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チェネレントラ

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第四幕その二


第四幕その二

「貴女の声は低いけれど高めなんだから」
「低いけれど・・・・・・高め」
「そうよ」
 二人はそこで答えた。
「貴女の声はね、低いのよ。けれどその低さにも程度があってね」
「はい」
「その中では高い方なの。だから唄う歌には気をつけなさい。いいわね」
「わかりました」
 彼女はわからないままそれに頷いた。姉達はそれを見た後で階段に足をかけた。
「それじゃあね。これで休むわ」
「わしもじゃ」
 マニフィコも自室に向かった。
「朝になったら起こしてくれ」
「ご夕食は」
「ああ、いい」
「私も」
「私もいいわ」
 三人はそれぞれそう答えた。
「宮殿で腹一杯食べてきたからな」
「美味しかったわよ」
「残念ね、行けなくて」
「いえ」
 だがチェネレントラはそう嫌味を言われても態度を変えなかった。
「私は私で」
「何かあったのか!?」
 マニフィコがすぐに反応した。彼女はそれを見てすぐに見せようとした笑みを消した。そのうえで返答した。
「満足するだけ食べられましたし」
「何だ」
 彼はそれを聞いて安堵した顔をした。
「何事かと思ったわい」
「何かあったのですか?」
「いいや」
 今度は不機嫌な物腰で手を振った。
「何もない。気にするな、よいな」
「はい」
「少なくとも御前には何も関係のないことじゃ。よいな」
「わかりました」
「わかればよい。さて」
 彼は付けていた鬘を外した。だがその中の髪型も鬘と大して変わりはなかった。
「休むとしよう。それではな」
「お休みなさいませ」
 チェネレントラは召使の様に挨拶をした。マニフィコはそんな彼女に対して言った。
「明日の朝は玉葱のスープにしてくれ。よいな」
「わかりました」
 ここで外で雷鳴が轟いた。マニフィコはそれを聞いて顔を顰めさせた。
「何かよからぬ予感がするのう」
 すると遠くから何かが倒れて壊れる音が聴こえてきた。
「そらきた」
「何か倒れたのでしょうか」
「扉を開けるでないぞ」
 彼はここでチェネレントラにそう注意した。
「外は嵐じゃからな」
「はい」
 聴けば外はかなりの嵐であった。風と雨の音が聴こえてくる。屋敷に激しく打ちつけていた。
「雨が入ってはかなわんからな。それでは寝よう」
 そしてようやく部屋に入ろうとしたその時であった。扉を叩く音がした。
「あら、誰かしら」
「待て、魔物かも知れぬぞ」
 チェネレントラは扉に向かった。マニフィコはそれを止めようとしたが間に合わなかった。彼女は扉を開けた。するとそこにはダンディーニがいた。
「殿下」
「殿下ではないわ」
 マニフィコはチェネレントラの後ろで忌々しげにそう言った。
「彼は偽者なのじゃ」
「そうですの!?」
「ははは」
 ダンディーニはそれに笑いながら答えた。
「確かに私は偽者でした」
「何と」
「それみろ」
 マニフィコは不機嫌そのものの顔で彼等の側にやって来た。そしてこう言った。
「一体何の用なのですかな」
「何かありましたの」
「嵐で家が壊れたの?」
 上にいる娘達も出て来た。そして下に降りて来た。
「あっ」
 そしてダンディーニを見た。二人ももう彼のことは知っていた。一応頭は下げたがそれだけであった。恭しく礼をする気にはもうなれなかった。
「やあ、どうも」
「何か御用ですか?」
 二人はあからさまに嫌そうな顔でダンディーニを見た。
「いや、何」
 彼はそれをおものともせず余裕を以って応えていた。
「実はトラブルが起こりまして」
「ほう」
 マニフィコは何かを探るような顔で彼を見ていた。
「私も今日はえらいトラブルに巻き込まれましたぞ」
「ははは、そうでしたか」
「他ならぬどなたかのせいでね。まあそれはいいことです」
「はい」
「それで何か起こったのですかな」
「実は殿下がこの近くにおられまして」
「本当ですか!?」
 それを聞くとやはり普通ではいられなかった。マニフィコと二人の娘達は声をあげた。
「はい、馬車で移動されていまして」
「それで」
「その馬車が転倒してしまったのです。それでご助力を願いたいのですが」
「そういうことなら」
 マニフィコは胸をドンと叩いてそれに答えた。
 
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