FAIRY TAIL 星と影と……(凍結)
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原作開始前
EP.2 ワタルの魔法
前書き
第二話です。よろしくお願いします。
「なあ、そういえば、ワタルはどんな魔法を使うんだ?」
旅をして数日ほど過ぎただろうか? エルザとワタルの間には、初めの内こそ少し距離があったが……話す分には戸惑いが無い程には、今はその距離は近くなった。
「そうだな……ッ、見た方が早そうだ……」
そう言ってワタルはエルザを庇うように、彼女の前に出た。
「どうしたんだ?……ッ!」
エルザは聞いたが、すぐに身構えた。二人の前方から山賊が現れたのだ。
「へへへ、ここは俺たちの縄張りだ。痛い目見たくなかったら身包み全部置いてって貰おうか、小僧ども」
リーダー格の男が下卑た笑いと共に前に出て言い、配下の者たちも嗤った。
「生憎、これは旅の道具なんでね……渡すわけにはいかないな」
「大人しくしたがった方が身のためだぞ、小僧。そっちの女は震えてるじゃないか」
「ワ、ワタル……」
「大丈夫だ、エルザ。言っただろ、魔法を見せてやるって」
心配そうなエルザに対し、ワタルは安心させるように声を掛けた。
「でも、こんな大勢じゃ……」
「そうだぞ小僧、こっちは30人、そっちは二人だ。魔法だか何だか知らんが、生意気言う前に……」
「心配するな。こんな山賊ども、三分もあれば終わるから少し下がってろ」
山賊の言葉に耳を貸さず、エルザに声を掛け続けるワタルに、激昂した山賊は襲いかかった。
「この……小僧が、生意気言いやがってー!!」
「ワタル、前!」
「……セイッ!!」
バチッ!
「ガハッ!?」
エルザが悲鳴を上げたその瞬間……ワタルに襲い掛かった山賊は彼の裏拳で、一瞬の光と何かが弾けたような音と共に吹っ飛んだ。
「な……ガキの拳で吹っ飛んだ、だと!?」
「これが“魂威”。そして……」
驚いたリーダー格の山賊に答えることなく、ワタルが静かに手を前に出すと、その手の周囲が光り……鎖鎌が現れた。
「これが“換装”、だ」
「ガキが、ふざけやがって……手前ら、掛かれー!!」
その掛け声と共に、山賊たちは一斉に襲い掛かったが……そこからの展開は一方的だった。
鎌を振るい、投擲し、鎖で体勢を崩して殴ったり……と、山賊の攻撃を躱しながら、ワタルは確実に相手を行動不能にしていった。
「何だコイツ、ガキのくせに……!」「ギャー!」「うわあ、来るなー!」……
「……すごい」
エルザは目を大きく開けて驚いていた。
自分たちが、楽園の塔で反乱を成功させたのは、奴隷と神官の、彼我の差の影響が大きかった。
そのため、魔法が使えないとはいえ、数で勝る山賊との戦いに不安を抱いたのだが……いや、戦いにすらなっていなかった。
目の前でワタルが腕を振るうごとに、山賊が次々と倒れているのだ。
まるで踊るような彼の戦いぶりに、エルザは見入っていた。
――私も……あんな風になれるかな?
そうやって見惚れていたせいだろう……後ろに回った山賊に、エルザは気付かなかった。
「このっ!」
「キャッ!」
そしてエルザは山賊に捕まり、刃を突き付けられてしまった。
「へへへ、おい! 動くんじゃ、な……い……?」
「……そりゃこっちのセリフだ、馬鹿野郎」
山賊はエルザを人質にしようと思ったようだが、エルザの後ろにいる山賊のさらに後ろにワタルはすでに回り込んでいた。
そして次の瞬間には、その山賊は、バチッ、という電撃のような音を立てて吹っ飛び、何が起きたのかも分からないうちに気絶した。
「大丈夫か、エルザ?」
「え、……ワ、ワタル!? いつの間に……」
ワタルの手には先ほどまでの鎖鎌ではなく、忍者刀のような短刀があった。
「俺の武器の特殊能力、とでも言うのかな。この忍者刀は魔力に応じて身体能力が強化される効果があるんだ。ちなみに鎖鎌には五感を強化する効果がある」
その効果で、山賊が声を出すより早く後ろに回ったという訳だ、とワタルは説明した。
「すぐに終わる。じっとしていろ」
「う、うん」
見れば、30人ほどいた山賊は半分以下になっており、ワタルはその中を今のエルザにかろうじて視認できるぐらいのスピードで縦横無尽に駆け、山賊たちを戦闘不能にしていった。
そして……遂にリーダー格の男を残し、全ての山賊を行動不能にした。
「さて……アンタで最後だな」
「ま……待て、降参だ! お、俺たちが悪かった。頼む、許してくれ!」
「……アンタはそう言って何人の人間から奪ってきた? 傷つけてきた? 殺してきた? ……都合が悪くなったからって……」
命乞いを始めた男を、ワタルは怒気を纏って睨みつけ、その次の瞬間……ワタルはリーダー格の男の懐にいた。
「“魂威”!!」
「ガッ……!」
男の鳩尾に手を当てて“魂威”を放つと男は吹き飛ぶのではなく、その場で倒れて気を失った。
「……命乞いをするのは格好悪いんじゃないの? ……って、もう聞いてないか」
ワタルは忍者等に着いた付着した血を拭き取り、エルザに声を掛けた。
「エルザ、もう大丈夫だぞ」
「う、うん……」
「……怖かったか?」
「そ、そんなことない!」
「そうか、なら良かった」
そう言って笑ったワタルは先ほどまでの鋭い雰囲気ではなく、いつも通りのワタルだった。
そのことに安心したエルザは、山賊たちをどうするのか尋ねた。
「とりあえず、近くに大きめの街があったから、そこの軍隊に引き渡す。話はそれから、だな」
「なんか……妙に手慣れてないか?」
「そうか?」
さっきの戦いぶりや、山賊たちを木に縛り付けているワタルに対し、少し疎外感を抱いたエルザだったが、次の一言で解消した。
「街に行ったら何か食べるか、エルザ?」
「……フフフ、この状況でそれを言うか、普通?」
「……それもそうだな」
的外れなワタルの物言いを可笑しく感じたエルザは笑い、初めは不満そうなワタルもエルザと一緒に笑った。
山賊たちが倒れている山の一角で笑い合う二人の姿は、なかなかシュールだったが、それでも楽しそうだった。
= = =
山賊たちをロープで木に縛り付け終えて、近くの街の軍隊に連絡した二人は、久しぶりに宿に泊まっていた。
あの山賊たちは町の悩みの種になっていたらしく、報奨金が出たのだ。
「それにしても、あのバシッって鳴るやつ……“魂威”、だったか? 私にも使えないのか?」
「……多分無理だろうな。魔力を拳に集中させるだけなら結構多くの魔導士ができるけど、“魂威”は魔力を集中させるんじゃなくて、放出させる技だからな。今じゃあ、使えるのは俺ぐらいの者だろうな」
魔導士は自分の魔力を能力系なら何かに具現させて、所持系なら物に纏わせて魔法を使う。だが“魂威”は魔力そのものを打ち出す技のため、特別な素質と精密なコントロールが必要とされるのだ。
だが、“魂威”には、そのデメリットに見合うだけのメリットがある。
その威力は高いし、今は修行中だが……打ち出した魔力を操る事が出来れば、さらに応用力の高い技に昇華できるのだ。
ワタルは、それを実際に実演して見せながらエルザに説明した。
「むー」
「ハハハ、むくれるなって。“換装”はたぶんお前とは相性が良いから教えられると思うよ」
エルザは“魂威”を気に入ったのか、使えないと知ると落ち込んだが……“換装”が使える、さらに相性が良い、と知ると目を輝かせてワタルに詰め寄った。
「本当か!? なら教えてくれ!」
「ああ、分かった分かった……。でも今日は遅いからまた明日、な」
「む、分かった。約束だぞ」
「ああ、約束だ」
すぐに始めようとしたエルザだったが、ワタルに諭されたため、約束をすると布団に入った。
そして……山賊との予期せぬ遭遇で疲れたのか、すぐに眠ってしまった。
「すーすー」
――もう寝ちゃったよ……あ、そうだ!
静かに寝息を立てるエルザに、ふと悪戯心が湧いたワタルは、エルザの頬を突いてみた。
思ったほど弾力があった彼女の頬に、楽しくなったワタルは突き続けた。
すると……何を考えたのか、エルザはワタルの指を……赤子のように突然咥えた。
「うわっと……目、覚めてないよな?」
吃驚して指を引っ込めると、エルザの寝顔は悲しそうに歪んだ。
どうしたものか、とワタルが考えていると……
「……行かな……ロブおじ……ジェラ……」
「……寝言……か?」
「……ワタル」
「!」
悲しい夢を見ているのだろう、眼帯に覆われていない左目からは涙が溢れ、遂にその一筋が零れ落ちた。
ワタルは自分の名前を呼ばれた事に少し驚いたが、エルザを起こさないようにそっと優しく髪を撫でて、できるだけ穏やかに声を掛けた。
「大丈夫だ、俺はどこにも行かない。俺は此処にいるよ」
エルザの悲しそうな寝顔が穏やかになるまで撫で続け……ワタルも自分の布団に入り、そして思った。
――“明日”と“約束”……か……久しぶりだな、そんなことを言うのは……。
普段より穏やかに眠りに入ったワタルだったが……彼が今夜見た見た夢は、赤く染まった床と、狂ったように嗤う、白髪を血に染めた男の夢だった。
翌朝、エルザは頬を赤くして目覚めた。
昨晩彼女が見た夢は最近の、塔の夢だった。夢に出たのは傷ついた仲間たち、倒れて動かなくなったロブ、そして……狂ってしまったジェラールだった。
次に見たのは……ワタルの夢だった。エルザは、彼も行ってしまうんじゃないか、と思って手を伸ばすと、ワタルはその手を取って「此処にいる、どこにも行かない」と言ってくれた。
エルザは、それがたまらなく嬉しく、安心した。
「ワタル……」
「何だ?」
「ひゃ、ひゃい!?」
思わず口にしてしまった呟きに答えた者がいて、エルザは声が裏返らせた。
「どうしたんだ、寝ぼけてるなら……」
「な、何でもない!」
「……顔が赤いぞ、本当に大丈夫か?」
「何でもないったら何でもない!!」
「……分かったよ、きついようなら言ってくれよ」
――起きてるなら言ってくれればいいのに……うう、絶対顔真っ赤だ……。
「朝ご飯は旅館で用意してくれるそうだから……エルザー、聞いてるかー?」
「は、はい!」
「……ホントに大丈夫?」
「平気だと言ってるだろう、しつこいな」
「ああ、悪かった悪かった。……朝ご飯用意してくれたみたいだから食べようか」
「ああ、分かったよ……」
顔を真っ赤に染めて否定するエルザを、ワタルは心配したが……頑固なエルザに、ワタルは何とか了解した。
= = =
朝食の後、何とか落ち着いたエルザは、ワタルに魔法を教わっていた。
「甘い! “換装”の間の隙は少なくしろ!」「身体能力強化の魔法は魔力を大きく消費する。使いどころを考えろ!」……
魔法に関してはワタルの方が使い手として優れており、使う魔法も似ているため、鍛練は組手形式となった。
ワタルの教えは厳しかったが、エルザは弱音を吐かずについていき、その吸収も早かった。
「エルザ、なかなか筋が良いな。これなら結構すぐに俺とも戦えるようになるかもしれないぞ」
「ハア、ハア……それは、本当、か?」
「ああ、俺も負ける気はないがな」
「……いつか、越えてやるから、覚悟しろよ」
「ああ、待ってるさ」
これはある鍛錬の休憩中の一面である。
エルザはワタルを目標に、ワタルはエルザに追いつかれないように……それぞれが切磋琢磨することによって両者の力は上がっていった。
そして、半月ほど経っただろうか。
「ここが……」
「そうみたいだな」
「「妖精の尻尾!」」
旅の末、“FAIRY TAIL”と書かれた看板の大きな建物の前に、二人はいた。
後書き
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