八条学園怪異譚
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第十七話 舞と音楽その三
「八条グループの撤退も当然だ」
「私もキャビア丼とかは」
「フォアグラサンドも」
愛実と聖花はお互いに素材を入れ替えて考えてもみた。
「あまり」
「したくないですね」
「それ位ならだな」
「普通にイクラ丼にしますから」
「レバーサンド・・・・・・は今一つですから」
聖花はここからこの料理を出した。
「ギドニーパイですね」
「ギドニーパイってあれよね」
「そう、豚の内臓のパイよ」
聖花は愛実に対して答えた。
「ドイツ料理よ」
「そうよね、ドイツよね」
「美味しいのよ、それでレバーなんかもね」
「パンに入れられるっていうか」
「パイには出来るから」
パン屋の作るものの中にはパイもある、だからいいのだ。
「それだとね」
「いけるわね」
「お客さんに受け入れてもらえるかはわからないけれど」
「結構奇抜なお料理だから?日本じゃ」
「日本人には日本のパンなのよ」
明治維新から本格的に入ったが既に日本人は日本のパンとして独自の料理を築いていっているからこその言葉だ。
「完全にドイツだとね」
「売れない可能性があるのね」
「黒パンは作ってるけれど」
ドイツでは今もこのパンがよく食べられる。ロシアでもだ。
「それでもメインじゃないし」
「黒パンも美味しいけれどね」
「日本人の意識の中のパンは白パンダから」
「黒パンもメインじゃないのね」
「ニーズに応えないとね」
「そうよね。美味しくても食べてもらえるもの作らないと」
愛実も切実な顔で聖花の今の言葉に頷く。
「売れないからね」
「お店の売り上げが落ちるからね」
「その辺りが本当に難しいから」
「慎重にしないと」
「試食とかしてもらって」
二人は高校一年にしてここまで考えていた。その二人に対して日下部は今度はこう言った、周りは森の中になっていた。
その森の中を見回して愛実が言った。
「大学の森ですよね」
「農学部のな」
「うちの学園って緑も豊かですけれど」
「伊達に広い訳ではない。こうした場所もある」
森の中であるが鬱蒼とはしていない、整理はされていて道もある。三人もその道を歩いてここにいるのだ。
「それでもう少し行けばだ」
「狐さんや狸さんのいる場所ですか」
「そこなんですね」
「そうだ。森の中の広場に集まっている」
その狐や狸達がだというのだ。
「そこに行こう」
「わかりました。じゃあすぐだったら」
「そこに」
「君達の探している泉もだ」
この話にもなった。
「そこにある」
「?森の中にですか」
「そこにあるんですか?」
「行けばわかる」
日下部は今は多くは語らなかった。
「そこにな」
「じゃあ案内お願いします」
「そこに」
「無論だ。では行こう」
日下部は二人にまた言った。そしてだった。
「その場所にな」
「わかりました。とりあえずはですね」
「それからですね」
「聞くより行って見る方がいい」
百聞は一見にしかずというのだ。
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