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Fate/stay night -the last fencer-

作者:Vanargandr
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第一部
運命の夜の先へ
  狂躁の夜を越えて(Ⅰ)

 
前書き
※話の二重について、編集ミスがあったことをお詫びいたします 

 
 そこは雪と氷に閉ざされた、万年氷獄の世界。

 周囲数十キロ圏内にわたっても、町や村は一つも無い。
 ただひっそりと、されど荘厳に、一つの城が存在しているだけだ。

 生命の息吹が聞こえない、白銀の牢獄。
 不夜城と喩えられるその場所は、その地に住まう者と住まわざる外者を何よりも隔てる。

 そんな城の中庭で、一人の青年と一人の少女が稽古試合をしていた。

 青年は目元が隠れる程度まで伸びた髪、襟足は首が隠れる程度。
 黒装束に蒼槍、右腕には衣装と同じ漆黒の鎖を巻いた、黒い騎士のような姿。

 少女は月光で染めたような白銀の髪、腰下まで伸びるそれを二束に分けて結び、末端のほうで一つに纏めている。
 紫紺の外套に腕鎧(ガントレット)脚鎧(グリーヴ)、胴部にはスケイルアーマーを装備している。

 青年と少女は、互いの得物を持って相対していた。

「ふっ、てぇいっ!」
「踏み込みが甘いぞ」

 少女の繰り出す攻撃を青年は容易に捌く。

 所々で的確な助言を出しつつ、二人は得物を振り合う。

「はっ、はぁ!」
「ほい、ほいっと」

 動作に無駄があるものの、少女のスジは悪くない。

 ただ青年は恐らく、踏んできた場数や経験が違うのだろう。
 懸命に頑張る少女の姿とは裏腹に、青年はじゃれて遊んでいる面持ちだ。

「ふっ、せっ!」
「足元がお留守だな」
「っ!」
「あと上もな」
「痛っ!?」

 足運びの疎かさを指摘されたことに意識が足元へと移り、その隙に生まれた上半身の硬直を青年は見逃さない。

 その一瞬の空隙に槍をぐるんと反転させ、柄の部分で少女の後頭部を打つ。

 全く威力はない。せいぜい小突かれた程度。
 しかし練習用の武具とはいえそこそこの硬度の武器であるため、目の前に白い花火を散らせながら少女は地面に倒れた。

「うぅ……今のはずるい!」
「ははは、そんなに怒るなよ」

 涙目になって頬を赤く染めながら怒る少女に、青年は穏やかな微笑で返す。

 実戦であればずるいや卑怯などといった訴えなど、無力に等しい叫びだと少女は理解している。
 そしてそれを理解した上で少女がそんなことを言っているのだということを、青年もまた理解していた。

 本当は直接的な戦闘には向かない少女。
 これは無理にお願いをして稽古をつけてもらっているのだが、先ほどの言葉は少女の青年に対する信頼からくる甘えである。

 その信頼と甘えを、同じく信頼と甘やかすことで青年は柔らかく受け止める。

「少しずつ動きは良くなってるよ。けど、やっぱり経験不足だな」
「まだ実戦に出られる実力がついてない?」
「ああ。もっと自分と相手を俯瞰で捉えるんだ。どこかに意識が偏ると、どこかに意識の隙間が出来る」

 この稽古が始まってからどれくらい経つのだろう。

 数年前まで、とある事情から少女には命の期限が迫っていた。
 そんな小さな命を救うために、青年は独り、世界を駆け回っていた。

 少女の友人や家族は、彼女を救うために必要なモノを手に入れられる確率に、諦観の念を抱く者がほとんど。
 たった一人諦めなかった青年のおかげで無事に生還した少女は、青年に感謝しながら、彼と同じく世界を巡りたいと言い出したのだ。

「剣だからって剣の戦い方をする必要はないぞ。殴ってもいいし蹴ってもいい。身体全体を使え。感情を高ぶらせたり、熱くなってもダメだ」

 だが青年は別に、遊びで世界を周っているわけではない。
 初めは少女を救うモノを探しに行く旅だったが、訳あって青年はその後も世界巡りをすることになっていた。

 その理由を、青年は決して語らない。

「感情は出力を高めるが、その分無駄な力も掛かる。適切な力の使い方をするなら、基本的に感情は表に出さないことだ」
「気を張って感情を乗せたほうが、力が強くなる気がするけど?」
「それはそういう気がするだけ。怒りや憎しみ、感情のままに力を振るうより、ただ躊躇いをなくした無感動な力の方が強いんだ」

 少女にとって大事なものや人はいくつかあるしいるが、自分を抑えきれないほどに愛しいと思うのはこの青年だけだった。

 たった一人、自分を救うために命を懸けた青年。

 家族も友人も諦めた自分の命を諦めなかった彼に、どれほどの感謝をしてもし足りない。

「そっかぁ。魔術なら負けないんだけどなぁ」
「おいおい、勘弁してくれよ。魔術戦なんてしようもんなら、3秒で負ける自信があるぞ」
「ふふー。そこらの魔術師が百人で来ても余裕なんだから」
「何故そうなるかって過程を理解してないのに、工程も詠唱もすっ飛ばして結果を作り出すとかもう魔術じゃないだろ…………」

 少女が持つ特異性。
 全身が魔術回路であるといってもいいほどの魔力の塊である少女。

 『秘蹟』と呼ばれるその(わざ)は、少女の魔力で理論上可能なモノであれば、過程を無視して結果を作り出すという、聖人が持つ『奇跡』の力に近い能力だ。
 まだ幼かった頃は力の使い方を理解していなかったために扱えなかったが、その能力をフルに扱える今では、人間の魔術師で彼女に敵うものは居ないだろう。

 他愛なく話をしつつ、思い出したように少女は青年に問いかけた。

「……ね、あとどれくらい、ここに居るつもりなの?」

 青年の顔を覗き込むようにして訊ねる。

 前回の旅から青年が帰ってきてから既に三ヶ月。
 しばらくはゆっくりすると言っていた彼を、無理やり城に迎えて押し込んではいるが、本当に出発しなくてはならない日が来れば、彼は迷うことなく城を跡にする。

 だからそれまでには、彼の背中を守れるぐらいには強くなりたい。

 そうなれればきっと、いつものように、私を置いていくことはしないだろう。

「そうだなぁ、ざっと三ヶ月くらいか」
「え、もうそんなに時間ないの!?」
「そりゃあね。半年も休めば十分だろう。だからそれまでに、もう心配しなくていいくらいにはなってくれよ?」
「うー……頑張る……」

 思ったより短かった制限時間に項垂れる。

 服に纏わりついた粉雪をさっと払い、少女は剣を仕舞う。

「うん、今日はもうご飯にしよ!」
「わかった、それじゃあ稽古は終いだな」
「何が食べたい?」
「そーだなぁ……って、作るの俺だろ」
「ふふふ、そうだよー?」

 屈託無い笑顔を見せる。

 戦士として優秀で、魔術にも長けていて、料理も出来る。
 少女から見れば、彼ほどの男は世界に二人と居ない。

 愛しさを感じつつ、少女はいつものように青年にリクエストをする。

「私あれが食べたい、ほら、えーと……ビースト、ガノン?」
「なんだその魔獣みたいな名前。ビーフストロガノフだろ?」
「そう、それ!」
「ほんとアレ好きだなぁ。一週間に一回は食べてるぞ」

 ぼやきながらも少女の言うことをそのまま聞き入れる。
 少女も甘えすぎではあるが、青年も甘やかしすぎだろう。

 青年の左腕に、少女は思い切り抱きつく。

「おい、当たってるぞ」
「当ててるのよ」

 仲睦まじく話しながら、二人は城の中へと戻る。

 きっとこの幸せは、永く続くだろう。
 少女はそう信じて疑っていなかった。










 共に旅に出て、決別することになる数年後のこと。

 青年が彼女に稽古をつけていた理由。

 それがいつの日か、世界に仇為す魔者となる自分を。

 少女自身の手で────────










(ん……夢か……?)

 言い知れない虚脱感から目覚める。

 どこか別の時代、遠い異国の出来事。
 見たことのある銀色の少女と、黒い青年の儚い夢物語。

 周囲に幸福を振り撒くような仲睦まじさ。
 嫉妬すら覚える幸せの形を見せられながら、二人が城に入るところで目が覚めてしまった。

(なんだろう、あの夢……いや、あれ?)

 確か俺はバーサーカーと戦って、傷を負った士郎を家まで運んで。

 遂に限界が来て、気絶するように眠ったはずだが…………

(……なんだ、逆さまになった山が二つ?)

 霞がかった視界。
 瞼を擦りながらゆっくりと目を凝らす。

 降り注ぐ陽光を遮るように、視界を塞ぐ二つのお山。

 頭の下には何やら柔らかい感触。
 寝そべる俺の身体には、紫紺色の上着が掛けられていた。

(ああ……そういうことか)

 事態を把握して、あくまで冷静に分析する。
 外套の上からでもそこそこ大きいことはわかっていたが、まさかその上でさらに着痩せするタイプだったとは。

 Eか? Fか? 俺の経験値的にDは小さすぎるように思うが…………何の経験値かは置いといて。 
 下から持ち上げたりして、たゆんたゆんと弄びたい衝動に駆られるが、それを鋼の精神で抑えつける。

 ついでに下腹部のほうで鋼になりそうなモノも抑え付ける。

 朝の生理現象の影響もあって、簡単に硬化の魔術がかかってしまうのだ。



 そう、男の子は誰だってみんな、硬化の魔術の使い手なのである。

 …………朝っぱらから何考えてんだ、俺。誰が上手いこと言えって言ったよ。



 こんなことで自分のサーヴァントに殺されたりしたら、聖杯戦争の歴史に新たな伝説を打ち立てることになる。
 そんな末代までの恥を、こんなところでよしとするわけにはいかない。

 太ももの感触を惜しみながらも、俺は沸々と湧き上がる欲望に負けじと、勢い良く起き上がった。

 …………下の方は起き上がってませんよー?

「よっ、と」
「あ、起きたのね、マスター」

 呼びかける麗声にビクッとする。
 先ほどまでの不純な思考を振り払って、彼女の方へ向き直った。

 フェンサーも必要最低限の機能を残して仮眠していたのだろう。
 携帯やパソコンで言う、省エネモードみたいなもんか。

 眠ってしまってからの状況を知らないので、フェンサーに確認を取る。

「あれからどうなった?」
「特に何も無かったわよ。シロウはまだ寝てるだろうし、リンはその看病。セイバーはマスターの手当てが出来ないからって、道場の方に行ったわね」
「そうか……」

 ここは、居間か?
 ここなら周り見通せるし、何かあっても即座に対応できるからか。

 一応屋敷自体にも結界があるみたいだな。
 侵入者探知の結界……機能自体はシンプルだが、中々優秀な結界だ。

 時間は……昼前か。
 アルバイトに間に合うかどうか────というより、アルバイトなんてしてられる状況じゃなかった。
 とりあえずポケットに手を突っ込み、携帯が壊れていないことに安堵しつつバイト先に休みの電話を掛ける。

 家族が危篤なので、1、2週間ほど出られないと伝えた。
 正直家族なんて一人も居ないが、店長には暗示をかけてあるので心配は無いだろう。

 さらに昨日──時間的には今日だが──思いついたことを実行するために、もう一箇所に電話を掛ける。

「うっす、おっちゃん。アレさあ、今日取りに行こうと思うんだけど、調子どう?」
『おお黒守の坊主か。パーツも輸入して改造も終わってっから、あとはチューニングすればいつでも出せるぜ』
「おお、サンキュー。昼過ぎにそっち行くから、チューニングしといてよ」
『よしよし。2時間くらいで終わるだろうから、それくらいに来てくれ』
「了解ー」

 プツ、と電話を切る。

 楽しそうに電話していたからか、フェンサーが怪訝な目で俺を見ている。

「誰と電話してたの?」
「新都にある、外国産二輪自動車専門店」
「? バイク買いに行くの?」
「いや、ずっと前に予約済みのヤツがあるんだよ。昨日走りまわされたおかげで、足が必要だと思ってな」

 本当なら自分への卒業祝いとして、学生の間は乗らずにロンドンに一緒に持って行こうかと思ってたんだが。

 正直乗り回したい欲求がずっと燻っていたのでこれもいい機会だ。
 街案内という名の地理把握に、きっとご活躍してくれることだろう。

「くぅ……ぁ」

 大きく伸びをしながら、自身の状態を確認する。

 魔力は3割~4割程度まで回復。肉体の外部損傷はもう治っている。
 身体機能に異常もなし、魔力は今日一日何事もなければ完全に回復するはずだ。

 フェンサーの方は…………

「フェンサー、何か問題はあるか?」
「ん、余分な魔力供給はカットしてあるけど、それ以外は至って普通よ」
「そうか。魔力供給はいつでも調節できるし、今のとこ問題無しだな」

 ラインである程度確認できるが、本人が隠そうと思っていることまでは把握できない。
 こちら側としても、そうでなければプライベートも何もないのでそれは構わないのだが。

 マスターとサーヴァントの、お互いが必要とする情報の優先度が同じだとは限らない。

 少しの負傷でも知っておきたいと思う側と、自身の性能が劣化しない程度の傷なら構わないと判断する側。
 どちらがどちらでも同じだが、この状態の時に相手に伝える必要は無いとしている場合、自分には相手の正確なパラメータが伝わらない。

 信頼関係があればそのようなことはないだろうが、確認を取っておくにこしたことはないだろう。

「そういえば……なあ、フェンサーの真名ってなんだ?」
「……またいきなりな質問ね。それじゃあ……貴方は誰だと思う?」
「わかんねぇよ。銀光の剣に魔術に造詣の深い英雄……しかも女性……どっかの聖人? てかその剣がまず聖剣なのか魔剣なのかもわかんねぇし」
「この剣は神造兵装じゃないからそんな上等な武器じゃないわよ。受けてる加護や内包する力はそれらに劣らずだけど」

 あれ、神造兵装じゃないのか。

 神話や伝承に語られる英雄が扱う武器のほとんどは、人ならざるモノが作り出したものだ。

 武器防具に限らず、そういった武装を神造兵装と呼ぶ。 

 超常の力によって奇跡を起こし、その英雄と生涯戦場を共にした武具。
 それこそが英霊たちの持つ英雄としての自身の象徴であり、宝具と呼ばれる物質化した奇跡だ。

 その宝具を真名と共に解放することで、サーヴァントはその真価を発揮する。
 たとえ基本能力値において劣る相手であろうと、所持する宝具が強力であるのは警戒するに値する。
 サーヴァント同士の総合的な能力だけで優劣が決まるわけではないのが、聖杯戦争を苛烈な戦いにしている要因だろう。

 未だ真名解放をした宝具の一撃を見たことは無いが、想像を絶する威力を秘めているであろうことは容易に理解できる。

 英霊の真価であるその宝具を正しく知るために、英霊自身の真名を知るのは重要なことだ。
 過去、その英霊が何を得意として、どのような戦術のもとに戦いどのような戦術のもとに敗北したのか。

 死した原因そのものは英霊となった彼らの弱点そのものでもあり、得手不得手を知るのは聖杯戦争を攻略する上で必須だ。

「真名は……教えられないかな」
「は? なんで?」
「私の英霊としての事情故……かな。それ以外のステータスは意識を集中してみれば、レイジにも把握することが出来ると思うけど」
「うん? …………おお、こんな風になってるのか。聖杯戦争のシステムは良く出来てるなぁ」

 これもマスターに対する聖杯のバックアップの影響か、フェンサーだけでなく出会ったサーヴァントの基本情報が頭の中に浮かび上がる。

 最初に出会った黒いサーヴァント……あれ、ライダーだったのか。乗り物なんて乗ってなかったからイメージが違う。
 恐らくその乗り物自体が宝具なのだろう。つまりライダーに宝具を出されたら轢殺されるわけか。ゾッとしないな。

 セイバー、アーチャーの基本情報もあるが、外見上から見て取れる程度の情報しかまだ無い。

 バーサーカーについては……いや、おかしいだろ。スペックが反則とか言うレベルじゃないんだけど。
 不死身性を備える頑強さと、絶命した後に自動で蘇生したことを考えれば、護りと生存に特化した宝具か。
 
 ということは、パラメータ自体は素であの能力値であるということ。
 マスターであるイリヤスフィールの能力もあるだろうが、元々高い能力を狂化までしているのだから、化け物じみた力も納得である。

 で、肝心のフェンサーなんだけど……基本情報は、まぁわかる。
 だけどその他のステータスがほとんど?になってるんだけど、どうしてくれるのか。

 能力値はセイバーよりワンランク劣る形だが、平均的で優秀だ。魔力が尋常じゃないくらい高いが、昨日の魔術を見れば納得せざるを得ない。
 無属性のクラスで呼び出されたからか、クラススキルは何も無い。クラス固有の優位を持っていないのは俺の召喚のせいなので、そこはホント申し訳ない。

 ただ元来備わっている技能は失われてないようなので、そこは一安心。

 そして戦略の要となる宝具なのだが……なんだ、これ。
 該当項目が三つ? てことは、フェンサー宝具三つも持ってるの? 何それ、反則じゃないの?

「英霊一人に宝具が一個だなんて決まりも制限も無いわよ?」

 ラインから素で俺の心を読むのはやめてくれまいか。

「え、複数宝具持ってるサーヴァントって居るのか? ならそれだけで有利じゃん」
「単純に考えればね。でも、宝具の使用は凄まじい魔力を消費する。併用なんて出来ないものがほとんどだし、連続使用だって難しいもの」
「あ、そうか。魔力も無限ってわけじゃないもんな」
「だから相手の能力と状況を見極めて、適切な宝具を使用するのが重要よ。無駄撃ちに終わったりしたら、それだけで戦況がひっくり返ることだってある」
「でも複数所持してるってことは、様々な状況に適した宝具を備えてるってことだろ? 判断さえ誤らなければ、やっぱり有利だろ」

 この相手にこの武器だと相性が悪いから、こっちの武器に装備し直し、みたいなことが出来るわけだ。
 一つの事に特化したモノはその分野では無類の強さを発揮するが、それは他の分野では適応できずに十全な力を発揮できないことにもなる。

「そうとも限らないわ。宝具を一つしか持っていないってことはね、その英霊は生前、その武装一つだけで戦場を勝ち残って生き抜いてきたってことよ。
 何が出来て何が出来ないかを正確に把握し、時にはどんな不利な戦況でさえ覆せるほどの威力を秘めた宝具ってことになる」
「なるほど。その宝具が比類ないくらい強力であるのかもしれないし、その英霊が宝具一つのみで様々な戦況に対応できる力を秘めていることにもなるのか」
「というより、クラスという指定の匣がそういう意味よ。複数のクラスに該当する英霊でも、当てはめられたクラスに沿うように他の能力は制限され一つの事に特化される」

 やはり戦いというものは奥が深い。

 ゲームなどとは違って、決まった必勝法などない。
 不利な条件、有利な条件、勝利条件や敗北条件が毎回異なるのだから、その戦いに毎回勝利するというのは容易いことではないだろう。

 だからこそ燃える。
 相手より能力が優れているから勝てるとも限らないし、相手より能力が劣っているからと言って負けるとも限らない。
 競い合いとはそうあるべきだろう。誰もに勝利の可能性があるからこそ、努力する意味があるし価値がある。

 やばい、楽しくなってきた。

「で、何の宝具持ってんだ?」
「……秘密」
「おい、ふざけんなよ。真名も宝具もわかんなきゃ、戦略も立てられねぇだろ」
「そこは申し訳無いけど、納得してもらうしかない。ごめんなさい」
「え、あ、うん」

 くそ、そんなふうに素直に頭下げられたら何も言えなくなる。

 主従関係ではあるが、彼女は下僕でも奴隷でもなく、大事なパートナーだ。
 使い魔として扱うとか道具として扱うとか、色々線引きは考えなきゃいけないけど、少なくともぞんざいに扱っていいものではない。

 なまじ人型なだけに、そういったモノとしての合理的な扱いが出来ないでいた。

(甘いなぁ、俺)
(甘いなぁ、マスター)

 主従揃って、考えていることは同じだった。

「まあいいさ。おまえが優秀なのは解る。信頼もしてる。戦術や戦略はこっちで考えるから、その場での判断はおまえがすればいい」
「ありがとう、レイジ」

 無邪気な笑顔で答えるフェンサー。

 ──もうだめだ。それで本当に何も言えなくなった。

 彼女を召喚した時から、俺に対する信頼は伝わってきている。
 そんな笑顔をされたなら、やっぱり俺も信じるしかないだろう。 

 基本的な能力は把握している。
 指示もちゃんと聞いてくれるのは昨日でわかっているし、ここぞというときに切り札を解放する判断は、彼女に任せておこう。





 士郎が目覚めたのか、何やら奥の部屋で騒いでる二人のもとに向かいながら、これから本格的に始まるだろう戦いに思いを馳せていた。 
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