IS《インフィニット・ストラトス》~星を見ぬ者~
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第五話『ストライク』
仄暗い何処かの部屋にて、日本人顔負けの艶やかな髪を持つ女性、シュハイクは自分の目の前にモニター出し何かを見ている。
「スウェン・カル・バヤンか……」
モニターに映されているのはスウェンであり、シュハイクは笑みを浮かべながらその情報を見ている。
「失礼します」
ノックの後、一人の女性が部屋に入室し、シュハイクの前に立つと敬礼をする。その女性もシュハイクと同じく眼帯をしている。
「クラリッサか。どうした?」
「訓練終了しました。30分の休憩の後、再開します」
「ご苦労。皆には無理せず頑張ってくれと伝えてくれ」
「はっ! ……ところで、そのモニターの男は前言っていた……」
「ん? ああ、彼はスウェン・カル・バヤン。グレーデュント夫妻の所に住んでいる少年で、そして……」
「3週間前にDrロイの研究所でISを起動させた……」
「そうだ、実に興味深いものだ……」
するとクラリッサはクスッと笑う。
「? どうかしたか?」
「いえ、隊長がその表情をしている時は、何か企んでいる時ですからね」
むう、とシュハイクは頬を触り。
「そんなに顔にでるか、考え物だな……」
「それで? 何をお考えで?」
くるっと回転椅子を回し、クラリッサに背を向ける。
「彼はまだ、メディア等に取り上げられていないな」
「はい、政府もいきなり現れた、男性でありながらもISを起動させる存在に驚愕しながらも、メディアを抑えて彼の事は公にしていない模様ですね」
「ISが“究極の機動兵器”として完全に認識されたこの世界。女尊男卑の世の中に変わっていくこの現状、彼のような存在が現ればうろたえるのも頷ける。政府も時を待つのだろうな、何れ現れる“二人目”の存在に」
「現れるでしょうか……」
「さあな、そもそもISが何故女性にしか起動できないのか解からないからな。こればかりは私には、な」
「はぁ……で、お考えになっているのはそれだけですか?」
「いやまだある!」
背を向けていたシュハイクは急に180度方向を変え
「彼、スウェン・カル・バヤンの目を見たんだ。あれは普通の人間の目ではなかった、戦いを……戦争を知っている目だ。あの幼い容姿からは考えられない、漂う軍人の気配。私は彼に非常に興味が湧いたんだよ」
「そこまで隊長を言わせるとは……まさか隊長、彼を?」
「ああ!」
シュハイクは椅子から腰を離し、勢い良く立ち上がる。
「彼のような存在は是非、私の手の元において置きたい! それに彼はISを使える、その才能を無駄にしたくは無い! 私はスカウトするぞ、我が“シュヴァルツェ・ハーゼ”へ!」
「……私は構いませんが、上層部と他の隊員達が何と言うか」
「そこは私から何とかしておこう! よし、そうと決まれば!!」
/※/
「という訳だ! 是非来てくれないか?」
「待て、何がそういう訳だ」
グレーデュント夫妻宅にて、シュハイクが半ば押しかけに近い形でやってきた。スウェンは呆れた表情をし、ロイとネレイスは困惑する。
「私は君という存在が部隊に欲しい! 君が居れば部隊をよりよく出来る! 年齢の方も問題ないはずだ、君より年下の者も居る。Drロイ、Drネレイス。彼を私に預けてくれないだろうか!?」
頭を深々と下げるシュハイク。
「……私は構わないけど」
「僕もだ。スウェンをしっかりとした環境で過ごさせてくれるのであれば何も言うことはないけど……」
「それには及ばない。我が部隊なら健康、食事などしっかり彼にはとらせることが出来る」
「そうか……スウェンはどうなんだい?」
「……俺は」
スウェンは俯いたまま黙り込む。
「スウェン、君はこれから先やりたいこととか有るのかい?」
「いや……」
「それじゃあ、見つければ良いじゃないか」
「?」
頭を上げ、ロイの方を向く。
「せっかくの機会だ、部隊に入隊して君のやりたいことをそこで見つければいい。君なら、必ず見つけられると信じているよ」
「……」
再び黙り込むスウェンだが、直ぐに
「……わかった。申し出、受けよう」
「本当か!? 二言は無いな!?」
スウェンは肯定の意を見せるため、縦に頷く。シュハイクは立ち上がり
「では、私は戻って君の手続きを済ませよう! 明日の午前9時迎えに来る! それでは!」
そう言い残し、シュハイクは居間を出て行き、グレーデュント宅を後にした。
「しかし、あの部隊にスカウトされるなんて……凄いな」
「そうなのか?」
「うん。このドイツ国内にある10機のISのうち、3機を保有していて、実質“最強の部隊”とも言われているんだよ」
「ほう……」
「けど……私達はああ言ったけど、スウェン君は後悔してない?」
ネレイスの言葉にスウェンはああ、と頷き
「いつまでも義父さん達の世話になる訳にもいかない、それに……さっきの言葉が無ければ俺は黙したままだった。感謝している」
「スウェン……ん? 今義父さんって……」
「ああ……前言ってくれただろう?俺はもう赤の他人じゃない、家族だって」
「スウェン君……」
すると、リズが居間にやってきて、スウェンの元に駆け寄る。
「お兄……ちゃん、軍人さんに……なっちゃうの?」
「さっきの話、聞いてたのか?」
「……うん」
スウェンはリズと同じ目線までしゃがみ、頭を優しく撫でる。
「大丈夫だ、連絡も出来るし、暇を見つけては会いに来る。心配するとこは無い」
「本当……に?」
「ああ。約束だ」
「……うん、約……束♪」
満面の笑みを浮かべるリズ。スウェンは手を離し立ち上がり
「さて、準備をしなければならないな……」
「そうだね、それじゃ始めようか」
そうして、スウェンの明日に向けての準備が始まった……。そんな中、ロイは何処かへと姿を消しており、ネレイスがぷんぷんと怒っていた。
「これで終わりか……しかし、軍か。あのシュハイクという女性を見る限り、ファントムペインのような場所ではないというのは明らかだな……」
ふと昔の事を思い出す。彼が過去に居た部隊、ファントムペインは非人道な行為を、虐殺など平気でしていた。上に立つものが悪意のある考えだと、その部隊は廃れていく。だが、シュハイクの目を見た。あれはそんな非人道なことをしている人間の目ではないとスウェンは気づいた。
「スウェン、少しいいかい?」
「?」
ロイが準備を終えたスウェンの元にやってきた。何故か息切れをしている。
「義母さんが怒っていたぞ? 義父さんが居ないって」
「ああ、訳を話したら収まってくれたよ」
「訳?」
「これだ」
ポケットから美しい光沢を見せる黒い腕輪を取り出す。
「これは?」
「SPP01だよ」
「!?」
スウェンは驚いた表情を見せる。スウェンは前にISの待機状態は、アクセサリーのようなものになると教えられたことがあるのを思い出した。
「ストライカーシステムも完成し、調整も完了した。部隊へ行く君にこれを託そうと思ってね」
「い、いいのか?これは義父さんと義母さんの研究成果で……」
「僕達の研究成果は誰かに使われなければ意味が無い。君にならSPP01を、ストライカーシステムの真価を発揮することが出来ると僕達は思ったんだ」
ロイはスウェンの手をとり、SPP01を持たせる。
「これでこれは君の物だ。どのような使い方をしても構わない、存分に使ってくれ」
「……感謝する」
「良いんだ、僕達にはこれぐらいしか出来ないからね。せっかくだ、SPP01なんて堅苦しい名前ではなくて、君が新しい名前を……良い名つけてあげて欲しい。おっと、手を止めてしまったようだね。僕はもう寝るよ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみなさい」
大きなあくびをしながら、ロイは部屋の扉を閉める。一人残ったスウェンは手にもったSPP01を見る。
「……ありがとう、義父さん、義母さん。……こいつの名は既に決まっている」
そしてこう名づけた
『ストライク』と
後書き
若干ごり押しに近い形ですが……これでスウェンはIS,専用機を手にしました。
ちなみに、シュハイクは責任者兼隊長です。実質、ラウラの前の隊長となります。
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