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レンズ越しのセイレーン

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Mission
Mission6 パンドラ
  (9) クランスピア社正面玄関前~チャージブル大通り

 
前書き
 秘める辛さを知りました 

 
 クランスピア社でビズリーへの報告と「道標」提出、オリジンの審判の説明を受けてから、1日限りのパーティーは本社ビル玄関前で解散となった。


「では、今日はこれにて失礼いたします」
「また手伝えることがあったら連絡ください」『絶対だかんな!』

 エリーゼとローエンが連れ立って去っていった。

「わたしはちょっと編集長んとこに顔出してくるよ」
「ああ。こってり絞られて来い」
「電話聞いてたのね!? いーもん、今日だけでたっくさんネタ入ったんだから、絶対ルドガーの度肝抜く記事にしてやるんだからー!」

 砂埃が舞い上がる勢いでレイアが走り去った。
 これで残ったのは、ジュード、アルヴィン、ミラとなる。ジュードとアルヴィンはそれぞれの家に帰るとして、ミラは――

「おなか空いたー! 早くルドガーんち帰ろ。ミラもいっしょに!」
「ナァ~」

 ミラがこちらを窺ってきた。行っていいのか、という不安が視線にありありと浮かんでいる。
 ――ミラの世界を奪ったのはルドガーだ。彼女の身の処し方には責任を負うべきだ。しかし、具体的にはどうすれば――

「ええっと……」
「ルドガー」

 答えあぐねたところに、アルヴィンが声をかけた。アルヴィンはユティの肩をぐいと引き寄せ。

「おたくんちの居候その2借りていいか。大丈夫、今日中には返すからさ」

 きょと、とユティはアルヴィンを見上げる。ユティと示し合せての行動ではないらしい。

「ユティがいいなら俺はいいけど……どこ行くんだ?」
「デート」
「…………」
「…………」
「「デートぉ!?」」

 ルドガーとジュードの驚きが重なった。



 若者二名を仰天させた当のアルヴィンはちとばかり複雑だった。確かにユティが相手では歳の差がありすぎるが、自分はまだそこまで男として枯れていない。

「ユティがいいならいいんだろ? ――ユティ、どうだ?」
「いいよ」
「「即答!?」」
「悪趣味……」

 ミラにまで言われた。アルヴィンはぐっと堪える。

「よっしゃ。どこか行きたいとこあるか?」
「アルフレドが連れてってくれるなら、どこでも」
「男のツボを心得てるね、おたく」
「おじさまに教わった。悪いオトコには、言わないよ?」
「その心意気もよし。んじゃ、デートらしくガールズファッションの露店にでも行きますか。この辺からすぐだとマクスバードか。いいか?」
「どこでも、って先に言った」
「つーわけで家主さん、居候その2借りてくから」

 アルヴィンはルドガーの肩を掴んでミラたちから距離を取り、耳元に口を寄せた。

「あっちのミラ嬢のこと頼むわ。身一つで異世界に放り出された彼女に、何よりもまず、ここに自分がいていいんだって実感を作ってやれ。とにかく衣食住、特にあったかい飯は秘奥義並みだぞ。どうするかなんて腹膨れて寝てからじゃねえとロクな案出ねえんだ。生活に必要なアレコレは俺らで買ってくるから」
「あ……ごめん、アルヴィン。世話かける」
「いいって。ちったあ俺にもダチらしいことさせろよ」

 アルヴィンはルドガーの背中を景気づけにバシッと叩いた。ルドガーは苦笑した。

 ルドガーがジュードとミラのもとへ戻り、彼らを夕飯に招待したい旨を伝えている。あのミラに懐いたエルは瞳を輝かせているが、対照的にミラは終始沈んだ面持ちをしていた。

 それを見守っていると、ふいに腕を組まれた。急かされている。
 アルヴィンは肩を竦め、ユティを腕にぶら下げたまま、トリグラフの街へくり出した。





「あれで間違ってなかった?」
「バッチシ。打ち合わせしてなかったのに乗ってくれてサンキューな」
「アルフレド、ずっとミラのこと心配そうに見てたから、そうするかなって」

 アルヴィンも同意見だ。何故か、ユティなら息を合わせてくれる、そんな気がした。

「さっきの」
「ん?」
「リーゼ・マクシアでの、経験談?」
「……まあ、な」


 仲間を裏切り、母は死に、組織もほぼ潰え、居場所などどこにも見出せなかった。作る気概もなかった。
 そんな落ちぶれた男に、湯気の立つ温かな飯を恵んでくれた、いい女たち。
 ――もう、どこにもいない。


 するとユティはきつくアルヴィンの腕にしがみついた。

「……大丈夫だって。そんな顔するなよ」
「どんな顔もしてない」
「泣きそうな顔して強がったってバレバレだぞ。ん?」
「……アルフレドが、リーゼ・マクシアで辛かったろうな、痛かったろうな、寂し、かったろうな、って……想像、したら、急に……アルフレドにあったこと、だから、よけいに……」

 アルヴィンは何も言わず、しがみつくユティの髪を梳いた。

「訊かないね」
「何を」
「アルフレドが気にしてること」
「訊いてほしいのか」

 訊かれても答えられないことなど人にはいくらでもある。アルヴィンも悪い意味でそうだった。彼女にも彼女なりの事情があるなら、そっとしておくのが正しい対処法だ。

「きかないで――まだ」
「了解」

 ユティはリラックスした猫のようにアルヴィンの腕にすり寄った。
 
 

 
後書き
 これにて原作C7に当たるストーリーは終了です。長いことお付き合いありがとうございました。
 次回からようやく新章に入れます。ここまで本当に長かったです(T_T) てかC7が長すぎる! 一編に2個も分史世界入れてくんなやー\(゜ロ\)(/ロ゜)/!

 次はキジル海瀑の回です。少しキャストを変えますのでお楽しみに。

【パンドラ】
 ゼウスがヘファイストスに作らせた原初の女。外見はアフロディテやアテナによって美しく装われたが、中身はヘルメスによって虚言の性質を入れられていた。
 彼女がこの世すべての災いの詰まった箱(一説にはかめ)を開けたため、人類は「苦しみ」を背負った。ふたを閉めた時、「希望」だけが箱に残った。 
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