ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します
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本編
第15話 馬鹿のヤケクソ恐ろしい
こんにちは。ギルバートです。無事にドリュアス家の館に到着出来ました。帰りの道程に、襲撃等は一切ありませんでした。安全な旅って素晴らしいです。
そして帰って早々に、帽子用のリボン作りをさせられました。単色だけで無く、刺繍と模様つきの豪華な物も作らされました。
(後でルイズやモンモランシーに自慢されると、また作るはめになるのか。これは時間と精神力の消費が、かなり大きいのに……)
心の中で盛大に愚痴ってしまったのは、仕方が無い事だと思いたいです。
アルノーさんの事ですが、まだ少しだけ引きずっています。しかしディーネのおかげで、だいぶ軽くなったような気がします。そして、架空(実在?)の人物であるあの人の顔が頭をよぎりました。
「軽くなった気がする。……引きずり過ぎて、……すり減ったかな」
思い出したセリフが、自然と声になって口から出てしまいました。
(傍から見ていると、相当イタイ人に見えのでしょうね)
あの人も狂ってしまった尊敬する先輩を、世界の為……仲間の為に、その手にかけています。(注 マギ主観)
今ならばあの人の気持ちが、少しだけ分かるような気がします。……そして私は、このセリフを借り物では無く自分の言葉として、口にする日が来るのでしょうか? そうなると良いな……等と考えながら、アルノーさんの顔を思い出します。
その時、部屋の入口に人が居るのに気付きました。
……あれ? ディーネ? 何時からそこに? まさか、……今の聞かれたのですか?
待ってください。お願いだからそんな目で見ないで……。
(うぅ。恥ずかしさのあまり、涙出そうです)
何か言い訳しようと口を開きますが、こんな時に限って頭の回転は完全にストップしていました。
「あっ……」
言葉が思い浮かばず、混乱した私の口からそんな声が漏れます。ディーネに伸ばしかけた手は、途中で止まり宙をさまよわせ、結局引っ込めてしまいました。気まずさのあまり顔もそらしてしまいます。
ディーネはそんな私を確認すると、僅かに首を左右に動すと走って逃げてしまいました。
(今の私は、そんなに気持ち悪かったのでしょうか? 何も走って逃げる事ないと思います)
その後少しの日数ですが、何故かディーネは私に優しかったです。お礼にあの人の武器である、バスターソードでも送ってやろうかと思いました。
さて、馬鹿貴族共は如何なったのでしょう。結果的に多大な犠牲を払った以上、生半可な結果では納得出来ません。
王都では犯人側に、禁呪(ギアス《制約》)使いが居た為、こちらの士気は高く敵側は動揺していました。
当然です。始祖ブリミルが制定した“禁呪”を、破った人間がいるのです。これは始祖ブリミルに、……ハルケギニア全体に喧嘩を売ったに等しい行為です。そしてそれは同時に、ブリミル教の教義を前面に押し立てる事で、無茶な捜査を強行する大義名分を得たと言う事でもあります。
……このチャンスを逃す訳には行きません。
ヴァリエール公爵が敵上層部の動きを封じ、そしてヴァレール・ド・クールーズが今回の証拠をもとに末端を逮捕して行きます。敵は叩けば埃が出る者達ばかりなので、逮捕者が出る度に新しい証拠が出て来ました。
1人また1人と、逮捕者が牢へと入れられて行きます。馬鹿貴族達には、それが自らの滅びの足音に聞こえたでしょう。
それよりも私達兄弟には、切実な問題があります。
……それは母上です。
父上は敵を討つ時に、軍への復帰を認める約束をしていました。しかし、領地の守備を蔑に出来ない状況なので、復帰どころか母上が領地を出る事も許されないのです。(母上が領地を不在にすると、馬鹿貴族が自棄を起こして魔の森に突っ込んできた場合、止める手立てが無くなる可能性があるからです)
母上もその事は理解しているので、文句こそ言いませんがストレスは溜まる一方です。
ここでストレスの発散口になるのは、私達の訓練になるわけで……。(残念ながら守備隊は“訓練の疲労で動けませんでした”では話にならないので、母上の訓練から除外されました。物凄く羨ましいです)
こんな状態なので、私達が敵が自棄を起こして欲しいと思ったのは仕方が無いと事だと思いたいです。……しかしまさか本当に、自棄を起こして攻めて来るとは思いませんでした。敵の辞書には、我慢・神妙等の言葉が載っていない様です。
この日も私達は、訓練(今は母上にストレス発散)を行う為に、館裏の森に移動しようとしていました。すると突然、ドンドンと花火の様な音が鳴ったのです。この音は緊急時に、関所やパトロール中の守備隊員がならす警報です。
私達はこの音を聞き緊張しましたが、母上の顔を見て別の意味での緊張……寒気へと移行しました。母上の顔には、極上の笑顔があったのです。そう、寒気がするほどの極上の笑顔が……。
母上は私達に、館での待機を命じました。
その命令に私達は、ただ頷く事しか出来ません。……主に恐怖と言う意味で。
母上は《偏在》を使うと、一人を除き騎獣舎へ向かいます。残ったのは本体の様で、走って来た守備隊隊員から状況を聞き、次々に指示を出しながら去って行きました。
私はその中に「クールーズ領に、救援を送る準備をしろ」と、言う指示を聞きとりました。
私は母上が何故この様な事を言うのか、一瞬分かりませんでした。しかし冷静に考えてみると、この判断は適切です。現状で馬鹿貴族達に一番恨みを買っているのは、抗争の矢面に立っていたクールーズ家のヴァレールです。馬鹿貴族達はその戦力の大半を、クールーズ家に向ける可能性が高いでしょう。しかし敵は馬鹿で阿呆ですが、悪知恵はだけは働きます。
《乱風》のシルフィアの名は、《烈風》のカリンと比べると知名度に大きな差がありますが、軍関係者にはかなり有名です。
本来なら《乱風》のシルフィアが居るドリュアス領は、避けるべき地のはずです。しかしあえて戦力を割いたのは、援軍を遅らせる為の陽動と考えるのが妥当です。
(馬鹿貴族の狙いは、救援を遅らせて被害を拡大させる事)
しかし分かっていても、すぐに救援を出す訳には行きません。現状では敵の手がほぼ間違いないと言っても、絶対ではないのです。もし救援を出した後に、敵の全てがドリュアス領に来る事になれば、守り切れない可能性が高いのです。
更に敵には、もっと簡単で確実な手があります。ドリュアス領やクールーズ領を大きく迂回し、こちらの補足範囲外から一度魔の森に入り、魔法を放ち幻獣・魔獣達を引き連れ領内に突入する方法です。普段なら証拠が残り過ぎる為、絶対に使わない手ですが自棄になっていれば話は別です。
モンモランシ伯には、この時の為に防衛線を敷いてもらっていますが、これを絶対の物と過信する訳には行きません。
「……ギル。領は大丈夫でしょうか?」
ここでディーネが、不安から私に話しかけて来ました。アナスタシアも不安そうにしています。
「ドリュアス領は問題ありません。守備隊は優秀ですし、母上と言う最大戦力が居ますから」
私は歩きながら説明します。
「敵の目標はクールーズ家です。現状で馬鹿共に一番恨みを買っていますし、ドリュアス領に仕掛けるのは、クールーズ領への救援を遅らせる為の策でしょう」
ここで館の扉を通過し中に入ります。
「だから家は心配ありませんよ」
私は一度立ち止まり、アナスタシアの頭を撫でてやります。
「……うん」
アナスタシアは私の言葉を信じ、頷いてくれました。
しかしディーネは、私がドリュアス領“は”心配無いと言った事を気にしている様です。不安が隠し切れていませんでした。アナスタシアが不安に思うので、そんな顔をしないでほしいです。
そこで心を落ち着かせる時間をとる為に、稽古着から普段着に着替える名目でいったん解散をします。
ドリュアス家にとって、クールーズ家の安否は重要な意味がります。理由は、防衛範囲の拡大による負担増加です。これだけで支出は大幅に増え、(働き手を防衛に駆り出すから)収入も落ち込みます。
そして一番重要なのが、トリステイン王国の国力です。
クールーズ領のすぐ北は、王領です。クールーズ領が魔の森に呑まれれば、これ以上の拡大を阻止する為、防衛線を敷かねばなりません。しかも王都トリスタニアまで、障害らしき障害が無いのです。防衛線は、これまでの規模とは比較にならない程に大規模な物となるでしょう。
それは近隣の重要拠点である、ラ・ロシェールにも大きな影響を与えます。その原因は、防衛線とアルビオンとの貿易航路が近過ぎる所為です。警備の為に航路と運航スケジュールに制限がかけられ、貿易収入の激減が予想されます。
ただでさえトリステイン王国は、国力の乏しい国なのです。この防衛費増大と、貿易収入の激減に国が傾きかねません。
「本当に馬鹿貴族共は、自分の事しか考えてないですね。我儘を言うだけなら、子供にだって出来ます。それが駄目なら癇癪起こして人様に迷惑かける。……しかも力と身分を持っているから、下手なテロリストより性質が悪いです」
私はつい口にしてしまったこの事実に、溜息しか出ませんでした。
そして私の心は、この状況で待つ事しか出来ない事に、無力感でいっぱいになりました。
母上が帰って来たのは、それから4日後の昼でした。ディーネとアナスタシアを連れ、母上を出迎えます。
「お帰りなさい。母上」「お帰りなさいませ」「おかえりなさい」
「ただいま戻ったわ」
力無く挨拶を返す母上は、かなり疲れた表情をしていました。しかし、話を聞かずにはいられません。
「母上。お疲れの所申し訳ありませんが、話を……」
「ギル!! お母さまは疲れています」「そうよ」
「話は、少し休んでか……」
「良いのよ。ディーネちゃん。アナスタシアちゃん。……執務室に行くわよ」
ディーネが私を諌めようとし、アナスタシアが追随しましたが、それを止めたのは母上でした。
「はい」
ディーネとアナスタシアの目が私を非難していましたが、今回は無視させていただきました。
そして執務室に移動すると、母上は今回の騒動の結果を話し始めました。
予想通り、敵の狙いはクールーズ家だった様です。ドリュアス領に来たのは、少数の飛行部隊のみでした。
ドリュアス領とモンモランシ領は、被害らしい被害を受けませんでした。しかし敵の囮作戦は、成功してしまいます。
飛行部隊は早い段階で殲滅出来たのですが、飛行部隊の1人が最後に「地上に別働隊が居る」と言い残したのです。十中八九嘘だと分かっていても、確認をしない訳には行きません。母上達は、この確認に時間を取られてしまったのです。
東に迂回した敵はモンモランシ伯が捕まえ、西側に迂回した敵はクールーズ家と連携をした近隣領主が防いでくれました。迂回を狙った敵は想定より数は少なく、囮か上手く行けば儲けもの程度の期待しかしていなかったのでしょう。
ここに来て本命一点突破とは、敵ながらやってくれます。おかげ様でこちらの対応は、遅れに遅れてしまいます。
そしてここからは、肝心のクールーズ領内の話になります。
母上がドリュアス領で地上部隊を探している時に、敵の本命部隊がクールーズ領に突入しました。
ヴァレールも十分な準備を整えていたので、防衛部隊は迅速に敵を迎え撃ちます。敵がクールーズ家に戦力を集中させた為、数の上では不利でしたがこれを耐えて見せました。やがて王都より敵を追ってきたヴァレールが、部下と共に挟撃をしかけます。これで敵を殲滅し、戦闘終了となるはず……だったのです。
しかしここで、クールーズ家の守備隊がミスとは言えない小さなミスをしました。敵を包囲する隊列が僅かに乱れたのです。この時敵の風竜が、強引に突破を仕掛けて来ました。
……結果。敵の突破は成功してしまいますが、複数の魔法の直撃させる事に成功します。敵はあと一発中てれば落とせる状態なので、クールーズ側は焦らず追撃しようとしました。しかし敵も、それを黙って見ている訳ではありません。残った敵が、ヴァレール達を足止めします。なんとか、グリフォン2体とヒポグリフを騎獣とした3人が、足止めを振り切り風竜を追いました。しかし、手負いとは言え相手は風竜。簡単には追い付けません。
結局、魔の森への突入を許してしまいました。敵は魔の森にファイヤー・ボールを撃ち込み逃げようとしますが、そこで風竜が力尽き墜落してしまいます。
本来なら風竜の主が攻撃されて終了だったのですが、幻獣・魔獣達は追っていた3人も敵と判断し攻撃を仕掛けてきました。3人はこれ以上魔法を使い、幻獣・魔獣の数を増やす訳にもいかず、防戦に徹しました。
そこに、敵を殲滅したヴァレール達が合流します。
この状況にヴァレールが取った作戦は、逃げの一手でした。魔の森に逃げ込み、隠れてやり過ごすしかないと判断したのです。
結果は成功。全員無事に、幻獣・魔獣を撒く事に成功したのです。
しかし、ここで不運な行き違いが発生します。
魔の森に消えたヴァレールを探す為、ロベール殿が大規模な捜索隊を組織し送り込んだのです。
ロベール殿は高齢の上に妻と妾に先立たれ、優秀だった息子アランを魔の森で失っています。唯一残されたヴァレールを、失いたく無かったのでしょう。
結果的に領内の警備が手薄になり、その隙に侵入していた地上の別働隊(騎馬)が、派手に動くのを許してしまったのです。
別働隊は北東から侵入。警備が厳しい西と、ドリュアス領が近い南東を避け、南西に魔法を撃ちこみました。
ヴァレールが領地に戻った時、そこには地獄が広がっていました。
燃え上がる家々、無残に内臓を晒した領民達の死体。そしてこの光景を作りだした、幻獣・魔獣・亜人の姿。
しかしヴァレールは、激昂する訳にはいきませんでした。数人の部下に、増援と伝令を命じます。
作戦は幻獣・魔獣を魔の森に誘導し、先程と同じ要領で撒くことです。
ヴァレールは幻獣・魔獣を引き付け、魔の森まで誘導する事に成功しました。
一方で亜人の対応は、遅れに遅れました。捜索隊を組織し魔の森に向かわせた事により、余剰人員が居なかったのが原因です。
そこでロベール殿は、護衛と少ない兵員をつれて自ら亜人討伐に向かいました。
結果は、……酷いものでした。
亜人はドリュアス領からの救援により、なんとか撃退に成功。しかし、この戦闘でロベール殿が死亡。
今回の一件により、魔の森の浸食が進行し、南西からクールーズ領全体の約4分の1が呑まれました。
そしてヴァレールはその後の捜索で、死体で発見されたました。
本当に酷い。散々な結果です。
母上は全て話し終ると「眠りたい」と言って、寝室に引っ込んでしまいました。
しかし残念な事に、本当の最悪はここからでした。
今回の一件で父上に与えられた褒賞が、旧クールーズ領のだったのです。領主が死んだばかりで、混乱している土地を貰っても嬉しくありません。更に魔の森に接する面積が、物凄く増えてしまいました。これはドリュアス家にとって、マイナスになる褒賞です。ハッキリ言って要らないです。
なんでも「旧クールーズ領を治められるのは、ドリュアス子爵をおいて他に無い」と、王からお言葉を頂いたそうです。国王よりそこまで言われてしまっては、トリステイン貴族として受けない訳には行きません。その上更に、父上は魔の森の調査を命じられてしまいました。
国王の本音は魔の森の拡大防止の為の費用を、ドリュアス家に押し付けたかったようです。さらに今回の一件で、旧クールーズ領の領民は貴族に対して、大きな不信感があるはずです。そこでクールーズ領の発展に協力し、逸早く救援に参上したドリュアス家に任せる事で、その不信を和らげるのが狙いのようです。
更にこの褒賞を、王に進言した人間が居ました。
新しい高等法院長です。
その名前に見覚えが有りました。
……リッシュモン。
見間違いか? と思いましたが、どうやら違う様です。
同名なだけか? と思い、父上に聞いてみると……
「リッシュモン殿か? 如何言う人物かと聞かれてもな……。確か10年前にダングルテールにて、疫病が発生した事があったな。その時汚れ役を買って出た、人格者と聞いている。それに、今回の逮捕劇の情報提供者だ」
(チ・ガ・イ・マ・ス。それ疫病じゃ無くて、新教徒狩りですから。それに情報提供者? 仲間を売って、自分の手柄にしただけでしょう)
多くの馬鹿貴族を失脚させて、安泰かと思ったらそうでも無かった様です。
後書き
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