スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第五十七話 武人の心、その意味
第五十七話 武人の心、その意味
「それでトウマ隊員ですが」
「大丈夫なのだろうか」
大空魔竜の格納庫で氷竜と炎竜が彼を心配していた。
「今のところはな」
「とりあえずミナキさんと街に出た」
「そうか。それならいいが」
「しかし」
風龍と雷龍からこう言われたがそれでも心配なようである。
「あれだけのダメージだからな」
「無理もない」
風龍と雷龍もわかっていた。マイクも心配する顔になっている。
「かなり心配だもんね。トウマ参っちゃってるよ」
「それでミナキさんが気分をリラックスさせる為に外に出したんだけれど」
「皆さんも御一緒で」
「はい。何とか立ち直って欲しいですが」
光竜に闇竜、それにボルフォッグもトウマを心配していた。
「かなり派手にやられたからね」
「その通りです」
「身体はともかくその心は」
「マイク達何もできないの?」
「まああいつが戻って来た時だな」
ゴルディマーグはこうマイクに答える。
「それはな」
「そうですね。その時に」
「それはそうとだ」
凱がここで一同に問う。
「御前等は出ないのか」
「私達はここで」
「残らせてもらってるんだよ」
ボルフォッグとゴルディマーグが凱に答える。
「メンテナンスをして頂きたく」
「それでなんだよ」
「そうか。御前等も随分戦ってるからな」
「こうした骨休みも必要さ」
ルネが言った。
「これからの為にもね」
「そうだな。じゃあ俺も」
「凱!」
丁度いいタイミングで命がやって来た。
「牛丼とコーヒー持って来たわよ」
「悪いな。早速頂くぜ」
「食べ終わったら街に出ましょう」
「ああ」
二人は相変わらずのムードだった。しかしトウマ達はそうではなかった。豹馬がプラハの街のカフェでサンドイッチを頬張りながら周りにいるメンバーに問うていた。
「で、トウマの奴はどうなんだよ」
「あかんわ」
十三が一言で述べる。
「何か気合抜けてのうなっとるわ」
「そうか」
「あれでは。これからも心配でごわす」
「そうなんですよ」
大作も小介も言う。
「身体は何ともないですが敗戦のダメージが大きくて」
「随分派手にやられたでごわすからな」
「確かにな。あれは痛いよな」
コーヒーと一緒にサンドイッチを食べながら豹馬は言う。
「鉄球でガツーーーンだったからな」
「ミナキさん、あれからいつも付きっきりだったけれど」
「どうにかなるかね」
「どうにかなってもらわないと困るわよ」
ちずるは心から心配していた。
「あのままだと。本当に」
「そうだよな、本当にな」
「ええ。ところで」
「何だ?」
「あそこのショートヘアの人」
ちずるは道にいる女の子の一人を指差してきた。
「かなり奇麗な人ね」
「まあそうだな」
トウマは素っ気無くそれに返事する。
「いいんじゃないのか?」
「脚が奇麗ね。ホットパンツで」
「ああ」
青い上着に黒いコートとホットパンツだ。ブーツが艶かしい。
「そうだな」
「私もあんな格好してみようかしら」
「いいんじゃねえのか?」
何気ない返事だった。
「それならそれで」
「似合うと思う?」
「似合うんじゃないのか?多分」
「・・・・・・そう」
またアプローチに失敗するちずるだった。左手で頬杖をついて憮然とする。そのちずるを見てナナが京四郎に対して言っていた。
「ちずるさんも大変ね」
「そうだな。あそこまで鈍いとな」
京四郎もナナのその言葉に頷く。
「女心は一途だがな」
「ちずるさんは特にね」
「一途な女心は美しい」
京四郎はここで言った。
「男心もな」
「お兄ちゃんね」
「ああ」
またナナの言葉に頷いた。
「あそこまでいくとな。認めるしかない。それでだ」
「うん」
今度は彼がナナに問うた。
「あいつは今何処だ?」
「船の中でドラムの練習よ」
「そうか」
「久し振りに時間ができたからって」
「そうだな。音楽もいいものだ」
「京四郎さんはお兄ちゃんのドラム好きなの?」
「嫌いじゃない」
こう答えた。
「あいつの心がそのまま出ているからな」
「そうなんですよね」
それに洸が頷いた。彼もここにいるのだ。
「一矢さんのドラムは。まっすぐで」
「あいつそのものだ」
神宮寺もそこにいた。
「あそこまでまっすぐだと。本当に聞いていて気持ちいい」
「だからエリカさんもですよね」
「そうだな」
神宮寺は麗のその言葉に頷いてみせた。
「エリカさんもあそこまで愛してもらえるなんて」
「マリさんも憧れますか?」
「憬れない方がどうかしてるわよ」
猿丸に対しても言う。
「あそこまで一途で必死に愛してもらったら。やっぱり」
「そうですね。それはね」
「ええ。そうよね、洸」
「あっ、うん」
本人の返事は今一つ弱いものだった。ちずるのアプローチはまた失敗したのは確かだった。しかしここで彼女はとりあえず話題を変えるのだった。
「それでよ」
「ああ。何だ?」
豹馬がそれに応える。
「そのトウマは何処なのよ」
「あれっ、さっきまでいたのによ」
「ミナキと二人で喫茶店を出た」
京四郎が彼等に答えた。
「今はな。ミナキに任せるのが一番だ」
「そうね。確かにね」
「まどろっこしいな、おい」
今度は豹馬が憮然とした顔になるのだった。彼は腕を組んでいる。
「そんなのじゃなくて一気にな」
「豹馬さんもね」
「全く。こっちがイライラするわ」
「!?何がだよ」
ナナとマリの言葉にもわかっていない。
「俺がまどろっしい?何でだよ」
「駄目だ、こりゃ」
「ちずるさんも可哀想」
「何でそこでちずるなんだよ」
二人にまた言われてもわかっていなかった。
「おい、どうしてなんだよ」
「豹馬」
また左手で頬杖になって憮然としながらもちずるは豹馬に声をかけてきた。
「何だよ」
「・・・・・・ここのお店って凄いらしいのよ」
「すげえって何がだよ。確かにサンドイッチもコーヒーも美味いけれどよ」
「だから。縁結びなのよ」
「ふうん、そうなのか」
「・・・・・・どうしたらわかるのかしら、本当に」
「普通誰でもわかるけれど」
「豹馬君もマサキ君も。うちの男は」
ナナとマリもぼやく。マリはこの時チラリと洸を見たがそれは内緒であった。
喫茶店でちずるがぼやいているその時。さっきのショートヘアの女の子は街の噴水のところにいた。プラハの美しい街並みと実に絵になる。その彼女のところにコートの緑の髪の青年が来た。
「あっ、ロゼ」
「マーグ司令・・・・・・あっ」
口に出してすぐにその口を両手で覆った。それからマーグに謝罪する。
「すいません、つい」
「ここでは司令ではないよ」
マーグはにこりと笑ってロゼに告げた。
「マーグでいいから」
「けれどそれでは」
呼び捨ては憚れるのだった。
「あまりにも失礼です」
「じゃあどうするの?」
「ええとですね」
少し考えてから答えた。
「さん付けでいいでしょうか」
「さん付け?」
「はい、マーグさんで宜しいでしょうか」
マーグを見上げて問う。
「それで。どうでしょうか」
「そうだね。じゃあそれで」
「宜しいのですね」
「うん、じゃあロゼ」
「マーグさん」
互いに呼び合ってみる。その感触は。
「悪くないね」
「そうですか」
「じゃあ。行くとしよう」
「はい」
あらためてマーグの言葉に頷く。
「御願いします」
「それはそうとしてロゼ」
「何でしょうか」
「バラン様は何処に行かれたのだろうか」
怪訝な顔をしてロゼに尋ねるのだった。
「バラン様ですか」
「うん。見なかったかい?」
「いえ」
マーグの言葉に対して首を横に振る。
「そういえば。外に出られていますよね」
「うん。そうだけれど」
「もしかしたら道に迷っておられるとかは」
「有り得るね、それは」
ロゼの言葉に顔を曇らせた。
「バラン様はあれで方向音痴だから」
「この様な敵地でそれは」
「危険だ。偵察どころじゃない」
「そうです。何としてもバラン様をお探ししましょう」
「そうだ。では行こう」
「はい」
こうして二人は本来の任務よりもバランを捜すことにしたのだった。その時彼等はある者達と擦れ違ったことに気付かなかった。
「んっ!?あの二人」
「どうした、ミゲル」
ハイネがミゲルに問うた。
「いや、何処かで見た感じがしたが」
「他人の空似だろう」
「それもそうか」
「よくあることだ」
ハイネは言う。
「俺だって御前と似ているとよく言われるからな」
「それもそうだな」
「実際によく似ていますね」
その二人に同行しているルリが答えた。
「私もわからない時がありますから」
「そうだったのか、ルリちゃんでも」
「はい。それにしてもです」
ルリもまた言うのだった。
「先程のお二人は」
「何処かで見たな」
「はい。ただ何処かまではわかりませんが」
ルリも気付かなかったのだ。
「果たして。どなただったのか」
「何処かの歌手か?」
ハイネはこう予想を立てた。
「まさかと思うが敵の筈がない」
「そうだな。それはないな」
ミゲルもその可能性は否定した。
「幾ら何でもここにはな」
「それはないです」
ルリもこう考えていた。
「プラハには何もありませんし。偵察だとしても」
「ああ」
「あのお二人はそれとは違う気配でしたし」
「そうだな。何か人捜しっぽいが」
「誰なのかな」
そんなことを話しながら歩いているだけだった。その時トウマはミナキと一緒にプラハの街を歩いていた。コスモクラッシャーの面々も一緒である。
「なあトウマ」
ナオトがトウマに声をかける。
「このクレープ食うか?美味いぞ」
「ワッフルもあるわよ」
ミカはワッフルを勧める。コスモクラッシャーの面々はそれぞれお菓子を食べている。
「凄い美味しいわよ」
「そうだな。このアイスクリームも」
「カステラも」
ケンジとアキラも食べていた。
「かなり美味い」
「だからどうかな」
「いや、今はいいよ」
だがトウマは暗い顔でそれを断るのだった。
「今は」
「甘いものは気が晴れるよ」
ナミダはチョコレートを食べている。
「だからどうかな」
「お菓子位いいじゃない」
「そうだよね」
ミカがまた話に入る。彼等もトウマを心配している。だがそれでもトウマはそれを受けないのだった。暗い顔をしたままであった。
「ねえトウマ」
ミナキも彼に声をかけた。心配する顔で。
「私がお菓子作るけれど。食べる?」
「あっ、それはまあ」
「止めた方がいいな」
アキラとケンジがそれを止める。
「今はそっとしておいた方が」
「その通りだ」
「駄目かしら、やっぱり」
「まあそうだな」
ナオトも二人に加勢する。ミナキに加勢するふりをして。
「今はそっとしておこうか」
「そういうことだね。それにしても」
タケルはあらためてプラハの街を見渡す。
「どうしたの、タケル兄ちゃん」
「いい街だよね、何回見ても」
街を見回しての言葉だった。
「落ち着いていてそれでとても奇麗で」
「プラハは昔から美しい街で人気がある」
ケンジがタケルのその言葉に応える。
「今もな」
「そうなんですか」
「今度は戦争じゃなくここに来たいよね」
「そうね」
ミカはナミダの言葉に頷いた。
「絶対にね。この静かな雰囲気がいいわ」
「うん、落ち着くね」
「まあそれはそうだが」
ナオトはその中で違和感を感じているようだった。それにケンジも気付いた。
「どうした?ナオト」
「いや、あのおっさんだけれどな」
見れば中世の貴族の様な厳しい格好の男が街を歩いていた。
「あれは仮装なのか?」
「そうじゃないのかな」
アキラもそれに応えて言う。
「何か随分と変わった人みたいだけれど」
「そうね」
ミカもそれに同意する。
「何か。そのままタイムスリップしたみたいな感じね」
「変わったおじさんだね」
「おじさん・・・・・・」
トウマはその言葉を聞いて顔を前に向けた。すると。
「うぬうう、わからぬ」
その男は辺りを見回して困惑しきっていた。
「このプラハという街、迷路ではないか。道が見えぬぞ」
「間違いない、あいつだ!」
「あいつ!?」
「どうしたんだ、トウマ」
「バランだ、バラン=ドバンだ!」
コスモクラッシャー隊の面々の言葉にこう応える。
「あいつだ、間違いない!」
「バラン=ドバン!?」
「そんな筈ないわよ」
タケルは驚いた声をあげミナキはそれを否定した。
「十二支族の家長みたいな人が出て来るわけが」
「いや、間違いない!」
しかしそれでも彼は言うのだった。
「バランだ、あいつ!」
「誰じゃ、わしの名前を呼ぶのは」
そして本人もそれに応えて顔をトウマ達に向けるのだった。
「むっ、あの時の小童」
「ここで会ったが百年目だ!」
トウマはこう叫ぶとバランに挑みかかった。
「あの時の怨み!晴らしてやる!」
「無駄よ!」
だがそれは適わなかった。バランはそのショルダーチャージでトウマを吹き飛ばしたのだ。吹き飛ばされ石の道の上に転がるトウマだった。
「くっ、この野郎・・・・・・」
「このガキが!」
「俺がガキだと!」
「そうだ、その通りだ!」
上半身を起こすトウマに対して言うのだった。
「この様な場所で不意打ちをしてくるなぞ!見下げ果てた奴よ!」
「うるせえ!この前の借り、返させてもらうぜ!」
だがそれでもトウマは言う。
「ここでな!覚悟しやがれ!」
「まだわからんか!」
今度はバランは何もしなかった。ただ身体を左にやっただけだ。トウマは勝手に前に突っ込みそのまま倒れてしまった。バランはその彼にまた告げた。
「己が闘うべき場もわからぬ者をガキと言わずして何という!」
「俺は御前を倒すんだ!」
まだトウマは聞かない。
「ここでな!覚悟しやがれ!」
「最早声をかけるにも値せぬ」
見切ったような言葉だった。
「貴様とはな。吹き飛べ!」
またショルダーチャージをかけようとする。しかしその時だった。
「バラン様!」
「ここにおられましたか!」
マーグとロゼが来た。すばやくバランの前に出て彼を庇う。
「御主等、どうしてここに」
「バラン様の御身体が心配でこちらに」
ロゼが彼に答えた。
「御無事そうで何よりです」
「この様な軽挙妄動は御慎み下さい」
「むう、少しな」
マーグのその言葉にバツの悪い顔を見せる。
「見ておきたくなっただけだ、地球の街というものをな」
「ですがそれでもです」
「せめて私達と共に」
「わかった。以後この様なことはせぬ」
「御願いします」
「バラン様に若しものことがあっては陛下に会わせる顔がありません」
「くっ、こんな時にこの二人が」
ケンジは二人の出現にその顔を苦くさせていた。既に周りの市民達は彼等から離れて取り囲むようにして見ている。完全に観客になっていた。
「これは。かなり危険だ」
「それだけじゃないわ」
「どうした、ミカ」
「通信が入ってるわ」
こう応えて携帯に出た。すると。
「敵よ!」
「敵!?」
「ここでか!」
「ええ、全員すぐに戻ってって言ってるわ」
「くっ、こんな連中を目の前にしてかよ!」
「兄さん!」
「タケル!」
ナオトが苦い顔で呻きケンジがタケルに声をかけた。
「俺達は先に戻る。御前はここで時間を稼げ!」
「時間をって隊長」
「ゴッドマーズは御前の呼び掛けで何時でも来るんだったな」
「え、ええまあ」
その通りだ。ケンジの今の言葉に応える。10
「その通りですけれど」
「だったらだ。ここは任せるぞ」
「隊長、まさか」
「話は後だ、いいな」
ケンジはそれ以上はタケルには言わせなかった。
「わかったら後ろを頼む。いいな」
「は、はい!」
「隊長、僕達はすぐに」
「そうだ」
今度はアキラの言葉に応える。
「コスモクラッシャーで出撃だ、いいな」
「わかったよ!じゃあタケル兄ちゃん御願い!」
「わかった、ナミダ!」
「ミナキさん!」
ミカはミナキに声をかける。
「私達も!」
「トウマ!」
「くっ、俺は!」
「いいからここは俺に任せろ!」
タケルがまだバランに向かおうとするトウマの前に出た。そして背中越しに彼に対して言うのだった。
「タケル・・・・・・」
「トウマさんは早く艦隊に戻って!」
「バラン様も」
ロゼはマーグと共にタケルと対峙しながらバランに言う。
「早くお戻り下さい」
「その必要はない」
「えっ!?」
「い出よ、ペミドバン!」
彼が叫ぶと。そこにペミドバンが姿を現わした。彼はそれにその外見からは思いも寄らない動きで飛び乗りそのままコクピットの中に入るのだった。
「さあ来い地球の戦士達よ!」
バランはペミドバンの中からロンド=ベルの面々に対して叫ぶ。
「このバラン=ドバンが相手をしてやろうぞ!」
「ちっ、ペミドバンに乗ったか!」
「トウマさん、とにかくここは俺が!」
またタケルが彼に声をかける。今度は彼の方を振り向いていた。
「だから今すぐに!」
「くっ、わかった!」
忌々しげにペミドバンを見上げながらそれに応える。
「バラン=ドバン、見ていやがれ!今度こそ御前を!」
そう言い捨てて艦隊に戻る。タケルはそれを見送るとその顔をマーグとロゼに戻す。二人はそのまま彼と見据えていた。
「今度こそ容赦はしない」
マーグが言う。
「覚悟するのだな」
「兄さん、何度でも俺は言う」
タケルはマーグに対してまた言うのだった。
「兄さんは俺の」
「言うな!」
ロゼがそれを言わせない。両手から衝撃波を一直線に出す。
「戯言を!まだ言うのか!」
「戯言じゃない!」
ロゼのその衝撃波を後ろに跳んでかわしながら言う。
「兄さんは俺の!俺のたった一人の兄さんだ!」
「司令に弟君なぞおられぬ!」
ロゼは感情を露わにさせてさらに攻撃を放つ。
「その戯言を言う口、今度こそ!」
「くっ!」
タケルと二人の闘いがはじまった。その間にトウマ達は母艦に戻りバランが率いるバルマー軍と戦闘に入る。両軍はプラハを舞台に激突した。
「よいか!」
バランは全軍に指示を出す。
「狙うのは敵のみ。人にも建物にも目もくれるな」
「敵の殲滅のみですか」
「左様、我等が武器を向けるのは同じ武器を持つ者のみ」
有無を言わせぬ強い言葉だった。
「だからだ。街には一切手をかけるな。よいな!」
「わかりました!」
「了解です!」
バルマー軍はバランのその強い言葉に応え彼の指示に従うことにした。バランの言葉が軍をまとめたのだった。
ロンド=ベルはそれを見て。思わず唸らずにはいられなかった。火麻が感心して言う。
「敵ながら見上げた親父だぜ」
「そうデスね」
それにスワンが頷く。
「今回ハ正面からの戦いになりそうデスし」
「願ったり適ったりだぜ!」
力技の好きな彼らしい言葉だった。
「おう、野郎共」
「女性の方もおられますよ」
スタリオンが突っ込みを入れる。
「それはお忘れなきよう」
「おう、女共も!」
「相変わらず凄い言葉遣いだな」
「本当に参謀なのかな」
「疑問でごわすな」
健一、日吉、大次郎は今の火麻の言葉に思わず呟いた。
「正面から突っ込め!いいな!」
「また随分と単刀直入な指示ね」
「全くだ」
めぐみも一平も呆れる他なかった。しかしであった。
「ならそれでいいってことだ」
「じゃあ少佐、このまま」
「ああ、バルキリー隊いいか!」
フォッカーは輝の言葉に応えたうえでバルキリー全機に指示を出した。
「参謀の言葉通りだ。正面から派手に仕掛けるぞ!」
「了解!」
「わかりました」
霧生と金竜がそれに応える。
「ミサイルも何でも派手にぶっ放せ!弾がなくなったら戻ってすぐに補給を受けて再出撃だ!」
「はい!」
まずはバルキリーチームがフォッカーを戦闘に突っ込む。フォッカーのバルキリーのマイクロミサイルポッドから無数のミサイル達が放たれ。それ等がそれぞれ複雑な動きを示しつつバルマー軍に襲い掛かるのだった。
それを合図にロンド=ベルは彼等に総攻撃をはじめる。その中には雷鳳もいる。だが乗っているのはトウマではなかった。彼は大空魔竜にいた。
「おい、何でだよ!」
トウマはその大空魔竜の艦橋で叫んでいた。
「俺が雷鳳に乗らないと駄目だろうが!誰が乗ってるんだよ!」
「私よ」
「ミナキ」
モニターにミナキが姿を現わした。何と乗っているのは彼女だったのだ。
「御前が。どうして」
「今の貴方に雷鳳を任せるわけにはいかないわ」
「おい、それはどういう意味だ!」
「今は。今の貴方は」
「ちっ!」
舌打ちするがどうにもならない。戦いはタケルとマーグのそれぞれのゴッドマーズにゼーロンも参戦しさらに激しいものとなる。だが十分もしないうちに戦闘は終わりバルマーは戦線を離脱して行く。それを見てロンド=ベルも一時マシンを返すがその時だった。トウマは雷鳳に乗り込んだ。
「待てトウマ!」
「何処に行くんだ!」
「決まってるだろ!あいつを追おうんだよ!」
こう仲間達に言い捨てて出撃してしまった。
「バラン=ドバン!あいつをな!」
そのまま行ってしまった。誰も追うことができなかった。やがて彼はプラハより離れた荒野に来た。何とそこにバランがいたのだ。
「遂に見つけたぞ」
「ガキが。まだ来るか!」
「言った筈だ!御前を倒すってな!」
「ほざけ、愚か者が!」
怒りに満ちた顔でトウマを怒鳴りつけた。
「何だと!」
「まだわからんようだな!」
「わかるって何がだよ!」
「それがわからんのならばもう言うことはない」
バランは鉄球を出してきた。
「これで一撃で粉砕してくれる。そのまま死ね!」
「こんなもの・・・・・・何っ!」
「貴様なぞにかわせるかっ!」
またバランは大上段に叫んできた。
「このペミドバンの鉄球を受けて砕け散れ!」
「馬鹿な、この前より速さも威力も」
「我が鉄球は武人の心!」
鉄球が振り下ろされる中でのバランの言葉だった。
「それを知らぬ者にはかわすことはできんわあっ!」
「くっ!」
「貴様も所詮その程度よ!」
またバランが叫ぶ。
「ガキであったわ!単なるな!」
「駄目だ、これは」
諦めたその瞬間だった。彼の前に姿を現わしたのは。
ダイゼンガーだった。その巨大な剣で鉄球を切り払う。しかしそれにより剣が真っ二つになってしまった。
「くっ!」
「なっ、ゼンガーさん!」
「御主は」
「やらせはせぬ!」
ゼンガーはその真っ二つになった剣を携えたままバランに対して叫んだ。
「この若者の命、まだやらせるわけにはいかん!」
「では聞こう」
バランは跳ね返ってきたその鉄球を受け止めながらゼンガーに対して問うた。
「何だ?」
「そのガキの命を救った理由は。何だ」
「希望の為だ」
「希望だと」
「そうだ」
こうバランに答えるのだった。
「希望の為だ」
「解せん」
だがバランは。それを聞いて思わず呟くのだった。
「御主程の男がそのガキを希望だと」
さらに呟く。
「そこまで思うのだ」
「強さは一日にして成らず」
これがバランに対するさらなる答えだった。
「そして」
「そして」
「過ちを繰り返すわけにはいかぬ」
「何だと、それでは」
バランはそれを聞いて察したのだった。
「御主、まさか」
「そうだ、バラン=ドバン」
バランを見据えてまた言う。
「御前も感じた筈だ、この男の秘められた力」
「ふん、それは」
「心を偽る貴様ではないだろう」
否定しようというバランにさらに述べる。
「違うか」
「その通りだ。このバラン=ドバン偽りなぞ言わぬ」
生粋の武人である彼の心からの言葉だった。
「それは誓おうぞ」
「だからだ。これでわかるな」
「むう・・・・・・」
「だが。ただで返すつもりは俺にもない」
「ではどうするというのだ?」
「折れてしまったが」
その手にある斬艦刀を左手に持ちバランに差し出した。
「トウマの生命の代わりにこの斬艦刀を持っていくがいい」
「何と!」
これには流石のバランも驚きの声をあげた。
「武人の魂を差し出すというのか!」
「何ということはない」
しかしゼンガーはそれでも言うのだった。
「一人の若者の為にはな」
「見事だ」
バランはゼンガーのその心を知り言うのだった。
「地球に御主程の者がいるとは。思いもよらなかったわ」
「折れているがな」
「その様なことは問題ではない」
バランも言う。
「御主の心を受けるのだからな」
「そうか」
「折れたものは心ではない」
バランが言うのはそれだった。
「地に伏してもまた立てればいい」
「そうなのか」
「しかしだ」
バランの言葉は続く。
「御主の心は決して地に伏してはおらぬ。わしにそれを貸すのか!」
「その通り!」
ゼンガーは叫んだ。
「命の炎、消させるわけにはいかぬ!」
「よし!」
バランもその心を受けた。
「御主の心、受けよう!」
「受けるかバラン=ドバン!」
「小童の命と御主の剣貸しにしておく」
「バルマーにも貴様のような漢がいるとはな」
「それはこちらの台詞よ」
ニヤリと笑ってゼンガーに告げる。
「地球も捨てたものではないな」
「バルマーもな」
「我等は近いうちにまた合間見えよう」
「その時は」
「御主とわし」
ゼンガーに対して言うのだった。
「武人として死力を尽くして戦おうぞ!」
「うむ!」
「その日が来るのを楽しみにしておるぞ!」
「俺も同じこと!」
ゼンガーもまた叫ぶ。
「バラン=ドバン!武人の心見せてもらった!」
「お互いにな!」
心を交えさせその場を後にする。そこにロンド=ベルの艦隊が来てゼンガーとトウマを収納する。トウマは憮然としている。まだわかっていなかった。
「俺はあいつに」
「トウマ」
「ミナキ!」
ミナキが目の前に出ると。いきなり叫びだした。
「雷鳳を修理してくれ!」
「おいトウマ」
「幾ら何でもいきなりそれはねえだろ」
鉄也と甲児が言うが耳には入っていない。
「トウマ君、落ち着くんだ」
「出力も足りない!」
大介の言葉も聞かない。
「このままじゃ。あいつには勝てない!」
「駄目よ」
だがミナキはトウマの言葉に首を横に振るのだった。
「それはできないわ」
「どうしてなんだ!」
「トウマ」
ミナキは厳しい顔で言う。
「貴方を雷鳳のパイロットから外します」
「何っ!何でだよ!」
「だから落ち着けって言ってるだろ!」
「戦いは終わっただろ!」
「冷静になるんだ、少しは」
ドラグナーチームの三人が後ろから羽交い絞めにして彼を止める。しかしそれでもトウマは必死に暴れ彼等を苦労させるのだった。
「全くこいつはよ」
「急にどうしたんだよ」
「参ったね、どうも」
「今の貴方には雷鳳は渡せないわ」
ミナキは苦い顔でまたトウマに告げた。
「だからよ。だから」
「そんな、この俺が・・・・・・」
「さようなら」
ミナキはトウマにこう言うと踵を返してその場を後にした。後に残っているのは呆然とするトウマだけだった。彼だけが何もわからずそこに残されていた。ただ一人。
第五十七話完
2008・4・27
ページ上へ戻る