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仮面舞踏会

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第二幕その三


第二幕その三

「ここに貴女を救う道が示されるでしょう」
「救われるのですか、私は」
「はい、今その答えが出ました」
 夫人はカードを見終えてこう述べた。
「結論から言いましょう。貴女は救われます」
「本当ですか!?」 
 それでもまだ半信半疑といった顔であった。
「はい。魔法の草の雫を手に入れられれば」
「魔法の草の」
「そうです。そしてそれは墓場にあります」
「墓場に」
 不吉な気配が感じられた。
「墓場に生えている赤い草。それを真夜中に一人で摘まれるのです。その草から取った雫を飲めば」
「私は救われるのですね」
「はい。ただそれは貴女御自身が摘まれることです」
「私が」
「そう、貴女が」
 夫人は言った。
「御自身で。できますか」
「はい」
 彼女は青い顔をしながらもそれに頷いた。
「必ずや」
「わかりました。ではお行きなさい」
 夫人は言う。
「このストックホルムの西、誰も来ない墓場に、蒼白いつきの光が差し込むところに。そこの岩の上にその赤い草はあります」
「そこにですね」
「恐ろしい場所です。それでも行かれますね」
「はい」
 彼女はこくり、と頷いた。
「決めましたから」
「わかりました。ではお行きなさい」
「はい」
「救われる為に」
(私も行こう)
 王はそれを聞いて思った。
(彼女を密かに護る為に)
 これは正義感からであった。だがこれが後に悲劇の引き金となるのを王はわかっていなかった。
「今夜ですね」
「はい」
 夫人はそれに応えて頷いた。
「では。お行きなさい」
「わかりました」
 こうしてその女性は姿を消した。夫人はそれを見届けた後で奥に声をかけた。
「もう宜しいですよ」
「終わりましたか?」
「はい」
 彼女は答えた。
「今しがた。では次の方はどうぞ」
 客達は皆出て来た。王は密かにそれに混じって入る。そしてまた夫人の周りに集まるのであった。
「次の方は」
 だがここで新たな客が入って来た。見れば牧童に変装したオスカルであった。
「あっ、オスカル」
「しーーーーーーーっ」
 オスカルは客の一人が名を呼んだのに対して片目を瞑り、右の人差し指を唇にあててしゃべらないでいてくれるように言った。
「ここは内緒で。そういう約束でしたよね」
「そうでしたね」
「わかったよ」
「はい。ところで」
 彼は客達の間に入ると誰かを探して回った。
「あの方はどちらに」
「オスカル」
「おっと」
 ここで彼の後ろから声がした。振り向くとそこに探し人がいた。
「ここにおられたのですか」
「内緒にしておくようにな」
 王は悪戯っぽく笑って小姓に言った。
「そういう約束だから」
「はい」
「それに彼女を私自身で試したい」
 彼は悪戯っぽい笑みのまままた言った。
「今までは見事だったが今度はどうか」
「御自身でですね」
「そう、それにアンカーストレーム伯爵にも注意するように言われたし」
「あの伯爵は心配し過ぎですよ」
「けれど彼は私のことを心から思っている」
 それを邪険にするような王ではなかった。
「だからここは彼の顔も立てたいのだ」
「そうなのですか」
「暗殺などは恐れないが」
「はあ」
 そしてここには伯爵の恐れている通り彼の政敵達もいたのだ。ホーン伯爵とリビング伯爵である。彼等はここにも潜んでいたのだ。
「いないな」
「うむ、見事に隠れているようだ」
 彼等は辺りを探りながらそう囁いていた。
「それで次の方は」
 夫人は客達に声をかけてきた。
「確か漁師の方でしたが」
「はい」
 王はそれに応えて前に出て来た。ホーン伯爵とリビング伯爵はその姿を見て目を瞠った。
「間違いないな」
「ああ」
 二人は頷き合う。
「それでどうする?」
「今は無理だ」
 リビング伯爵はそう言って柄に手をかけた同僚を制止した。
「待て、まだ機会はある」
「わかった」
 こうして二人はここでも抑えた。そして王の様子を凝視していた。
「それでは是非占って下さい」
「占うことは何ですかな」
「私の航海のことです」 
 彼は話を作ってこう言った。
「今度の航海でどうなるか。風や雷に悩まされ、大波に揉まれるのか」
「ふむ」
「帆は破れ、彷徨うことになるのか。それとも港で美しい女に出会うのか」
「それを占って欲しいのですな」
「美女に出会えるか、それとも海の底か」
 彼は言う。
「果たしてどちらなのか。お答え下さい」
「わかりました。では」
 彼女は彼について占うことにした。
「今度は手を見せて下さい」
「手相ですな」
「はい。宜しいでしょうか」
「どうも」
 王は右手を差し出した。夫人はまじまじとそれを見た。彼女は王の手を見ながら言う。
「高貴な方ですね」
「いえ、ただの漁師です」
「あの占い師にはわかっているな」
「そうだな」
 二人の伯爵はそれを見てヒソヒソと言い合っている。
「そして素晴らしい仕事をされている」
「どうも」
「スウェーデンを壊すという仕事をな」
「グスタフ様の功績を無にするような」
 それはこの二人にとってはそうではなかった。だからこそ王の命まで狙っているのだ。
 
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