IS インフィニット・ストラトス~転生者の想いは復讐とともに…………~
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number-11 transfer students
前書き
転校生。
六月。
麗矢が最も苦手とする季節が近い。そう、麗矢は一番夏が嫌いなのだ。
暑くて、ジメジメしていて……
この頃夏が近づいているなと実感できる。だって、暑いから。
本当に嫌だ。
だが、駄々を捏ねてばかりでは何にも解決しない。嫌いなものは嫌いだが――――それを克服していかなければならないもの麗矢は知っている。
しかし、寝苦しいのはどうにかならないだろうか。
今の時間は朝のHRである、完全に遅刻確定。
のっそのっそと今にも溶けそうな感じで歩く、それでも若干早歩きである。
ようやく教室が見えてきた。
もう、やけくそで堂々と前の扉を開く。――――一夏が銀髪少女に頬をぶたれていた。
しかも、麗矢には見覚えのある銀髪少女だった。
「――――げ。」
思わず変な声を上げてしまった。そんなことをすれば見つかるのに――――ほら見つかった。
あの銀髪少女――――麗矢の記憶が正しければ、ラウラ・ボーデヴィッヒっていう名前だったはず――――は、麗矢のもとまで歩いていく。
――パシッ!
いきなり放たれたラウラの拳を無造作にポケットに突っこんでいた手を動かして、止める。
力で押そうとしてくるが、麗矢を男でラウラは女。力の差はあって当然だ。
「――――ふん。」
やる気をなくしたのか拳を引っ込め、自分に当てられた席へと戻っていくラウラ。
麗矢は、千冬に頭を叩かれていた。曰く、遅刻した上にさらに問題まで起こしやがって、と。
今日は一時間目から実技である、着替えなければならない。
――――ふと目が行った。どうやら、あれがもう一人の転校生で、表向きは二人目の男性操縦者なのだろう。名前は、シャルル・デュノア。
名前からして、フランス人だろうか。
――――面倒な奴みたいだから、一夏に任せよう。
他人任せにして、麗矢はさっさと更衣室に向かった。もう頭を叩かれるのは勘弁だ。
麗矢にフランスでのいい思い出がない。
ただ、任務で暗殺していた記憶しかない。
怪物を見るような目、恐怖にひきつった顔。……思い出したくもなかった。
その中に、デュノア社の愛人の暗殺任務もあったはずだ。あの時の任務は覚えている。
一度刺しても死ななかった。その女の隣で、助けてと願っていた少女。
その少女が成長すると、あのシャルルと瓜二つだった。
これは何の因果だろうか。
あいつは麗矢が母親の敵と知ったらどうするのか。許すか、復讐か。
麗矢は以前その二択を迫られ、復讐を選んだ。
まだ、その復讐は果たしていない。あいつらの犬として、ある程度信頼を勝ち得なければならなかった。まだ早い。
いつの間にか授業場所まで来ていた。考え込んでしまっていたようだ。
途中の記憶がないが、気にしなかった。
「では、まず山田君と試合をしてもらう。――――鳳、オルコット。」
頑張って来い、と。軽く応援して、考える。
もう麗矢には時間がないのかもしれない。
最後の任務を遂行するしかないのか。
だが、これだけはやりたくない。今更、世界最強を敵に回してどうしようというのだ。あの屑どもが考えることは分からない。
任務期間は一年。
一年生が終わる前に何とかしないといけなかった。
この任務『織斑一夏の誘拐。または暗殺。』を。
ふと上を見ると、鈴とセシリアが仲良く墜ちていた。
まあ、あれくらいがコンビネーションのできない即席タッグの基本で、当たり前だ。
真耶が生徒を注目させ、戦闘中の凛々しさは無くなっていたが、それでも何とか指示を出していく。
「じゃあ、専用機持ちが生徒たちにISの歩行訓練をしてください。」
これは困った。
麗矢は感覚で動かしている節があるので人に教えるのは苦手なのだ。超論理派のセシリアがいればいいのだが……期待できそうにない。
諦めて何とか教えていく。
「んじゃ、一人づつ装着、歩行、脱着までやってくれ。脱着するときはしゃがんで、頼むから面倒事は増やさないでくれ。」
一人ずつやっていく。なかなかいい感じだ。――――女子の声が響く。
麗矢は反射的にその声のもと、一夏の班を見ると――――お姫様抱っこをしていた。
どうやら、前の人が立ったまま脱着したためつけられなかったようだ。
……後ろから視線を感じる。
何と言われようとも絶対にあれはやらないっ!と決めて、振り向くともうたったまま解除していた。
――――一夏のやつめ、面倒事を増やしてくれやがって……
結局やるはめになった。
どれもこれも一夏のせいだ。
絶対に後で愚痴ってやる。
麗矢はこの行き場のない憤りを一夏にぶつけてやろうと決めた。
いつかは――――放課後の訓練に飛び入りで参戦して、実戦形式の試合で叩きのめしてやる。
仕返しのやり方と時間を決めた。
◯
放課後。
一夏への仕返しを終えた麗矢は、屋上にいた。
西の空はまだ明るいが、東の空はもう暗かった。日の入りも近い。
こんな時間に屋上へ来た理由は呼び出されたからである。
「ようやく来たか。」
「……単刀直入に聞く。」
麗矢を呼び出した人物――――織斑千冬は殺気立ちながら麗矢を睨む。
一夏の護衛を任されている麗矢。だが、それと同時に――――
「お前はまだ……亡国企業にいるのか?」
一夏の暗殺を任されている。しかも、それ以前に麗矢は一夏を誘拐してその時に千冬と戦っている。
味方でもあるが、敵でもある。いわば、金で雇われる傭兵みたいだ。
麗矢の発言次第では、千冬は麗矢を殺しにかかってくるだろう。
麗矢は何も言わない。
千冬は麗矢を睨んだまま動かない。
対峙する二人。
「……ふっ、あなたは俺の目的を知っている筈だ。ならばそんなことを聞くのはお門違いってものなんじゃないんですか」?
「だからこそ、聞いているんだ。お前は、自分の目的のためならば仲間を裏切ることだってたやすい。」
麗矢は冷酷すぎる。
今なら、両親を殺せと命令されても、機械のごとく始末するだろう。
麗矢とはそういう人物なのだ。
仲がいい家族を見ると寂しくなる。だから、その家族を壊してやりたくなってしまうだろう。
自分にはそんな優しい家族はいなかった、と。
勿論、そんなことは八つ当たりだと分かっている。
だから、今ではそんなことはしない。無意味だから。
――――くっ…………
突然麗矢は、右肩を抑えた。
昔、千冬にやられた古傷が疼く。あのちりつくような殺気を受けていると。
「くくくっ、心配しなくても大丈夫だ。そんなことはありえない。あの組織もまだ動くことはない。」
「……ということは、やはりお前は……」
「もう、いいか? そろそろ同居人の夕食を作らないといけないので。」
踵を返して屋上を出る。
千冬をそんな麗矢の背中を見つめる。
麗矢が出て行っても、屋上の扉を見る。
――――一夏は絶対守る。私の命に代えてでも。
千冬もまた、ヒールの音を響かせて屋上から出ていく。
麗矢と千冬。
二人は何を見ているのか――――。
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