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愛の妙薬

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第一幕その三


第一幕その三

「何の御用でしょうか」
 そしてしれっとした態度で逆に彼に対して尋ね返した。
「おや、これは手厳しい」
 ベルコーレはそれに対しておどけてかわした。
「では正攻法で行きましょう」
「正攻法」
「左様。美女を陥落させるのには古来から多くの方法があります」
 ベルコーレは気取った物腰で言った。
「何をする気だ、嫌味ったらしい奴め」
 ネモリーノは二人のすぐ側に来た。そしてベルコーレをジロリ、と睨んだ。
「ん!?」
 ベルコーレも彼に気付いた。だが意に介さない。アディーナに専念することにした。
「戦場においてあれこれと考えていると命が幾つあっても足りません。すぐに動かないと死んでしまいますから」
「ここは戦場ではないわよ」
 アディーナは切り返した。
「いえ、私は今戦っています」
「誰と?」
「目の前の可愛い娘さんとね」
 そう言ってにやりと笑った。
「何」
 ネモリーノはさらにその視線を険しくさせた。
「軍人は思ったらすぐに動くもの、突撃に躊躇してはなりません」
「私は要塞じゃないわよ」
「美女は要塞と同じ、攻略しなければなりませんから」
「攻略だと!?」
 ネモリーノはまた言った。
「何か変なのがいるな」
 ベルコーレは彼を横目で見て呟いた。
(見たところあまり賢そうな奴ではないな。この村の農民か。それにしても間の抜けた顔をしている)
 横目でネモリーノを見ながらそう思った。
(まあ無視していていいな。それよりも今は)
 そしてアディーナに視線を戻した。
(目の前の要塞を攻略しなくちゃならんからな)
 結論を下すとまた攻撃を開始した。
「では白旗は揚げられないのですな」
「だって要塞なんかじゃありませんから」
 アディーナはまたあっさりとかわした。
「白旗なんて持っていないわよ。本なら持っているけれど」
 そう言って手に持っている本を見せた。
「要塞にはこんな本はないわよね」
「確かに」
 ベルコーレは半歩退いた。だが撤退はまだだ。
「軍曹さん、貴方は少しせっかちね。私はまだはいともいいえとも言ってはいないわよ」
「ではお答えはまだですかな」
「どうでしょうね」
 アディーナははぐらかした。
「時間はあるのでしょう」
「まあ数日程ですが」
「その間よくお考え遊ばせ。私が攻略するに値する要塞かどうか。格好のいい人は移り気ですから」
「おっと、これは手厳しい」
 ベルコーレは彼女の反撃に口を尖らせて渋い顔をしてみせた。
「ではここは一時休戦といこう。兵士達は宿に向かってよろしいですかな」
「ええ」
 村人達がそれに頷いた。
「どうぞ。既に話は済んでいるのでしょう?」
「はい」
 ベルコーレは答えた。
「ではお言葉に甘えて。おい」
 そして周りで休息をとっている兵士達に声をかけた。
「一旦宿に向かうぞ。そしてそこで荷物や銃を置いた後当直の者以外は皆自由行動だ」
「はっ」
 彼等は一斉に立ち上がり敬礼をして応えた。こういった動作はやはり軍人ならではであった。
「さて」
 彼は命令を終えるとアディーナに顔を向けた。
「お嬢さん、また後で」
 にいっ、と笑みを浮かべて言った。そして兵士達を引き連れて宿に向かった。
「さあ皆さん」
 それを見届けたアディーナは彼等に語りかけた。
「今のうちに今日の仕事の分を終わらせましょう。今日は兵隊さん達のお相手もしなくちゃいけませんし」
「宴だな」
 彼等は楽しそうに言った。
「ええ。けれどそれは仕事が終わってから。早く終わればその分だけ楽しめますよ」
「よし」
 アディーナの言葉に乗ることにした。
「じゃあ今から頑張ってすぐに終わらせるか。そしてその後は」
「美味い酒に食い物がわし等を待ってるぞ」
 彼等は口々に言った。
「では行くとしよう、仕事を終わらせに」
「おう、そして酒を浴びる程飲もうぜ」
「おっさん、あんたはいつも飲んでるだろうが」
「おっと、そうだったかな、ははは」
 そしてそれぞれの仕事場に向かった。後には二人だけが残った。ネモリーノとアディーナである。
「アディーナ」
 ネモリーノは早速彼女に声をかけた。
「何、またいつもの?」
 対する彼女は余裕をもって彼を見ていた。
「いつものじゃないよ」
 それに対するネモリーノの顔は必死そのものである。
「アディーナ、僕の気持ちはわかっているだろう」
「毎日聞いているからね」
「じゃあわかってくれよ、君が好きなんだ」
「だからそれも毎日言っているでしょう?」
 アディーナはすげない態度で返した。
「私は貴方には合わない、って。だから他をあたりなさい」
「それができないのはわかっているだろう」
「あら、どうかしら」
 だが彼女は相変わらずすげない。
「人の気持ちなんてころころ変わるものよ。貴方も私も」
「僕の気持ちは変わらないよ、ずっと。君だけだ」
 彼はあくまでアディーナにすがる。
「君以外もう誰も目に入らないんだ」
「そんなの一時の気の迷いよ」
「違う」
 ネモリーノは首を横に振った。
 
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