八条学園怪異譚
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第十七話 舞と音楽その四
「だからら。まずは行こう」
「はい」
二人同時に頷きそうしてだった。
三人で森の中の広場に出た。その真ん中には円形の雨宿り等に使う座る場所があった。そこを中心にして。
狐に狸達がいた、見れば彼等はというと。
それぞれ踊り腹鼓を打ち酒や菓子を楽しんでいた。二人はその彼等を見て言った。
「何か楽しそうね」
「それもかなりね」
楽しんでいる彼等を見ての言葉だ。
「飲んで踊って歌ってって」
「そんな感じね」
「あっ、日下部さんに女の子達じゃない」
狸達の中の一匹がまず三人に気付いた。
「来たんだ」
「こんばんは」
日下部が敬礼、海軍の肘を折り畳んだそれで応えた。二人もお店の娘の挨拶で頭を下げて彼に続いた。
それが終わってから二人は眉を顰めさせて早速彼等に尋ねた。
「あの、ちょっといい?」
「聞きたいことがあるけれど」
「何か剣呑だね」
「怒ってる?ひょっとして」
「これからの返答次第ではそうなるから」
「ちょっと覚悟してね」
二人はきょとんとしている狐狸達とは正反対にむっとした顔で言い返した。
「あのね。最近学校の食堂の揚げや天麩羅がなくなってるらしいのよ」
「そうなってるのよ」
「まさかと思うけれどね」
「あんた達知らない?」
「ああ、そのことなんだ」
狐の一匹が応える。広場の緑の草原の上に胡坐をかいて前足を使って丼の中のきつねうどんを箸で食べている。
「それなら知ってるよ」
「じゃあ誰がやってるのよ、一体」
「誰が揚げとか天麩羅とか取ってるのよ」
「僕達が買ってるよ」
「そうしてるよ」
狐達だけでなく狸達も言ってきた。狸達は天かすが入っているそばを食べている、こちらはたぬきそばだった。
「ちゃんと小銭をお勘定の中に入れてね」
「やってるけれど」
「あれっ、買ってるの」
「ちゃんとそうしてるの」
「勿論木の葉の小判とかじゃないよ」
狐狸達がよくするその手の悪戯による代物ではないというのだ。
「僕達がちゃんとその辺りのヤクザやゴロツキを化かして巻き上げたお金だよ」
「カツアゲとかのお金はちゃんと元の人に返してるけれどね」
「そのお金でちゃんと買ってるから」
「取ったりとかはしてないよ」
「だったらいいけれどね」
「それだったら」
二人は彼等の言葉を聞いて納得した。嘘を言っている様にも見えなかったからだ。
それで納得してあらためて言った。
「というかそういうのはちゃんとしてるの」
「買うのね」
相手、食堂のおばちゃん達は気付かないがそうしているというのだ。尚揚げだけ、天麩羅だけでもトッピングとして食堂の券で買える。
そのことは二人も知っていてそれで納得したのだ。
「だったらいいけれどね」
「そうしてるのなら」
「だから。僕達は悪い妖怪じゃないから」
「そんなことはしないよ」
狐狸達もそのことは確かに言う。
「それにヤクザとかゴロツキがいなくてもお金はあるから」
「最近この町のヤクザ屋さん減ってるけれどね」
謎の暴力団事務所襲撃、そして虐殺事件が頻発しているからだ。八条町の暴力団といえば神戸市に本拠地を置き全国に系列事務所を持つ藤会だが謎の襲撃者、個人か団体かもわからないがその者によって暴力団員自体が殺されていっているのだ。
「僕達も誰がしているかとかはわからないけれどね」
「そうした事件が起こってるせいで減ってるから」
「そうしたことでお金は手に入っていないけれど」
「それでもね」
お金を手に入れる方法はまだあるというのだ。
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