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戦国異伝

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第百十一話 青を見つつその七

「豊かな七百六十万石です」
「豊かか」
「はい、見事なまでの」
「それが今の織田家か」
「民は泰平を謳歌したらふく食っております」
 こう言ったのは穴山だった。
「それも様々なものを」
「米もか」
「大和では茶もかなり飲まれています」
「茶とな」
 幸村は茶と聞いて思わず声をあげた。
「あれは高いであろう」
「いえ、ですが」
「しかしとな」
「織田家の領内においては茶も普通に飲まれだしております」
「多く作れば安くなるもの」
 ここでこう言った幸村だった。
「そういうことじゃな」
「その通りかと」
「現に甲斐では葡萄が安いわ」
 甲斐の特産品であり信玄が百姓達に作らせているのだ。それは百姓達のよいおやつにもなっているのだ。
「この信濃では梨じゃ」
「そうですな。それが織田家でございあます」
 今度は三好清海が述べる。
「それがし達も見回って驚くばかりでございました」
「紙も塩も醤油もどんどん作られております」
 筧も話す。
「特産品でも織田家は」
「豊かになっておるな」
「陶器も作っておりますし」
 筧はこれも話に出した。
「瀬戸において」
「茶器をか」
「左様です」
「わしは茶道については疎い」
 幸村は既に槍を磨くことを止めて十勇士達と向かい合っている、彼はその中で他の面々に答えたのである。
「よく知らぬが」
「茶人もおります」
 望月も告げる。
「千利休に荒木村重、そして古田という者も」
「織田家はそちらも人がおるか」
「その様でございます」
「ただ茶が出来るのではあるまい」 
 幸村はすぐにこう察した。
「政もあるな」
「はい、どうやら信長公は色々なものを見られる方で」
「それでか」
「茶人も受け入れているかと」
「大きくなるのも当然か」
 幸村は腕を組み考える顔で述べる。
「政を主に見ているのならな」
「そうですな、それは」
 三好伊三が答えてきた。
「様々な者を受け入れ使いこなすのなら」
「織田家の家臣達は多い筈」
 家康だけでなく他の大名や口の者達もこう幸村に話した。
「ですが武田もです」
「そのことは」
「わかっておる」
 幸村は望月と三好伊三に答える。
「我が武田には二十四将がおる」
「それに殿もおります」
「左様です」
 猿飛と由利が笑って言ってきた。
「まさに武田に敵なし」
「殿もおられますので」
「わしなぞ数に入らぬわ」
 だが幸村は彼等の言葉に笑ってこう返す。
「二十四人の方は既におられるではないか」
「いえ、殿は一人侍でございます」
 根津がその幸村にこう話す。 
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