ヒーローは泣かない
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第二章
「ジャガーっていうと」
「ジャガーの姿の時もありましたね」
「うん、だからね」
それでだというのだ。
「それになるよね」
「まさに因縁の相手ですね」
「会うのははじめてで」
ケツアルコアトルも言う。
「それで試合もはじめてだけれど」
「因縁ある相手ですね」
「そう思うと燃えるね」
「向こうもそう思っていますかね」
「どうだろうね、それは」
今一つはっきりしない返答だった。
「向こうはメキシコ神話のこと知らないかもね」
「アステカのですね」
「それにルチャ=リブレのこともね」
「あっ、その団体あれですから」
「あれって?」
「カルフォルニアが本拠地で」
かつてはテキサスと共にメキシコ領だった、米墨戦争の結果アメリカに獲られたのである。メキシコからしてみれば忌まわしい話だ。
「それでメキシコ系の経営者ですから」
「そうなんだ」
「はい、レスラーもメキシコ系が多くて」
彼等と同じだというのだ。
「全員がそうじゃないですけれど」
「ルチャ=リブレの色も強いんだね」
「アメリカのショープロレスでも」
その色が強いというのだ。
「ですからルチャ=リブレも」
「そしてアステカ神話のことも」
「知っていると思いますよ」
「じゃあ善と悪の対決かな」
「そうなると思いますよ。それじゃあ」
「うん、僕はそのジャガーマンと闘うよ」
確かな顔で言う。
「そしてね」
「勝ちますね」
「ヒーローは勝たないと」
このことは絶対だった、彼にとっては。
「だからね」
「頑張って下さいね、今度の試合も」
「応援してくれている子供達の為にもね」
「はい、あの子達の為にも」
笑顔で頷き合う二人だった、ケツアルコアトルは試合に向けて調整を行っていた。
その間相手の団体との挨拶もあった、お互いにマスクやメイク、レスラーの正装をしてそのうえで挨拶をした。
彼の前にはジャガーのマスクのスーツの男がいた、無論彼も服はスーツだ。
背は同じ位で流暢なスペイン語で言ってきた。
「はじめまして」
「ジャガーマンさんですね」
「はい、この団体のレスラーで」
ヒールだがリングの外では紳士として接してきていた。
「貴方の今回の相手です」
「それでは」
「お互いにベストを尽くしましょう」
言いながらだった、ジャガーマンは右手を出してきた。
ケツアルコアトルもそれに応じる、そのうえで。
二人は快い握手をした、そうしてだった。
試合には着々と進んでいた、試合当日になっても。
彼はトレーニングを続けていた、そして試合開始まであと数時間となった。
その頃彼は最後の調整を自身の事務所で行っていた、だがここで。
マネージャーが血相を変えて彼に言って来た。
「あの、大変です」
「大変っていうと?」
サンドバックに次々と回し蹴りを浴びせていたがそれを止めてマネージャーに応じる。既に試合の衣装になっている。
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