオン同士の戦いは野を焼き街を瓦礫と化すからな」
スミスがそんな物騒な事を言った。
「ルールは?」
「ふむ。そうだな…相手を気絶させるか、負けを宣言するかでどうだろうか?」
アオならそこで即死攻撃禁止を含める所だ。
「そうね、それで良いわ」
ソラが了承した所で土産屋からアオ達が駆けて来る。
「ソラっ!?」
「ソラちゃんっ!」
「これはっ!その人は誰ですか?」
アオ、なのはが心配の声をあげ、シリカが問いかけた。
「ソラちゃんっ!」
「ソラっ!」
遅れてユカリとフェイトがやって来る。
「これはこれは。お前達はよくも厄介事が付いて回る物よな」
と、一番最後に現れたのはアテナだ。
「アーシェラ、アオ達の方へ。そこは邪魔よ」
決闘を申し込んだのだからアーシェラを移動させても文句は言うまいと、ソラはアーシェラをどかした。
「相手は神殺しだ。甘く見るな…いや、油断なぞ無いか」
等といいながらアーシェラはベンチを立った。
「これは…人が6人とまつろわぬ神が一柱…まさか…」
数が先ほどのアーシェラの言った数と一致した為に流石にスミスもアオ達がカンピオーネであると気がつく。
「ソラっ!これは?」
「ちょっと面倒な事になってね。彼と手合わせをする事になったわ」
アオの問いにソラは答える。
「手合わせ…なのか?」
「ええ、命の取り合いでは無いはずよ」
カンピオーネ同士の戦いなので、互いにかなりのダメージを追うことになるかもしれないけれど、と続けた。
昨日のアオと翠蓮の試合みたいな物だろう。
「どちらの我を通すかの試合だから、ギリギリまで手をださないで」
「やばくなったら止めに入るからっ!」
「ソラ…」「ソラちゃん」
と、ソラの頼みに了承してアオ達はアーシェラを伴って距離を取った。
「良かったのか?約束など反故にして全員で掛かれば流石の私も倒されたかもしれないぞ?」
「あら、なかなか傲慢なのね。カンピオーネとしての力がそう言う言動を取らせているのかしら?」
ソラはスミスの言に嫌味で返した。
「ルナ」
『スタンバイレディ・セットアップ』
ソラはルナを起動しバリアジャケットを展開し、右手に現れた斧剣型のルナ本体を握る。
身長は低く、防具はやはり不恰好ではあったが、ソラは変身魔法は使わずにそのままの姿でスミスに挑むようだ。
直ぐに油断無く写輪眼を発動させるソラ。
「では、決闘と行こう」
と言うスミスの宣言で戦いが始まる。
スミスはまず動こうとして…その四肢を光るキューブに拘束された。
「なっ!?」
ソラ達にしてみれば何の事は無い。設置型バインド、ライトニングバインドだ。
『ロードカートリッジ・ハーケンフォーム』
ガシュっと音を立てて薬きょうが排出されるとルナを鎌の形になるように変形させ、魔力刃を纏わせたソラは地面を蹴るとスミスに切りかかる。
呪力を高めて脱出を計るスミスだが、呪力を幾ら高めようが何の効果もない。…もしかしたら凄まじい腕力を発揮すれば抜け出す事も可能かもしれないが…魔術師、カンピオーネ、まつろわぬ神にバインドを抜ける事は難しい。
抜け出せないと悟ったスミスは拘束され、あらぬ方向に向いている銃の引き金を引いた。
撃ち出された弾丸。このまま斬りかかればソラはスミスを斬り伏せる事は可能だっただろう。しかし…
ソラは油断無く視線をあらぬ方向へと撃ち出された弾丸へと向けた。
何の策も無く虚空へと撃ち出す事は無いと考えたからだ。
撃ち出された弾丸は途中で進路を変更し、標的をソラへと変更し、自動で追尾するミサイルの如くソラへと奔る。
ジョン・プルートー・スミスが女神アルテミスから簒奪した権能で、名を『アルテミスの矢』と言う。
一ヶ月に6発しか撃てないと言う制約はあるものの、その威力は絶大で、六発全てを一度に打ち出せば都市を七日間消して消えない焔で焼き尽くし荒野に変えてしまうほどの威力を持つという。
撃ち出された蒼白い弾丸がその軌道を変えたことから、撃ちだした弾をコントロールする事もどうやら可能なようだ。
『アクセルシューター』
6発の魔力球をコントロールし、ソラは弾丸を迎撃させた。
1発、2発とぶつかりつつもその威力を減じられずにアルテミスの矢はソラへと迫る。
ソラは迫る弾丸をルナで切り払った。
激突する魔力刃とアルテミスの矢。ソラはアルテミスの矢の強力な威力にそれを斬り伏せる事はできず、弾き飛ばすのがやっとのようだった。
弾き飛ばされたアルテミスの矢は再び進路を変えソラへと迫る。
この凶弾にソラは今度はルナを左手に持ち、右手に自身の念能力。アンリミテッドディクショナリーを顕し、凶弾に向かって叩き付けるように振るった。
その瞬間、アルテミスの矢は本についている口に吸い込まれるようにその存在を消失させた。
アルテミスの矢を始末するとスミスへと再び駆ける。しかし、突然辺りの光が何かに吸い取られるように消えるとスミスの体がグニャリと歪む。
スミスの権能の一つ。超変身である。
この権能はスミスがテスカトリポカから簒奪した権能で、特定の『贄』を触媒にしてその体を五つの形体へと変化させる能力だ。
スミスは辺りの人工の光を贄にその身を豹へと変化させたのだ。
突然その体が形を変え、その質量が減じた事によりスミスはバインドから逃れる事に成功した。が…
ソラは流石に抜け目は無かった。
アルテミスの矢が一発とは限らない。そう考えたソラは6発発動させたアクセルシューターの内一発を巧みに操り、アルテミスの矢を迎撃すると見せかけて一発をスミスの背後へと誘導。
その死角からスミスの持つ銃を狙い疾走させ、その銃を弾き飛ばした。
「なっ!?」
その銃をソラは空中にジャンプしキャッチ、スミスは驚きつつもその姿を豹へと変えた。
ソラはキャッチした銃をスミスに狙いを付け引き金を引いてみるが弾の出る気配は無い。
アルテミスの矢はスミスの権能によって撃ち出されているのである。ソラが幾ら引き金を引こうが撃ち出されないのは当然の結果であった。
スミスは豹に変化した体躯で荒々しく地面を蹴るとその速度を生かしてソラへと噛み付くべく駆ける。
しかし…
『ラウンドシールド』
「がっ!?」
突如現れたバリアに激突し、その攻撃はソラへと届かないばかりか反対にダメージを負ってしまった。
スミスは距離を取り、ソラを見据える。
「その銃は特別製でね、私以外使いこなせないようになっている」
とは言え、実はこの銃、スミスが近くに居てその権能を使うのであれば他者でも使用できるようなのだが…今は関係の無い事だろう。
「そう」
ソラはそう答えると、再び現れたアンリミテッドディクショナリーにその銃を食わせた。
「なっ!?」
流石にこれにはスミスも驚いた。あの銃は闇エルフの鍛冶術師がエオル鋼で作り上げた魔銃だ。その硬度は並みの攻撃では壊れないほど頑丈なはずだ。
しかし、それをソラは壊すではなく何処かへと消し飛ばしてしまったのだ。
ゲプッ
本の口からそんな音が聞こえた気がしたが、スミスにしてみればこれはかなり不味い事態だろう。
別にアルテミスの矢はこの超変身を使っている時なら獣の口から打ち出せる。が、しかし、人間の姿の時は何かしらの触媒が必要だったのだ。
スミスは油断ならない敵と再確認すると、その豹の体を闇の溶かすように影へと沈めた。この豹の姿は影から影へと移動する力を持つ。
スミスはその能力を生かし、バリアを張っているソラの内側にある足元の影へと移動し、その強靭なアギトでソラの足に噛み付いた。
「くっ…」
不意を突かれその牙を受けてしまったソラ。だが、『堅』をしていたためにダメージは軽度だ。牙がその身に食い込んではいるがまだ戦闘は可能だろう。
この時、スミスはその口からアルテミスの矢を使いソラを攻撃するべきだった。
至近距離からの攻撃に、流石のソラも大ダメージを負っただろう。まぁ、カンピオーネの頑丈さと呪力耐性、そして『堅』をしていた事により戦闘不能には陥らなかっただろうが、それでも苦しい戦いに追い込まれたはずだ。
だが、一月に6発しかないアルテミスの矢を出し惜しんだのか、それとも相手が幼児であったために躊躇われたのか、アルテミスの矢を使う事は無かった。
影へと忍ばれると言う能力を見せた以上、二度とこの技でソラは出し抜けないだろう。
そして今、攻撃しているのはスミスだが、危機に陥っているのもスミスだった。
ソラは『流』を使い、噛まれた右足と両腕にオーラを回し強化すると、その強靭な握力でスミスの頭を掴み、歯を外させる。
歯を外すと足に回していたオーラを両腕に回し、影からスミスを引き抜くと渾身の力を込めて地面へと叩きつけた。
「がはっ!」
強烈な衝撃に肺から空気が押し出され、息苦しさにもがきながらもスミスは再び影へと潜った。
「ルナっ!」
『フライヤーフィン』
ソラの背中に妖精の翅が現れる。ユカリが使って見せたあの魔法だ。
ソラは翅を羽ばたかせ、空へと飛び上がる。
飛び上がったために地面に出来る影からは切り離され、先ほどのような不意打ちは食らわないだろう。
ソラが地面から飛び上がり、空中に静止した頃、地面は激しく揺れ、局地的な地震に見舞われた。しかし、これはおかしいだろう。この空間はそのような現象からは切り離されているはずだ。となればこれもスミスの能力なのだろう。
眼下を見下ろすと黒い大きな鳥がその羽を羽ばたかせ、空へと舞い出でてきた。
超変身の一つ、黒き魔鳥の姿だ。この姿になる事への贄は周囲に地震を発生させる事だ。それ故の先ほどの地震だったのだ。
黒き魔鳥へと姿を変えたスミスはその嘴を開きアルテミスの矢を撃ち出した。
迫る弾丸を空中を自在に翔けかわすが、速度を上げれば上げるほどにその弾丸は速くなる。
「煙吐く鏡、テスカポリトカの徴よ!」
ソラの前へと躍り出たスミスは呪言を唱えると漆黒の翼から灰色の煙が吐き出され、ソラへと襲い掛かる。
この煙は飲み込んだ者を毒に犯し、麻痺させるものだ。魔鳥の姿で使える能力である。
『ロードカートリッジ・ラウンドシールド』
ソラは空中で止ると後ろに迫るアルテミスの矢をルナに任せ印を組んだ。
『風遁・大突破』
ソラの口から吐き出された強烈な暴風にスミスの吐き出した煙はソラへと向かう事は無く逆にスミスへと向かう。さらに、その強烈な突風に制御を奪われ、流されるように落下して行ったスミスだが、どうにか激突する前に羽ばたき、再び上昇する。
どうやら自身の攻撃は効かないらしく、毒を負った様子は無かった。
『マスターっ!バリアが持ちません』
ソラはルナの言葉を聞くと体を翻し、再び魔弾とのチェイスを再開する。
「これは中々不味いね。一発でこれだもの、後数発同時に撃たれたら厳しいかな…」
ソラはそう分析し、打開策を考える。
「目には目を、歯には歯を、魔弾には魔弾をって事だね」
そう言ったソラは右手にアンリミテッドディクショナリーを具現化し、そのページを開く。
「ロード、アルテミスの矢っ!」
途端、本がその形を変え、銃の形へと変化した。
ソラはその銃を掴むと後方に向かって構え、その引き金を引く。
撃ち出されたのは蒼白に発光する魔弾だ。魔弾はソラに迫り来るそれにぶつかり相殺した。
「なっ!?」
本日何度目の驚きだろう、スミスは信じられないと目を見開いた。
ソラのアンリミテッドディクショナリー。
これも打ち倒したまつろわぬソラフィアの影響で進化していたのだ。
その本に食わせた物を記憶し、解析し、そして再現する。
最初の一発を本に食わせ、スミスの銃を食った事でその再現が可能になったのだ。
もちろん弱点も存在する。ソラがこの能力で再現できる能力は使用している間は一つで、他のものを使おうとすれば一度解除し、ページを開き、ロードしなければならない。
二つ以上の能力を同時に行使できる能力では無いのだ。
しかし、それでもこの能力は強力だろう。
追ってくる物の無くなったソラはスミスへと向き直り、引き金を五回引く。
「くっ!」
迫り来る魔弾にスミスは嘴を開き、アルテミスの矢で相殺させるが、魔弾は一月に6発しか撃てない。
一発はソラに食われるように消され、二発目は相殺された。残りは4発だが、その四発を相殺しても残り一発がスミスを襲う。
しかし、又してもスミスの姿は歪み、閃光が走る。
魔弾がスミスに着弾する前にスミスは変身を終え、その化身が操る雷で魔弾を相殺させたのだ。
雷による閃光が弱まると、そこには15メートルを越す巨体。全身は黒く、右足は黒曜石で出来ている。
大いなる魔術師。これがこの形体の名前だ。
この化身は雷を操り武器とする。超変身の中で最強の変身体だった。
「どうやらかなり君の評価を改めねばならぬ様だな」
と言い放ったスミスは雷雲を呼び、雷を操りソラへと向けて放つ。
『ラウンドシールド』
雷がソラを絶え間なく襲う。
ピシピシピシと、バリアが嫌な音を上げる。
『ロードカートリッジ』
カートリッジをロードしてその堅牢さを底上げするが、中々に厳しい。
その威力に押されるようにソラは地面へと追いやられていく。
そして、終にそのバリアが砕け散った。
砕け散った後も雷は降り続き、余波で地面を抉り、砂埃が舞う。
「少しやりすぎてしまったか…」
などとスミスは言い、ようやく雷が止んだ。
スミスは大勢は決したと思っただろう。ここで降参を迫れば認めるだろうとも思う。
が、しかし…
粉塵が晴れるとそこには左手の盾を雷から主人を守るかのように空へと掲げた益荒男が居た。
そう、スサノオである。
スサノオの持つ八咫鏡がスミスの操る雷からソラを守りきったのだ。
健在を知り、スミスも雷を操り攻撃を再開する。
しかし、ソラ目掛けて打ち下ろされた雷を虚空から出でたプラズマがぶつかり、空中で押し留めた。
雷を操れるのは何もスミスだけではない。ソラだって自在に操れるのだ。
万華鏡写輪眼・タケミカヅチである。
タケミカヅチを行使し、ソラは雷を押し留めた。が、しかし、変化はここからであった。
何故ソラは八咫鏡で受け止めるという選択も出来たはずなのにわざわざオーラを消費してまでタケミカヅチを使ったのか。
それはスミスが操る雷に自身のプラズマを当て、相手の支配力が緩んだ所で再度タケミカヅチで雷を支配しようとしたからだ。
そして、その企みは成功した。
スミスの支配から逃れた雷を操り、それが一箇所に集まると人型を形作っていく。
その大きさはおよそ15メートルほど。
その姿は甲冑を着込んでいるが、古き日本神話の武士のようだ。その手には一本の剣を持っていて、形状は内反りであり、普通の日本刀とは言いがたい。
その体は全て雷で出来ているためバチバチと帯電しているのが分かる。
雷神・建御雷神
この荒ぶる益荒男の姿こそがプラズマを操るタケミカヅチの本来の能力である。
スサノオと似ているかもしれないが、このタケミカヅチは攻撃面に特化した能力だ。
タケミカヅチの双眸が大いなる魔術師を捉える。
すると次の瞬間、豪雷轟きその距離を一瞬で詰めてその剣…布都御魂を振るった。
「なっ!?」
なす術無く吹き飛ばされるスミス。タケミカヅチを構成する物質は雷である。生身では無いためにその移動速度はその巨体にしては凄まじく速く、また、振るった腕力もまた豪腕であった。真っ二つに切り裂かれなかったのはスミスが頑丈であった事もあるが、タケミカヅチが逆刃でその剣を振るったからでもある。
ガラガラと、建物を崩しながら着地したスミスは、起き上がるより早く、雷を操りタケミカヅチを攻撃する。…が、しかし、タケミカヅチの体は雷で出来ている。
いくらか切り裂かれたが、途中でその雷のコントロールを奪い、その体を修復し、さらに駆けた。
タケミカヅチはスミスを切り裂き、吹き飛ばし、ダメージを与えていく。
「なめるなっ!」
スミスはその巨体でタケミカヅチをその攻撃を受ける覚悟で拘束すると、超変身の内、一番危険で、その分攻撃力も申し分ない殲滅の焔へと変身する。
この殲滅の焔とは、自身を蒼黒い焔へと化身して、我が身共々相手を打ち滅ぼす技だ。
焔へと化身したスミスがタケミカヅチを焼き尽くそうとその火力を上げるが、前述の通りタケミカヅチを構成するのは雷である。焼かれようが切り裂かれようがタケミカヅチにダメージを与える事は出来ない。
焦れたスミスは自身を爆弾のように爆発させ、タケミカヅチを爆散させた。
爆風で消し飛ばされるタケミカヅチ。
その衝撃波からはスサノオの八咫鏡で防御するソラ。
その構成を全て吹き飛ばせれば…とは行かないのがやはりタケミカヅチの理不尽な所だ。
吹き飛ばされたタケミカヅチの粒子を再構築し、まったくの無傷で再臨する。
スミスは殲滅の焔から人の形へと戻るとその場に跪き、呪力の消費によって息を荒げた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
スミスの攻撃であたり一体焼け野原と化している。今の攻撃はタケミカヅチだけではなくソラ本体をも攻撃したのだろうが、その衝撃は距離も有った為にスサノオの防御力を抜くほどではなかった。
「これは流石に打つ手がないか…」
と、スミスは言うと、パンパンと埃を払い立ち上がる。
「私の負けだ。君の言うとおり私はロサンゼルスへと帰ろう。…だが心せよ。もしアーシェラが非道を働けば必ず私が誅殺するであろう」
と、負けても芝居がかった奴である。
「そう」
それを聞いたソラはタケミカヅチとスサノオを消し去った。
「ソラっ」
どうやら決着は付いたようだとアオ達が空からソラの元へと降りてくる。先ほどの地震が発生したときに空中に逃れた為だ。
「勝ったわよ」
「お疲れ」
「お疲れさま」
皆それぞれの言葉でソラを労う。
「あのジョン・プルートー・スミスが負けるか…やはりお前達の方が化物だな」
と、アーシェラが何かを悟ったかのように呟いた。
さて、息も絶え絶えで立っているスミスに向かってアオが声をかける。
「それにしても、お姉さんにそのコスプレは余り似合ってないよ?」
「え?女の人なの?あーちゃん」
と、ユカリが問い返す。
「えええ!」
「ほ、本当に?」
「嘘…ですよね?」
なのは、フェイト、シリカも驚いたようだ。
「ほう…」
とアテナは目を細めただけだ。
「…………え?」
が、一番驚いたのはアーシェラだろう。幾度も争ってきた相手である。すっかり男だと思っていたのだ。
「何を言うか、私はこの通り男だっ!」
何処か虚勢を張っているようなスミス。
「仮面を取ってないからこの通りと言われてもね。それにあなたのオーラは覚えている。あれだけ鮮烈なオーラを放っていれば常人じゃないとひと目で分かったさ。昨日、宿ですれ違ったお姉さんだよ」
と言ったアオの言葉に一同スミスに視線を向けた。
「そんなはずは無いっ!私は男であるべきだっ…しっ失礼するっ!」
と言って豹へと変身して駆け去っていくスミス。
「まぁ、まだ結界を解除してないんだけどね」
追い詰めて仮面を剥ぐのも趣味が悪いかとソラは封時結界を解除した。
後書き
そう言えばソラが無双するのって実はアオよりも無かった…ですね。
ソラの強化された能力…強すぎますね…まぁ本と言う媒体ですし、記録と再現と言う能力になったのですが…形ある物しか取り込めないし、まあいいかな。
それ以上にタケミカヅチが卑怯っぽいですしね。雷を切ろうと砕こうと暖簾に腕押し。間違いなく切り札級の能力ですね。まぁ、カンピオーネやまつろわぬ神に何処まで通じるのか…今回は無双できていますが、破天荒な彼らには破られる事でしょう…
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