SAO─戦士達の物語
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GGO編
八十二話 涼人の逃避行
前書き
どうもです鳩麦です。
えー、本日より新学期が始まりました。
皆様夏はいかがお過ごしでしたか?
……すみません。ごまかそうとしました。
遅れましたこと、お詫び申し上げます……コンクールと夏期講習に追いかけまわされてました。
えー、今回はちょっとした逃避行のお話です。
では、どうぞ!!
「さーてと、んじゃ今日も帰りますかね」
12月初旬の授業終わり、HRも終わり、涼人は立ちあがる。と、近寄って来た美幸が首をかしげる。
「あれ?りょう、帰るの?」
「ん?おう」
「……また怒られるよ?」
教室の外に出ようと歩き始めながら美幸は少し苦笑しながら言う。対し、涼人は余裕そうだ。
「なぁに、行きさえしなきゃ鉢合わせになんかならねぇんだから余裕「何が余裕なのかしら?桐ケ谷君」って思ってた時期が俺にもありました」
溜息をつきながら、涼人は教室の外、廊下の向こう側からかかった顔柄の主へと首を向ける。
「よぉ風巻、奇遇だナ」
黒く腰まで届きそうな長い髪を流した勝ち気そうな顔の少女が、そこに居た。
風巻杏奈
涼人達と同じ19歳でこの学校の一応の生徒会長である。ちなみに、涼人は生徒会会計係。つまり一応涼人の上司と言う事になるのだろうか。
最近涼人が苦手としている女子だ。
「あ、風巻さん」
「麻野さんごめんね。ちょっと桐ケ谷君借りてもいいかな?」
申し訳なさそうに尋ねた杏奈に美幸は微笑んで頷く。
「うん。いいよ」
「ヲイ!?っていうか……美幸、お前気づいてたろ!?」
「だって、ここ最近ずっとりょうサボってるよね?」
「うっ……」
図星を突かれ、涼人は言葉に詰まる。こういうルールに美幸は厳しい。少なくともやるべきことはやれと言うのが彼女のスタンスだ。というかそれ自体は人として当たり前であると思われるが。
「くっそ……つーかHR終ってから此処でずっと待ってたのかよお前。暇だな生徒会長」
「我らが天才会計士どのは生徒会室までの道のりを覚えてないみたいだから、迎えに来てあげたんじゃない。生徒会長にご足労いただいたんだから感謝しなさいよ桐ケ谷君」
「はいはいアリガトウゴザイマス。じゃあなっ!」
と、突然涼人は杏奈とは逆方向に走り出した。何気に運動が出来ない訳ではない涼人は結構なスピードで廊下を走る。
「あっ、りょう!」
「桐ケ谷君!待ちなさい!」
「やなこった!!」
即座に杏奈も追いかけだし、美幸は一人その場に残される。
「やっぱり仲良いよね。二人とも」
そのままゆっくりと、美幸は昇降口へ向かい歩き出す。
『ちょっとだけ……』
あの二人は何時も言い合いをしたりはしている物の、基本的に仲良く見える。自分は少し引き気味な人間なので、自分とリョウの間にああ言った言い争い等は少ない。
しかし言い争えると言うのはより相手に対して深く踏み込もうとしていると言う事だと思う。それを思うと、美幸はほんの少しだけ、風巻杏奈が羨ましかった。
────
「待ちなさーい!!」
「断固拒否するっ!」
杏奈は全力疾走で廊下を駆け抜ける。
全くもって生徒会長にあるまじき行為だが、同じく全力で逃げる会計を捕まえるためにはやむなしだ。
いま、前方の桐ヶ谷涼人は、ソックスで走っている。と言うのも先程、彼に一度振り切られてしまったたも昇降口に行くことを許してしまったのだ。お陰で外履きを取り出されてしまったのだが……履き替えるよりも早く昇降口に待機していたもう一人の会計が涼人を発見し、慌てて校舎内に戻った所を杏奈と鉢合わせになり、これである。
そして……
「はぁっ、はぁっ……こ、此処までのようね……」
「ぜー、ぜー……し、しつけえぞお前……」
此処は校舎二階。廊下の奥であり、周囲は教室ばかりの……行き止まりである。
「さ、さぁ、一緒に生徒会室に行くわよ……桐ヶ谷くん……」
勝った。と、杏奈は思った。こうなってしまえば、最早涼人に逃亡手段はない。流石に彼も、女性に暴力を振るってまで逃亡しようとするほど粗雑で無いことは、この数ヶ月で彼女も知っている……
駄菓子菓子
「く、くくく……くくくくく」
「な、何が可笑しいの!?」
この状況に追い込まれてなお、桐ヶ谷涼人は笑った。
何処か含むようなその笑い方は、否応なく杏奈の不安を煽る……
「クックック……教えてやるぜ生徒会長。終わりだと油断した時が一番アブねぇってことをなぁ!」
「な、なにを!?っ!?」
突如、涼人は駆け出す。それも、側面の教室の扉に向かって、だ。そして涼人は……その中へと入り込んだではないか!?
『そんなっ!?こんな校舎の端っこに開いている教室なんて……あっ!?』
違う!「校舎の端」と言う静かな環境だからこそ、何時でも開いている教室が有るのだ!
[自習室]
涼人が飛び込んだ教室の扉の上には、確かにそう書かれていた。
そして杏奈がその教室に飛び込んだ時には、もう何もかもが手遅れだった。
「さらばっ!」
「あぁっ!?」
涼人の体が、教室の大きな窓から外へ消える。
慌てて窓の外に首を出すと、其処には此方を見上げて嫌みな笑みを浮かべている男が一人。
「はっはぁ!俺の方が一枚上手だったな風巻!」
「む、くぅ〜……!」
一瞬自分も飛び降りようかと思案するが、すぐに諦める。
自分は外履きを持って居ないし、生徒会長だ。(まあ逃げた相手も生徒会だが)何より……
『あ〜っ!なんで二階なのにこんなに高いのよぉ〜〜!!』
風巻杏奈は少々高所恐怖症なのだ。
そうこう思っている間に、涼人は外履きに履き替え、杏奈に向けてニヤリと笑う。
「んじゃ会長、また明日〜」
「あっ、ちょっ!?桐ヶ谷くん!待てこの不良会計士ィ!!」
「あーばよーっと!」
仕事サボって勝ち誇り、後ろ手に手を振りながら逃げ去る男子。完全にダメ人間である。
そんな背中に……
「サボり魔ァ!明日は絶対捕まえるんだからぁー!」
そんな声が聞こえた。
念の為に言っておく。彼らは、19才である。
――――
「ふぅ……ったく、今日はやけにしつこかったなあいつ……」
小走りに校門までの道を歩みながら、涼人は呟く。
「っま、逃げ切れたし、結果オーライって「そうは行かないよ、桐ヶ谷……君!」な?」
突如として、涼人は制止した。右の袖を捕まれたのだ。ギギギギ……と音を立てながら、涼人はそちらを向く。
「ふふふ、アンが逃がしたらと思って、此処で待ってた甲斐があったよ!」
「あ、天松……」
そこでは予想通りの人物が、自分の腕を掴んでいた。
小柄で線の細い身体付きをしているがスタイルは良い。
青い楕円形眼鏡の向こうの普段は柔和な表情を浮かべているその青みがかった瞳が、今は得意気に勝ち誇った笑顔を浮かべている。
天松美雨
涼人や杏奈と同じ19才で……生徒会副会長である。
「終わった……」
ガクリと肩を落とすリョウを楽しそうにクスクス笑いながら見つつ、美雨は涼人の袖をクイックイッと引っ張る。
「さ、行くよ桐ヶ谷くん。お仕事は溜まって居るのです。聞いてる?」
「はいはい聞いてますよ……うおぉー、仕事したくねぇ〜」
実はこの学校、会計係りは一際仕事がきつかったりする。
理由は簡単で、この学校には次世代学校のモデルケースとしての側面も有るために、一般公開行事なども多く行われている。そしてそれに対して、この学校は学年数が他の学校に比べ遥かに多い為、処理する仕事の量が自動的に増えるのだ。
特に11月の文化祭の時などは涼人の命も風前の灯火だったもので、それがきっかけで涼人は仕事嫌いに陥っているのである。
「だめだよ、溜めて後で後悔するのは桐ヶ谷くんなんだからね〜」
「ぬおお〜」
副会長に連行される会計の姿を見ていた生徒達は、揃って心中でドナドナを歌って居たとか居ないとか。
十分後。生徒会室に、男の野太い悲鳴が響いたと言う。
――――
「ったく、あの生徒会人使い荒いっての」
「「兄貴(りょう兄ちゃん)が悪い」」
「へい……」
夕飯の席で愚痴った涼人に、和人と直葉の厳しい意見が飛ぶ。
今日の夕飯は三人だけ……翠は今日は残業らしく、遅い。
まあ厳しいも何も19にもなって生徒会から逃げると言うのがそもそもおかしいのだが。
「それに仕事自体は苦手じゃないんだろ?なら別にいいだろ」
「そうだよ。りょう兄ちゃんお金の計算は得意でしょ?」
「計算自体は金に限定されずに得意だっつの」
「人を金の亡者みたいに言うなっ」と、生姜焼きを口に運びながら直葉を睨むと、直葉は苦笑しながら首を引っ込める。
「ま、生徒会の場合ありがたい事に文科省がパソコン配給してくれてっから楽だけどな」
「文科省……そう言えば兄貴、メール来た?」
和人の問いに、涼人は思い出したように口を開く。
「んぐ……あぁ、日曜な」
「うん」
「え?何?何の話?」
興味深々と言った様子の直葉に、涼人はニヤリと笑う。
「兄達共通の友達がな。ケーキ奢ってくれるんだと」
「えー!?何それ私も行きたい!」
「スグは部活だろ」
「う……そうだった……」
直葉は不満そうに口を尖らせたが、和人の的確なツッコミにあえなく撃沈する。
『日曜……ね』
はてさて、どうなる事やら。
後書き
というわけで短かったですがちょっとした学園コメディ的なものでした。
というわけで新キャラ二人。
風巻安奈さんと、天松美雨さん。
お二人とも原作に登場しないオリジナルキャラでございます。
そして!このどちらかが読者投稿キャラです!
彼女たちには今回のGGO編で活躍していただくつもりでおりますので、どうか皆さん、温かい目で見守っていただくとともに、彼女たちを気に入っていただければ作者としては幸いです。
ん~それにしても、新キャラ出すのってなんかこう……わくわくしますよね!!
って思ったら次回も新キャラ(原作キャラ)でるのに全くわくわくしない。何故?
ではっ!!
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