スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇
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第五十八話 闘志、誰が為に
第五十八話 闘志、誰が為に
「今回は事情が違うな」
「あの時とはね」
ルーがジュドーに応えていた。
「百八十度違うわよ」
「この前はミナキさんの我儘だったからな」
「あの時はミナキさんひっぱたいてやろうかって思ったわよ」
エルは素直に感情を述べる。
「けれど今度はね」
「あいつも馬鹿だよな」
「そうだよ、幾ら何でも無茶苦茶だよ」
ビーチャとモンドも言う。
「あんなのしたら駄目に決まってるだろ」
「俺達でもわかるよ」
「けれどそれに気付かないのが今のトウマなんだよ」
イーノは少しトウマを庇っていた。
「自分ではね」
「それだけ視野が狭くなっているってことだ」
アポリーの言葉だった。
「自分でも気付かないっていうのはな」
「それが問題だな」
ロベルトがそれに突っ込みを入れる。
「自分でわからないのが」
「そうですね。だからミナキさんはトウマさんをパイロットから外した」
シーブックにはわかっていた。
「あまりにも周りが見えていないから」
「自分だけなのね」
セシリーの言葉は少し厳しい。
「今のトウマさんは」
「だから問題なんだ。パイロットを外されてから部屋に篭りっぱなしだけれど」
「飯は食ってるのか?」
「僕が部屋に持って行っています」
トビアがモンシアに答える。
「少しですけれど食べてくれます」
「余計なことするんじゃねえぞ」
「またまた中尉は」
「実はトウマが心配なんだな」
「う、うるせえ!」
プルとプルツーにからかわれて怒る。
「あんな奴どうなってもいいんだよ、さっさと船を降りればいいんだよ」
「こういうのをツンデレっていうのか」
「そうでしょうね」
ヘイトとアデルにはもうわかっていた。
「昔から素直じゃないからな、こいつは」
「本当は心配で仕方ないのに」
「と、とにかくだ」
二人にも言われモンシアは憮然となるがそれでも言うのだった。
「あの馬鹿はまず飯を食ってるのはいいことだ」
「そうですね。それは」
コウがそれに頷く。
「人参以外は」
「コウ、それは違うぜ」
キースが笑って突っ込みを入れる。
「人参も食べないとな」
「人参食べなくても生きていけるさ」
しかしコウは言う。
「別にさ」
「それはそうだけれどさ。まあいいか」
「だが安心はできない」
バニングの声は楽観するものではなかった。
「思い詰めておかしな行動に出る可能性もあるぞ」
「おかしな行動ですか」
「そうだ」
セイラの問いに答える。
「良くある話だ。違うか」
「確かに。アムロもそういえば」
「そうだったな。一年戦争の時だったか」
「ランバ=ラル大尉との砂漠での戦いの時だったか」
カイとハヤトにとっては忘れられない話だった。
「あの時のアムロも突拍子もなかったからな」
「トウマもあの時と同じで」
「少なくとも今は厳しいことは言わないでおこう」
リュウはここでもトウマを気遣う。
「皆それは頼むぞ」
「はい、確かに」
「今はそういう時ではないですね」
「そういうことだ。だがそれでも」
カツとエマが頷いたのを聞いてからリュウはまた言う。
「これから。心配だな」
「何かリラックスさせられればいいんだがな」
スレッガーがふと言った。
「リラックスですか」
「といっても何も考え付かないんだよな、これが」
セイラに聞かれてもお手上げといった様子だった。
「どうしたものかね、本当に」
「とりあえずは様子見しかないでしょうか」
ウッソは少し考えてから述べた。
「今は」
「それだったら何の解決にもならないだろ」
「けれどそれしかないわ」
突込みを入れたオデロにジュンコが言う。
「今はね。それしか」
「何かまだるっこしいな、おい」
「かえって下手に動いたら元も子もないわよ」
マーベットも話に入って来た。
「だから今はね」
「そうするしかないか」
トマーシュもそれが残念そうだった。
「今は」
「下手な動きを見せたら皆で止めるぞ」
オリファーはその考えを皆に言う。
「それでいいな」
「ええ、わかりました」
ファがそれに応えた。
「それじゃあそれで」
「トウマ、早まるな」
カミーユは祈るようにして言う。
「早まったら全部終わりだからな」
「問題は本人がそれをわかっているかどうかだけれど」
「わかっていないだろうな、残念だが」
マシュマーにはそれがわかっていた。
「あれではな」
「全く、世話の焼ける坊やだよ」
キャラはわざと困った感じを見せる。
「どうしたものかね」
「マシュマー様やキャラ様より困った相手とは思わなかったな」
「ゴットン、何か言ったか?」
「変なこと言わなかったかい?」
「い、いえ何も」
二人に突っ込まれて思わず首を引っ込める。
「何も言っていませんよ」
「だったらいいが」
「それにしても。本当に参ったね」
「それで今部隊は何処に向かっているんでしたっけ」
ウッソが不意に言ってきた。
「日本なのはわかっていますけれど次の行く先は」
「ああ、ロストフだよ」
「ロストフ」
ジュドーの言葉に目を少し丸くさせる。
「確か」
「ウクライナの街だよ」
ケーラが彼に答える。
「またそこで補給を受けるのさ」
「プラハでの戦いの分をですか」
「そういうことだな。今回も派手にやったからな」
「ギュネイも凄かったからね」
クェスがそのギュネイに突っ込みを入れる。
「やり過ぎだったんじゃないの?ファンネル乱射なんて」
「数が多いからああしないと駄目なんだよ」
ギュネイはこうクェスに反論する。
「そういう御前だってな」
「そうかしら」
「かなりファンネル乱射してただろ。それで何でエネルギーの減りが少ないんだよ」
「ちゃんと狙ってるからよ」
笑ってギュネイに言う。
「だから余分なエネルギー使わないのよ」
「フン、どうせ俺は下手糞だよ」
「まあまあ」
「だが。ロストフか」
アムロがロストフの名を呟き微妙な顔になっていた。
「どうもあの辺りで戦うことが多いな」
「オデッサとかですよね」
「ああ、そうだ」
カミーユに対して答える。
「一年戦争の時もそうだったしこの前のティターンズとの戦いもな」
「嫌な思い出だぜ」
ヤザンが笑って言ってきた。
「こっちは十倍で負けたんだからな」
「そうだったな。ウクライナから北上されてな」
カクリコンもその時を思い出して述べる。
「あっという間だったな」
「あの時俺はメッサーラだったがな」
「今はジ=オね」
「いい加減乗る機体を固定したいところだ」
ジェリドはこうマウアーに述べている。
「馴れてすぐに次の機体の繰り返しだったからな」
「あんたはそういう役目なんだよ」
ライラが笑ってジェリドに告げる。
「諦めるんだね」
「へっ、もうジ=オから動くことはないさ」
「どうかね、それは」
「我々はこのままハンブラビだな」
「それしかないだろうな」
ラムサスとダンケルはこれを実感していた。
「もっとも他の機体に乗るつもりはないが」
「そうだな」
「そういえばロンド=ベルにはティターンズの系列のモビルスーツも多いですね」
サラはそれを指摘した。
「ああ、そうだな」
「確かにね」
「俺達がそうだな」
サラのその言葉にサンダース、カレン、ミゲルの三人が答える。
「性能がいいし使いやすいからな」
「それでやっぱり」
「使うんだよ」
「そうですか、やっぱり」
「同じ理由でガンダムもだ」
次に出て来たのはシローだった。
「やっぱり使い勝手がいい」
「性能も高いですしね」
「俺は今ので充分だ」
彼もまた満足しているのだった。
「このまま最後までいきたいな」
「わかりました」
「そういう理由であのザクツーに乗ろうとしたバーニィはねえ」
「何だよ、悪いのかよ」
すぐにクリスに抗議するバーニィだった。
「だからザクはいい機体なんだよ」
「いい機体っていっても一年戦争の機体じゃない」
クリスが言うのはそこだった。
「私のアレックスも殆ど別物みたいにチューンアップしてるのに」
「だからザクスリーに変えたんだろ」
「どちらにしろザクなのですな」
ノリスがこう突っ込みを入れた。
「ドライセンではなく」
「ザフトのザクにも魅力を感じるけれど」
この辺りは流石だった。
「それでも今はやっぱりザクスリーが」
「いい機体ですよね」
アイナが笑顔で応える。
「やっぱり」
「そうだよ。ザクの能力をフルに引き出した重装備の機体だからね。むしろハイザックよりも」
「ザクを語らせたらバーニィには適わないわ」
クリスもぼやくだけだった。彼等はトウマのこととこれからのことを同時に心配していた。モビルスーツのことも含めて。心はあまり明るくはなれていなかった。
だがトウマはその程度では済まなかった。一人部屋の中に篭っていた彼はある時ふらりと外に出た。その手には荷物がある。
「おいトウマ」
その彼に気付いたのはボスとヌケ、ムチャだった。三人はすぐに彼に声をかけてきた。
「何処に行くんだわさ」
「荷物なんか持って」
「何処に」
「何処だっていいだろ」
不機嫌を露わにさせて彼等に対して言う。
「何処だってな」
「馬鹿言うなだわさ」
「そうそう」
「ちゃんと言うでやんすよ」
しかし三人は彼に食い下がる。
「ひょっとして御前」
「俺はあいつを許せないんだよ!」
「あいつ!?」
「あいつって!?」
「あいつだ、バランだ!」
またその名前を出す。
「バラン=ドバンを。許せねえんだよ!」
「それで今から行くでやんすか?」
「バランを殴りに」
「ああ、そうだよ」
敵意に歪んだ顔でヌケとムチャに答える。
「雷鳳がなくてもな。俺は」
「馬鹿な、今行っても何にもならないでやんすよ」
「ここは静かに」
「そんなのできるかよ!」
しかしトウマは二人の言葉を聞き入れない。
「俺はあいつを。この手で」
「馬鹿野郎!」
それを聞いてボスがトウマに怒鳴った。
「見損なっただわさトウマ!」
「何ィ!」
ボスに言われて今度は彼に感情を向ける。
「今何て言った!」
「見損なったと言っただわさ。何度でも言うだわさ!」
「ボス、手前!」
「いや、ボスの言う通りでやんすよ!」
「そうだそうだ!」
二人もボスに賛同してトウマの向こうに回った。
「トウマ、少し頭を冷やすでやんすよ!」
「今は無茶苦茶だよ!」
「無茶苦茶だと。この俺が」
「ちょっとばっかり強くなったからって調子に乗ってんじゃねえだわさ!」
ボスはまたトウマに言ってきた。
「はっきり言うだわさ!」
「何をだ!」
「御前のやってることはからかわれたガキが腹を立ててるのと同じだわさ!」
「俺がガキだと!」
「そうだわさ!その通りだわさ!」
「そうだそうだ!」
「今の御前はガキだ!」
二人もボスに続く。
「よく考えればわかるでやんす!」
「少し冷静になれば!」
「俺が冷静じゃないというのかよ!」
「大体だわさ!」
ボスがまた言う。
「御前はあのバラン=ドバンってのに御前が勝てばいいと思ってるだわさ!」
「それが悪いのかよ!」
「悪いから言うんだよ!」
「そうじゃなきゃ言わないでやんす!」
二人も何時になく真剣だった。
「それで戦いが終わるわけじゃないだわさ!」
「けれどよ!」
トウマも言い返す。
「あいつは俺の!」
「それが調子に乗ってるってことだわさ!聞くだわさ!」
「何っ!」
ボスの口調が有無を言わせぬものになった。
「御前のやろうとしているのは正義の為の戦いなんかじゃないだわさ!」
「じゃあ何なんだよ!」
「喧嘩だわさ!」
「馬鹿を言え!」
自分ではそのつもりは全くないのだった。
「俺はこの拳で世界を!」
「じゃあ聞くだわさ!」
「くっ!」
「今の御前がやろうとしているのは正義のための戦いなんかじゃなくて」
「何なんだ!」
「気に食わないからぶっ倒すだけの」
さらに言う。
「ただのガキの喧嘩だわさ!」
「俺がガキかよ!」
「何なら俺を倒してみるだわさ!」
「えっ、ボス!」
「幾ら何でもそれは」
「大丈夫だわさ」
しかしボスの声が強い。
「今のこいつに俺は倒せないだわさ!」
「言わせておけば。この野郎!」
「来るだわさ!」
二人は一触即発の事態に陥った。しかしそれでも喧嘩にはならなかった。そこにモニカが来たからだ。
「あらあら皆さん宜しくご機嫌の感じが宜しくて」
「ええと、今何て言ったでやんすか?」
「ちょっとわかりにくくて」
「ご機嫌麗しくそれが至って心地よくあられませんことではないでしょうか」
「余計わからないでやんす」
「もう何が何だか」
「だから。文法がおかしいんだって」
ここでセニアが出て来てモニカに対して言う。
「何かどんどんおかしくなっていくわね」
「そうかしら」
「そうよ。あっ、トウマ」
ここでセニアはトウマに気付いた。
「部屋から出たのね」
「あ、ああ」
セニアに対して答える。
「そうだけれどよ」
「だったら話が早いわ。御願いがあるのよ」
「御願い?俺に?」
「ええ。ちょっと買い物に付き合って」
トウマに対して言うのだった。
「荷物持ちが必要なのよ」
「荷物持ちが」
「一応テリウスもキープしたけれどね」
「気付いたらいきなりそうなってたんだよ」
見ればテリウスもいた。困った顔で二人の姉の後ろでぼやいている。
「姉さんって相変わらず強引なんだから」
「弟は姉に従うものよ」
確かにかなり強引である。しかも自分勝手だ。
「問答無用でね」
「勝手過ぎるでやんす」
「まさに暴君だよな」
二人は今のセニアの言葉を聞いて囁き合う。
「とにかく。いいわよね」
「俺はまだ何も」
「断る権利はないわよ」
確かにかなり強引だった。
「わかったわよね」
「おい、俺はまだ何も」
「だから断る権利はないわよ」
ここでも強引に押し切ってきた。
「わかってるわね」
「わかってるっておい」
「まあまあトウマ」
「気分転換でやんすよ」
二人はここではトウマを気遣って彼を宥めるのだった。
「だから行って来たらいいでやんすよ」
「そうそう」
「今俺は外に出る気は」
「断る権利はないってことだわさ」
ボスもさっきまでの衝突は嘘のように優しくトウマに外出を勧めてきた。
「お姫様の言葉には従うものだわさ」
「そうでやんすよ」
「ほら、行って行って」
「行ってって御前等」
「だから断る権利ないって言ってるでしょ」
またセニアが言ってきた。
「わかったらさっさと出る。いいわね」
「ちぇっ、強引過ぎるぞおい」
かなり強引にロストフでの外出となった。セニアが無茶苦茶な買い物をしてトウマとテリウスが荷物持ちだ。もう持ち切れない程だ。
「な、何なんだよこれ」
トウマはその荷物の多さにクレームをつける。
「こんなに多いなんて聞いてねえぞ」
「これが姉さんの買い物なんだよ」
しかしテリウスは諦めたかのようにこうトウマに告げる。
「いつもこんなのなんだよ」
「いつかもよ」
「うん。それでモニカ姉さんは」
「食い気か」
見れば今はチョコバナナを食べている。その前はソフトクリームだった。
「よくあれだけ食って太らねえよな」
「モニカ姉さんは太らない体質なんだ」
「それでもあれは尋常じゃねえだろ」
こうテリウスに言葉を返す。
「あれはよ」
「だってモニカ姉さん普通じゃないし」
「弟の台詞か、それは」
「だって実際そうじゃないか」
突っ込まれてもまだ言う。
「姉さんは二人共昔からね」
「そうなのか。御前も大変なんだな」
「まあね」
「ねえトウマ」
セニアが後ろを振り向いてトウマに声をかけてきた。
「どうした?姫様」
「前から聞きたいことだったんだけれど」
「ああ」
「あんたどうして戦ってるの?」
彼女が聞くのはそれだった。
「どうしてって?」
「だから。誰だって戦うのには理由があるじゃない」
「ああ」
これは当然のことだった。
「だからよ。あんたの理由は何なの?」
「俺はまあ人を守りたいからかな」
「人を守る、ね」
「ここに入る前に戦争に巻き込まれてよ」
これ自体は非常によくある話だった。今は。
「街が崩れて人が一杯死んでてな。俺も駄目かと思ったんだ」
「それでも助かった」
「ああ、助けられた」
こう述べた。
「あのゼンガーさんが来てくれてな。それとロンド=ベルと」
「そういえば日本での戦いも決して少ないということはないわけでもありませんでしたわね」
「だからモニカ、どんどん文法が」
「おかしくなってるよ」
セニアとテリウスがモニカに突っ込みを入れる。
「とにかく。ゼンガーさんに助けてもらったのね」
「ああ、それで思ったんだ」
トウマはまた言う。
「誰かを守りたいってな」
「そうだったの」
「ああ、けれど今は」
「落ち込むのは嫌いよ」
セニアは俯きかけたトウマにまた言ってきた。
「ざあその気持ちを忘れないことね。いいわね」
「・・・・・・ああ」
セニアのその言葉に頷く。
「兄さんも言ってたわ」
「兄さんっていうと」
「ええ。ラ=ギアスにいる兄さんよ」
フェイルのことだ。
「守るべきものがあるからこそ力は強さに変わるってね」
「守るべきものがあるから」
「その心がないと」
「心がないと」
「己の力を振り回すだけだってね」
このことをトウマに語るのだった。
「只の暴力だって」
「暴力か」
「わかったような気がするわ」
セニアはここで思わぬことを口にしてきた。トウマにとって。
「わかった?何が」
「ゼンガーさんやあの髭のおじさんがあんたに興味を示すわけがね」
「守るものの為に力を」
「ええ」
「心無き者の戦いは己の力を振り回すだけ」
トウマはこの言葉を口と心で反芻する。
「只の暴力」
「じっくり考えればいいわ」
セニアはまたトウマに言った。
「わかるまでね。さて、帰りましょう」
「やれやれ、やっとだよ」
テリウスはそれを聞いてまずは安堵の言葉を出した。
「全く姉さんはいつもいつもこうなんだから」
「女の子は買い物が多いものなのよ」
しかしこう言って平気であった。
「服だってね」
「いつも同じミニじゃねえか」
「そう思うけれどね」
「足を活かすにはどうするかよ」
密かにその足が自慢らしい。
「ファッションにも気を使ってるのよ」
「本当か?」
「どうだか」
トウマにもテリウスにも疑問の言葉だった。
「だからいつも同じ服じゃない」
「それでどうやって言えるんだよ」
「それが違うのよ」
「どうなんだか」
二人は全然納得していなかった。だがその時だった。
突如として街に。グラドス軍が姿を現わしたのだった。
「グラドス軍!?」
「どうしてここに!」
「ひゃあっはははははははははははあっ!」
しかもゴステロもいた。その顔の左の部分が機械になっている。
「どいつもこいつも!嬲り殺してやるぜえ!」
「あいつ、生きていたの!」
「ちっ!どうなってやがるんだ!」
「うるせえ!全部手前等のせいだ!」
こう言いながら街に無差別攻撃をはじめてきた。
「どいつもこいつも!死にやがれ!」
「死ねえっ!」
「野蛮人共が!」
ゴステロの言葉を待つまでもなくグラドス軍は街に無差別攻撃を仕掛けてきた。やはりグラドスはグラドスだった。
しかもそれはトウマ達にまで向けられる。瓦礫がモニカに襲い掛かる。
「きゃあっ!」
「モニカ!」
「姫さん!」
セニアとトウマが咄嗟に出ようとする。だがセニアは間に合わずトウマは荷物を持っている。それで反応が遅れた。
モニカはそのまま瓦礫に押し潰されるかと思われた。だがその時だった。突如として現われた影がモニカを抱えて安全な場所に移させた。それは。
「よかった、間に合ったわね」
「ミナキさん・・・・・・」
「あんたも来ていたの」
「だって。トウマが外に出たって聞いて」
セニアに応える形で話をはじめる。
「心配で。それで」
「そうだったのですか」
「はい」
「けれどあんた今ので」
セニアはあらためてミナキを見て言った。
「怪我してるじゃない。しかも」
左腕を派手にやっていた。そこから血が出ている。
「それはかなり」
「この程度なら」
だがミナキは言うのだった。
「かすり傷でもない!」
「!!」
皆その言葉に衝撃を受けた。
「と、トウマなら言うでしょう」
「俺ならか」
「ええ。だから」
「わかった。じゃあ」
見ればトウマもさっきの瓦礫で傷を負っている。頭から血を流していた。だがその目は死んではいない。
「俺は今から」
「けれどトウマ、貴方は」
「大丈夫だ!」
ミナキに対して叫ぶ。
「俺は。この程度」
「この程度!?」
「かすり傷でもない!」
彼もまた言った。
「だからだ。俺は戦う!」
「戦うのね」
「ああ。目が覚めた」
今こそ完全に。
「誰かを守る為に。俺は戦う!」
「わかったわ、トウマ!」
ミナキは今トウマのその心を受けた。
「貴方になら。今の貴方になら」
「俺なら」
「あの力。授けることができるわ」
「あの力!?」
「雷鳳じゃなさそうね」
セニアはすぐにそう察しをつけてきた。
「だとすると一体」
「済まない、ミナキ」
トウマはここでミナキに謝罪してきた。
「えっ!?」
「俺、やっとわかったよ」
そうしてこうも言うのだった。
「真の強さの意味が」
「トウマ・・・・・・」
「君とはじめて会った時に誓った想い」
あの時のことだ。
「強くなることばかりを考えて一番大事なことを忘れていたよ」
深い反省の言葉だった。
「俺の戦うことの意味」
「貴方が戦う意味」
「ああ」
ミナキの言葉に頷く。
「俺の闘志の出発点を」
「トウマ・・・・・・」
「きっと怖かったんだ」
こうも言った。
「自分がバラン=ドバンにもゼンガーさんにも勝てないことを認めるのが。自分が無力でちっぽけな存在であることを知らされるのが」
「けれど貴方は」
「ああ。でも今はわかる」
ミナキに答える。
「そんなことはどうでもいい俺は皆を守る為に戦うんだってことが。それが」
「それがわかればもう貴方は」
「今更遅いかもしれないけど俺、それだけは君に伝えたい」
トウマはさらに言う。
「俺に戦うことを教えてくれた君だけには」
「じゃあ貴方は」
「戦う!皆を守る為に!」
「わかったわトウマ!」
ミナキの応えるその顔が笑顔になった。それで言う。
「やっぱり今の貴方になら託すことができるわ」
「何をだ、ミナキ!」
「雷鳳を遥かに越えるもの」
「あの雷鳳を!?」
「ええ。名付けてダイナミック=ライトニング=オーバーを」
「ダイナミック=ライトニング=オーバー」
トウマはその名を無意識のうちに呟いた。
「それが新しい俺の力の名前か」
「そうよ、人々を守る為の力の名よ」
「わかった。じゃあ俺は」
「トウマ、戦って!」
ミナキはそれをまたトウマに告げる。
「貴方のその思いと共に!あらたなる力で!」
「わかった!だがミナキ!」
「どうしたの?」
「その名前よりも!俺はこう呼ぶ!」
「名前!?」
「そうだ!来い!」
今そのマシンを呼んだ。
「大!!雷!!凰ぉぉぉッ!!!」
雷と共に黒雲を切り裂き。巨大な戦士が姿を現わした。その戦士が今トウマ達の前に雄姿を現わしたのだった。
「これが大雷鳳」
「そうよ、これが」
ミナキまたトウマに答える。
「この力で!人を!」
「よし!じゃあ乗るぞ!」
「私も行くわ!」
ミナキも続く。今二人であらたな力に乗り込んだ。
「ミナキ!」
トウマはその時ミナキに声をかけた。
「しっかり掴まってろよ!」
「ええ」
「行くぞ大雷鳳!」
トウマはまたしても叫んだ。
「今この瞬間が俺と御前とミナキの新しい戦いのはじまりだ!」
戦士の目が赤く光った。そして。今力を貪る愚か者達の前にその雄姿を誇示するのだった。
「グラドスの外道共!」
「何だこいつは!」
「雷鳳!?いや、違う」
「貴様等に名乗る名前はない!」
トウマは断言した。
「これは街の人達の怒りだ!」
構えに入る。そして跳んだ。
「喰らええええええええーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
蹴りだった。蹴りが今雷となりグラドス軍を粉砕していく。忽ちのうちに数十機のSPTを粉々にし爆発させてしまった。
「どうだ!!」
「な、何だこいつは!」
「何テ強さだ!」
「凄いわトウマ!」
ミナキがレーダーを見てトウマに言う。
「今のだけで四十機撃破よ!」
「あと何機だ!?」
「六十機よ」
ミナキは彼に告げる。
「あとそれだけ。いけるわよね」
「やってやる!」
トウマは最初からそのつもりだった。
「こいつ等だけは許せない!」
「ええ!」
「くっ、たかが一機だ!」
「それなら!」
グラドス軍は数を頼みにしようとする。しかしトウマはその数を前にしても臆するところがない。
「来い!!」
逆に彼等に対して叫ぶ。
「御前達が街の人達に対してしたことを百倍にして返してやる!」
「ふざけるな野蛮人共!」
「貴様等が我々に歯向かうか!」
愚劣なグラドス人共はトウマの怒りに気付くことなく数を頼みに襲い掛かる。しかし彼等では最早今のトウマの相手にはならなかった。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
雷を広範囲に放つ。それで。
「砕け大雷鳳!!」
それを放ちながら叫ぶ。
「俺とミナキの怒りのままに!」
「ぐ、ぐわあああああああっ!!」
「野蛮人があっ!!」
最後まで醜い心を晒しながら四散していく。またしても数十機が叩き潰された。
「四十よ!」
ミナキがまたレーダーを見つつトウマに報告する。
「また四十。あとは」
「二十機か」
「ええ」
トウマのその問いに対して頷いた。
「あともう少しよ!」
「よし!後はもう小細工はいらねえ!」
「き、来た!」
「ひいいいいっ、助けてくれえっ!」
「黙れ黙れ!」
臆病風に吹かれ怯むグラドス軍の残りの中に突っ込んでの言葉だった。
「街の人達の痛み。こんなものじゃないぞ!」
「う、うわあああああああっ!」
「ぎゃあああああああああっ!」
トウマの拳を受けて次々と爆発していく。瞬く間にSPTはコクピットを殴られ蹴られその数を減らしていく。そして最後に残ったゴステロは。
「手前!」
「外道!もう一度地獄に行け!」
跳び蹴りをまともに受けた。
「この俺の蹴りでな!!」
「ぐはああああああああああああっ!!」
ゴステロもまた四散し無様な姿を晒した。グラドスの者達はその醜い心と行動に相応しい惨めな最期を遂げトウマの前に死に絶えたのだった。
「終わったわ」
「ああ」
戦いが終わってからトウマはミナキの言葉に頷く。もう戦場に立っているのは大雷鳳だけだった。
「これで街の人達は」
「助けられなかった人達もいるけれどそれでも」
「だといいけれどな」
「ええ。いえ」
だがここで。ミナキが突如として声をあげた。
「待って、トウマ」
「どうしたんだ!?まさか」
「ええ、レーダーに反応」
トウマの危惧が当たった。
「これは。まさか」
「わしよ!」
「御前は!!」
ペミドバンだった。それに乗っているのは。
「バラン=ドバンか」
「ふむ。わしを見ても最早挑みかかっては来ぬか」
「あんたは確かに敵だ」
トウマもそれは認める。
「しかしな、。敵であっても。あんたとは正々堂々と闘う!それだけだ!」
「うむ、よくぞ言った!」
バランは今のトウマの言葉を聞いたうえで叫んだ。
「見事!トウマ=カノウ!」
「何っ、俺が見事だっていうのか」
「左様だ!」
「しかも俺の名前を今」
「戦士の名を呼ぶのは武人としての礼儀!」
バランはまた言ってみせてきた。
「わしはそれを見せたまでよ!」
「バラン=ドバン・・・・・・」
「グラドスの屑共との戦いもまた見せてもらった」
彼もまたグラドス軍の非道は嫌っていたのだった。
「それを倒した御主は今は」
「今は」
「遂に真の強さの入り口に立った!武人となったのだ!」
「俺が武人に」
「今はさらばだ」
戦おうとはしなかった。
「戦わないのか、今は」
「貴様は今死闘を経た後よ。いずれお互いに万全で挑もうぞ」
「万全でか」
「左様。その時こそ我等は」
「その拳で」
「我がペミドバンとあいまみえようぞ」
「わかった!」
バランに対しても叫ぶ。
「その時を待っている!」
「楽しみにしておるぞ!」
バランは何処までもバランだった。
「その時をな!」
ここまで言って姿を消す。こうして再びトウマ達だけになった。
「バラン=ドバン」
「トウマ、あの人」
ミナキがトウマに言ってきた。
「貴方の名前を呼んでいたわね」
「ああ」
ミナキのその言葉に頷く。
「そんなことか」
「そんなことなのね」
「それよりも俺は」
戦場を見る。彼等以外誰もいなくなった戦場を。
「戦う。これからも」
「ええ。武器を持たない人達の為にね」
「ああ、ずっとな」
それを誓い合う。だがここでまた声がした。
「それはいいけれどさ」
「んっ!?」
「あたし達を忘れないでしょ」
「あっ、セニア」
「あっ、じゃないわよ」
こう言ってトウマにクレームをつけてきた。
「こっちはずっと隠れていたのよ」
「荷物は何とか無事だったけれど」
テリウスもいた。
「それでもどうしてもこれは宜しくないことが起きないわけでもありませんのね」
「姫さん、文法がもう何が何だか」
困惑しながらモニカに突っ込みを入れる。
「とにかく皆無事だったんだな」
「ええ、そうよ」
セニアが今のトウマの言葉に頷く。
「それはね。安心して」
「そうか。よかった」
「それでトウマさん」
テリウスが彼に言ってきた。
「あっ、何だ?」
「もう艦隊に帰りましょう」
彼はこう提案してきた。
「それでいいですよね」
「ああ、そうだよな」
言われてまた気付くのだった。
「戦いも終わったし。丁度連邦軍も来たしな」
「あたしが呼んだのよ」
またセニアが言ってきた。
「感謝しなさいよ」
「ああ、悪いな」
「後のことは彼等に任せてね」
所謂戦場の後始末だ。
「艦隊に帰りましょう。いいわね」
「よし、それじゃあ」
「どうやって帰るんだい、それで」
テリウスがトウマに対して問うた。
「歩いて帰るには難しくなったけれど」
「そうだな」
見ればロストフの街はグラドス軍の攻撃と戦闘でかなり破壊され路も多くが破損したビルの破片やアスファルトで塞がれている。とてもではないが歩いて帰られる状況ではなかった。
「じゃあ。乗ってくれ」
「大雷鳳にだね」
「ああ、魔装機は呼べなかったよな」
「残念だけれどね」
その言葉にセニアが答える。
「まあそれでも」
「何だよ」
「よかったじゃない」
にこりと笑ってトウマに言うのだった。
「見せてもらったわよ、あんたの心」
「あ、ああ」
少し照れ臭く笑ってセニアのその言葉を受ける。
「そうなのか」
「あんたもやるじゃない。見直したわ」
「見直したのかよ」
「それも大いにね」
こうもトウマに告げる。
「じゃあこれから帰るけれど」
「ああ」
「あたし達を乗せてくれるのよね」
「そのつもりだぜ」
これははっきりと保証してみせた。
「とはいってもコクピットはもう満杯だしな」
「手に乗せてもらったらそれでいいわ」
「それでいいのかよ」
「ええ。それじゃあ話は決まりね」
「そうだね」
テリウスが姉の言葉に頷いて応える。
「じゃあそれでね」
「よし、じゃあ皆で」
「帰りましょう」
こうして成長したトウマは新たな力と共にロンド=ベルに戻った。戻ると彼はすぐに皆から熱い、しかも手痛い祝福を受けるのだった。
「よおよおトウマ!」
「やったそうじゃない!」
「よくやった」
いきなりオルガ、クロト、シャニから拳で殴られる。
「大雷鳳か!」
「いかす名前だね!」
「格好いい」
三人はさらに殴り続ける。
「どうしたどうしたあの自分勝手なのが消えてよ!」
「ヒーローになったじゃない!」
「よかった」
「お、おい御前等」
三人の馬鹿力で殴られるのでいい加減痛くて抗議する。
「幾ら何でもこれはねえだろ!殴るなよ!」
「おお、そうだな」
「殴るのはよくないよね」
「今気付いた」
「今気付いたっておい」
シャニの今の言葉に突っ込みを入れる。
「御前等、まさかわかってなかったのかよ」
「まあ気にするな」
「誰にでも間違いはあるって」
「そうだ」
「それ以前におめえ等一体何考えて生きてるんだ?」
そう突っ込むが。一瞬でまた三人の手荒い祝福を受ける。
「じゃあ蹴るぜ!」
「殴るのはよくないからね!」
「これならいい」
「よかねえ!」
袋叩きから袋蹴りを受けながらまだ抗議する。
「だから殴るのも蹴るのも駄目なんだよ!」
「じゃあプロレス技だな。パロスペシャルとかよ」
「アントニオスペシャルなんかいいよね」
「タワーブリッジ」
「・・・・・・御前等本当にどういう頭の構造しているんだ?」
少なくともこの三人の相手はできなかった。ボロボロになりながらも何とか出るとそこにはミナキ達が笑顔で待っていた。
「お帰り、トウマ」
「あ、ああ」
ミレーヌの笑顔に応える。
「何とか。帰って来たぜ」
「いい顔になったじゃねえか」
バサラも言う。
「御前のソウル、今は最高だぜ」
「最高か」
「そうさ、もっと最高にもなる」
「最高にもまだ上があるのか」
「ああ、バサラの言うことは気にしないで」
ミレーヌがこうトウマに囁く。
「無茶苦茶だから」
「無茶苦茶なのか」
「けれど。確かに最高のさらに上はあるわね」
ミレーヌもそれは認めるのだった。
「もっと凄い最高がね」
「そうなのか」
「今のトウマならそれに辿り着けるわ」
ミナキが優しい微笑みと共にトウマに語る。
「きっとね」
「ああ、行ってみせるさ」
トウマもそれに応える。
「人を守るこの力でな」
「その通り。何故僕達が戦うかって問題なんだよね」
万丈がここで語る。
「力を持つのは案外簡単なんだよ」
「簡単なのか」
「そうさ。極論すればナイフ一本だ」
こう表現してみせる。
「それだけで力は持てるんだ。けれど」
「心は、か」
「心のない力はただの暴力さ」
万丈が言いたいのはそのことだった。
「暴力を振るう者は正しい力によって滅びる」
「ああ」
「あのグラドス軍のようにね」
「あいつ等は許せなかった」
今その怒りを思い出す。
「だから俺は。街の人達を守る為に」
「動いてよかったってことだね」
「ああ、その通りだ」
また万丈の言葉に頷く。
「そうしないと俺は駄目なままだった」
「バラン=ドバンへの敵意のままじゃ」
「あいつが憎くて仕方がなかった」
ついさっきまでは確かにそうだった。
「だが今は」
「違うってことだね」
「ああ、やってやる」
こうも言い切る。
「絶対にな、この力を正しいことの為に使う」
「それがロンド=ベルなんだよ」
万丈はまた言ってきた。
「力を、剣を持たない人達の為にその力や剣を使う」
「ああ」
「そうでないと。本当にグラドスと同じさ」
「そうだよな。そういえば」
トウマはふとあることを思い出した。
「ゼンガーさん」
「どうした」
ゼンガーもいた。彼に声をかけたのだ。
「あの剣は。斬艦刀はどうなったんだ?」
「あれならもう修復された」
レーツェルがトウマに答えてきた。
「私がなおしておいた。安心してくれ」
「そうか、よかった」
トウマはそれを聞いてほっと胸を撫で下ろすのだった。
「俺のせいで。大切な刀を」
「構わぬ」
だがゼンガーはそれをいいと言い切る。
「剣は心だ」
「心・・・・・・」
「そうだ、心が折れなければ剣はいずれ元に戻る」
「そうなのか」
「御前はその心に目覚めた。なばらそれでいい」
「済まない、そう言ってもらって」
ゼンガーの言葉が有り難かった。心に滲みる。しかし涙は流さなかった。今のトウマは。
「俺は」
「その心を次の戦いに向けましょう」
またミナキが話してきた。
「それこそが」
「そうか。それがロンド=ベルか」
「日本では今凄い激戦が続いているわ」
クスハが言う。
「だからトウマさん。貴方の力が」
「ああ、やってやる」
クスハの言葉も受ける。
「俺の大雷鳳の力で人達を」
「そういえばだ」
テツヤが言う。
「どうしたんですか?」
「百鬼帝国も邪魔大王国も日本からは出ていなかったな」
「ええ、確か」
「そうでした」
それにクスハとブリットが答える。
「それが何か」
「だとするとだ。今中央アジアの辺りでまた謎の敵が出ている」
「謎の」
「巨大な龍の姿をしているそうだ」
「龍!?」
「まさかそれは」
皆それを聞いてそれが何なのか悟った。
「あの人が」
「また出て来たのか」
「日本では岡長官やイゴール長官、ミスマル司令が何とかしてくれている」
日本に優れた指揮官達を集めているようだ。
「暫くは大丈夫だそうだ。だから」
「中央アジアに向かおう」
ブライトが言ってきた。
「皆それでいいな」
「はい、わかりました」
「それじゃあ」
異論はなかった。次は中央アジアだった。その中でトウマは。ふと呟くのだった。
「しかしな」
「どうしたの、トウマ」
「いや、中央アジアで戦うことが多いなってな」
こうミナキに答えるのだった。
「そう思っただけさ」
「そういえば多いわね」
ミナキも言われてそれに気付く。
「荒野でね」
「今回もなんだな」
トウマはまた言う。
「あそこでの戦いか」
「嫌なの?」
「別にな。慣れてるからいいけれどな」
「だったらいいじゃない」
「ただ。孫光龍か」
それが微妙に引っ掛かるのだった。
「あいつ。一体何者なんだ」
「少なくともただ私達の前に姿を現わしているだけではないのは確かね」
「最初はガンエデンにいた」
「ええ」
このことはトウマ達は直接は知らない。聞いただけである。
「それで今は」
「独自に動いているのかしら」
「その割には何かおかしくない?」
レトラーデはそこを指摘する。
「どうも誰かの意図に従って動いているみたいな」
「誰かの?」
「ええ」
レトラーデは霧生に答える。
「そんな気もするけれど」
「けれどイルイちゃんはあれよね」
「ああ、そうだよ」
アラドがミナキに答える。
「今は孤児院にいるさ」
「そうだったわね。もうガンエデンとは関係なく」
「だから。関係ないんだよ」
アラドの今の言葉は半分自分に言い聞かせていた。
「絶対にな」
「そうね。けれどあの人は敵よ」
セオラはあえてこう言う。
「だからアラド」
「わかってるさ。気は抜かないぜ」
「頼むわよ。クスハにブリットもね」
「わかってるわ」
「それはな」
二人もゼオラの言葉に頷くのだった。。
「龍王機もあの孫光龍って人には何かを感じているし」
「だから俺も」
二人の心は同じだった。その心を次の戦いに向けつつ今は中央アジアに向かう。そこに待つあらたな運命の出会いにはまだ気付かずに。
第五十八話完
2008・5・2
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