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スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇

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第二十四話 ネビーイーム出現

               第二十四話 ネビーイーム出現

「シャピロ様」
玄室だった。シャピロはそこで青い髪の美女と会っていた。
「どうした、ルーナ」
「今後の予定が正式に決定しました」
「暫くは動かないのだな」
「はい」
ルーナと呼ばれた美女は彼の言葉に答えた。
「その通りです」
「そうか、やはりな」
シャピロはその報告を聞いて黙って頷いた。
「予想通りだ」
「予想通りでございますか」
「そうだ」
またルーナに答える。
「これだけのダメージを受けてはな」
「それでは暫し高みの見物ですね」
「勢力を回復させながらな」
こうも述べる。
「今のところは」
「わかりました。それでは」
ルーナは言う。
「三将軍の方々にもそのように」
「よい」
だがシャピロはそれは制止した。
「よいとは」
「彼等は彼等で知る。こちらから教える必要はない」
「左様ですか」
「そうだ、それよりも」
そうしてまた言うのだった。
「私は何を目指しているかわかるな」
「勿論です」
ルーナは畏まって彼に答えた。
「その私が何故彼等に媚びる必要がある?」
傲然とさえしていた。
「ないな。そうだな」
「その通りです。だからですか」
「ルーナ、私と共に来い」
そうしてルーナに告げた。
「よいな、共にだ」
「はい、是非共」
ルーナもそれに従う。それは惚れた女の声であった。
「シャピロ様と共に」
「ダンクーガもロンド=ベルも恐れるに足らぬ」
彼はこうまで言うのだった。
「神になる私の前にはな」
自信に満ちていた。だからこそ目にも耳にも入っていなかった。他の者の評価というものが。彼がそれに気付くことはないのであった。
ロンド=ベルはゼダンでこれからの戦略を練っていた。だがどうにも結論が出ないのであった。
「困ったことはよ」
フォッカーが言う。
「敵が何時何処に出るかわからないことだ」
「その通りです」
ミサトも難しい顔をしている。
「だからどうしても受身にならざるを得ません」
「葛城三佐にとっては不本意か」
「その通りです」
そうフォッカーにも答える。
「やはりここは積極的にですね」
「ミサトらしいわね」
それを聞いてリツコが微笑む。
「そういうところは」
「そうね。やっぱり私は積極的なのよ」
ミサト本人もそれを認める。
「ガンガン行かないと」
「積極的なのもいいが」
ここでアムロが言う。
「今回はそうもばかりはいられないからな」
「その通りです」
ミサトもそれがわかっている。だから顔が少し暗くなる。
「相手が何時何処に出るかわからないのが。どうにも」
「使徒はいつも決まった場所だったけれどね」
「ええ」
第二東京市である。
「それとも違うし」
「結果的にそれがどうにも戦略を立てづらくしているのよ」
またリツコに述べるミサトであった。
「受け身受け身でね。それも複数の勢力相手だし」
「その中でも最悪はグラドスだ」
アムロの顔が顰められた。
「一般市民を狙うとはな。とんでもない奴等だ」
「そうした意味ではティターンズと同じだな」
ブライトも言う。
「あの連中は」
「むしろティターンズより悪質でしょう」
ミサトはそうブライトに答えた。
「プラントでの行為を見ていると」
「そうだな。あの時は俺も本気で怒った」
アムロが述べた。
「かつてのジオンよりも酷いものを感じた」
「気ですね」
「そうだ、それだ」
イーグルにこう答えた。
「あの連中は選民思想の塊だ。他人を虫ケラと思っている」
「けしからん奴等じゃな」
アスカも純粋に顔を顰めさせた。
「そうだ。だからキラもああしたのだと思う」
普段は温和なキラが激昂してあえて敵のコクピットを撃ち抜いたことだ。これには周りの者も驚きを隠せなかったのだ。
「あの連中は放っておいてはいけない」
「その通りです」
ラクスがアムロの今の言葉に頷いた。
「グラドス軍を放っておいてはより犠牲者が出ます。ですから」
「それで宜しいのですね」
ミサトはラクスに問うた。
「貴女も返り血を浴びることになりますが」
「それは一向に構いません」
ラクスの言葉には思えないものがあった。
「平和を手に入れる為には。非戦闘員を守る為には」
「左様ですか」
「はい、私も彼等に対しては容赦するつもりはありません」
そうした意味では彼女もシンと同じ考えであった。
「プラントを狙ったのですから。そして人類も」
「あの連中には容赦することはない」
リーも言った。
「殲滅するだけだ。捕虜も取らずにな」
「おい、それは幾ら何でも」
テツヤが同期を嗜める。
「極端じゃないのか?」
「では聞くが」
だからといってリーは自分の考えを変えようとはしていないのがわかった。
「あの連中を一人でも放っておいたらどうなる?」
「それは」
「答えはわかっているな」
「ああ」
それはテツヤもわかっていた。グラドス軍のことは彼ももう知っていた。
「そういうことか」
「そうだ。一人でも多くの一般市民を護る為にな」
「それにです」
今度はバルトフェルドが述べてきた。
「プラント組が特にそうですがうちのパイロットの面々は殆どグラドス軍に対していい感情を持ってはいません」
「だから捕虜も取らないと」
「その前にコクピット撃ち抜いていますからな」
そうテツヤに述べた。
「ですから。彼等に対してはそれでいいでしょう」
「その通りです」
ラクスも静かに述べた。
「彼等に関してはそれで宜しいかと」
「ううむ。そうか」
テツヤも結局として頷いた。そういう相手だったからだ。
「他の敵に対してはこれまで通りですね」
ミサトがあらためて言う。
「できれば捕虜を得たいものです」
「その通りだ」
アムロが彼女の今の言葉に頷いた。
「情報収集にもなるしな」
「はい」
「だが。ゲストについてもインスペクターについてもまだ詳しいことはわかってはいない」
そうだったのだ。
「彼等も中々尻尾を見せないな」
「仕方ありません、今は」
ミサトもそう答えるしかなかった。
「それについても待つしかないかと」
「待つんか」
「まあ、タータったらせっかちさんなんだから」
この二人はここでも同じであった。
「とにかく。今はどうしようもない」
ダイテツの結論はこれであった。
「待つしかな」
「それしかないというのは」
「不服か?」
「はい、やはり」
テツヤはあえて言うのだった。
「後手に回り続けていると」
「だがそういう時もあるのだ」
しかしダイテツの言葉は変わらない。
「耐えるのも必要ですか」
「そういうことだ。わかったな」
「わかりました。それでは」
それでも納得するしかなかった。結局はそれしかなかった。
「ここはそのように」
「機は必ずやって来る」
ダイテツはこうも述べた。
「その時に動けばいい。わかったな」
「わかりました。それでは」
「それにこうした戦いも敵の勢力を削いでいっている」
「敵のですか」
「そうだ。我々は出来るだけ損害を抑える」
それは少なくともできていた。
「そうして敵の損害を増やしていく。いいな」
「そうだな」
グローバルがそれに頷く。
「やはりそれが一番だ。今はな」
「一回の戦いで敵に与えているダメージは尋常なものではない筈です」
ミサトが言った。
「現にムゲ=ゾルバトス帝国もかなりのダメージを受けて暫く行動できないようですし」
「そうしてバルマー等の勢力もだな」
ブライトが応える。
「そうです。そのうちどの勢力もそれに痺れを切らしますから」
「そこを叩く、か」
「そのうえで情報収集です」
こうも言う。
「それで宜しいかと」
「戦略としては随分杜撰だが」
ブライトだけでは泣く誰もがそれはわかっている。
「それも仕方ないか」
「仕方ありません」
ミサトもわかっていた。しかしそれしかないのであった。
「待つならばそれしかありませんから」
「わかった。それではそれで行こう」
「うむ。それではそのようにな」
「問題はどの勢力が最初に動くかだ」
グローバルは言う。
「それ次第でも大きく変わるな」
「どの勢力が動くかまではわかりません」
ミサトがそう告げる。
「しかし」
「しかし?」
皆ミサトの言葉に顔を向けた。
「一つの勢力が動けば他の勢力も動きます。そうなれば」
「こちらもまた動く番か」
「そういうことです」
ミサトは述べる。その真剣な声で。
「その時の戦略も今後立案していきましょう」
「その時にすぐに動けるように」
「はい、今から」
戦略はこの時から考えられていた。
「考えていきましょう」
こうして作戦立案は今のところはこの程度だった。だがそんな彼等の戦略を根本から覆す出来事が起ころうとしていたのだった。
この時偵察にはGGGチームが出ていた。リーダーは言うまでもなく凱であった。
「凱隊長」
その彼にボルフォッグから通信が入る。
「今のところは何もありません」
「何もなしか」
「はい、全ての宙域において」
彼はそう凱に報告する。
「何もありません」
「ゲート周辺はどんな感じだ?」
「何もないわ」
凱の問いにルネが応えてきた。
「こちらもね」
「そうか。じゃあ今日の偵察は何もなしだな」
「ちぇっ、つまらねえ話だぜ」
ゴルディマーグがそれを聞いて不服を漏らす。
「やっぱり派手に敵がドーーーンと出ねえとな」
「ちょっとゴルディマーグ兄さん」
「それはいけませんわ」
光竜と闇竜がゴルディマーグを叱る。
「幾ら何でも不謹慎よ」
「何もないのが一番いいのです」
「その通りだもんね」
それにマイクも同調する。
「マイクだって楽しく帰りたいもんね」
「何だよ、皆して俺に反論するのかよ」
「まあそうつむじを曲げられずに」
ボルフォッグが彼を宥める。
「これで帰って後は」
「一杯やるか」
「そっちはどうだ」
凱は話が決まったところでL5宙域にいる炎竜達に通信を入れた。
「はい、こちらも」
「何もありません」
炎竜と氷竜がそう報告してきた。
「御安心下さい」
「これよりそちらに向かいます」
雷龍と風龍の言葉であった。彼等もそこにいるのであった。
「そちらには連邦軍もいましたね」
「はい」
「今彼等も帰るところです」
風龍と氷龍がそう報告する。
「とりあえず任務は終了だね」
「何もなくてよかったよ」
炎龍と風龍はそう述べる。しかしそれで終わりではなかった。
「!?」
「これは一体」
「どうした!?」
凱は彼等の話を聞いて声をあげた。
「いや、何か」
「強烈なエネルギー反応がここに」
「ここに!?」
凱はそれに対して問う。
「来ています」
「一体何なのか」
「わかった。すぐにそちらに向かう」
「あたしも行くよ」
四人の言葉を聞いてルネも言うのだった。
「すぐにそちらにね」
「連邦軍にはすぐに帰還してもらえ」
「すぐにですか」
「そうだ。下手な相手だと無駄な損害が増える」
凱はそれを嫌ったのである。
「それに」
「それに?」
炎竜が凱に問う。
「ゼダンに報告だ」
「ゼダンにですか」
「そうだ」
凱は今度は氷竜に告げた。
「すぐにだ、いいな」
「了解」
「わかりました」
風龍と雷龍が応える。
「俺達もそこに行く。いいな」
「あたし達もね」
こうして彼等はL5宙域に急行する。そこにはもう連邦軍のマシンが撤退に移っていた。
「GGGですね」
「そうだ」
凱が彼等に答える。
「ここは俺達が引き受ける。すぐに撤退してくれ」
「頼めるか?」
「ああ」
はっきりとした声で彼等に答えた。
「もうロンド=ベルには連絡してある。後は任せてくれ」
「わかった。それじゃあな」
「よし!いいな!」
凱はメンバーに対して告げた。まだそこには何もない。
「何かあればそれを全て本隊に連絡する」
「了解です」
「わかったぜ!」
ボルフォッグとゴルディマーグが答える。
「それでな!」
「それにしても凱隊長」
ボルフォッグは気配を探りながら凱に述べる。
「この気配は。かなり」
「これってまさか」
「ひょっとして」
光竜と闇竜が声をあげる。
「そうですね。間違いありません」
「ここまでの反応は」
氷竜と炎竜もまた。
「超巨大質量の物体出現か!」
「それしかない!」
最後に風龍と雷龍が言うのだった。
「L5宙域に超巨大質量の反応!」
ボルフォッグが本隊に報告する。
「至急こちらに向かわれたし!」
「やばいもんね、これって!」
マイクが叫んだ。
「やばいなんてもんじゃないよ!」
ルネが言った。
「スペースデブリなんてものじゃないよ」
「ああ」
凱がその言葉に頷く。
「コロニー並だ。それに」
「明らかに人工物だね」
ルネがまた言う。
「今、出ます」
「でけえ・・・・・・」
ボルフォッグとゴルディマーグが呆然とする。それは。
「来るぞ!」
凱は仲間達に叫んだ。
「敵だ!」
「これは・・・・・・」
「いいか!俺達がまず食い止める!」
凱はそうメンバーに命じた。
「ここでな。いいな!」
「ええ」
「こいつ等、まさか」
ボルフォッグが応えゴルディマーグが声をあげる。そこに出て来たものは。
「バルマー!」
「彼等が」
光竜と炎竜が声をあげた。
「今度は彼等が」
「しかも何て数なの!?」
雷龍と闇竜も。
「二千はいるぞ」
「これだけの数を一気に出してくるなんて」
「本気だね」
風龍、氷竜、そしてルネが言った。
「二千。いきなり本気だもんね」
「いいか、無理はするな!」
凱がまた命じる。
「まずは持ち堪えろ。いいな!」
「了解!では凱隊長」
ボルフォッグが言う。
「それまでは我々で」
「やってやるぜ!」
ゴルディマーグがまた叫んだ。
「ここはよ!」
「しかし。どういうことなんだ」
凱がここでふと思うのだった。
「ここに何が出るっていうんだ?しかもこれだけの数の機体が」
「凱!」
命から通信が入って来た。
「命か」
「ええ。三分後そっちに到着するわ」
「三分か」
「それまで持ち堪えられる?」
「充分だ」
それが凱の返事であった。
「それだけあればな」
「わかったわ、じゃあその言葉信じるわ」
「頼む」
「それまでに何かあったら許さないから」
「よし、出来るだけ纏まるんだ!」
凱はメンバーに集結を命じた。
「そして各方向に撃ちまくれ。いいな!」
「了解!」
「引き寄せて!」
接近戦こそGGGチームの十八番だった。彼等はそれを採って戦うことにした。
すぐにバルマーのマシンが接近してきた。彼等はそのマシン達を次々に叩き潰していく。
「とうっ!」
「はぁっ!」
トンファーや格闘で敵を倒しているだけではなかった。マイクは変形した。だがここでふと気付いた。
「シット!ブラザー達がいないぜ!」
それであった。マイクは思わずそれに舌打ちした。
「何てこった!このままじゃやばいぜ!」
「ノープロブレム!」
「そう思って急行してきたぜ!」
「何っ!?」
マイクがその声がした方に顔を向けると。そこにはマクロスがいた。そこにいる彼の兄弟達が一斉にダイダロスから飛び出て来たのである。
「ブラザーズ!来てくれたか!」
「イエーーース!」
「ブラザーのピンチには何時でもな!」
「よし、マクロスが来たら百人力だぜ!」
ゴルディマーグはそれも喜んでいた。
「宜しく頼むぜ!」
「一足先に来てよかったな」
「そうですね」
柿崎はフォッカーの言葉に頷いた。
「まさかとは思いましたけれど」
「俺の勘は絶対当たるんだよ!」
どうやらこれはバサラの勘だったらしい。彼は自機の中でギターを手に叫んでいた。
「凱!生きているみてえだな!」
「ああ、何とかな!」
凱も威勢よく彼に言葉を返す。
「生きてるさ!」
「よし!じゃあ皆!」
バサラは乗ってきた。
「俺の歌を聴けーーーーーーっ!!いいな!」
派手にギターを奏でる。それと共にマイクの兄弟達とバルキリー隊が出撃する。そうして凱達の救援に向かうのであった。
「うおおおおおおーーーーーーーっ!」
凱はその中で叫ぶ。そうして攻撃に移っていた。
「ブロォォォォォォクン、マグナムッ!」
ブロークンマグナムでメギロートを一気粉砕する。続いてドリルニーでもう一機。やはりガオファイガーの強さは群を抜いたものがあった。
そこにハッター達もいた。見ればハッターのノリがやけにいい。
「へへへっ、やっぱりバサラの曲はいいぜ!」
彼はバサラの曲に戦意を高揚させていたのだ。踊ってさえいる。
「これに乗って。元気よくいけば何もノープロブレム!」
「ハッちゃんはそういうところが相変わらずねえ」
「何、そりゃどういう意味だ」
ハッターはフェイのその言葉に突っ込みを入れる。
「何が言いたいんだ、一体」
「だから相変わらずだって言ってるの」
フェイはまた言う。
「ハッちゃんらしいっていうかね」
「ぬう、それでは俺が単純みたいじゃないか!」
「その通りじゃない」
何だかんで敵を倒しながらフェイは言う。
「そのままで」
「ぬがーーーーーーっ!またしても口の減らない女だ!」
「それはわかっていると思うが」
ライデンが叫ぶ彼に突っ込みを入れる。
「何を今更」
「バット!言いたいこともある!」
しかしハッターはそのライデンにも言うのだった。
「こいつは!この女の口だけは許せんものがある!」
「許す許さないはいいが」
テムジンがここでハッターに声をかけてきた。
「何だ、兄弟」
「今は戦闘に専念しろ」
彼が言いたいのはそこであった。
「わかったな」
「おっと、そうだった」
ハッターもその言葉にふと気付く。
「戦闘だ。凱!」
「あ、ああ」
凱も今のやり取りには少し戸惑っていたが答えた。
「そういうことだ。派手にやらせてもらうぜ!」
「頼む!また敵が出て来た!」
「またか」
テムジンはそれを聞いて何かを感じるのだった。
「この数は。尋常ではないな」
「尋常じゃないのがバルマー帝国じゃないの?」
フェイはそう彼に問い返す。
「数で攻めるのが」
「それでもだ」
だがそれでもテムジンは言うのだった。
「この数は。只事ではない」
「何かあると?」
ガムリンがそのテムジンに問うてきた。彼等も戦闘に突入している。
「そう仰りたいのですか」
「俺の取り越し苦労か」
テムジンはこうも考えた。
「そうだったらいいが」
「いや、これは」
金龍がここで言う。
「その可能性はないな」
「そのようです」
マクロスの艦橋からキムも言う。
「巨大な物質反応がさらに高まっています。これは」
「物質反応、まさか」
フォッカーは自分の中に嫌な予感が生じるのを感じた。
「バルマーの新兵器か?」
「だとすれば一体」
マックスも何かを感じた。
「何なんでしょう」
「そこまではわからないわ。ただ」
ミリアもまた。戦いながらL5宙域の中心を見ていた。
「恐ろしいものを出して来るのは確かね」
「本隊来ます!」
艦橋からまたキムが言ってきた。
「何とか間に合いました!」
「よし!」
凱はそれを聞いて会心の笑みを浮かべた。
「何とか耐え切ったぞ!」
「はい隊長!」
「何とかね!」
ボルフォッグとルネも笑っている。だが彼等もそれなりにダメージを受けていた。それでも何とか戦い抜いたのは流石であった。
「凱、大丈夫!?」
「ああ、命」
通信を入れてきた命に満面の笑みで答えてみせた。
「何とかな」
「よかった、無事だったのね」
「俺はこれ位で死ぬわけにはいかないからな」
いつもの凱の言葉であった。
「御前の為にもな」
「もう、そんなこと言って」
命はそれでも今の凱の言葉に顔を赤らめさせる。
「わかったわ。戦いが終わったら熱いコーヒーを一杯ね」
「ああ、頼む」
「総員出撃!」
大河の指示が下る。
「攻撃目標バルマー帝国軍。いいな!」
「はい!」
全員それに従いすぐに出撃する。そうしてバルマー軍に突き進み次々と倒していくのだった。戦い自体は速やかでありバルマー軍はすぐにその数を大きく減らした。だが。
「やっぱり」
命が目の前の機器を見て言う。
「反応がさらに大きくなっています」
「またか」
「そうです。より一層」
大河にもそう答える。
「これは一体」
「何が起こるというのか」
大河はそれを気にしていた。
「ここで何が」
「!!」
スワンが思わず驚きの声をあげた。
「いけまセン!」
「どうしたスワン!」
妹の声を聞いて思わずスタリオンも声をあげた。
「何があったんだ!」
「何かが来マス!」
スワンはそれでもまた叫んだ。
「これは・・・・・・マサカ」
「何ッ!これは!」
次に叫んだのは火麻だった。彼はモニターを見ていた。
「マジかよ、これは!」
「嘘・・・・・・そんな」
命もまた。モニターに映るものを見て呆然としていた。
「こんなものが」
「馬鹿な!バルマー帝国はこんなものまで出せるっていうのか!」
凱も叫ぶ。彼等の前に姿を現わしたのは巨大な球体だったのだ。衛星そのものの大きさの。
「これだけのものを」
「久し振りだな、地球の諸君」
「マーグ!」
「兄さん!」
彼等の聞き慣れた声であった。その声の主は。
「元気そうで何よりだ。このマーグそれを嬉しく思う」
「マーグ、貴様か!」
凱がマーグに対して叫ぶ。
「この巨大衛星を持って来たのは!」
「そう」
マーグは凱のその言葉に頷くのだった。
「このネビーイームを。地球攻略の切り札に持って来た」
「地球攻略の」
「まさかこれだけのものを」
「これを持って来た意味は諸君等にはわかると思う」
マーグはまた彼等に言ってきた。
「これで我々は地球圏を完全に勢力下に置く」
「やれるものならやってみろ!」
最初に反論したのは凱であった。
「俺達をそんなもので退けるというのならな!」
「それは宣戦布告ということかな」
「そうじゃなきゃ何だっていうのかな」
万丈がクールに言葉を述べてきた。
「そもそも君達とはとっくの昔に交戦状態に入っているのだし」
「そうだ、その通りじゃねえか」
甲児も言う。
「とっくの昔に手前等とは戦ってるんだ!宣戦布告もねえだろうがよ!」
「では。容赦する必要はないな」
今度出て来たのはロゼであった。
「我々も。全力で諸君等を叩き潰す」
「おいおい、何かすげえ今更って感じだな」
宙がそれを聞いて言う。
「じゃあ今までは何だったんだよ」
「くっ、口の減らない」
「口の減る減らない以前だろ」
今度は勝平が突っ込みを入れる。
「今までだって散々仕掛けてくれたじゃねえか」
「確かにその通りだ」
マーグもそれを認める。
「だが」
「だが?」
「今までの戦いを踏まえて我々も切り札を用意したのだ」
「それがその衛星ってわけだな」
「そうだ。ネビーイーム」
マーグは言う。
「それがこの衛星の名だ。これこそ我が銀河辺境方面軍の切り札」
「切り札だと」
「その通り」
ロンド=ベルの者達に述べる。
「ここに我が軍の主力を持って来ている。これで諸君等の相手をしよう」
「へん、大したことはねえぜ」
甲児はネビーイームを見ても強気だった。
「そんな衛星程度で俺達をよ」
「何言ってるのよ甲児君」
さやかが強気な甲児を注意する。
「あんな大きなのそうそう簡単に相手できるわけないでしょ」
「何だよさやかさん」
常識的なクレームをつけてきたさやかに抗議する。
「人間何でも強気でいかないと駄目なのによ」
「甲児君はまた極端よ」
「そうよ」
レトラーデも甲児に言う。
「いつもそうじゃない。向こう見ずだし」
「何でそこまで言われるんだよ」
「だって本当のことだから」
今度はミスティも参戦してきた。
「そうでしょ。いつも極端に強気なんだから」
「へっ、強気なのが俺なんだよ」
甲児も態度をあらためない。
「だからいいじゃねえかよ」
「もう相変わらずなんだから」
さやかもこうなっては言う言葉もなかった。
「困ったわね。本当に」
「やっぱり甲児は甲児なのよ」
アスカも言う。
「相変わらず馬鹿なんだから」
「へっ、御前だって同じじゃねえか」
「あたしが馬鹿だって言うの!?」
「じゃあ聞くがよ」
甲児はアスカに聞いてきた。
「御前だったらあの白くてでかいのどうするんだよ」
「そんなの決まってるじゃない」
アスカは平然として言葉を返してきた。
「速攻で叩き潰す。それだけよ」
「アスカ、それって」
シンジが今のアスカの言葉を聞いて突っ込みを入れる。
「甲児さんと同じなんじゃないかな」
「他に方法あるの?それじゃあ」
しかも居直ってきた。
「今のうちよ。速攻で倒す」
「中に入って?」
「当たり前じゃない。考えてる暇はないわよ」
「残念だけれどそれは駄目よ」
ミサトが困った顔でアスカに言ってきた。
「今は。弾薬がかなり減っているわ」
「そんなの平気よ」
しかしアスカはそんなことを気にしてはいない。かなり無鉄砲だ。
「補給すれば済むじゃない」
「その補給にだけれど」
シンジが呆れながら述べる。
「ゼダンまで帰らないといけないんだけれど」
「あれっ」
言われてそれに気付いたアスカだった。
「そうだったわね」
「そうだよ。忘れていたとか!?」
「全然。じゃあまずはゼダンに帰って」
まだわかっていないアスカである。
「そこから引き返してね。討ち入りしましょう」
「今度は討ち入りなのね」
レイがアスカの今の言葉を聞いて呟く。
「ちょっとそれは」
「赤穂浪士よ」
アスカは懲りずにまた言う。
「派手にやってやろうじゃないの」
「だからそれも駄目よ」
ミサトはそれも否定する。
「何もわかっていないのに」
「出たとこ勝負よ」
それでもアスカは主張する。
「ここは派手にね」
「派手に行って全滅したらどうするのよ」
またミサトが突っ込みを入れる。
「何にもならないわよ」
「そうよ。とりあえず今は退きましょう」
リツコも言う。
「作戦を考えてからまた来ればいいし」
「何よ、それって」
アスカはリツコの言葉にもふてくされる。
「そんなのじゃ何時まで経ってもバルマーには勝てないわよ」
「それでも無茶は駄目だよ」
またシンジが言う。
「全滅したら何にもならないじゃない」
「くっ」
流石に今度はアスカも黙った。
「それもそうね」
「そうに決まってるやろが」
トウジも言う。
「何を言うてるんや御前は」
「何か今のアスカおかしいんじゃないか?」
カミーユが首を傾げる。
「変に攻撃的だな」
「そうだよね」
カツもカミーユの言葉に頷く。
「何でこんなに無鉄砲なんだろう」
「もっと冷静だった筈だが」
カミーユはそれを指摘する。
「それがどうして」
「地が出たようです」
ルリがクールに述べる。
「アスカさんのホットな地が」
「というとあれか」
サブロウタはそれを聞いて言わなくていいことを言いはじめた。
「狂犬いや檻に入れられたばかりのオランウータンそのままになったのか」
「ちょ、ちょっとサブロウタ」
今の言葉にはジュンが顔を真っ青にさせた。
「その表現は」
「おっと。じゃあ三日餌をやっていないマンドリル」
サブロウタもかなり言う。
「そんなところだな」
「おい」
ナガレが額に汗をかきながら周りのメンバーに声をかける。
「ここは離れるぞ」
「わかった」
ダイゴウジが彼の言葉に頷く。
「サブロウタ、健闘を祈る」
「何だよ、旦那」
しかもサブロウタは気付いていない。
「健闘って。そういやアキト」
アキトはもうナデシコに帰還していた。
「何時の間によ」
「さて、覚悟はいいわね」
ここでアスカの声が聞こえてきた。
「オランウータンだのマンドリルだの言った償いはしてもらうわよ」
「全機帰還して下さい」
ユリカは騒ぎの中でこう指示を出した。
「今はこれ以上の戦闘は無理です」
「やっぱそうか」
甲児も流石に今度は納得した。
「それじゃあ仕方がねえよな」
「そうよ。わかったらいいわね」
「ああ、それじゃあよ。何かまだ戦い足りねえが」
「何言ってるの、GGGチームはもうヘトヘトよ」
「いえ、私達はまだ」
しかしボルフォッグがここで答える。
「充分戦えますが」
「こんなの何でもねえぜ」
ゴルディマーグも言う。
「幾らでも来やがれってんだ」
「それでも。これで帰還です」
しかしユリカの言葉は揺るがない。
「それでいいですね」
「何だよ、随分厳しいな」
ゴルディマーグはそれを聞いて言うのだった。
「まだやれるっていうのによ」
「深入りは禁物です」
そのゴルディマーグにルリが告げた。
「ですから」
「そうかよ。じゃあ仕方がねえな」
「全員帰還だ」
凱がメンバーに指示を出した。
「それでいいな」
「了解です、凱隊長」
ボルフォッグが一同を代表して述べた。
「それで御願いします」
「よしっ、じゃあ命」
凱はそれを受けて命に通信を入れる。
「コーヒーを頼むな」
「わかったわ、凱」
命も明るい声で凱に言葉を返す。
「うんと美味しいの用意して待っているから」
「ああ、それじゃあな」
「あれっ、皆」
サブロウタに襲い掛かるアスカはここで周りの異変に気付いた。
「もう帰るの」
「おっと、今のうちだ」
アスカが動きを止めた隙にサブロウタは逃げ出した。
「さっさと」
「あっ、待ちなさいよ」
アスカはそのサブロウタを追おうとする。ところが。
「アスカさん、いけません」
カトルが彼女に声をかけてきた。
「ここはもう帰らないと」
「駄目だっていうの?」
「そうだ」
今度はウーヒェイが言う。
「もう潮時だ」
「潮時でもあたしはあいつを」
「そんなの後でもできるだろ?」
デュオが密かにそそのかしてもいた。
「だからな。今は」
「帰れってことね」
「その通りだ。わかったな」
トロワはもう帰還に入っていた。
「今は帰る時だ」
「ネビーイームも何時でも陥とせる」
ヒイロの言葉には彼なりの根拠があるようだった。
「だからだ。退け」
「わかったわよ。じゃあそうさせてもらうわ」
アスカも渋々ながらそれに頷いた。
「じゃあね。けれど」
しかしまだ言うのだった。
「あいつはいつか絶対に」
「まあ好きしな」
「止めはしない」
デュオとウーヒェイはまだサブロウタを追おうとする。アスカを止めはしなかった。実際にアスカは一旦自分の母艦であるグラン=ガランに帰った後でナデシコに向かった。騒ぎは続いていたがそれでも一旦はゼダンに帰還するのであった。
ゼダンに帰って。ロンド=ベルは対策協議に入った。言うまでもなくネビーイームについてである。
「やれやれだぜ」
カイが不平気味にぼやく。
「今度はでっかい星かよ。よくもまあ次から次に」
「それを言っても仕方ないぞ」
リュウはそう言ってカイをたしなめた。
「実際に今いるのは事実なんだからな」
「それはわかってますよ。けれどあんなのがいると」
「中にはどれだけの軍勢がいるかだよな」
スレッガーはそこを指摘する。
「設備もかなりのものだろうしな」
「まさに要塞ですね」
ハヤトはそう言い表した。
「白い要塞ですか」
「ホワイトスター」
セイラがふと呟いた。
「まさにそれに」
「ホワイトスターか」
ブライトはその言葉にあることを思うのだった。そうして言う。
「それがあの衛星のコードネームになるな」
「ホワイトスターですか」
「そうだ、今後そう呼ぶことにする」
そう皆にも言い伝える。
「それでいいか」
「はい」
「それでは」
皆それに頷く。こうしてネビーイームのコードネームがホワイトスターに決定したのだった。
「そしてだ」
ブライトはさらに言う。
「あの衛星に対しての総攻撃の予定だが」
「どうなるの!?」
アスカが身を乗り出してそこを問う。
「すぐによね、やっぱり」
「残念だがそれは不可能だ」
ブライトは首を横に振ってアスカに答えた。
「今我々にはそれは出来ないのだ」
「うっ、そういえば」
アスカは気付いた。
「周りにも敵が一杯いるしね」
「今のところはな。彼等の相手もある」
ゲスト、インスペクター、ムゲ軍と。かなりの数の敵がいる。しかも彼等の正体も何もわかっていない。だから迂闊には動けないのだった。
「だから無理だ」
「そうよね。忌々しいわね」
「他の連邦軍の部隊はどうしてるんですか?」
カイがブライトに問う。
「昼寝してるってわけじゃないんでしょ?」
「彼等も彼等で戦っている」
ブライトはそうカイに答えた。
「必死にな」
「そうですよね。俺達だってそうだったし」
スレッガーはブライトのその言葉に頷いた。
「皆頑張ってるってことですか」
「休んでいる部隊はない」
ブライトはこうも言う。
「誰一人としてな」
「それで今の惨状っていうのがねえ」
カイはそれを聞いてもぼやくのだった。
「辛いところだよ」
「しかしこれが普通だっただろう?」
リュウはカイに諭す。
「一年戦争の時もな」
「ですよね。あの時みたいな感じですか」
「物資があるだけずっとましだよ」
ハヤトはそう言ってカイを宥める。
「まだね。ずっと」
「それもそうかね。あの時は食い物にだって苦労したしな」
カイは一年戦争の頃を思い出していた。あの時の辛さは今でも忘れられないものがある。
「今は物資もあるしな。それだけましか」
「そういうことよ。ティターンズやギガノス、ザフトの軍も入っているし」
セイラが言うのは本当のことだった。彼等も連邦軍に加わり重要な戦力となっているのだ。
「戦力的にはあの頃よりも充実しているわ」
「それでも。敵もねえ」
カイはまだぼやく。セイラの言葉を聞いても。
「うじゃうじゃとまあ。次から次に」
「情報も集まっていないしな」
スレッガーはそこも言う。
「どうしたものだか」
「それについては今俺達がやっている」
サコンが名乗り出てきた。
「まだ時間がかかるがな」
「サコンがやっているのなら安心していいな」
リュウは彼を信頼して言葉を述べた。
「皆もそれでいいな」
「ええ、それは」
「確かに」
皆もリュウが言うと納得できる。彼とベンはそうした意味でロンド=ベルにとって欠かせない存在となっていたのだった。
「それに私もいる」
ブンドルもいた。
「美しいものに不可能はない。任せておくのだ」
「こいつはあてにするな」
「そうだぞ」
しかし彼に対してはカットナルとネルナグールがいた。
「何をするかわからんからな」
「よいな」
「二人共、私の情報収集能力に異議があるのか」
ブンドルは不機嫌な顔で二人に対して言った。
「私はドクーガの情報局長だった。その私を」
「そもそも御主は情報収集をメインにやっておったか?」
「違っておったよな」
二人はそこを指摘する。
「だからじゃ。それに関してはあてにはできん」
「全くじゃ」
「くっ」
「何はともあれブンドルさんもいるか」
「そうよね」
バーニィとクリスは一応はといった感じで彼も数に入れるのだった。
「あてにしていますよ」
「だから是非」
「ふふふ、任せておけ」
ブンドルはもう立ち直っていた。自信に満ちた声で応える。
「私の手にかかれば。どのような相手だろうと」
「まあ頑張るのじゃな」
「艦の指揮もな」
何だかんだで彼とは気心の知れたカットナルとネルナグールであった。ブライトはここまでのやり取りを聞いたうえでまた言うのであった。
「それでだ」
「ええ」
皆それに応える。
「情報収集に関しても優先順位を定めたい」
「優先順位ですか」
「地底勢力については今地球の連邦軍が行っている」
そこをまず言う。
「彼等に任せたい」
「わかりました」
「そして宇宙の勢力だが」
「それが問題だな」
アムロがブライトに対して言ってきた。
「彼等に対してどうするかだな」
「そうだ。さし当たってはゲストとインスペクターにしたい」
ブライトはそう述べるのだった。
「バルマー帝国についてはまだ少しはわかっている。だが」
「彼等に対しては全くだな」
「そうだ。だからだ、そこを集めておきたい」
「わかった。ではそちらを行おう」
ブンドルがブライトに対して答えた。
「彼等をな」
「あとはムゲだが」
「彼等に対しては私が引き受ける」
名乗り出たのは葉月博士であった。
「博士がですか」
「そうだ。彼等については思うところもある」
博士はそうブライトに対して述べる。
「だからだ。御願いできるか」
「はい、それでしたら」
ブライトも彼の言葉を受けるのだった。
「御願いします、それで」
「わかった。それでは今から取り掛かる」
博士は謹厳に述べる。こうしてムゲの担当も決定した。
「ゲストとインスペクターは」
「そういえばよ」
マサキが声をあげた。
「どうしたの、マサキ」
「いや、ゲストだよな」
マサキはセニアに応えて言う。
「あいつ等のことならシュウが詳しいんじゃねえのかなって思ってな」
「クリストフが?」
「ああ。確かあいつのグランゾンはあれだろ?」
マサキはまた言う。
「ラングランや地上の技術の他にゲストの技術も入っていたんだったよな」
「ああ、そういえばそうね」
セニアもそれを思い出して言う。
「本人が言っていたわよね」
「だからだよ。あいつなら知ってるんじゃねえのかなって思ってな」
マサキはそこをまた指摘する。
「あいつに聞き出してみたらどうかって言いたいところだが」
「無理でしょうね」
「そうだな」
リューネとヤンロンが言った。
「あのへそ曲がりがそう簡単に言うものですか」
「それはまずない」
「そうなんだよな。そもそもあいつは何時出るかさえわからねえしなあ」
マサキもそれはわかっている。だからこそ今眉を顰めさせていた。
「何かここぞって時にしか出ねえし。厄介な奴だぜ、相変わらずな」
「まあクリストフはどうしようもないわ」
セニアもそれはわかっている。
「期待するだけ無駄ね」
「全く。訳わからねえ野郎だぜ」
マサキはまた言う。彼等にとってシュウは非常に厄介な存在であった。敵ではなくなってもであった。何しろ今何をしているかさえわかりはしないのだから。
「そういえばですね」
今度はクスハが言って来た。
「あの真龍王機も」
「孫光龍だったな」
「ええ」
ブリットに対して答える。
「あの人のことも全くわからないし」
「あれは多分」
洪がふとした感じて二人に答える。
「地球の勢力ですね。ガンエデンの。あの時もいましたし」
「それはわかるわ。けれど」
だがクスハはまだ言うのだった。
「それにしてはおかしくないですか?」
「おかしいですか?」
「何かバルマーに近いものを感じます」
クスハはこう言うのだった。
「おかしいですけれど」
「そうか?」
ブリットは今のクスハの言葉には首を傾げる。
「俺はそうは」
「私の気のせいだと思うけれど」
クスハはそう前置きしてまた述べる。
「それでも。何か」
「そうなのか。俺は別に」
ブリットはそこまでは感じていなかった。
「けれど。何か引っ掛かるな」
「そうでしょ?少なくともあの人は中国人じゃないわ」
「ああ」
それは彼も感じていた。
「間違いなくな」
「リオちゃん達と明らかに雰囲気が違うから」
「そうね」
そのリオもクスハの言葉に頷くのだった。
「中国人っていうよりはあれは」
「ユダヤ人!?」
クスハはそう述べた。
「そんな感じかしら」
「そうね。確かにそんな感じね」
リオはそこをまた言う。
「それにそもそもバルマーは」
「そうだよね。彼等ってヘブライに似ていると」
リョウトもそこに言及する。ヘブライとはユダヤの古代での名称である。
「そしてそれは」
「話に聞いているだけだけれどさ」
カーラも話に入って来た。
「ガンエデンもそうだよね」
「ああ」
タスクもそれを感じていた。
「そうだな。俺もガンエデンとの戦いの場にはいなかったが」
「ですね。何故ガンエデンまでヘブライに似ているんでしょう」
「そこに謎があるというのか?」
ブリットは腕を組んで考えに入った。
「そういえばもう一つ思い出したんだが」
「何を?」
「碇ゲンドウ博士だよ」
ブリットは彼の名を出してきた。
「彼も死海文章を発見してその通りに動いていたし」
「あのもう一つの死海文章よね」
「何か。それで人類補完計画を考えていたけれど」
「けれどそれは失敗したよ」
マサトが言ってきた。
「だから八卦衆が動きだしたんだ、あの時にね」
「元々木藤博士はゼーレの関係者だったんですよね」
「うん」
クスハのその言葉に頷いてみせる。
「その通りだよ。もっとも彼はゼーレを利用していただけだけれど」
「そうでしたね、確か」
「ゼーレの計画が失敗した時の冥王計画」
その話がまた出た。
「けれどこれは彼独自の考えが多かったからヘブライとはまた違うね」
「むしろ完全に中国のものよね」
リオが言う。
「どうやら龍王機や虎王機には気付いていなかったようだけれど」
「そうだね。それとは別系統にあるのがゼオライマー」
マサトは述べる。
「そう考えてもらっていいよ」
「わかったわ」
「ただ。彼も碇博士を知っていた」
これは間違いなかった。
「そしてその真意もおそらくは完全に」
「あの木藤博士についてもよくわからないところがある」
今度はタスクが指摘してきた。
「彼に?」
「そうだ。彼は八卦衆を作った」
それをマサトに言う。
「あんたも幽羅帝もだ。それぞれの心に欠陥を植え込んだうえで」
「うん」
「そのまま彼等を滅ぼすかと思えば彼等はまだ生きているのだな」
「もう表には出ていないけれどね」
だが彼等が生きているのも紛れもない事実であった。バウドラゴンは滅んだが彼等はまだ生きているのである。それはマサキが最もよく知っていた。
「その通りだよ」
「あのクローン達を死なせるつもりはなかった」
タスクはまた言う。
「そう捉えていいのだな」
「それでいいと思うよ。それに彼は確かに心に邪悪なものを多分に持っていた」
それは紛れもない事実であった。だからこそ危険視されていたのだ。
「けれど。多分それだけじゃなかった」
「マサト君の心も確かにあったわ」
美久が告げた。
「間違いなくね」
「うん、それは確かだよ」
マサトもそれに頷く。
「僕もそれがわかってきた」
「けれどそれをあえて表には出さずに」
「八卦衆と僕達に埋め込んだ」
幽羅帝にもだ。
「それがそもそもの計画であったようにね」
「じゃあ彼は人類の補完を望んでいなかったんだね」
リョウトはいささか飛躍させたが己の意見を述べた。
「それを君達に埋め込んだのは」
「多分。ゼオライマーなら完全な滅亡も思いのままだから」
ゼオライマーの力もまた言うまでもなかった。その絶大な力は。
「それをあえてせずに。彼は人類の補完にも滅亡にも反対だったんだ」
「じゃあゼオライマーはむしろ」
「人の為のマシンだ、間違いなく」
そう美久にも述べた。
「少なくとも僕はそう考えているよ」
「そうね。それにしても」
だがまだ謎は残っていた。
「死んだ碇博士は何を考えて」
「いえ、ひょっとしたらよ」
カーラは怪訝に顔を歪めさせた。
「あの博士、本当に死んでいるのかしら」
「えっ!?」
「まさかそれは」
皆流石にそれは否定した。
「確実に死んだでしょ」
「ゼーレももうないし」
「けれど。碇博士よ」
カーラはそれでも言う。
「ひょっとしたら。今も何処かで」
「今も」
「まさかとは思うけれど」
カーラは自分でも己の考えを否定はする。
「ひょっとしたら」
「それはないわ」
「赤木博士」
だがそこにリツコが来た。そうして一同に述べるのだった。
「彼は死んだわ。間違いないわ」
「そうなんですか」
「ああ、俺も確かめた」
ここに加持も出て来た。
「博士のいた場所は完全に爆発で破壊されていた。だから」
「死んでいますか」
「生体反応もなかったわ」
リツコはこうも言う。
「あれで生きていたら本当に奇跡よ」
「奇跡ですか」
「それじゃあ」
「まあ人類補完計画は完全に闇の中だ」
加持がまた言った。
「忘れてもいい。関係者も何もかもがいなくなったからな」
「ですか」
「何か尻切れトンボですね」
「何もかもが確実に終わるわけじゃないさ」
加持の言葉はいささか哲学的であった。
「そうだろ?まあ一番気にしているのは坊主達だろうけれどな」
「まあそうですけれど」
そこにいたシンジが応える。
「けれど今はそれよりも」
「あのネビーイームのことか?」
「いえ」
だがシンジはそうではないと言う。
「もっと違う話です」
「違う話?何だ?」
「アスカです」
この名前が出ると皆大体わかった。
「ああ、成程ね」
「そういえば」
「ナデシコに乗り込んでいってそのままなんですけれど」
そこが大いに問題であった。サブロウタを追って乗り込んでいっているのである。
「ゼダンに着いても姿が見えなくて」
「そのうち見つかるだろ」
だが加持の言葉は実に素っ気なかった。
「あいつが飽きればな」
「飽きたら今度はシンか誰かと喧嘩しそうで」
それはいつものパターンであった。
「何かそれで余計に」
「傷薬は用意してあるわ」
リツコの顔が変わらない。
「安心していいわ」
「安心していいんですか」
「いつものことだから」
完全に慣れている顔のリツコであった。
「気にしてはいないわ」
「はあ」
「まあ坊主、そんなに心配だったら」
加持はシンジを慰めるようにして声をかけてきた。
「ミサトのところに行って来い」
「どうしてミサトさんのところに?」
「何かあったら年上の女の人のところだ」
かなり危ない言葉であった。
「いいな。だから」
「あら、私は駄目なのね」
リツコがここで楽しそうに微笑んで言う。
「私もそうだけれど」
「いえ、それはその」
だがシンジはそれを受けようとはしない。
「別に。僕は」
「いいのよ。最初は何も知らなくても」
リツコはシンジに微笑んでまた言う。
「今から色々と」
そして。
「教えてあげるから」
「博士、その言葉は」
「露骨過ぎません?」
一同はリツコの過激な言葉に赤面しながら言うのだった。
「何がよ」
しかし当のリツコはとぼけるのだった。
「何がって」
「それってつまり」
「あらポーカーを教えてあげるのが?」
こう来た。
「どう露骨なのかしら」
「そうですか」
「何かと思えば」
絶妙のフェイントだった。流石に皆これにはずっこけた。
「冗談は止めて下さいよ」
「本当に。何かと思ったら」
「まあシンジも変わったよね」
リョウトがシンジにここで言う。
「昔からは全く」
「色々あったからね」
シンジもそれを肯定するのだった。
「あんな凄い人達も見たし」
「ドモンさん達か」
「うん」
やはり彼等を激しく意識しているシンジだった。
「特にあの人」
「マスターアジアさんね」
「凄いよね、本当に」
クスハに対して応える。
「僕もああなれたらなあって思うけれど」
「冗談じゃないわよ」
しかしここにさっきまで話題になっていたアスカが登場した。手には薙刀を持っている。どうやらこれでサブロウタを追い回していたらしい。
「あんな変態爺さんみたいになってどうするのよ」
「変態爺さんってアスカ」
シンジはアスカのその言葉に少し抗議する。
「言い過ぎじゃないかな」
「じゃああれが人間だっていうの?」
「多分」
これにはシンジも実は自信がない。
「少なくとも使徒じゃないと思うよ」
「使徒でも驚かないわよ」
アスカは全く容赦がない。
「あんなの見せられたら。いつもいつも」
「そういえば最近あの人出て来ないわね」
クスハはそのことにふと気付いた。
「どうしたのかしら」
「修行中らしい」
ゼンガーが彼女に答えた。
「ドモンとの戦いで己の未熟さを悟り。一から全てを鍛えなおしているらしい」
「へえ、立派だね」
シンジはそれを聞いてマスターアジアをあらためて尊敬するのだった。
「やっぱりそれって凄いよ」
「そうね。努力は認めるわ」
アスカもそれは認めるようであった。
「それはね。けれど場所は?」
「場所か」
「そうよ。北極とかじゃないでしょうね」
「アスカ、幾ら何でもそれは」
有り得ないと彼女に言おうとしたシンジであった。
「ないんじゃないかな」
「有り得るわよ、あの変態爺さんなら」
しかもまた変態呼ばわりする。
「何してもおかしくないわよ」
「残念だが違う」
ゼンガーもそれは否定する。
「北極ではないそうだ」
「そうなの」
アスカはそれを聞いてまずは安心した。
「よかったわ」
「月だ」
だがこれは流石に想像してはいなかった。
「今月で修行しているそうだ」
「何、それ」
それを聞いたアスカの顔が歪んだ。
「どうやって酸素手に入れてるのよ」
「そういう問題だけじゃないと思うけれど」
シンジもこれには唖然とするばかりであった。
「月でなんて。何か聖剣持ってるんじゃないかな」
「そうだったとしてもあたしは全然驚かないわ」
アスカも言う。
「そういえば髪が銀色だしね」
「御前よお知っとんな」
「まあね」
トウジにも答える。
「ここにも結構関係者多いし。カツとかジュドーとかギャブレーさんとか」
「声ね」
レイがそれを聞いて呟く。
「それだとムウさんやダバさんもそうよ」
「そうよって。あんたもいたの」
アスカはレイの存在にようやく気付いた。
「何時の間に」
「さっきからいたわ」
相変わらず感情に乏しい声で答える。
「ずっと」
「そうだったの。御免、気付かなかったわ」
「そういえばアスカってそっちの世界には関係なかったんじゃ?」
「うっ」
アスカはこう言われて困った顔になる。
「リングとかあの人の世界には。僕はあるみたいだけれど」
「羨ましいわよ、正直」
「羨ましいんだ、やっぱり」
「アムロさんにしろ凱さんにしろね。一度だけでもって」
「私はいたかしら」
「綾波はどうだったかな」
シンジは少し首を傾げさせた。
「いなかったような」
「そう」
「私は確かいました」
クスハはにこりと笑って言う。
「女神様でした、確か」
「そうだったんだ」
「しかし。何の話なんや」
トウジは少しわからなくなっていた。
「車田はええわ。とにかくあのおっさんは月なんやな」
「そうだ」
ゼンガーはまた言う。
「暫くはそこで修行に専念らしい」
「何か偉く強くなりそうやな」
トウジはそれを聞いて呟く。
「助っ人に来てくれた時は期待できるやろかな」
「そうね」
何とここでレイの顔が微かであるが笑うのだった。
「もっともっと素敵になって帰って来られるわ」
「素敵なんだ」
シンジも流石にこうは思っていない。
「何かねえ。あれだよね」
「ううん、人それぞれよ」
リオは目を閉じて眉を微妙に顰めさせて苦笑いをして言う。
「好みはね」
「そうよね。どう言ったらいいかわからないけれど」
カーラも微妙な顔である。
「きっとそうなのよ」
「まあ今は出て来ないってことでいいな」
タスクはそう結論付ける。
「あの人は」
「どっちにしろ僕達だけで戦わないといけないんだね」
「そうだね」
シンジはリョウトの言葉に頷いた。
「あのネビーイームに対しても」
「あたし達は戦うだけでいいけれど」
アスカがふと微妙な顔になった。
「タケルさんはそうはいかないわよ」
「うん」
シンジもタケルの名前が出て少し俯いた。
「そうだね。お兄さんなんだし」
「絶対洗脳されてるのよ」
アスカはそう主張する。
「マーグさん。そうでないとやっぱり」
「何回か洗脳は解けていたわよね」
リツコはこれまでのマーグとの戦いを振り返って言う。
「その都度だったけれど」
「そうだったわね。それを考えると」
ミサトも言う。
「何とかできる可能性はあるわ」
「何とか」
「今までと同じよ」
ミサトはそこにいるメンバーに対して告げる。真剣な顔で。
「説得してこちらに引き込むのよ」
「それね」
「ええ。絶対にできるわ」
ミサトはあえて強い声を出した。
「彼も。きっと」
「ミサト、随分強気ね」
「何かね、一矢君と同じなのよ」
ミサトはここで一矢を出してきた。
「あそこまで必死に誰かのことを想っていると。無視出来ないわ」
「そうなのよね」
リツコもその言葉に同意するのだった。
「彼、本当にマーグ君を助け出そうとしているから」
「これで駄目でしたなんて許さないから」
それは誰もが思っていることであった。ミサトだけではない。
「ハッピーエンドにならないとね」
「それはタケル君次第かしら」
「一番はそれよ」
ミサトもそれはわかっている。
「けれど。周りのバックアップがあれば」
「その可能性は高くなるわね」
「わかってるじゃない、リツコも」
ミサトは親友の言葉に微笑んだ。
「昔はもっとクールだったのに」
「変わったのよ」
ミサトのその言葉に応えて微笑むリツコであった。
「ロンド=ベルでね」
「それもよくね」
「そうでしょうね。一矢君の時も」
また一矢を出す。
「本当にどうなるのかって思ったけれど」
「ハッピーエンドに終わったわね」
「あのルリちゃんも必死に応援していたしね」
それは誰もが同じだった。
「私だって。ああなってよかったわよ」
「それが出来たのは一矢君の意志だったし」
どんな状況でも諦めない、彼の強い心があればこそであった。
「今回もね。タケル君の」
「けれど。難しいわよ」
そうは言いながらもリツコは微笑んでいた。
「不可能に近いかも」
「その不可能を可能にするのがロンド=ベルなんだろ?」
加持も微笑んで言う。
「だから今までやって来られたんじゃないのか?」
「その通りよ。加持君もわかってるじゃない」
「俺もロンド=ベルの一員だからな」
微笑んで述べる。
「それはわかってるつもりさ」
「だったらわかってるわね」
「ああ、そのつもりさ」
そうミサトに答える。
「何かあったら俺もやらせてもらうぜ」
「バルマーの奴等が何したってね」
アスカが強い言葉を出してきた。
「タケルさんの願い、適えてあげるわよ」
「アスカってタケルさんには凄い親切だよね」
「ああいうの見ていたらそうなるしかないわよ」
シンジへの返事ははっきりとしたものだった。
「それは言ってるでしょ、ずっと」
「うん」
「絶対に。何があっても」
そうしてまた言う。
「タケルさんの願い、適えてあげるわよ」
ネビーイームの出現も彼等にとっては些細なことであった。戦いがどれだけ激しくなろうとも。希望という光はまだ存在していた。この悠久の銀河の中に。

第二十四話完

2007・11・20  
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