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阿国

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第二章

 見れば確かに艶やかな女だ、香りたつまでだ。
 家康もまたその阿国を見て言った。
「御主の様なおなごははじめて見るのう」
「惚れられましたか」
「ははは、そう来たか」
 家康は阿国の話を聞いてまずは顔を崩して笑った。
「面白いことを言うのう」
「惚れたからこそ私をお呼びになったのではないのですか?」
「少なくとも気は持った」
 そうなったというのだ。
「それでじゃ」
「呼ばれましたか」
「そうじゃ。ではよいか」
「舞を舞えと仰るのですね」
「そして芝居もじゃ」
 それもしろというのだ。
「その二つを出来るか」
「さすれば。それでなのですが
「それで何じゃ」
「はじめて江戸に来ましたが」
 その江戸がどうかというと。
「面白い町ですね」
「ほう、江戸はか」
「今急に大きくなっていますな」
「出来上がっているというのですな」
「それは非常に面白いと思います」
 阿国はこう家康に言うのだった。
「私の様で」
「御主とな」
「私はややこ踊りをはじめました」
 この踊りは彼女がはじめたものに他ならない。
「それがです」
「江戸と御主は同じか」
「重なります」
 彼女の中でそうなっているというのだ。
「そのことを感じ面白いと思います」
「江戸は草原じゃ」
 家康はその江戸のことをこう評した。
「藪と沼のな」
「田舎だと」
「その通りじゃ。東国の田舎も田舎じゃ」
 笑って阿国に言うのである。
「それ以外の何でもないわ」
「しかし今は」
「人が集まり城もじゃな」
「急に出来ていますが」
 阿国は家康に言った。
「同じかと」
「江戸と御主がか」
「はい、はじめていますね」
「一からな」
「私も、習っているものはありますが」
 服にしろそうだ、傾奇者を見てそれの服を着ていることは少し見ただけで容易にわかることである。
「それでもです」
「はじめておるか」
「そうしています、まさに一から」
「一からはじめるのは大変じゃな」
 家康は阿国の話を受けてそして言った。
「どうもな」
「岡崎や駿府では違いましたか」
「浜松もな。既に城も町もあった」
 江戸と違いだ。
「そこに加えていくのもまた大変じゃが一からはじめるよりはな」
「楽ですね」
「かなりな。いや、まことに今は大変じゃ」
「しかしですね」
「うむ」
 家康は阿国が言わんとしていることがわかっていた、それでだった。
 確かな笑みになりそのうえで阿国に告げた。
「これ程面白いことはない」
「白い紙に字を描く様な」
「完全に新しいものをすることはな」
「本当によいものです」
「確かに同じじゃな」 
 家康はここで言った。
「江戸と御主の舞、そして」
「そしてですね」
「わしと御主もな」
「何かを一からはじめ楽しんでいることが」
「阿国、わしはこの江戸を天下一の町にするぞ」
 家康はにこりと笑って阿国に告げた。
「そして江戸城もじゃ」
「天下一の城にされますか」
「御主もそうなれ」
 江戸の町、江戸城の様にだというのだ。 
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