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ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します

作者:うにうに
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本編
  第13話 人見知り?嘘吐く時は関係ない!!

 おはようございます。ギルバートです。初めて原作のメインヒロイン?に、会いました。まあ情報通り、美人にはなりそうでした。

 それよりも、とにかく髪です髪。こんな坊主頭では、人前に出れません。個人的に坊主頭自体は、多少寂しさはありますが問題ありません。問題はとにかくこの髪型が、ハルケギニアでは目立つのです。朝になって鏡を見た時、この事実に気付き愕然としました。

注 黒髪も十二分に目立つが、ギルバートは気付いていない。

 対策を考えましたが、思いつくのはカツラか帽子で隠す事位です。結局カツラはすぐに用意できないので、帽子で隠す事にしました。おかげ様で、なんとなくコルベール先生の気持ちが分かった今日この頃です。

 すぐにでっち上げられる帽子は、やはり麦わら帽子でしょうか? 一から編むのは無理ですが、《錬金》で藁を布状にして形を整えれば、そこそこの物が出来るはずです。

 早速藁を調達する為に、馬小屋に行きます。昨日の内に位置を確認しておいて、本当に良かったです。

 移動中に何人か使用人を見かけましたが、早朝の為か忙しそうに働いています。母上達に伝言を頼みたかったのですが、忙しいところ邪魔するのも悪いので、まっすぐ馬小屋へ向かいました。

 問題無く馬小屋に到着し、藁を一束手に入れる事が出来ました。手に入れた藁束は、一カ所で簡単に結んであるだけなので、このまま部屋に持って帰ると、館内に藁屑をばらまく事になってしまいます。更に束ねられてる藁の量が、帽子一つ作るには多いのです。適量持って帰るにしても、過不足が出るともう一度ここへ来る羽目になります。ならば、わざわざ部屋で作業する意味はありません。私は馬小屋の裏で、帽子を作る事にしました。

 先ずは藁を縦横に均等に敷いて《錬金》で、藁布を作りました。これは一方だけだと、繊維の関係で破れ易いと判断したからです。出来た藁布に、再度《錬金》で帽子の形に調整します。実際に被って、微調整すれば完成です。

 完成品を見て、ちょっと格好悪いと思いました。藁を編んだ状態なら、藁本来の色でも見栄えはするのですが、布にしてしまったので格好悪い印象になってしまいました。これは藁自体の色のばらつきが、中途半端な縦横の模様となって残ってしまったからです。

(色を付けるにしても、染料が無ければ無理ですね……。いや、待てよ。《錬金》で色付け出来ないでしょうか?)

 試しに藁布の切れ端に《錬金》で、色付けしてみます。薄く色が付くだけで、かえって汚くなってしまいました。これでは意味がありません。

(そうだ《錬金》した金属の純度上げの要領で、色を濃く出来ないかな?)

 何度か繰り返すと、布地の色がだんだん濃くなって行きます。見た目で進捗が分かるので、途中からディテクト・マジック《探知》が必要無い事に気付き《錬金》を繰り返します。結果、藁の模様を塗りつぶし、綺麗な色を出す事が出来ました。

 本命の帽子は、黒く染める事にしました。《錬金》を繰り返し、綺麗な漆黒に染め上げます。これだとデザイン的に物足りないので、イエローの鉢巻きを藁で作り帽子にくくりつけます。

 帽子が完成したので、実際に被ってみます。まあ似合ってるかどうかは、後で鏡で確認ですね。被り心地も決して悪くありません。(《錬金》で布に加工したので、麦藁帽子の特徴である通気性は損なわれたが、逆にゴワゴワした硬い触り心地が無くなっている)

 帽子の出来に満足した私は、そこで余った藁を見ます。このまま馬小屋に突き返すのは、なんのなく気が引けました。折角なので皆の分も作って、プレゼントするのも良いなと思いました。心配をかけたはずですし。

 しかし全員分(4人分)となると、時間がかかります。母上に心配をかけるのも難なので、一度館に戻り使用人に伝言を頼みました。

 精神力の関係で、休憩を(はさ)みながらの時間がかかりる作業になりますが、急げば昼前には終わらせられそうです。朝食を食べていないので、昼食抜きは避けたいです。帽子作成の続きに集中する事にしました。

 先ずは帽子の形ですが、女の子用なので鍔を広めにしました。次に色ですが、同じ色では能が無いので別の色を送る事にしました。ディーネが、セルリアンブルー。モンモランシーが、スカーレット。アナスタシアが、ダークパープル(ナス色)。ルイズは、……白でいいや。

 同じ様に帽子用のリボンを、20色各1本用意しました。少し急ぎ過ぎたので、精神力の消耗から多少頭がふらつきますが、そのおかげか昼食の時間には少し余裕があります。

 余った藁を餌箱に放り込み、館に戻ると使用人を捕まえ、ディーネ達が居る場所へ案内してもらいました。

 皆の居る部屋に入ると、アナスタシアがいきなり抱きついて来ました。そして、盛大に泣き始めます。

(心配していたのは分かったから、服に鼻水付けないでほしいです)

 仕方が無いので、アナスタシアが泣き止むまで頭を撫でてやります。

 暫くすると、アナスタシアが泣き止みました。

「とこで、その帽子は何ですか?」

 ディーネが私が被っている帽子と、手に持っている色とりどりの帽子について聞いて来ました。

「黒は私のですが、他は心配かけたみんなへのプレゼントです」

 私の言葉にディーネは嬉しそうに頷き、他の子は目を輝かせています。

「先ずは、赤がモンモランシーの分。白がルイズで、紫がアナスタシアの分」

 そう言いながら帽子を手渡して行きます。そこでいったん区切って、リボンを取り出しました。ディーネが目で、(私には?)と聞いて来たので(ちょっと待て)とアイコンタクトを返します。

「それでこれが、帽子用のリボンです」

 黄色のリボンを取り、青い帽子に巻き綺麗に蝶結びを作ります。このリボンには、大きめに作った帽子のサイズ調整の意味があります。

「こうやって、リボンを帽子に巻きます。そしてこれが、ディーネの分です」

 そう言ってから、黄色いリボンがついた青い帽子をディーネに被せてあげました。

「リボンは1人5本までですよ。ディーネには悪いけど、選ぶ順番を譲ってください」

「はい」

 ディーネは快く頷いてくれました。そうしている間に、ルイズとアナスタシアで欲しい色が被ってしまった様です。同じリボンの両端をつかみながら、睨み合いが始まっていました。

「アナスタシア(とディーネ)には、後で好きな色を用意しますから、ここは譲ってあげてください」

 アナスタシアは不満そうにしながらも頷き、リボンから手を離しました。

(うん。良い子。良い子。家に帰ったら、もっと上等なリボンいっぱい用意してあげますからね)

 アナスタシアにアイコンタクトを送ると、今度は嬉しそうに頷いてくれました。



 リボン争奪戦(ルイズ対モンモランシー戦)が一段落すると、昼食の時間になりました。そこでルイズが私(正確には私の頭)を見ながら、注意して来ました。

「ギルバート。室内で帽子を被るのは良くないよ」

 言っている事は、至極真っ当な事なので反論のしようがりません。仕方が無いので、私は溜息を一つ吐くと帽子を取ります。そこには、坊主頭が……。

「あっ!! 髪の毛が無いから……」

(だから……無い言うな。私は、ハゲじゃないです)

 この言葉に全員の視線が、いったん私の頭に集まります。そして3人の視線は、非難の視線となってルイズに移りました。この状況に、ルイズだけが着いて行けない様です。

「えっ? なんで? わたし悪い事言った?」

 うん。言いました。

 私の頭が如何してこうなったか、ディーネが説明しようとした所で廊下が騒がしくなりました。

「あれ? 何かあったのでしょうか?」

 私は疑問に思い、ドアを開け廊下を確認します。そこには、使用人数人を引きずる母上の姿が……。

(な 何事ですか?)

 その時、私と母上の目が合いました。不味い!! 今の母上は正気じゃない。

「……!!」

 逃げようと思いましたが、間に合いませんでした。魔法でドアごと吹っ飛ばされ、窓を突き破り外へ放り出されます。後少しフライ《飛行》が遅ければ、頭から地面に着地する羽目になっていました。

 私はそのままフライで、突き破った窓から室内に戻ります。私も今の理不尽な一撃には、かなり頭に来ていました。

「何するんですか母上」

「何するんですか母上。じゃないわよ。私達がどれだけ心配したと思ってるの。このバカ息子!!」

「そんなに心配かけた、覚えは無いですけどね!!」

「ディーネちゃんの、ウォーター・シールドが間に合わなかったら今頃消し墨よ!!」

「あの時は、それ以外生き残るすべがありませんでした!!」

「それはそれ、3日ぶりに目を覚ましたのに、親に何も言わず遊びまわってるって如何いう事!!」

「遊びまわっていません!!」

 この段階で使用人等の魔法が使え無い人達は、既に避難していました。そして母上の次の一言で、ディーネとアナスタシアはルイズとモンモランシーを抱え、窓から逃げ出します。

「黙りなさい。アストレア!!」

 ブチッ!!

「ははうえ~。今の一言高くつきますよ……」

「やれるものなら、やってみなさい……ア・ス・ト・レ・ア」

 私は、魔法の詠唱に入ります。《凝縮》《錬金》《発火》の順で、流れるように詠唱します。狙いは水素爆発です。

 一方母上は、エア・ハンマーの詠唱に入ります。

 そして……。

 派手な爆音が、ヴァリエール公爵家の廊下に響きました。

 その後、廊下で気絶している私と母上が発見されたそうです。



 次の日目が覚めると、ヴァリエール公爵の所に連れて行かれました。母上は平気な顔をしていますが、私は心配な事があります。廊下の事だけなら、過去の情報からヴァリエール公爵は許してくれると思います。

 しかし私はヴァリエール公爵の気を引く為に、駆け引きをしなければならないのです。念の為母上には、話を合わせるようお願いしておきました。

 いよいよご対面です。

 部屋に入ると、公爵と公爵夫人が居ました。

「この度はご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」

 母上が謝罪をしました。それに合わせ私も頭を下げます。

「今回は不幸な偶然が重なっただけだ。よって、今回の事は不問とする」

(えっ!? 良いのですか? ケガ人こそ出ませんでしたが、修理代は結構な額になると思うのですが……)

 私がそんな事を考えている間に、母上は私を公爵と公爵夫人に紹介しはじめました。

「ギルバートです。よろしくお願いします」

「うむ。《岩雨》と《乱風》の子となれば、期待せざるおえん。あの爆発魔法も侮れんしな」

 ヴァリエール公爵は、一見上機嫌の様です。将来優秀な人材が、自分の配下に入ると考えているのでしょうか? しかし、油断は出来ません。と言うか、自分の家壊されて上機嫌とかあり得ませんから。

 私そう思っている内に、母上達の話はどんどん進んでいきます。

 どうやら今回の一件は、本当に不幸な行き違いが原因の様です。

 最初に私が居ない事に最初に気付いたのは、公爵に私の世話を任された使用人でした。夜中に番を決め私の面倒を見ていた使用人が、交代して私の部屋に来るとベッドがもぬけの殻になっていたのです。慌てて探しましたが、私は見つかりませんでした。そしてそれが、そのまま公爵へと連絡されます。(帰りにすれ違った人は、連絡を受け確認に走った人だった様です)

 その報せを聞いた公爵は、判断ミスを連発します。「まさか、公爵家に賊が侵入したのか?」等と勘違いをし「使用人達には伝えるな。混乱を招くだけだ」と、この事を知る使用人達を隔離しました。「信用できる者だけを使い捜索を行うぞ」と指示を出し「今のシルフィアは冷静な判断が出来ん。待機(かくり)しておけ」と、母上の事を閉じ込めました。しかも捜索は屋敷内から行われましたが、私が捜索済みの部屋(私の部屋)に居たので見つけられまず、探索範囲を外にまで広げる事になったのです。

 当然何時まで経っても見つける事が出来ず、私の伝言も捜索に出て居た所為で書置きになってしまったそうです。しかもその書置きが置かれた場所は、公爵の執務室です。屋敷外の捜索隊を指揮する為に、兵舎に居た公爵は気付けませんでした。

 そして勘違いに気付いたのは、朝食を抜いた上に昼食も抜く訳には行かず、カリーヌ様と本館に戻って来た時です。そこで初めて書置きに気付き、使用人達に確認が行きます。そして出て来たのは、私を目撃したと言う多数の使用人達の証言でした。

 その知らせを受けた母上が、公爵達を吹き飛ばしながら飛び出して、あの惨状につながったと言う訳です。

 今回の責任は、ヴァリエール公爵にもあったと言う訳ですね。それでも、不問は無いと思うのですが……。しかし、ヴァリエール公爵がこの有様って……。もしかして、判断を鈍らせる何かがあったのでしょうか?

 大体の話は分かりましたが、腑に落ちない点が残りました。

 それは置いておくとして、私は公爵の気を引く行動に出なければなりません。

「公爵様」

「なんだ」

「実はある人から、伝言を預かっていまして……」

「伝言?」

「はい。マギと言うメイジで、学者と商人を兼業している人なのですが……」

「ほう。言ってみよ」

「はい。……爆発魔法の正体と対策を知っている。ご興味がおありでしたら、一度お会いしたい。……以上です」

「爆発魔法? 君が使った魔法か?」

「いえ、別物と聞いています。私が使った爆発魔法は、複数の系統魔法を組み合わせたものです。内容はマギが開発した秘伝ですので、無断で話す事は出来ません。マギに聞いた話だと、コモン・マジック系統魔法に関わらず、全ての魔法が爆発するらしいのです。とても信じられ無い話なのですが……」

「そのような事、あるはずが無いだろう」

「はい。私もそう思います。しかしマギは、この様な冗談を言うタイプの人間ではありません」

「ふむ ……だが、会う訳には行かんな」

「はい。そのように伝えておきます。お話を聞いていただき、ありがとうございました」

 予想通りの話の流れです。これでルイズが魔法練習を始めれば、マギとのパイプとして繋がりが出来ます。この後は、マギを行方不明にしてしまえば良いのです。しかし、念は押しておくべきでしょうか? 私は、もう一つのプランを実行する事にしました。

「ところでカリーヌ様」

 ターゲットは、公爵夫人のカリーヌ様です。

「カリーヌ様は、あの《烈風》のカリン様と親しい。と、お聞きました」

「そうね。親しいと言えば親しいわ」

(本人が白々しいですね。と言っても、それはお互い様ですか)

「実はマギの友人がカリン様のファンで、いろいろな事を調べたらしいのです」

「そうなの?」

「しかし出てくるのは、信じ難い話ばかりだったそうです」

 カリーヌ様の目が、僅かに鋭くなりました。

「どんな内容?」

「はい。戦場で華々しい戦果をあげる一方で、私生活は酷いものだったと」

「それで?」

 うわぁ。……怖い。

「なんでも奇抜な格好で王都を練り歩き、ユニコーン隊と派手に喧嘩をし、衛士隊を一度首になったとか……」

 うわ。表情変わらないのに、一瞬血管が浮びました。

「他にも“吸血鬼の姉妹を捕まえて毎晩相手をさせていた”とか……“同室の同僚の男に毎晩夜這いをかけていた”とか……酷いものでは“マリアンヌ様と愛人関係だった”とか……」

「情報源は?」

 平坦な声が怖いです。

「いえ、又聞なので分からないと言っていました。マギは僻みや嫉妬から来る、根も葉もない噂話だろうと言っていました。でも、その友人がマギを介して取り寄せた絵を、たまたま見る機会があったのですが。その……凄かったです」

「どの様な絵なの?」

「題名は《烈風》のカリンの真の姿です。2枚で対になった大きな絵なのですが、同じ服装で前からの絵と、後ろから振り返るような絵です。格好自体は、ユニコーン隊と喧嘩した時の物と聞いています」

 カリーヌ様の顔が、明らかに引きつりました。

「上着はギンギラサテンイエロー。羽やレースが一杯付いていて、マントには大きなマンティコア。真っ白なズボンは、尻尾付きで竜が刺繍され目玉は宝石。宝石だらけの蝶の形のマスクと、帽子には髑髏の模様入りで更に水晶の大きな髑髏が付いていました。……あれ? そう言えば、その絵のカリン様とカリーヌ様って似ているような……」

「もう良いわ。忘れなさい。それから、先程の返答を変更します。マギと言う人に会いましょう。そして、どんな手を使ってもその絵を処分しなければ……」

「えっ、でも……」

 カリーヌ様は私の両肩をガシッと掴み、物凄いプレシャーをかけながら、私をがくがく揺らします。流石に見かねたのか、公爵と母上が私からカリーヌ様を引き離してくれました。



「とにかく、出来るだけ早くマギと言う人に会わせなさい」

 少しして落ち着いたカリーヌ様が、そう命令して来ました。しかしここで、ハイと返事する訳には行きません。

「あの。……マギの使い魔が、逃げちゃいました」

 窓を見ながら、そう言ってあげました。

「「…………なっ!!」」

 これで目標達成です。公爵家は、マギに会いたい理由が増えました。やはり一番の理由は、ルイズの爆発魔法についてでしょう。次の理由が《烈風》のカリンの絵の処分と口止めですね。一方でマギは、公爵家に接触したくない理由が出来ました。こちらは“友人を貴族に売る訳には行かない”と言うのと同時に、商人として顧客情報の漏えいは信用問題に繋がります。覗きの無礼打ちもありえるので、マギが公爵家を避ける理由も出来ました。

 こんな状態では、パイプ役として碌に機能しません。しかし公爵家にとって、マギとの接点はドリュアス家のみです。後は適当なところでマギを、行方不明か死亡したとすれば良いでしょう。強引な手を使うなら、ツェルプストー領に逃げると言えば良いのです。

 細工は流流仕上げを御ろうじろ……です。おっと、黒い笑いが漏れそうになってしまいました。

 カリーヌ様は尚も会わせる様に言って来ましたが、私は「マギは友人を売るような真似は、絶対にしないと思います」と、言っておきました。

 話はこれで終了です。部屋を退出する際、カリーヌ様が酷く憔悴していました。

(少しやり過ぎましたか? ……まあ、ここは仕方がありません)



 私は母上と一緒に、来客用の離れに移動します。

 母上は自分の部屋に、私を招き入れました。どうやら先程の話の補足がある様です。部屋に入ると鍵をかけ、サイレントで人に話を聞かれないようにします。そして母上が話し始めた内容は、思わず耳を覆いたくなる様な物でした。

 先ず今回の一件を発案したのは、ヴァリエール公爵だったのは良しとしましょう。睨み合いが続く状況で、何時までも屋敷に子供を閉じ込めておきたくないと思うのは、至極当たり前の事です。それが叶わないなら、せめて同年代の遊び相手を……と思うのも当然でしょう。だからヴァリエール公爵は、アホ貴族を抑える仕事を引き受け私達を招待したのです。そしてその仕事は成功し、完璧に敵を抑え込み手を出せない状況を作り上げました。

 しかしこの状況でもなお、動き出した馬鹿がいました。これには公爵だけでなく、敵の高等法院の連中でさえ予想外の事でした。その中で最も想定外だったのが、馬鹿の中にギアス《制約》を使える高位の水メイジが居た事です。

 そして護衛に着くアルノーさんには、妹が居たのです。敵はこの妹に目をつけました。妹を拉致しギアスで洗脳、モンモランシ伯を裏切る様にせまったのです。

 ですが、アルノーさんは優秀で、妹がギアスにかかっている事を初見で見破ります。しかし敵に妹を人質にされ、捕まってしまいました。そしてアルノーさん自身も《制約》で洗脳されてしまいます。

 結果……アルノーさんは私達を殺そうとしたのです。

 アルノーさんは洗脳されていただけで、裏切り者でも敵でも無かったのです。そしてそんな人を私は


 …………コロシテシマッタ。


 激しい吐き気が私を襲います。いっその事本当に吐いてしまえば、楽だったのかも知れません。しかし更に、吐き気がする話が続きます。

 アルノーさんの妹は、死体で見つかったそうです。 

 死体は酷い有様で、何度も暴力を振われた跡があったそうです。それだけでなく、何度も性的に乱暴された跡もあったと言います。しかし母上はこの時だけ、私から目を少しだけ逸らしました。

(母上の態度からして、おそらく死体はもっと酷い状態だった。それも感覚がマヒして、私にそこまで話しても問題なく感じてしまう程に……)

 これで敵を追い詰める証拠が、いくつも出て来たのは皮肉としか言いようがありません。この事件の直後だけに、私が居なくなったと報を受け母上達は本気で焦ったそうです。使用人達の中に、ギアスで操られている者がいるのではないかと……。

(それが、あの判断ミスにつながってしまった訳ですね)






 ……この世界には、なんでこんなに腐った奴等が居るんだろう? 
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