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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第39話

 
前書き
今回も変わらずです。 

 
研究室を出た麻生は一方通行(アクセラレータ)を遠くから見守っていた。
立ち並ぶビル群の屋上を能力を使い、渡り歩き眼を千里眼に変えてただ一方通行(アクセラレータ)を見守っていた。
麻生は初めて一方通行(アクセラレータ)に会った時に感じたのだ。
彼は「答え」を見つける前の自分にどこか似ていると。
あの夜に出会って時に一方通行(アクセラレータ)の眼を見た時、一方通行(アクセラレータ)に何か変化が起こっている事に気付いた。
だから麻生は見て見たいのだ。
一方通行(アクセラレータ)は一体どんな答えを出すのかを。
一方通行(アクセラレータ)は並みのバイクを軽く追い抜くほどの速度で街を走っていた。
そして、昼間に愛穂と待ち合わせをしていたファミレスに近づくとファミレスのウィンドウがガシャン!!、と音を立てて砕け散った。
一方通行(アクセラレータ)はその光景を見て立ち止まり麻生も足を止めて視線をウィンドウに向ける。
そこには二メートル近い身長で漆黒のスーツを着て、さらには右手には和風の籠手が装着されており、そこには西洋の仕込み弓(アルバレスト)のように黒塗りの和弓が取り付けられている大男が立っていた。
少ししてからはっきりとは見えないが、誰かが砕けたウィンドウから出て行き一方通行(アクセラレータ)とは真逆の方へと進んでいくのが見えた。
それに続くように砕けたウィンドウから見慣れた人物が慌てて飛び出してきた。
その人物とは上条当麻である。
上条を見た一方通行(アクセラレータ)は目を剥いて上条を睨みつけ、麻生は麻生でまた不幸な事に巻き込まれたのだなと呆れた表情をしている。

(となると、あの大男は魔術師の可能性が高いな。
 当麻の側にインデックスが居ないところを見ると連れ去らわれたか・・・・まぁ今の俺にはどっちでもいいが。)

上条は見えない大男が走り去ったと思われる方に走っていくと、上条の後を追うかのようにウェイトレスなどのファミレスの店員も出てくると上条を追いかけていく。
麻生はとことんあいつは不幸だな、と呆れを通り越して同情の念が湧いてくる。
一方通行(アクセラレータ)は上条にも何からしら因縁があるがまずはファミレスへと入っていく。
一〇分ほどすると一方通行(アクセラレータ)はファミレスから出てきて携帯を取り出し誰かと連絡を取っている。
おそらく桔梗だろうと麻生は考える。
桔梗と情報の交換をして天井がどこに行ったのか考えているのだろう。
歩きながら携帯で連絡を取っていると一方通行(アクセラレータ)の表情がだんだんと笑みに変わっていく。
どうやら天井の居場所が分かったようだ。









天井亜雄は量産型能力者(レディオノイズ)の開発を行っていた施設にいた。
スポーツカーに乗っている天井の車の助手席には毛布に包まれている最終信号(ラストオーダー)が眠っていた。
全身汗だくで呼吸は浅く、医療に携わっている人物ならいかに危険な状態であるかすぐにわかるだろう。
天井は焦っていた。
最終信号(ラストオーダー)にウィルスを注入するところまでは順調だった。
だが、注入した途端に逃げ出してしまったのだ。
この時点で天井の「計画」は崩れ始めた。
未調整の肉体である最終信号(ラストオーダー)は長くは生きていられない。
もしウィルス起動前に死んでしまえば世界中に散らばった妹達(シスターズ)にウィルスは感染しない。
そうなれば学園都市の外にいる学園都市に敵対しているメンバーに見放され、最悪は抹殺されてしまうかもしれない。
天井には莫大な借金があった。
量産型能力者(レディオノイズ)計画の責任者であった天井だが、量産型の低い性能(ロースペック)では超電磁砲(レールガン)を再現する事が出来ず、計画が頓挫し、研究所が閉鎖になった時に莫大な借金を抱えてしまった。
だが、一方通行(アクセラレータ)絶対能力(レベル6)計画に拾われて何とか借金を返せると思った。
が、その計画の永久凍結となっている。
このままでは借金を返す事が出来ない。
だからこそ、得体の知れない連中、つまり学園都市に敵対している勢力を手を組んだ。
しかし計画の核である最終信号(ラストオーダー)がウィルス起動前に死んでしまったら、この敵対勢力に見放され奈落の底まで落ちる羽目になる。

(くそっ、くそ!
 そうだというのに、何で!!)

天井は狭いスポーツカーの車内でハンドルを殴りつける。
逃げ出した最終信号(ラストオーダー)を今日になってようやく捕まえる事が出来た。
後は最終信号(ラストオーダー)を連れて学園都市を出れば、外にいる敵対勢力に保護してもらえるのだがさらに最悪な事態が起こっていた。
「外」から何者かが学園都市の警戒網を突破して強引に街の中に侵入したのだ。
そのせいで警戒強度(セキュリティコード)は昼間の時点でオレンジ、今ではレッドまで達している。
このオレンジ、レッドの度合いについての説明は省くが、要は学園都市の内外の出入りが完全に禁止する事を意味していた。
どこかに逃げようにも至る所に検問が設置されており突破することも出来ない。
さらに助手席には毛布一枚の裸少女を連れているのでますます突破する事は出来ない。
天井は学園都市の「外」どころか、街の一ブロックからも逃げられなくなっていた。
そうして起動するかどうか分からないウィルスに全てをかけて狭い車内で震えてた時だった。
天井はふと、本当にただ視線をあげてたまたまルームミラーが視界の中に入った時に天井の眼が大きく見開かれた。
工法を映す小さな鏡にある人物が映っていた。
白濁し白熱し白狂したような純白の超能力者(レベル5)が。

「ぃ、ひ!」

天井の喉から変な音が漏れた。
一方通行(アクセラレータ)は迷わず天井の乗るスポーツカーへと近づいてくる。
天井には一方通行(アクセラレータ)が何をするために来たのか分からないが、あの一方通行(アクセラレータ)が何かをしようとしているという事が危険なのだ。
天井の着ている白衣の懐には拳銃が収まっているがそんなものでどうにかできる相手ではない。
ならばどうするか、逃げるしかない。
ガチッと天井は車のエンジンキーを握りしめて鍵穴に挿し込もうとするが、手が震えているのでなかなか挿す事が出来ない。
泣きそうな顔になって何度も何度も挿し損なって、ようやくキーが刺さり勢いよく回すとエンジンが唸りをあげた。
緊張のあまりに天井はクラッチ操作を間違えて、スポーツカーは尻を蹴られて跳ねるように前進する。




一方通行(アクセラレータ)はいかにも慌ててますと、言わんばかりの乱暴な発信をする天井の車をニヤニヤ、と笑って眺めていた。

(さって、と。
 あのガキは・・・乗ってンのか。
 てっきりトランクにでもぶち込まれていると思ったンだが、まァ天井にとっても死なれちゃ困る相手だろォしなァ)

適当に考えながら一方通行(アクセラレータ)はわずかに身を落すとダン!、と地面を蹴る。
一瞬で一〇メートル近く上方へ飛び上がった一方通行(アクセラレータ)はそのまま天井のスポーツカーを追い越して目の前へと着地した。
天井の顔が引きつりハンドルを切ろうとするが、対処が遅くそのまま砲弾のような勢いで一方通行(アクセラレータ)へ突っ込んだ。
金属を押し潰す轟音が響くが潰れたのは一方通行(アクセラレータ)ではなく自動車の方だった。
真っ直ぐ突っ込んでくる車の「向き」を全て真下へと変換されたのだ。
スポーツカーの四本のタイヤは一瞬でパンクし、ホイールが卵型に歪み車高は完全なるゼロに変貌し、アスファルトの中へ数センチもめり込んだ。
車体そのものが歪んだのか、前後左右全てのガラスが粉々に砕け散った。
これだけ自動車が破壊されているのに中にいる人は全くの無傷だ。
これが学園都市最強の能力者である一方通行(アクセラレータ)の実力だ。

「ぃ、ぎ・・・く、くそ!!」

天井は何度もアクセルを踏むが、ホイール自体の形が歪み泥よけに食い込んでいる。
この状態では車が動く訳がない。
一〇秒以上も経ってようやくその事に気づいた天井は打ち止め(ラストオーダー)を切り捨てて、運転席のドアを勢いよく開けどこかに逃げようとする。

「落ちつけよ中年、みっともねェっつの。」

ガン、と一方通行(アクセラレータ)は車のドアを軽く蹴飛ばすと、その衝撃を操作して開きっ放しだった運転席のドアが勢いよく閉じる。
今まさに車の外へと逃げ出そうとしていた天井はドアに挟まれ、肺の中の空気を全部吐き出しずるずると地面の上に崩れ落ちてピクリとも動かなくなった。

「あー、悪りィな。
 メチャクチャ地味な倒し方で、まァ死ぬよかマシだろ。」

返事は返ってこない、そもそも最初から期待していない。
一方通行(アクセラレータ)は助手席を見ると助手席が優しい揺りかごのように優しく一人の少女を抱えていた。

「手間かけさせやがって、クソガキが。」

一言だけ、一方通行(アクセラレータ)が呟くと携帯電話を取り出して桔梗に連絡する。

「芳川か?
 ああ、ガキなら保護したぜ。」

打ち止め(ラストオーダー)には電極のようなものがついていてこれを通じて打ち止め(ラストオーダー)の健康状態を測っているのだ。
桔梗も培養器と学習装置(テスタメント)を車に積み込んで一方通行(アクセラレータ)の元に向かっているようだ。
ウィルスコードは八割方くらい解析できたと桔梗は言っている。
状況的にはギリギリだが必ず間に合わせる、と力強く言った。
普段の彼女らしくないと一方通行(アクセラレータ)は眉をひそめる。
一方通行(アクセラレータ)は知らないがもしウィルスを解除できない事になれば、どこかにいる麻生が打ち止め(ラストオーダー)を殺す。
桔梗は愛穂と一緒に小さい頃から麻生を見ていた。
だからこそ彼に殺人なんてことをさせる訳にはいかない。
そして自分の存在価値を否定してまで一方通行(アクセラレータ)打ち止め(ラストオーダー)を救おうとしている。
そんな二人を見捨てるわけにはいかない。
その決意を胸に秘めて桔梗は車を走らせる。
一方通行(アクセラレータ)はようやくこの事態が解決の方向へと動きつつあることを感じ少しだけ肩の力を抜いた。
その瞬間だった、突如打ち止め(ラストオーダー)が叫び出したのだ。
少女の華奢な身体は打ち上げられた魚の様に暴れまわっている。
電極に繋がっているノートパソコンのモニタの中には無数の警告文のウィンドウで埋め尽くされていた。

「くそ!オイ芳川、これはどォなっている!?
 これも何かの症状の一つなのかよ!」

「落ち着いて、一から順に説明して!
 それだけでは状況は伝わらないわ。
 そうね、あなたの携帯電話にカメラはある?
 テレビ電話の機能があれば一番好ま・・・」

言いかけた芳川の声が驚きに息を呑んだように途切れた。
ウソ、マサカ、デモコンナコトッテ、と芳川は独り言を呟いている。

「オイどォしたンだよ!
 これって何か応急処置とかできねェのか!?」

「ちょっと黙って。
 キミ、その子の言っている事をよく聞かせてもらえないかしら。」

「だから説明し」

「早く!!」

切羽詰まった芳川の声に一方通行(アクセラレータ)はただならぬものを感じた。
一方通行(アクセラレータ)は何をするまでもなく打ち止め(ラストオーダー)絶叫のような声は届いているだろう。

「やっぱり・・・そうなのね。」

「何だよ?何が起こっている!?」

苛立つ一方通行(アクセラレータ)に芳川は簡潔に答えた。

「ウィルスコードよ、暗号化されているみたいだけれど。
 そのウィルス、もう起動準備に入っているんだわ。」

一方通行(アクセラレータ)の全身が硬直した。
ウィルス起動は九月一日〇〇時〇〇分。
今は午後八時過ぎなのになぜ起動準備をしているのか、考えられる可能性は一つだけだ。
ダミー情報。
おそらく天井はわざと間違ったタイムリミットを伝えたのだ。
打ち止め(ラストオーダー)小さな身体は電気でも浴びたように大きく仰け反った。
パソコンの画面も新たな警告ウィンドウで塗り潰される。
間に合わない、と一方通行(アクセラレータ)は感じた。
桔梗はまだウィルスコードの解析が終わっていない、ワクチンも組んでいない、さらに設備のある研究所まで打ち止め(ラストオーダー)を運ぶことも出来ない。
得体の知れない感触が一方通行(アクセラレータ)の頭の裏をジリジリと焼いた。
その正体を知る前に、桔梗の冷静な言葉がその思考を無理矢理に断ち切る。

「聞きなさい、一方通行(アクセラレータ)
 嘆くのはまだ早いわ、キミは手を打たなければならないの。」

「手?まだ手があンのか?」

「ウィルスはミサカネットワーク上へ配信される前に準備期間があるの。
 時間は一〇分間、私が言いたい事は分かっているわね。
 キミにできる事はただ一つ、処分しなさい。
 その子を殺す事で、世界を守るのよ。」

どちらにしろ時間がくれば麻生が打ち止め(ラストオーダー)を殺す。
その事を知らないしろ、その前に後悔の無いように一方通行(アクセラレータ)自身で打ち止め(ラストオーダー)を殺せと桔梗は言っている。

「クソったれが・・・・」

何を選んでどう進んだところで打ち止め(ラストオーダー)はもう助からない。

「くそったれがああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

一方通行(アクセラレータ)は歯を食いしばった。
あの操車場で二人の無能力者に殴られたのとは違う痛みだった。
比べ物にならなかった、それが失う痛みだと知った。
そして気づいてしまった、この少女はこの痛みを一万回もこの痛みを感じていることを。
一方通行(アクセラレータ)は思わず叫んだが彼に打開策がある訳ではない。
一方通行(アクセラレータ)の能力は運動量、熱量、電気量などの力の「向き」を変換するしか能の無い能力だ。
この能力を持っていて思いつく事は他人の皮膚に触れて血液や生体電気を逆流させ身体を爆発させるぐらいしか・・・・・・・・・・そこまで考えて、ふと一方通行(アクセラレータ)は何かが引っ掛かった。
そして、一方通行(アクセラレータ)の頭の中で言葉の切れ端が思い浮かび、無駄な言葉の切れ端を削除していくとある事に気づいた。
生体電気の逆流。
一方通行(アクセラレータ)は力の種類問わずあらゆる「向き(ベクトル)」を操作できる。
皮膚に触れただけで血液や生体電気を逆流する事が出来たのならそれを操作する事も可能なはず。
学園都市最強という事は学園都市で最も頭が良いということも意味している。
一方通行(アクセラレータ)は顔を上げる。

「オイ、脳内の電気信号さえ制御できりゃあ、学習装置(テスタメント)がなくてもあのガキの中の人格データをいじくる事ができンだよな?」

桔梗は何かを言おうとしたが一方通行(アクセラレータ)が何をするか気づいたようだ。

「まさか、キミ自身が学習装置(テスタメント)の代わりをするというの?
 無理よ、確かにキミの能力はあらゆる力の「向き(ベクトル)」を自在に操る事が出来るわ。
 それでも人の脳の信号を操るだなんて・・・・ッ!」

「できねェ事はねェだろ。
 現に「実験」中にゃ皮膚に触れただけで全身の血液や生体電気を逆流させて人を殺した事だってあるンだ。
 「反射」ができた以上、その先の「操作」ができて不思議じゃねェ。」

実際に他人の脳内の信号を操った事など一度もない、必ず成功する自信もない。
だが目の前の少女を救うにはこの方法しかない。

「できっこないわ、そんなもの。
 仮にキミの力で最終信号(ラストオーダー)の脳内を操る事が出来ても、対ウィルス用のワクチンプログラムは完成していない。
 もし失敗すれば犠牲になるのは一万人もの妹達(シスターズ)、さらには学園都市、最悪は世界すら巻き込んでしまうのよ。
 今のキミにワクチンを用意できる?
 もう数分で起動準備を終えてしまうこの状況で!」

「できるさ。」

一方通行(アクセラレータ)は即答し、桔梗は息を呑んでしまう。
一方通行(アクセラレータ)の手には「検体番号二〇〇〇一号・人格要綱/感染前」のデータスティックがある。
これを使い、今の打ち止め(ラストオーダー)の頭と比較して余計な部分を見つけ、それを正常なデータで上書きすれば良い。
だが、これをしてしまえば「ウィルス感染後」に得た記憶や思い出は全て修正データで塗り潰されてしまう。
あの出会いも、あの会話も、あの笑顔も、全てを失う事になる。

「だから、何だってンだ。
 忘れちまった方が、このガキのためじゃねェか。」

打ち止め(ラストオーダー)は恐れる事無く一方通行(アクセラレータ)を受け入れた。
そんな人間だからこそ一方通行(アクセラレータ)のいる世界に居てはいけない。
データスティックを電子ブックに差し込み、画面に表示される膨大な量のテキストを滝が流れるような速度でスクロールさせて読破していく。
完璧に記憶して全ての準備が整った。
「反射」を切り彼の手が少女の額に触れる。
そこから生体電気を掴み、体内に侵入して「向き(ベクトル)」へ接触する。
やがて一方通行(アクセラレータ)の頭の中に一人の少女の脳内構造が表れる。
浮かび上がった少女の思考回路はとても温かかった。
失いたくないと、そう思ってしまうほどに。
だけど、それでも、打ち止め(ラストオーダー)という一人の少女を救う為に一方通行(アクセラレータ)の戦いが始まる。

「たく、このクソガキが。
 人がここまでやってんだ、今さら助かりませンでしたじゃ済まさねェぞ。」

自分でもびっくりするような優しい笑みを浮かべて一方通行(アクセラレータ)の戦いが始まった。 
 

 
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。 
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