インフィニット・ストラトス~黒き守護者~
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絶望の淵へと落ちろ
「敵だからって………こんなこと………」
一夏の言葉に俺は呆れていた。
―――甘すぎる
俺も人のことは言えないが、それでも甘い。
「だったらそいつらに失礼だろ? まぁ、高がIS如きに本気なんて出す気は毛頭ないが」
「え……?」
「どういうことだ?」
呆然とした一夏に代わり、篠ノ之が質問する。
「もしかして、気付いていないのか? 俺はお前ら―――本気を出したのは前の下だけだぞ。あれでもディアンルグは全力を出してないが」
「嘘だろ!?」
一夏の言葉に篠ノ之は首を傾げる。もっとも、篠ノ之がわからないのは無理もない。あの時の惨状をその目で見ていないからな。
「つまり、そういうことだ。もういいだろ。これ以上、俺はお前らのお遊戯に付き合う気はない」
そう言って俺はピットに戻ろうとするが、
「私が行かせると思っているのか?」
篠ノ之が俺の前に立ちはだかった。
「止めておけ。紅椿の力を満足に引き出せていないお前が俺に勝てるわけがない」
「生憎、私は逃げる気はない」
「それがどうした? それと言い直してやる。「みんなを守る」と言っておきながら守れない雑魚の種を取り合うメス犬風情が下らない気を張るな。目障りだ」
「貴様ッ!!」
篠ノ之が突っ込んでくるが、それを吹き飛ばして壁にぶつける。
「後はお前だけだな。どうだ? 守りたいと思っていた仲間を守れなかった屈辱の味は?」
「―――まだだ」
装甲をビームが通過する。いつの間にか絢爛舞踏が発揮され、新武装の出力可変型ブラスターライフル《穿千》でこっちを撃ったのか。
「さすがは第四世代。しかもあの狂人が造っただけのことはあるな。だが―――」
「させるかぁぁッ!!」
一夏が篠ノ之と俺の間に割って入り、零落白夜の光刃が俺を襲う。
それを回避して距離を開く。
「うぉおおおおおッ!!」
二段瞬時加速を使用して俺に攻撃して通過し、ディアンルグのシールドエネルギーが減る。
「……なるほど。不意打ちからなら攻撃が当たるようになったか。だが―――それまでだ」
大型ビーム砲《メテオ》を発射して、白式の装甲は吹き飛んだ。
「一夏ァああああああッ!!」
「叫んでいる暇があるなら―――さっさと攻撃に回ればよかっただろうに」
そして篠ノ之も食らい、全員が倒れた。
■■■
『……………』
管制室にいる人間は全員が驚いていた。
『まぁ、概ね予想通りね。これで彼らも少しは自分の格を把握できたんじゃないかしら』
「……シヴァ……いつの間に……」
『姿を消していただけでずっとここにいたわ。簪みたいに来てすぐに起きたって感じかしら』
シヴァはそう言いつつ千冬の顔を見る。それに気付いたのか、千冬がシヴァに声をかけた。
「どうした?」
『怒らないのね』
「ああ。だが、個人的には気に入らないというのはある」
『だけど止めておいた方がいいわよ。今回のことは喧嘩を売ってきたのは向こう。そして武装はどうあれ、祐人は自分の実力を証明しただけなのだから』
「……そうだな」
だけどやはり煮え切らないのだろう。千冬の殺気がその場に充満していた。
『……そういえば、楯無がいないわね』
「……………」
虚は慌てて目を逸らす。
『何か知っているのかしら?』
「どこかに行ったことだけは。ですが、どこに行ったのかは知りません」
虚はそれだけ言うと口を閉じる。
『………余計なことをしていなければいいけど』
■■■
更衣室に設置されているシャワー室で誰もいないのでシャワーを浴び、着替えてそのまま部屋に戻っている。
(………やりすぎたか?)
今は俺と戦った全ISのデータを見ていた。手加減をしていたとは言え、全部がしばらくは使用できない状況だろう。
『やりすぎでしょう』
(わかってる。わかっているから―――)
『どうして今更《メテオ》なんて使用するのかと思うと、そういう意図ですか。まさか破壊衝動に駆り立てられてとは………』
セバスのお小言が傷口に塩を塗られているような感覚だった。
『しかも未調整ですよ。明らかに違法物ですよね』
そう。当初《メテオ》は別の意図に使うつもりだったので未調整だったのだが、今回は自分の頭の能力も教えるためにしたのだが………。
(やっぱりやりすぎたか………?)
まぁ、向こうから売ってきた喧嘩だ。気にする必要はないな。
そう結論付けて自室に着いたので鍵を開けてドアを開き―――
「―――おかえりなさい。ご飯にします? お風呂にします? それとも、わ・た・し?」
裸エプロン姿の楯無がいた。
ここは俺の部屋、それは間違いない。ならば―――
―――パシンッ
鳩尾を狙って殴るが、楯無がそれを防ぐ。だが、力で押し負けたのか後ろに跳躍して距離を取った。
「……痛いわね。以前と違ってパワーも増しているところかしら」
「楽に死ねると思うなよ、痴女スパイ。今すぐ引導を渡してやる」
虚空から鎖を展開して襲わせる。
「変態ゴリラに言われたくないわよ」
「何かある度に悪戯する変人が言う資格ないけどな」
というか変態ゴリラか。変態ゴリラ………ね。
「以前は顔の近くに椅子を叩きつけるだけだったが、今度は顔にぶつけてみるか」
「それって事実上の処刑よね!? まぁ、ISを展開すればなんとか―――」
「絶対防御、ね。あんな紙くずに頼っているようならまだまだだな」
「なんですって?」
その隙をついて腕を振ってイスをぶつけようとするが、それはせずにその場から跳躍した。
―――グサッ
(いや、今の音はおかしい)
そう思いながら足元を見ると、そこには出席簿が刺さっていた。
「―――色々と言いたいが、まずはそこまでだ」
開きっぱなしのドアから織斑千冬と姉さんが乱入した。
■■■
わからない。ますますわからない。
「束様………」
「あ、おかえりくーちゃん」
「すみません、束様……」
「いいよいいよ。それで、白式と紅椿の具合は?」
「はい。どちらも装甲が所々剥がれています。ですが、修復には問題はないかと」
「……そう」
束はキーボードを操作して以前襲わせた無人機とディアンルグの映像、そして今日の大型ビーム砲《メテオ》の映像を見比べる。どちらもダメージが酷く、前者の方は光線を転移させて無人機を一掃している。しかもワンオフ・アビリティーを使わずに。そしてディアンルグは二つもワンオフ・アビリティーを持っている。
「ねぇ、くーちゃん」
「なんでしょう」
「……今日のことも見てきたよね。あのゴミはどうだった?」
つい興味本位でそう聞いた。
「後半ですが、箒様に向ける目が以前に束様を向けていた目にそっくりでした」
「………それで、くーちゃんからしてあの男が箒ちゃんを殺そうとすると思う?」
「それは判別できません。以前ならないとは言えるのですが、おそらく先月辺りから不安定となってきていますので」
先月。それはあの邪魔な男を殺そうとして砲撃したが失敗した月。そして同時にあの白いISを消そうとした月でもある。
結局、コアを介して調べたがあの白いISについてはわからなかった。それ故に彼と白いISについて謎が深まるばかりだった。
(とにかく、箒ちゃんやいっくん、何よりもちーちゃんのために頑張らないとね)
そう思い、彼女は調べ始めた。
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