ソードアート・オンライン~ニ人目の双剣使い~
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食事と新たに事件
数分後。軍の連中が逃げ去ったあと、俺はあたりを見回した。すると子供たちに抱きつかれているアスナとにやにや笑っているキリトがいた。その時
「みんなの……みんなの、こころが……」
みんなの……こころ?
「みんなのこころ……が……」
虚空に視線を向け、右手を伸ばしていた。明らかに普段とは様子がおかしい
「ユイ!どうしたんだ、ユイ!!」
キリトが叫ぶがユイはきょとんとしている
「ユイちゃん……何か、思い出したの!?」
アスナもあわてて駆け寄る
「……あたし……あたし……あたし、ここには……いなかった……。ずっと、ひとりで、くらいとこにいた……」
ユイが顔をしかめた次の瞬間
「うあ……あ……あああ!!」
ユイの体が激しく揺れる
「にい……ママ……!!」
こっちに向かって手を伸ばしてくるが俺はその手をつかもうとした。がつかめなかった。所詮システム。そう頭をよぎったからだ。その直後、アスナがユイを抱き上げ胸に抱き締めた
「なぜつかんであげなかったの?」
アスナは視線をこちらに向けて言ってきたが秘密にしていること……しかもユイについてのことなので答えることも視線を受けとめることができず、目を反らすことしかできなかった……しばらくするとその現象も収まりユイの体から力が抜けた
「何だよ……今の……」
キリトの呟きは、おそらく正しいであろう答えをもつ俺は言ってしまって、ユイとキリト、アスナの関係がギクシャクしたものにならないか心配で答えることができなかった
次の日キリトはサーシャに尋ねた
「サーシャさん……」
「はい?」
「……軍のことなんですが。俺が知ってる限りじゃ、あの連中は専横が過ぎることはあっても治安維持には熱心だった。でも昨日見た奴等はまるで犯罪者だった……。いつから、ああなんです?」
「方針が変更された感じがしだしたのは、半年くらい前ですね……。徴税と称して恐喝まがいの行為を始めた人と、それを逆に取り締まる人たちもいて。軍のメンバー同士で対立してる場面も何度も見ました。噂じゃ、上のほうで権利争いか何かあったみたいで……」
「内部分裂を起こした……まあ、あの人数ならしょうがないかもしれないな」
「でも昨日みたいなことが日常的に行われてるんだったら、放置はできないよな……」
キリトは俺の台詞を引き継いで言った。とその時、キリトは不意に顔をあげ入り口に目を向けた。俺は反射的に索敵スキルで扉の外をサーチする。すると
「誰か来るぞ。一人……」
「え……。またお客様かしら……」
次の瞬間、館内にノックの音が響いた
腰に短剣を吊したサーシャと付いていったキリトが連れてきたのは、<<軍>>のユニフォームに身を包んだ長身の女性プレイヤーだった。一瞬、剣に手をかけるが、キリトが隣にいるということで、俺は剣から手を離した。子供たちとアスナは一斉に黙るが「みんな、この方は大丈夫よ。食事を続けなさい」という鶴の一声でまた騒がしくなった
「ええと、この人はユリエールさん。どうやら俺たちに話があるらしい」
ユリエールは俺とアスナに視線を向け頭を下げて挨拶をした
「はじめまして、ユリエールです。ギルドALFに所属してます」
……ALF?いつの間に軍は名前を変えたんだ?と思ったが<<軍>>は俗称であったと思い出す
「はじめまして。わたしはギルド血盟騎士団の……あ、いえ、今は一時脱退中なんですが、アスナと言います。この人はソロのリン。この子はユイ」
紹介されたので立って一礼。ユイは顔を上げるとユリエールを見つめる。首をかしげるが、ニコリと笑い再びフルーツジュースに視線を戻す
「KoB……。なるほど、道理で連中が軽くあしらわれるわけだ」
「……つまり、昨日の件で抗議に来た、ってことですか?」
「いやいや、とんでもない。その逆です、よくやってくれたとお礼を言いたいくらい」
「……」
事情が読めないアスナとキリトは沈黙するが、俺は口を開く
「ユリエールさんは恐喝連中とは別の派閥に所属していると考えていいよな?最近、恐喝が多くなっていることからおそらく勢力が弱くなってきた派閥に」
ユリエールは空色の瞳を大きく開き口を開いた
「……ご明察の通りです。実はそのことであなた方にお願いがあって来たのです」
「お、お願い……?」
頷くとユリエールは続けた
「はい。最初から、説明します。軍というのは、昔からそんな名前だったわけじゃないんです……。軍ことALFが今の名前になったのは、かつてのサブリーダーで現在の実質的支配者、キバオウという男が実権を握ってからのことです。最初はギルドMTDという名前で……、聞いたこと、ありませんか?」
「<<MMOトゥデイ>>の略だろう。SAO開始当時の、日本最大のネットゲーム総合情報サイトだ。ギルドを結成したのは、そこの管理者だったはずだ。たしか、名前は……」
「シンカー」
ユリエールが割り込みキリトの言葉を受け継いだ
「彼は……決して今のような、独善的な組織を作ろうとしたわけじゃないんです。ただ、情報とか、食料とかの資源をなるべく多くのプレイヤーで均等に分かち合おうとしただけで……」
MMORPGの本質はプレイヤー同士競いあうものだ。ましてや、このSAOにとらわれた人の大半は熱狂的なプレイヤーだろう。それなのに分かち合おうなんて無理だろう
「そこに台頭してきたのがキバオウという男です。彼は、シンカーが放任主義なのをいいことに、同調する幹部プレイヤーたちと体制の強化を打ち出して、ギルドの名前をアインクラッド解放軍に変更させました。更に公認の方針として犯罪者狩りと効率のいいフィールドの独占を推進したのです。それまで、一応は他のギルドとの友好も考え狩場のマナーは守ってきたのですが、数の力で長時間の独占を続けることでギルドの収入は激増し、キバオウ一派の権力はどんどん強力になっていきました。最近ではシンカーはほとんど飾り物状態で……。キバオウ派のプレイヤーたちは調子に乗って、街区圏内でも<<徴税>>と称して恐喝まがいの行為すら始めたのです。昨日、あなた方が痛い目に遭わせたのはそんな連中の急先鋒だった奴等です。でも、キバオウ派にも弱みはありました。それは、資材の蓄積だけにうつつを抜かして、ゲーム攻略をないがしろにし続けたことです。本末転倒だろう、という声が末端のプレイヤーの間で大きくなって……。その不満を抑えるため、最近キバオウは無茶な博打に出ました。配下の中で、最もハイレベルのプレイヤー十数人による攻略パーティーを組んで、最前線のボス攻略に送り出したんです」
コーバッツたちかな?
「いかにハイレベルと言っても、もともと我々は攻略組の皆さんに比べれば力不足は否めません。……結果、パーティーは敗退、隊長は死亡という最悪な結果になり、キバオウはその無謀さを強く糾弾されたのです。もう少しで彼を追放できるところまで行ったのですが……」
ユリエールはそこで一旦きると唇を噛んだ
「三日前、追い詰められたキバオウは、シンカーを罠に掛けるという強硬策にでました。出口をダンジョンの奥深くに設定してある回廊結晶を使って、逆にシンカーを放逐してしまったのです。その時シンカーは、キバオウの「丸腰で話し合おう」という言葉を信じたせいで非武装で、とても一人っダンジョン再奥部のモンスター郡を突破して戻るのは不可能な状態でした。転移結晶も持っていなかったようで……」
「お人好しだな。そんな男だとわかっていたはずなのに口車に乗せられてノコノコと……」
「……お人好しがすぎたんですシンカーは……」
「要するに、軍で強い俺たちがいるという噂を聞きつけ助けて欲しいと言いにきたってわけか」
ユリエールは唇を噛んでから言った
「お会いしたばかりで厚顔きわまるとお思いでしょうが、どうか、私と一緒にシンカーを救出に行ってくださいませんか」
ユリエール深々と頭を下げた
「心証としては力を貸してあげたいのは山々だが……」
「無理なお願いだってことは、私にも解っています……。でも、黒鉄宮<<生命の碑>>のシンカーの名前に、いつ横線が刻まれるかと思うとおかしくなりそうで……」
……これはPKの手段としてはメジャーな方法に酷似している。一人が街でプレイヤーを誘い、圏外で囲み殺す。よくある手だ。これに乗るのはよほどのお人好ししか……
「大丈夫だよ、ママ。その人、うそついてないよ」
「ユ……ユイちゃん、そをなこと、判るの……?」
「うん。うまく……言えないけど、わかる……」
キリトはユイの頭を撫でたそしてニヤリとわらい俺たちに言う
「疑って後悔するよりは信じて後悔しようぜ。行こう、きっと何とかなるさ」
「相変わらずのんきな人ねえ」
アスナもユイの髪に手を伸ばした
「ごめんね、ユイちゃん。お友達探し、1日遅れちゃうけど許してね」
俺は呆れていう
「おまえらはなんてお人好しだよ……」
「と言いつつもリンもくるんだろ?」
「……まあな……」
「ありがとう……ありがとうございます……」
「それは、シンカーさんを救出してからにしましょう」
アスナはユリエールに笑いかける。俺は軽く苦笑いしながら心の痛みを隠そうとする。システムと人間の違いについて考えながら
後書き
最近忙しいです……
台風直撃のため学校休み。よって書けました。話があまり進まない……
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