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スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇

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第二十一話 物量戦

             第二十一話 物量戦
ムゲ帝国の情報は集まらない。しかし皆おおよその見当はついていた。
「やはり我々と同じだ」
「うむ」
フェリオの言葉にクリフが頷くのだった。
「それは間違いないな」
「こことは違う世界から来ている」
ラファーガも言う。
「そうした存在だ」
「存在としてはデボネアに近いでしょう」
アルシオーネはそう考えていた。
「邪な意識の集まる世界から来ています」
「言うならあれやろか」
カルヴィナが言う。
「ここの世界の裏側みたいなもんやろかな」
「あれ、それがセフィーロじゃないの?」
アスコットはそう突っ込みを入れた。
「だから僕達もここに」
「裏側は一つだけとは限らないかと」
イーグルがそこを指摘した。
「つまり」
「そのムゲっていうのもこの世界の裏側ってわけか」
「そうです」
イーグルは今度はジェオに答えた。
「僕達がいた世界の裏側でもあるのでしょう」
「じゃあ俺達もムゲと関係あるんだ」
ザズはイーグルのその言葉で気付いた。
「そうですね。無関係ではないです」
「とするとじゃ」
アスカはこの言葉であるものを思い出した。
「あのバイストンウェルとも関係が」
「あるかも知れませんね」
サンユンも言う。
「そういうことでしたら」
「全てが関係あるのですかな」
シャンアンはそう考えを及ぼす。
「全ての世界が」
「何か話がややこしくなってきてへんか?」
タータは眉を顰めさせていた。
「全部が全部って。何や?」
「そうだな」
ジェオも言う。
「けれど簡単でもあります」
しかしタトラはこう言うのだった。
「皆同じということですから」
「そうですね」
タトラの今の言葉に頷いたのはシーラであった。
「バイストンウェルとセフィーロは同じだと思います。つまり」
「この世界の表でもあり裏でもある」
クリフが応える。
「そういうことですな」
「そうです。そしてその全ての世界が危機に瀕している」
そこもまた問題であった。
「それもまた同じです」
「全ての世界が」
プレセアはその言葉に顔を曇らせた。
「そうですね。思えば不思議な話です」
「しかもです」
エレが言う。
「何か。不思議なことが続けて起こっています」
「不思議なこと」
「そうです」
今度はエレがクリフに応えるのであった。
「考えて見て下さい。有り得ないまでにそれぞれ異なる世界の人間が集まっています」
彼女が言うのはそこであった。
「何かに導かれているということも考えられますが」
「偶然が重なり過ぎているわね」
セニアはそこを指摘する。
「あまりにもね」
「そうです、あまりにも」
エレもそこを言う。
「ガイゾックが現われ、バーム星人が現われ、他にも様々な偶然が」
「重なり過ぎているのよ」
「しかも」
「しかも!?」
「これはあたしの気のせいかも知れないけれど」
セニアは顔を顰めさせて皆に述べた。
「その中心にいるのはいつも同じなのよね」
「同じだと」
ランティスがその言葉に顔を向けた。
「それは何だ」
「あいつよ」
セニアはまずあいつと表現した。
「クリストフ。あいつがいるのよ」
「クリストフというと」
「シュウ=シラカワのことか」
フェリオとクリフが言った。
「確かそうだったな」
「ええ。あたしは同じラングラン王家の人間だからクリストフって呼んでるけれどこっちじゃあの名前の方が知られているわね」
「そうですね。ですが彼は」
ここでエレがセニアに言う。
「最早ヴォルクルスの束縛から解き放たれているのでは?」
「その筈ですが」
シーラも言う。
「確か」
「ええ、一回死んだ時にね」
セニアもそれは知っている。実際に彼が死んだ場面も見ている。
「けれど。おかしいのよ」
それでも言うのだった。
「あいつが出て来る時になると偶然が重なるのと」
「偶然が」
「そう。いえ」
ここでセニアは気付いた。
「あいつがいる時は何もなかったわね。起こるようになったのは」
「起こるようになったのは」
「あれができてからかしら」
彼女は言った。
「あの。グランゾンが」
「グランゾンについてはまだ謎が多い」
ダイテツが述べてきた。
「異星人の技術で作られたものだがな」
「その異星人だけれどよ」
マサキがここで言う。
「ゲストって言われる組織の技術だったよな」
「うむ」
ダイテツはマサキのその問いに頷くのだった。
「そうだ。バルマーとはまた違う組織だ」
「確か」
ギリアムがここで考えながら述べる。
「あの三人の将軍が率いている組織だったな」
「そのようだな。わしはまだ彼等と戦ってはいないがな」
ダイテツも話は聞いていた。しかし彼自身はまだ実際に彼等と戦ったわけではないのでこう言葉を返したのだった。慎重になっている。
「それだ」
「あの連中の技術、ねえ」
マサキはそれを聞いてまた考えに入った。
「何か今のグランゾンはそれだけじゃねえけれどな」
「ラングランの錬金術も入れているからね」
セニアは答えた。
「ネオ=グランゾンは少なくともそうよ」
「グランゾンからさらに進化してか」
「ええ。ただ」
「ただ?」
「クリストフもまだグランゾンについて全ては知らない可能性があるわ」
彼女はこう述べるのだった。
「特にゲストの技術にはね」
「そうか」
「そういえばですけれど」
今度はレフィーナが言った。
「ゲストとインスペクターは似ていますね」
「同じ系列みたいね」
セニアが答える。
「彼等そんなこと言っていたような。あれっ」
だがここで言葉を変えた。
「言っていなかったかも。けれど確かに似てるわよね」
「というかそっくりなんじゃ、あれって」
タスクが応える。
「それもかなり」
「兵器は同じね」
レオナはそこを指摘する。
「少なくとも量産型は」
「じゃあ何故常に別行動なんだ?」
ユウキはそこを不思議に思う。
「少なくとも両者が協力関係にあるようには見えないな」
「仲悪いんじゃないの?」
カーラは軽い調子で言った。
「ひょっとして」
「馬鹿を言え。いや」
ユウキはすぐに言葉を訂正した。
「済まない、その可能性もあるな」
「そういうこと。あくまで憶測だけれどね」
カーラはまた言う。
「ひょっとしたら」
「彼等はバルマーとも仲悪いみたいね」
リオはそこを指摘する。
「戦闘をしていたって報告もあったわね」
「あのバルマーともなんだ」
「ええ」
リオはリョウトに答えた。
「小規模だけれど。少なくとも仲は悪いみたいよ」
「そうなんだ。何か皆色々あるんだね」
「銀河も平穏じゃないってことは知ってるけれどね」
カーラが言う。
「それでも随分とゴチャゴチャしていない?」
「前と同じようになってきたな」
ユウキはその整った顔を曇らせた。
「どうにもな。今度は異星人が主な相手だが」
「銀河系の力のある組織が集まってるみたいね」
セニアはまた言う。
「これも偶然かしら」
「偶然ってこんなに続きます?」
クスハはそれを不思議に思った。
「何か不自然なんですけれど」
「異常だよな」
ブリットはクスハのその言葉に頷いた。
「偶然にしろやっぱりこれは」
「何かあるのは間違いないわね」
セニアは言った。
「だとしたらあのグランゾンに秘密が」
「あいつが何かしているわけじゃなくてもか」
マサキは何故かそれはシュウの仕業には思えなかった。むしろ彼も原因を探している、そう思えたのだ。それが何故かはわからないにしろ。
「起こるっていうのかよ」
「それも謎ね」
セニアはそれも謎と言い切った。
「彼が知らない程の巧妙な細工をしているっていうのも」
「かなりの策士がいる?」
ショーンは怪訝な顔をしていた。
「これは」
「いや、案外違うかもな」
だがダイテツはそれにこう言葉を返したのだった。
「小者かも知れん、仕掛けたのは」
「まさか」
「いえ、それは有り得るわね」
セニアはダイテツのその言葉に頷くのだった。
「意外と器の小さい奴こそこういうことをするものだから」
「それでは」
「ええ、確信はないけれどね」
彼女はそう前置きをしたうえでまた述べた。
「グランゾンに細工をした異星人は相当な策士か、それとも」
「かなりの小者ってわけだな」
マサキが言う。
「正直小者ならどうってことはないわ」
セニアはそれは問題にしなかった。
「けれど。策士なら」
「問題ですね」
「鬼が出るか蛇が出るかよ」
セニアはこうも言う。
「何が出ても対策は講じておかないとね」
「何でしたら私が」
今度はモニカが出て来た」
「シュウ様と連絡を取られてあげて宜しいのですが」
「待て」
リーは今の言葉に顔を顰めさせた。
「確か。モニカ王女でしたな」
「はい」
「今何と仰ったのですかな」
彼には今のモニカの言葉がわからなかった。
「文法がおかしいようだが。私の」
「ああ、気にしないで」
セニアが妹をフォローしてきた。
「モニカはいつものことだから」
「左様ですか」
「ええ。クリストフを呼ぼうかって言ってるのよ」
そのうえで通訳もする。意外と気配りもできるセニアであった。
「シュウ=シラカワを!?」
「またそれは」
テツヤとショーンはその申し出に目を鋭くさせた。
「できるのか、そんなことが」
「あの方は神出鬼没なのでは」
「シュウ様は私の重要な騎士なのでありますから」
「ということなの」
セニアがまたモニカの言葉に言う。
「わかったかしら」
「この場合大切じゃねえのか?」
カチーナは今のモニカの言葉に突っ込みを入れる。
「とりあえずよ」
「まああの姫さんの言葉はいちいち突っ込まなくていいからよ」
マサキがここでカチーナに言う。
「あまり考えないでくれよ」
「そうなのか。ぞれじゃあそうさせてもらうぜ」
「ああ」
「何でしたら私が」
今度はよりによってサフィーネが出て来た。
「シュウ様をここへ呼んで差し上げますわ」
「・・・・・・何なの、この人」
リョウトはサフィーネの姿を見て思い切り引いていた。
「女王様じゃないよね」
「こいつの格好も気にするな」
マサキは今度はリョウトに述べた。
「気にしても仕方ないからよ」
「そうなんだ」
「それでどうするのかしら」
サフィーネはマサキのことはお構いなしに皆に尋ねてきた。
「若しよかったらここで」
「それは私が」
またモニカが出て来た。
「御呼びさせて差し上げますので」
「いえ、私が」
「私が」
「今呼んでも意味ないわよ」
言い争いになりだした二人に対してセニアが言った。
「えっ」
「それはどうしてでございますの!?」
「クリストフがまだそれを究明していないからよ」
セニアはそう見ていた。
「そうよ、それだと何の意味もないでしょ」
「それもそうだな」
ユウキがセニアの今の言葉に頷く。
「彼がわかっていないのならな」
「それにクリストフだったらわかったら自分からこっちに来るわ」
セニアはこうも言う。
「謎が解けたって。それも絶好の場面でね」
「あいつならそうするだろうな」
マサキもそれはわかった。
「そういう芝居がかったことも好きな奴だしな」
「そういうこと。だからこっちは何もしなくてもいいわ」
セニアはこうも言う。
「今のところはね」
「じゃあ今は戦いに専念ね」
レオナが真面目な顔で述べる。
「これまで通り」
「さて、今度はどう来るかな」
タクスが楽しそうに言う。
「アクシズだったりして」
「そうそう簡単に当たってもらっては困る」
カイがそうタスクに突っ込みを入れる。
「そんな賭けがな」
「ああ、皆ここにいたんだ」
そこにシンジがやって来た。そうして皆に告げる。
「出撃だってさ」
「何と」
「噂をすれば」
実にいいタイミングだ、誰もがそう思った。
「それで場所は?」
「アクシズ」
タスクの予想が当たった。
「そこにまたムゲ軍だって、それもこの前よりも三倍の数」
「三倍・・・・・・」
「赤い彗星」
タスクとカーラが冗談めかして言う。
「それはこっちでしょ」
「あっ、そうね」
そのカーラがリオの言葉に笑う。
「そうだったわ」
「敵じゃなくてよかったわよ」
リオはそれを心から思うのであった。
「アムロ中佐とあの人だけは」
「そうだよね。けれど味方だったら」
「あれ程頼りになる人達はいないわ」
答えるリオの目がキラキラとしていた。
「何時か私もあんなふうに」
「なれたらいいね」
「なるのよ」
気の強いリオであった。
「リョウト、貴方もね」
「僕はあそこまではちょっと」
しかし彼は少し消極的であった。
「なれないよ、やっぱり」
「為せば為る」
しかしリオはここで言うのだった。
「為さねばならぬ何事も、でしょ」
「それはそうだけれど」
「わかったら頑張るのよ、いいわね」
そう言ってリョウトを引っ張る。
「さあ、行きましょう」
「うん・・・・・・」
「何かうちの部隊って」
セニアはそんな二人を見て呟く。
「ああした感じのカップルが多いわね」
「尻に敷かれてね」
エクセレンが楽しそうに述べる。
「いい感じじゃない。案外そういう方が上手くいくのよ」
「そうかね。あまりそうは思えねえんだけれどな」
マサキはその言葉に首を傾げる。
「マーサだってそうなるかも」
「何だよ、マーサって」
思わずエクセレンに突っ込み返した。
「その仇名何とかならねえのかよ」
「気にしない気にしない」
しかしエクセレンはこう言って誤魔化す。
「気にしたら負けよん」
「負けなのか」
「そう、アクシズで大怪我しちゃうかも」
「また縁起でもねえ」
これはマサキ以外の面々も思った。
「それかリー艦長の雷を受けるとか」
「私は何も言っていないが」
今度はリーがエクセレンに突っ込みを入れた。
「そもそも私とどういう関係があるのだ?」
「だからそれも気にしない」
「ふん、まあいい」
リーは腑に落ちないがとりあえずは気にしないことにした。
「今は出撃準備の方が先だからな。全軍出撃だ」
すぐに方針が決定された。
「それでいいな」
「はい」
「しかしよく考えたらあれだな」
ここでテツヤが言う。
「ここの守備隊がいなかったら俺達はいつも全力出撃できないな」
「その通りだ」
ダイテツが彼のその言葉に頷いた。
「守備隊に感謝しなければならない」
「はい」
テツヤは彼のその言葉に頷いた。
「その通りです」
「それでは彼等に感謝して出るとしよう」
ダイテツがまた言う。
「よいな、諸君」
「はっ」
こうしてロンド=ベルはアクシズに向かった。アクシズに到着するともう戦闘がはじまっていた。連邦軍がムゲの大軍の前にいた。
「おいおい、すげえ数だな」
ビーチャがその大軍を見て声をあげる。
「三倍ってもんじゃねえんじゃねえのか?」
「五倍かな」
モンドがそれに応えて言う。
「それ位はいるよね」
「奴等、また随分と数持ってるんだね」
エルはそれに気付いて顔を顰めさせた。
「厄介な奴等だね、これは」
「数だけなら何ともないけれど」
ルーはここであることを危惧していた。
「何か。おかしくない?」
「おかしい?」
「ええ、見て」
そうイーノに応える。
「動きが。やけにアクシズの陣形に詳しくない?」
「そういえば」
「そうだな」
イーノだけでなくジュドーも気付いた。
「アクシズのミサイルとか砲台とかの射程に入らずにな。それで戦ってるよな」
「むっ」
ブライトも彼等の話を聞いていた。そうして見ればその通りであった。
「確かにな。これは」
「やっぱり向こうがこっちのこと知ってるってことかな」
「間違いないな」
プルツーがプルに答えた。
「これはな」
「だったら一体誰が」
「そこまでは誰もわかりゃしねえよ」
ジュドーがそうプルに突っ込みを入れた。彼等はもう出撃している。
「今のところはな」
「そうなんですよね、困ったことね」
エルフィもここで言う。
「まだ何もかも」
「はい。結局残骸からはそうしたことはわかりませんでしたし」
フィリスが残骸について述べてきた。
「ただ。独自の技術で開発されたものであるのは間違いないです」
「そのムゲ独自のだよな」
「はい」
ディアッカに答えた。
「そうです。少なくとも地球のどの勢力の技術でもないです」
「そうなのかよ。じゃあ一体」
「それがわかるのも先みたいですね」
ジャックが言う。
「ですから今のところは」
「倒すしかないか」
「ある意味簡単だな」
ミゲルとイザークの出した結論は単純だがそれだけに明確であった。
「幸い敵は自分達から来てくれている」
「容赦することはない」
「いいか、皆」
レイがジュドーやイザーク達に告げる。彼が実質的にコントロールタワーになっている。
「まずはキュベレイのファンネルと俺のドラグーンで攻撃を浴びせる」
「了解」
「わかった」
プルとプルツーがそれに応える。
「それから砲撃に入る」
「わかりました」
今度応えたのはシホであった。当然ながら彼女もここにいる。
「それではドラグーンが退いてすぐに」
「頼む。それからビームライフルを放って接近戦だ」
「思う存分暴れていいのよね」
ルナマリアはその好戦的な視線を敵に浴びせながらレイに問う。
「ただしだ。狙いは正確にな」
「わかってるわよ」
「では俺も行く」
レジェンドの後ろから巡航形態のセイバーがやって来た。そこにいるのはハイネである。
「いいな」
「頼む。では行くか」
「よしっ、じゃあ皆!」
ジュドーがまず前方に展開して皆に声をかける。
「やああああああってやるぜ!」
「ってちょっと」
フレイがその彼に呆れた声をかけた。
「あんた、それは忍さんでしょ」
「おっと、そうか」
「一瞬本人かと思ったじゃない」
「悪い悪い、何か乗ってよ」
「気をつけてよ。本当に間違えるから」
「そうだよなあ。俺だってフレイがぶいっ☆とか言ったら間違えるしな」
意外とユリカに声も感じも似ているフレイであった。
「そういうところはふざけると混乱の元だよな」
「そういうこと。そうですよね、ナタル少佐」
「あ、ああ」
何故かナタルの返事にはいつもの切れがない。不思議なことに。
「全くだ。君といいステラといいミスマル艦長といい」
「何か出す名前が偏っていますね」
「いいんだよ、それが面白いんだからな」
アルフレッドはそうボーマンに述べた。
「気にするな、いいな」
「わかりました」
「とにかくだ」
ナタルはそれでも言う。
「ジュドー=アーシタ君」
「あいよ」
「あまり声で現場を混乱させないようにな」
「わかりました。お互い洒落になりませんからね」
「そういうことだ。しかし」
ここでナタルはふう、と溜息をつくのだった。
「どうにもこうにも。声というものは厄介だな」
「そろそろ声が衰えてくる頃だしなあ」
「アドレア少尉!」
シンの言葉に即座に反応するナタルであった。
「主砲発射用意、攻撃目標デスティニー!」
「ちょ、ちょっと待てよ少佐!」
いきなり味方に照準を合わされ流石のシンも驚きを隠せない。
「幾ら何でもそれはないだろ!」
「黙れ!答えは聞いていない!」
「それ俺の言葉だし!」
「何か話が混乱してきているよな」
「全くだ」
ヘンケンはキースの言葉に応える。
「どうしたものか」
「それで艦長」
キースはそのうえでまたヘンケンに問うた。
「何だ?」
「このままだと少佐本当にデスティニー砲撃しますよ」
見れば本当に主砲が動いている。ナタルは完全に本気であった。
「何とかしないと」
「それはわかっている。少佐」
「はい」
ナタルは完全に座った目で艦長に応える。
「お待ち下さい、今賊を成敗致しますので」
ナタルにとって自分の歳について言う者は全て賊であった。
「今すぐに」
「では照準はそうではないな」
「といいますと」
「正面だ」
丁度シンのデスティニーは正面に動いていた。彼もナタルが本気だとわかっていたのだ。
「いいな、そこを狙え」
「わかりました。照準いいか」
「勿論です」
アドレアも完全に乗っていた。
「それじゃあ」
「そうだ。てーーーーーーーーっ!」
「本当に撃っちゃったわね」
「これはまた」
それを見てアサギとジュリは正直驚いた。
「ナタルさんもねえ」
「こういうところが可愛いんだから」
「さて、肝心のシン君はどうするかしら」
マユラはここでシンを見た。
「果たして。かわせるかしら」
「本当に撃つのかよ!」
シンにとっては冗談ではなかった。何しろ味方から撃たれたのである。
「どうにかしてくれよ!このままじゃ!」
「避ければいいのよ」
その彼にミネバが言うのだった。
「いつもみたいに」
「簡単に言ってくれるな、おい」
「そもそもわかってるんじゃないの?その砲撃は」
ミネバは何気に鋭い突込みを入れる。
「シンを狙ったものじゃないし」
「それはそうだけれどよ」
幾らナタルでも味方を撃ったりはしない。これはあくまで敵を狙ってのことであった。ただそこにシンがいるだけなのだ。もっともナタルは本気でシンを賊と呼んだのだが。
「けれどこのままだと」
「上よ」
ミネバはそうシンに告げた。
「上に動いて。いいわね」
「上か」
「ええ」
また彼に言う。
「そこに行けばいいから。わかったわね」
「わかった。それじゃあよ」
それに応えてすぐに動く。
「ここで。よし!」
すぐ下をラーディッシュの巨大な光が通る。何とかそれをかわすことができたのだった。
「危ないところだったぜ」
戦艦の主砲がまず開戦の合図となった。これで最初に前線の敵が炎と化す。
「さて、こっちは」
「来たぞ」
丁度シンはアスランの側に来ていた。見れば彼はもうフォルティスノ射撃準備に入っている。既にドラグーンやファンネルは放たれていた。
「シン、そっちの準備はいいな」
「ああ」
シンは真面目な声でそれに応える。
「何時でもいいぜ」
「よし、俺が撃ったら頼む」
「わかった」
アスランに動きを合わせてきた。
「じゃあな。やるか」
「頼むぞ。撃ったら俺も突っ込む」
ジャスティスは本来接近戦用だ。だからアスランはこう言ったのだ。
「よし、じゃあ久し振りに二人でな」
「仕掛ける!」
照準を合わせ終わり攻撃を放つ。それでまずは小隊単位で敵を吹き飛ばした。
「よし、行くぞ!」
「了解!」
シンとアスランは一気に飛び出した。そうして目の前の敵を一気に屠っていく。
「邪魔なんだよ!」
とりわけシンの攻撃は激しい。その掌からのビームでムゲ帝国のマシンを次々と消していく。やはり近距離でのデスティニーは脅威であった。
ロンド=ベルは膨大な数の敵にその戦術と質で対抗していた。しかしムゲはそれに対して次々に新手を繰り出して対処するのだった。
「何だ、今度の戦いは」
それに最初に妙に思ったのはグローバルであった。
「随分数が多いな」
「そうですね」
それにクローディアが応える。
「何時になく」
「ムゲの力もさることながら」
「敵の戦術にもそれを感じます」
クローディアはこうも言った。
「何かそうしたものを」
「圧倒的な戦力で敵を多い潰す」
グローバルは言う。
「戦術の基本だがな。それにしても今回は」
「ふふふ、こちらの世界の者達よ」
ここでムゲの方から声がした。
「このヘルマットの殲滅戦術はどうだ」
「ヘルマット!?」
「誰だい、あんた」
亮と沙羅がその声に問うた。
「はじめて聞く名前だが」
「ムゲの指揮官かい!?」
「如何にも」
声はそう沙羅に答えてきた。
「ロンド=ベル、貴様等のことは聞いている」
「聞いている、ねえ」
アズラエルは今の言葉に眉をピクリと動かした。
「やはり。そういうことですか」
「そういうこととは」
「いえ、今の彼の言葉ですよ」
そうユウナに言葉を返す。
「今彼は聞いていると言いましたよね」
「はい」
「そこですよ。どうやら本当にあちらにこちらの人間がいるようですね」
「あっ、そうですね」
ユウナもここで気付いた。
「だから今聞いていると」
「普通この場合調べているですから」
アズラエルはそこを指摘する。
「ここでそんなことを言うから。かえってわかりましたよ」
「我が名はヘルマット」
彼はあらためて名乗った。
「ムゲ=ゾルバトスの将軍だ。覚えておけ」
「っていうとこの前のモヒカンの同僚なんだ」
雅人はすぐにわかった。
「何かやり方が違うけれど」
「へっ、細かいところはどうでもいいぜ」
忍にとってはそんなことはどうでもよかった。
「どいつもこいつも。纏めて潰してやるだけだからな」
「ふん、貴様が藤原忍だな」
ヘルマットはダンクーガを見て言ってきた。
「そしてダンクーガか、それが」
「知ってるのかよ」
「貴様等のことはもう知っている」
既に知っているとまで言うのだった。
「それもよく、な」
「やっぱりですね」
アズラエルは今の言葉にも注目した。
「彼等の中にいますね」
「それも随分軍事に詳しいようですな」
キサカもそれに気付いた。
「ダンクーガと藤原中尉まで知っているとは」
「そうです。どうやら軍人で」
アズラエルはそこも考える。彼の鋭い洞察力を使ってきていた。
「僕達のことにも詳しいようですね」
「だとすれば一体」
トダカはそこを警戒しだした。
「何者なのでしょうか、その軍人は」
「ダブルスパイ!?」
ユウナはそれを疑いはじめた。
「それが僕達のことを」
「考えられるケースではありますが」
アズラエルはユウナにそう答える。
「しかし。彼等はこの前にこの地球圏に来たばかりです」
「はい」
「しかも影も形もなく。ダブルスパイがいるにしろあまりにも巧妙ではないですか?」
「そういえばそうですね」
ユウナはすぐにそう考えをあらためるのだった。
「既に内部に内通者を作っているのならその噂でも僕達の耳に入らない筈はないですし」
「オーブの情報網でもそんな話はないですよね」
「はい」
その質問に正直に述べる。
「全くです。そちらもですか」
「あの様な存在がいるということ自体がです」
アズラエルもここでは一切隠さず述べるのだった。
「はじめて見ました。正直驚いています」
「それではやはり」
「はい、連邦軍にも政府にも内通者はいないですね」
「そうですか。それでは」
「向こうにいますね」
次に考えたのはそれであった。
「ムゲ帝国の中に。確実にいます」
「それも我々の戦術を熟知しているようで」
キサカはムゲ軍の動きを見ながら述べた。
「しかもこれは」
「どうやら」
トダカも言う。
「敵として知っているようですな」
「そういえば」
ユウナも二人の言葉ではっとした。
「そんな動きだね。僕達の動きを読んでいるから」
「基本は物量戦ですがこれは」
アズラエルも敵の動きを見ていた。そこから得られる結論は。
「まさかとは思いますが」
「そうですね」
ユウナも彼と同じ見方をしていた。
「このやり方は」
「死んだ筈ですが」
彼等は敵の動きからある男の気配を感じていた。それは彼等だけでなくハガネの艦橋にいるリーもであった。
彼は顔を顰めさせていた。そうして指揮にあたっていた。
「おかしいぞ」
「どうかしましたか?」
「こんな筈がない」
彼はこうシホミに述べた。
「あの男は死んだ筈だ」
「あの男!?」
アカネはあの男と聞いて眉を曇らせた。
「艦長、何が言いたいんだい?」
「わからないか。いや」
ここで彼は言い替えたのだった。
「当然か。御前達はあの男を知らないのだったな」
「何が何だかわからないんだけれどさ」
アカネはまたリーに言う。
「何が言いたいのよ、結局は」
「あの男とはな」
リーは顔を顰めさせたままその問いに答えようとする。しかしそこで。
「艦長!」
ホリスが声をかけてきた。
「左舷より敵です!」
「弾幕を強化しろ!」
リーはすぐに指示を出した。
「敵を近付かせるな!いいな!」
「了解!」
「下からも来ました」
今度はシホミが報告する。
「どう為されますか」
「ヴァルホークは何処だ」
リーはヴァルホークの所在を問うた。
「ハガネの上方です」
シホミが報告する。
「ジョッシュ君達と共にいますが」
「上には何機いるか」
「五機です」
シホミはまた報告する。
「ヴァルホークとシュヴァリアー、ブランジュネージュ、ファービュラリス、ストゥディウムです」
「ではヴァルホークだけ上に置け」
「下には四機ですか」
「そうだ、上には対空砲座で対処できる」
彼はそう判断した。
「だからだ。わかったな」
「わかりました。それでは」
「すぐにだ。敵は待つことはない」
これは言うまでもないことであった。倒すつもりで来ているのだから。
「だからだ。いいな」
「わかりました」
「しかし、このやり方も」
リーは対処させながらまた考えに入る。そこで出る答えはやはり一つであった。
「あの男のものだな、間違いない」
彼もまたある男の影を感じていた。そうして言うのだった。
「裏切り者が。元から嫌な奴だったが」
間違いなく彼を知っている言葉だった。しかも悪い意味で。
「人間を裏切るつもりか。ならば許さん」
「上からも来ました!」
「対空射撃強化せよ!」
また指示を出す。
「主砲も放て!いいな!」
「はい!」
見ればハガネだけでなく他の艦艇も攻撃に囲まれていた。各艦も自分の身を守るのに必死になっていた。しかしそれでもロンド=ベルは倒れない。彼等は少しずつ敵を倒していきそうして遂に最後の援軍まで耐え切ったのであった。
「ぬうう、これだけの数を前にしても生きているのか」
「私が言った通りだ」
何者かがヘルマットに告げた。
「そうではないかな」
「何が言いたい」
「数だけでは容易に倒せる連中ではない」
彼は言った。
「そういうことだ」
「ならばわしのやり方に不満があるのか」
「そう考えるのか?」
男はヘルマットに対しても不遜な態度であった。
「そう考えるならばそれでいいが」
「ふん、ではどうしろというのだ」
「ここは撤退だ」
彼は言った。
「これ以上の戦闘は無意味だ」
「そうか」
「そうだ。では下がるのかどうか」
「確かにな」
ヘルマットも戦局を見ていた。彼の出した答えは一つであった。
「ではそうしよう」
「撤退だな」
「忌々しいが貴様の言う通りだ」
はっきりと告げた。
「これ以上の戦闘は無駄に損害を出すだけだ。それならば」
「そうだ。それでいい」
男は誇らしげに笑ってまた言う。
「ではな。下がるか」
「うむ」
ヘルマットは男の言葉に頷いた。そうして指示を出した。
「全軍撤退せよ!」
指示を出してからの彼等の動きは速かった。瞬く間に戦場を離脱する。こうしてロンド=ベルはアクシズも守り抜いたのであった。そうした意味では勝利だった。
しかし。彼等の中にある疑念が沸き起こっていた。
「この撤退も」
「そうですね」
アズラエルはユウナの言葉に頷いていた。
「間違いないかと」
「やはり彼ですか」
ユウナは言った。
「まさかとは思いますが」
「決め付けはよくないですけれどね」
アズラエルはそれは注意する。しかし答えはどうしても一つしかなかったのだった。
「ですがそれでも」
「彼以外には有り得ませんね」
「はい」
ユウナの言葉に頷く。
「あの撤退の仕方もそうです」
「貴方達もそう思われるのですな」
ここでクサナギのモニターにリーが現われた。
「同じことを」
「貴方もそうなのですね」
「その通りです」
リーはアズラエルに答えた。
「それ以外は考えられないかと」
「正直まさかと思いますけれどね」
アズラエルは微妙に考える顔になっていた。
「それでも。あそこまで同じだと」
「そうです。私もあの男はよく知っていますので」
「それは軍でですね」
「はい」
ユウナの問いに答えた。
「貴方の先輩に当たるのでしたか」
「正直に申し上げまして嫌な男でした」
リーは顔を顰めさせて述べた。
「尊大でいつも上から人を見下す。そうした男でした」
「待て、リー」
テツヤは今のリーの言葉である男を思い出した。彼もまた、であった。
「そいつはまさか」
「そのまさかだ」
リーはそうテツヤに言葉を返した。
「これでわかったな」
「死んだ筈だ」
彼はすぐにそれを否定した。
「それがどうしてなんだ」
「それがわかるのもこれからでしょうね」
アズラエルはクールにこうテツヤに告げた。
「これからです、それもおそらく」
「おそらく」
「次に戦いには」
アズラエルは言った。
「自分から言って来るでしょう、本当に彼ならばね」
「おい、まさかそれは」
今度は忍がモニターに出て来た。そしてアズラエルに問う。
「あいつだっていうのかよ」
「その通りですよ。君も気付いていますよね」
「あったりめえだ」
忍の返事は決まっていた。
「あれは確実にあいつだ。あいつ以外にはねえ」
「さて、それなら色々と彼に聞きたいことがあります」
アズラエルは楽しそうに述べた。
「その時のことを楽しみにしておきますか」
「その前に潰してやるぜ」
忍の答えはこうであった。
「この俺の手でな。生きているのならよ」
「ええ、それは構いませんよ」
アズラエルは平気な顔で彼に告げた。
「どうぞ。そうして下さい」
「あんた、また随分寛容だね」
沙羅がそのアズラエルに問うた。
「どういう風の吹き回しだい?」
「どういうって。そのままですよ」
アズラエルは涼やかに笑ってその沙羅に答えた。
「敵がいなくなるに越したことはないじゃないですか」
「それはそうだね」
雅人は彼の言葉に頷く。
「確かにそうだよ」
「そういうことです。これでおわかりでしょうか」
「ああ。だが」
それでも亮は思うところがまだあった。
「あの男がそうだとすると。悪運が強いな」
「全くだぜ。何て野郎だ」
忍がまた言う。
「今度こそ。消し去ってやるがよ」
「それはいいが藤原」
葉月博士がここで出て来た。
「どうしたんだ?博士」
「そろそろダンクーガについて考えたいことがある」
「何だ?改造か?」
「いや、少し違う」
そう忍に述べた。
「正確に言うと更なる合体だ」
「合体!?何とだよ」
「イゴール大尉」
博士は今度はアランに声をかけてきた。
「君のブラックウィングだが」
「はい」
「ダンクーガと合体させてみたいのだ」
「俺のブラックウィングをですか」
「そうだ。一度それを考えておいてくれ。いいな」
そうアランに告げる。そうして一度姿を消したのだった。
アランは呟く。今の博士の言葉を頭の中で反芻しながら。
「ダンクーガと合体か」
「何かとんでもねえことを考えてるみてえだな」
忍がここで言った。
「博士もよ」
「そうだな。だがやってみる価値はある」
アランは言う。
「これから戦いはさらに激しくなる。それに対処するには」
「ダンクーガのパワーアップもか」
「そうだ。藤原」
アランは彼にあらためて声をかけた。
「あの男を完全に倒す為にも。いいな」
「俺は構わないぜ」
忍としても異論はなかった。
「あいつを完全に叩き潰す為に。やってやるぜ」
「よし」
アランはその言葉を聞いて安心したように頷いた。そして言うのだった。
「では頼む。いいな」
「おうよ」
こうしてまたロンド=ベルは力を手に入れようとしていた。だがそれがわかるのはまだ先のことであり。今は戦いを終えてそのままアクシズに入った。そうしてそこで補給を受けるのだった。

第二十一話完

2007・11・7
 
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