FAIRY TAIL 星と影と……(凍結)
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ララバイ編
EP.10 X784年、物語の始まり
前書き
やっと原作の話に入りました。
それでは第10話です。
よろしくお願いします。
息を潜め、闇に紛れる。
眼下の者たちは、気配を殺しきっている自分に気付いていない。
ワタルは“魂糸縫合”で足の裏とギルドの天井を縫い付けて、逆さまで標的を見下ろしていた。
依頼内容は『近くの村で悪事を働く闇ギルド、傷持ちの吸血鬼の構成員の拘束』、難度はS級。
――タフな依頼だな……でも……。
「楽勝、か……」
誰に言う訳でもなくそう呟くと、ワタルは“縫合”を解き、天井を蹴って奥の舞台に降り立った。
ドガシャーン!!
轟音と共に降り立ったワタルに対し、傷持ちの吸血鬼の面々は慌てた。
侵入者に誰も気付かなかったのだ。
「な、なんだ!?」「何事だ!」「侵入者か!?」……
「何者だ、貴様。ここに何しに来た?」
「……闇ギルド、傷持ちの吸血鬼の現リーダー、ヴィクサーだな?」
「……そうだ。もう一度聞くぞ、若造。何者だ、そして何しに来た? そして……ここが傷持ちの吸血鬼、全50人のアジトだと知っての狼藉か!?」
刺青を入れた大男・ヴィクサーの問いに、ワタルは鎖鎌を出し、舞台の中央で高らかに答えた。
「魔導士ギルド、妖精の尻尾だ! 悪いが仕事なんでな、捕まってもらうぞ、傷持ちの吸血鬼!!」
答えるや否や、ワタルは駆け出した。
「舐めやがって……者共、掛かれぃ!!」
傷持ちの吸血鬼の面々も、ヴィクサーの命令に、魔法剣や光を纏った拳を以て迎え撃とうとしたが……。
「セイッ!」
鎖鎌を投擲、その鎖でもって薙ぎ払った。
「グオッ!?」
「……まずは5人」
「くそっ、なら飛び道具だ!!」
「……遅いっ!」
続いてワタルは忍者刀に換装、スピードを以て攪乱、“魂威”で次々に魔導士達を戦闘不能にしていった。
魔法弾や魔法銃で応戦しようとした者もいたが、ワタルはまるで全方位が見えているかのように身を捻って躱し、同士討ちを誘いながら、死角に紛れてその数を減らしていった。
傷持ちの吸血鬼の魔導士達に見えたのは、一瞬だけ光る“魂威”の光と、ワタルの黒髪の残す影のような残像だった。
「こいつ……まさか……」
魔導師の一人が、冷や汗と共に呟いた。
「残り20人程か……ん?」
――魔力感知、範囲が広い!
「チッ……役立たず共が……」
「ちょっと、ヴィクサーさん、何を!?」
「俺の部下に……弱者は要らねぇんだよっ、“バストヴォイス”!!」
ヴィクサーは部下に構わず広範囲に魔法を放った。
声魔法……自らの声に魔力を込めて指向性を持たせ、攻撃する魔法だ。
拡散させた大声は、アジトのテーブル、椅子、窓、部下の魔導士さえも無差別に蹂躙し、破壊した。
「ギャッ!」「ウアッ!?」「なんで……」……
「ふー、これで……やったか?」
巻き込まれた魔導士を意にも介さず、ヴィクサーは土煙の中を目を凝らして見たが……
「呆れた……味方までやるのか、お前は……」
「!?」
声はすぐ近く、ヴィクサーの目の前で聞こえた。
「な!? 貴様、どうやって……」
「答える義務はない! “魂威”!!」
「ガハッ!!」
「残りは……10人か。やり過ぎだ、馬鹿が……」
「そんな……ヴィクサーさんが……一撃で……」
ワタルがやった事は簡単。
予め魔力を感知したワタルは、鎖鎌を天井の梁に投げて巻き付かせて飛び上がり、“魂糸縫合”で体を梁に固定させてヴィクサーの魔法をやり過ごし、土煙の中の魔力の出所を感知。その目の前に飛び降りて“魂威”でヴィクサーを一撃、だ。
「……見えるのは一瞬、それも光と黒い残像だけ……」
震える声は続く……。
「逃げろおおお!」
「逃がすか! フンッ!」
「なっ! うわああ!!」
逃げようとした魔導士に対し、ワタルは巨大な手裏剣を換装、アジトの入り口の上に投擲して……何人か巻き込みながら入り口を塞いだ。
再び忍者刀に換装したワタルは高速移動を再開、一人、また一人と意識を刈り取っていった。
「……しかも、光った、と思ったら既にやられている……間違いない、こいつは……」
声の持ち主は、戦慄したように呟いた。
「残り5人!」
「クソがぁっ!!」
「う、うおおおお!!」
傷持ちの吸血鬼の残りの魔導士達は自棄を起こし、一人を残して一斉にワタルに掛かってきたが……
「“連掌魂威”!」
右、左、右、左、とワタルの腕が揺れて光が走った瞬間、四人は一人残らず床に伏した。
後に残ったのは震えてる一人、ワタルは掌から、バチバチ、と紫電のような物を弾けさせながら接近した。
「妖精の尻尾の“黒き閃光”、ワタル・ヤツボシ……!」
「説明どうも!」
「ガッ……」
腕を一閃、最後の一人の意識を“魂威”で刈り取り……この場に立っているのはワタル一人となった。
「傷持ちの吸血鬼、全50人……制圧完了。依頼終了だ」
X784年、7月。ワタルは20歳となっていた。
= = =
小型の携帯用通信魔水晶を使って村に依頼終了を連絡し、評議員の検束部隊、ルーンナイトに傷持ちの吸血鬼の魔導士達を引き渡したワタルは、妖精の尻尾のギルドに帰ってきた。
「マスター、ただいま戻りました」
「おお、早かったな……“闇ギルドの拘束”に……どれぐらいじゃ?」
「2週間ですよ、マスター。お帰り、ワタル。どうだった?」
マカロフの問いに答えたのは、ギルドのウェイトレスをしているミラジェーンだった。
嘗ては“魔人”と呼ばれた彼女だが、2年程前に妹のリサーナを亡くしたショックから魔力が枯れ、元の実力を発揮する事が出来なくなってしまい、若くして引退してしまったのだ。
「ただいま、ミラ。上々だ。運よく全員が集まって集会やってたみたいだったから、そこを襲撃して一網打尽。……そういえば、エルザは?」
「さすがね。……エルザも仕事よ、魔物の討伐。……心配?」
「いや……逆に魔物の方が可哀想になって来るよ。……この調子だと、いつか本気で相手してやらないといけなくなるかもな」
ワタルは苦笑しながらそう答えると、ミラジェーンは溜息をついた。
「もう少し心配してあげてもいいと思うけどなぁ……」
「心配するだけ無駄だろ? あいつは強いんだから」
「まあ……エルザの事は置いといて……よくやったな、ワタル。……さて、少しよいか?」
「ええ、なんです?」
「定例会がもうすぐあるのじゃが……お前についてきて欲しいのじゃよ」
「……他の人は……仕事か。……了解です。急ですが、お供しましょう」
「うむ。すまんな」
ワタルはそう言うと、軽く食事を取り、自宅に戻った。
翌日、ワタルはマカロフと共に、定例会の会場があるクローバーの町に向かった。
そのさらに翌日……。
「ナツ、グレイ! 大変だ!!」
「「あ?」」
「エルザが……帰ってきた!!」
「「あ゛!!?」」
妖精の魔導士の一人、ロキの報せに、いつものように取っ組み合いの喧嘩をしていた二人の青年、ナツとグレイは、そろって大量の冷や汗と共に顔を青くした。
その数分後……鎧の魔導士、19歳のエルザは土産(討伐した魔物の角)とともに、ギルドに帰還した。
「ただいま戻った。……マスターはおられるか?」
「おかえりなさい! マスターはワタルと一緒に定例会に行ったわよ」
「なに? ワタルもいないのか……。まあ、仕方ないか……ナツとグレイはいるか?」
エルザは、ミラジェーンの答えに若干眉を潜めたが、すぐに別の事を尋ねた。
「いるわよ、ほら……」
「よ、ようエルザ……俺たち今日も仲良くやってる、ぜ」
「あ゛い」
「ナツがハッピーみたいになった!?」
さっきまで取っ組み合いの喧嘩をしていた二人が、肩を組んで冷や汗をかきながらも仲良さそうにしているのを見て、金髪の新人、星霊魔導士のルーシィはツッコミを入れた。
ちなみに……ハッピーとは、ナツと一緒に行動している青くて喋る猫である。能力系の魔法“翼”を使う、妖精の尻尾の魔導士の一人(一匹?)だ。口癖は『あい!』。
「仲が良さそうで何よりだ。ところで、仕事先で妙な噂を耳にしてな……。本来ならマスターかワタルと相談するところなのだが……迅速な解決が必要であると判断した。そこでだ……二人の力を借りたい。いいな?」
「はい!?」
「え!?」
「あのエルザが……」「ワタル以外の奴を誘った!?」「何事なんだ、一体……」「俺が知るか」……
ルーシィには、ギルドのざわめきよりも気になった事があった。
「あの、ミラさん……皆やあのエルザさんって人が言ってる“ワタル”って誰なんですか?」
「そうね……まず、エルザはナツやグレイに恐れられてるのは分かる?」
「は、はい……なんとか」
「ワタルはね、そのエルザよりも強い、“ストッパー”って呼ばれてる、このギルドの最強候補の一人よ」
「最強!?」
普段は温厚なんだけど……怒ると、ね……、と言ったミラジェーンに、ルーシィの心境は、
――ナツが怖がるエルザさんよりさらに強いってどんな人なのよ!?
と、会ってみたいような気持ちが半分、でも怖いような気持ちが半分ずつだった。
「出発は明日の朝だ。準備をしておけ」
「いや、まだ行くとは……」
「……いいな?」
「「あいさー!」」
「よろしい。詳しくは移動中に話す」
エルザの鋭い眼光に、なす術も無く無条件降伏をしたナツとグレイであった……。
「エルザとナツとグレイ……そういえば、考えた事無かったけど……妖精の尻尾の最強チームかもしれないわね……。でも……」
「……でも?」
ミラジェーンの言葉に、再び戦慄するルーシィだったが……
「絶対纏まりそうにないから……ルーシィ、ついてって仲をとりもってくれる?」
「ええーっ、あたしー!?」
何故かこのチームに付き合う事になってしまった……。
= = =
翌日、クローバーの定例会会場。
今回の定例会は、二日に渡って行われる。一日目に定期報告を行い、二日目の今日は……
「マカロフちゃん、あなたのトコの魔導士ちゃんたちはホントに元気がいいわぁ~」
「ぎゃ~っはっはっは! そうじゃろう、そうじゃろう!!」
「元気があるのはいいがな……評議員の連中は『いつか妖精の尻尾の連中が町一つ潰すんじゃないか』って危惧してるみたいだぞ?」
……昼間から飲み会と化していた。
しかも、青い天馬のマスターボブと、四つ首の番犬のマスターゴールドマインも交えてだ。
――ホントにいいのかね、こんな感じで……。情報交換にはなってるみたいだけど……
マカロフの付き添いとして、この場にいるワタルは、頭痛を堪えながら溜息をついていた。
「マスターマカロフ、マスターマカロフ……」
甲高い声に、ワタルが顔を上げると、何かを咥えた鳥が飛んでいるのを見た。
――ん? 手紙……誰からだ?
「おーい、こっちだ……ありがとう。……ミラから?」
ワタルは鳥から手紙を受け取ると、何かあったのか、と思ってその場で読んだ。
魔力を通せば立体映像が出るタイプの物だが、そのままでも読めるのだ。
――あーあ、これはマズイかもな……。
内容を理解したワタルは、冗談を乗せながらすぐにマカロフに知らせた。
「おーい、マスター。ミラから手紙だってさ」
「何っ!? 早く渡さんかい! どれどれ……」
【マスター、定例会、ご苦労様です】
ワタルから手紙を受け取り、マカロフが手紙に魔力を込めると、ミラジェーンの立体映像が出てきて話し始めた。
「どうじゃ!? これがウチの看板娘じゃ!! めんこいじゃろぉ!?」
「「「おおぉーっ!!」」」
「あらまぁっ!」
「ミラジェーンちゃんか……すっかり大人っぽくなったな……」
【実は、マスターがいない間に、とっても素敵な事があったんです】
「ほう」
“素敵な事”と聞いて、マカロフは声を漏らしたのだが……
【なんとっ! エルザと、あのナツとグレイがチームを組んだんですよ! これって妖精の尻尾最強のチームだと思うんです。一応ご報告をしようと思いまして……それでは~】
「な……ななななな!?」
「マカロフ!?」
「ど、どうした!?」
ミラジェーンの笑顔から飛び出たとんでもない爆弾に、マカロフは汗をダラダラと掻き、映像が消えた瞬間に、パタッと倒れてしまった。
「……とんだラブレターだな、これは。……本当に現実になるかもな、さっきの……」
――……なんて事じゃ……本当に町一つ潰しかねんぞ……! 定例会は今日終わるし……そうじゃ!! “ストッパー”のあ奴なら……!
ゴールドマインが溜息を吐きながら呟き、マカロフは飛び起きた。
「ワタルッ!! ……あれ? あ奴はどこに行きおった?」
「町一つ、ねぇ……」
ワタルは呟きながら会場の通信用魔水晶を拝借して外に出ると、エルザの携帯型通信用魔水晶に連絡をした。
「――――よう、エル……」
【ワタルか!? 悪いが今は立て込んでて……】
【なぁ、エルザ……ワタルって今クローバーにいるんだろ? だったら……】
【! そうだった! ワタル、定例会に参加しているギルドマスターたちを連れて、できるだけ早く逃げろ!! じゃないと……】
「……厄介事のようだな。落ち着いて話してみろ、エルザ、グレイ」
出て早々、慌てた様子のエルザの声に、ワタルが説明を促すと、エルザとその場にいたグレイは説明を始めた。
闇ギルド・鉄の森、奪われた集団呪殺魔法・呪歌、狙いはクローバーで定例会をしているギルドマスター……。
エルザの説明が終わった時、ワタルは眉を潜めながら言った。
「――――そして、お前たちは魔風壁によってオシバナ駅で立ち往生、か……情けねぇな」
【うぐ……ああ、そうだ。だから……】
「ああ、分かった。マスターたちには知らせるよ。……それと、奴らの中に解除魔導士がいるはずだ、そいつを探して魔風壁を解除させるんだ」
【解除魔導士? ……ッ、そうか!】
ワタルの言葉に首を捻ったエルザだったが、すぐにハッとした。
ワタルは頷くと、言葉を続けた。
「理解したようだな。集団呪殺魔法を引き起こす程強力で危険な魔笛だ、封印されていた可能性が極めて高い。それが解除されて奪われた、という事は……」
【鉄の森の魔導士の中に解除魔導士がいる可能性が高い! そういえば……】
「心当たりがあるようだな……こちらも対処する。そっちもベストを尽くせよ」
【ああ……ありがとう、ワタル】
「……これぐらい、礼には及ばないさ。じゃあな」
そういうと、ワタルは通信を切って会場内へ歩いて行った。
――しかし、まぁ……二週間ぶりの会話がアレとはな……。
らしいといえばらしいのか? と思っていると、マカロフのところに着いた。
「ぬおっ!? 今までどこにいたのじゃ、ワタル!? 早速で悪いがエルザ達を……」
「そのエルザ達ですが……町一つ云々は大丈夫ですけど、少々厄介な事になってまして……耳を」
「……なんじゃ?」
「実は――――」
慌てているマカロフに対して、ワタルは小声で説明をした。
普通に話せば、パニックになる可能性があったからだ。
「――――という訳です。逃げるなり、鉄の森を迎え撃つなりしないと、結構危険ですよ」
「フム……なら――――」
マカロフの言葉に、ワタルはにやりと笑うと首肯した。
「了解です、マスター。それで行きましょう」
「なんじゃ、心配はしてくれんのか?」
「分かってるくせに……」
ワタルは笑うと、力強く、自信を持って言った。
「ギルドの仲間は家族。その絆は何よりも固く、強い。そう教えてくれたのは……貴方ですよ、マスター。なら、俺は信じるだけです」
「そうか……ならいいわい」
笑うマカロフを背に、ワタルは背中を向けて森の方に歩いて行った。
――ホント、このギルドは退屈しないというかなんというか……いて楽しいね、まったく……。
その顔には、貼り付けたような作り笑いではなく、確かな笑みが浮かんでいた。
後書き
感想、意見等ありましたらよろしくお願いします。
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