チェネレントラ
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第二幕その二
第二幕その二
「私の髪は如何でして」
「ううむ」
「では私の歯の白さは」
「爪の綺麗さは」
二人はもう何が何でもダンディーニを自分の虜にするつもりであった。彼はそれを戸惑うふりをして相手をしながら二人に対して恐る恐るの演技をしながら言った。
「あの、二人共」
「はい」
「何でしょうか」
「もう少し落ち着かれて」
「あっ」
「私としたことが」
二人はそう言われて我に返った。
「宜しいですか」
「はい」
二人は頷く。
「私を信用して下さい。いいですね」
「はい」
「ですからここは私にお任せ下さい」
「わかりました」
王子にそう言われては流石に頷くしかなかった。ダンディーニはそれを確認した後でまた二人に対して語りはじめた。あえてゆっくりと言う。
「まず」
「はい」
「決めるのは私です」
「はい」
「全てが決まったならお話します。いいですね」
「わかりました」
こうして二人を黙らせた。こうして三人はとりあえずこの場の騒ぎを終わらせたのであった。
三人が食事の間で騒いでいた頃マニフィコは酒倉で上機嫌でいた。ワインを次々と飲みながら周りの者に得意気に語りかけている。
「これは」
「はい」
「フランスのマルセイユ産ですな」
「おお」
「正解です」
「ふふふ」
彼は次には別の樽のワインを飲んだ。それから言う。
「この甘さに発泡性があるところを見ると」
「はい」
「これはイタリアモデナのものですな」
「何と」
「その通りです」
周りの者は彼に合わせるようにしてそう言う。
「何とまあ」
「三十の樽のワイン全てを言い当てられましたな」
「どうですかな、私のワインへの目利きは」
彼はやはり得意そうに周りの者に尋ねていた。
「かなりのものでしょう」
「はい、全く」
「しかも全くふらつかれてはおられない。素晴らしいです」
「生憎ワインは私の血でして」
彼は語る。
「幾ら飲んでも酔わないのです」
「成程」
「将にワインの為に生まれてきたような方だ」
「左様、これで私の実力がわかりましたな」
「はい」
ラミーロが答える。
「それでは貴方はこれから酒倉係となって頂きます」
「身に余る光栄でございます」
「そして貴方はこれから酒杯管理担当長官になられ」
「はい」
「葡萄収穫担当責任者になられ」
「何と」
「酒宴担当指導者になられるのです。宮中の酒に関することは全て貴方に一任されることとなりました」
「素晴らしい、何という栄誉でしょうか」
「貴方にこそ相応しいものであります」
「いやいや」
一応謙遜はしているがやはりマニフィコは得意気に笑っていた。
「胸の中で花火があがったようでございます」
「はい」
「それでは皆様」
ここで彼は周りの者に対して言った。
「これから私が言うことを書き記して下さいませ。そして」
「そして?」
「それをまた写して頂きたい。そうですな」
彼は勿体ぶって言う。
「六千枚程。いいですかな」
「わかりました」
皆頷く。彼はそれを確認してから大袈裟に口を開いた。
「それでははじめますぞ」
「はい」
ペンを手にする。そしてはじまった。
「我がドン=マニフィコ」
「我がドン=マニフィコ」
書こうとする。しかしここでマニフィコがまた言った。
「おっと、ここは大文字ですぞ」
「おっとっと」
「危ないところでした」
「気を着けて下されよ。そして」
「そして」
「そしてはいりませんぞ」
「わかっております」
そういうやりとりを続けながら書く。マニフィコは自分の名が大文字で書かれたのを書くにしてから再開した。
「我がドン=マニフィコは極めて由緒あるモンテフィアスコーネの公爵にして男爵」
「おや」
それを聞いてラミーロが声をあげた。そしてマニフィコに対して問うた。
「公爵であられたのですか」
「ええ、先祖は」
彼は胸を張ってそう答えた。事実であるがかなり遠い先祖である。ハッタリだと言っても差し支えはない。
「まあ大したことではありませんが」
そう言いながら胸を張っているところを見てもハッタリであることがすぐにわかる。だが彼はそれを気にも留めず話を続けるのであった。
「大長官にして大指導者、その他二十に余る肩書を有する者として」
「大長官にして大指導者、その他二十に余る肩書を有する者として」
貴族は何よりも肩書が重要なのである。マニフィコも殊更にそれを強調しているのであった。
「その権限を大いに発揮し、これを読む者は命を受けるものとする」
「その権限を・・・・・・」
書き続ける。筆記も楽ではなかった。
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