人狼と雷狼竜
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不器用な言葉
「ふう」
ヴォルフは溜息と共に瓦の上に寝転んで、照りつける太陽を見る。
溜息を吐くと幸せが逃げる、と神無が言っていたのを思い出したが、背中に当たる固くて凸凹した感触が心地良いので、そうでもないと思った。
ヴォルフの溜息の原因は村長の謀略によるものだ。なんと、四季上家に居候する事になったのだ。
本来ならば旅館を兼ねている集会場を利用する筈だったのだが、気が付いたらこの事態だ。
ユクモに着いた時に村長が寝床について云々言っていた事が、まさかこんな事になるとは思っても見なかった事だ。
あの村長の嫌な笑顔――――――満面の笑みだったがヴォルフとしては最悪だった――――――を思い出すたびにウンザリする。
謀ったな、と思わず口にした時は『坊やですから』と視線で答えられた時には途方に暮れるしかなかった。
そうして四季上家に改めて向かい、既に知っていたらしい三人に歓迎の挨拶をされて家中を案内された後に自室にと、二階にあった空室を与えられた。亡くなった父親の部屋だ。
亡くなった後も手入れをしつつそのままに保存されていたようで、六畳一間の実に綺麗な部屋だった。
窓を開ければ陽の光と良い風が入り、小さいながらも緑の多い庭が見渡せる。
しかし、人付き合いが苦手な自分をいきなり三人もの他人と同居させるというのは、暴挙も良い所だった。
ヴォルフはそれで良しとはしなかったが、かと言ってあの三人の厚意を無下には出来なかった。
「ヴォルくーん、入るよー?」
神無の声が聞こえ、戸が開く音が聞こえる。どうやら神無が入室してきたようだ。
「あれ? ヴォル君?」
神無がヴォルフを探す声が聞こえる。
「おかしいなぁ。下に降りて来てないと思ったのに……」
ヴォルフは起き上がると屋根瓦を割らないように端まで歩き、屋根から下りた。
「ここだ」
「え?」
神無がヴォルフの声につられて窓の外を見る。屋根からぶら下がったヴォルフが目に入った。
「ヴォ、ヴォル君!?」
神無の前で身体に身体を揺らして勢いを付けて部屋に入り込んだ。本来ならばひとっ跳びで入れたのだが、神無が何処に居るか分からないのに、そんな衝突の可能性を無視する訳にはいかなかった。
「ヴォル君? 屋根の上で何してたの?」
「寝ていた」
「お昼寝? それなら言ってくれればお布団敷いてあげたのに」
「柔らかくて落ち着かない」
「落ち着かないって……?」
神無は不思議そうに小首を傾げてヴォルフを見ている。
「普段どんなところで寝ていたの?」
「木の太枝や倒木の上、岩の上、地面に直接……」
今まで寝床にしていた物を一つ一つ思い出しつつ答える中、神無の顔は徐々に呆れたものへと変わっていく。
「もう、硬いところで寝ると身体を痛めちゃうんだよ? それに屋根の上なんてダメ! 落ちちゃったらどうするの?」
「あのデコボコは気に入ってるんだが……」
「ダメだよ。せめて床で寝るの!」
「……」
ヴォルフはなにか間違っていないか? と思いつつも無言で足元を見る。食事部屋の畳とは違う板張りの床だ。妥協できる範囲ではあった。
「で、何の用で来た?」
「ヴォル君、何してるのかなって」
「……」
昼寝をしようと思っていた訳だが、その気はもう無い。そう思って窓の外へと目を向ける。
「ね、ちょっと出掛けない?」
「狩りか?」
「違うよ~。町に行くの。色々見て回ろうよ。それに加工屋のお爺ちゃんも心配してたんだよ? 顔見せに行こうよ」
ヴォルフの言葉に神無は苦笑しながら答えた。
「それに何か美味しそうなものがあるかも……」
「行くぞ」
神無が言い終わる前に、ヴォルフは戸を開けて部屋の外へと出ていた。
「……食いしん坊だなぁ」
そんなヴォルフに呆れつつも、そんな反応が何処か子供染みていてカワイイと思った神無は、部屋を出てヴォルフを追いかけた。
ユクモ村の商店街は多くの村民や村を訪れた人々で賑わっており、とてもモンスターによる危険が増したとは思えないほどだった。
そんな中で、俺は神無に案内された出店で昨日食べ損ねた串団子を食べていた。
ほんのりとした甘みと、この餅という団子の独特の噛み応えが新鮮で実に美味しい。
桃色、白、緑と見た目でも楽しませてくれる上に、それぞれ味が違うというのも面白い。
俺は過去、これを食べたことがあったのだろうか?
「ヴォル君って甘い物が好きなの?」
隣でお茶を飲んでいた神無が話しかけてくる。取り合えず待てと手で合図しながら飲み込んだ。
「ああ。無人地帯では食料の偏りはどうにもならない。甘味は蜂蜜や木の実位で貴重なものだ。人里に降りた時には色々と食べたが……」
「どんなものを食べたの? 特に印象に残ってるもので良いから教えて?」
神無が興味を持ったのか少し身を乗り出して尋ねて来る。
「……細長い三角形で、専用のナイフとフォークで切り分けながら食べる物だった」
「ああ! それケーキだよ! 良いなぁ……この辺りじゃ職人さんがいないから滅多に食べられないんだよ?」
そうだった。確かケーキとかいったな。見た目がやたらと派手で甘味が濃かったのを覚えている。でも美味かったな。
「神無は食べたことあるんだな?」
「うん。結構前に職人さんが湯治に来てね。だけどその人道中にお金落としちゃったみたいでね、それで宿泊費代わりに作ってたの。材料とか器具は持ってたみたいだけど、村にある釜戸が作成に適してなかったの」
それでどうやって作ったのだろうか? 俺の疑問が分かったのか、神無が何処か嬉しそうに笑う。
「それでね、釜戸をその人の為にって加工屋のお爺ちゃんが造っちゃったんだよ。ケーキ作りの為の専用の釜戸をね」
それは大したものだな。
「お爺ちゃんは昔外に出てた時に食べた事があったみたいでね。その為だけ張り切って造ったの。村の皆も職人さんも感激してた。追加の材料も村の外からも頑張って揃えてね。最後は大きなケーキを村の皆で食べたんだ。本当に美味しかったなぁ」
神無の目が遠い。当時の事を思い出しているのだろう。
「あの時は小冬もお姉ちゃんも大騒ぎでね。欲張った小冬が一番食べてた気がする」
まぁ、アイツらしいな。
「職人さんはその後暫く居たんだけど、やっぱり帰って行っちゃった。でもね――――」
神無が言葉を一度止めた。
「職人さんはまた来るって言ってた。今度来るときは自分の弟子を連れて来るか、それとも引っ越して来るかもって言ってた。ホントにそうなるかどうかは分からないけどね」
そう、神無は楽しそうに語った。例え職人やその弟子が戻ってこなくても、神無はその思い出を大切にしているように見えた。
「……」
俺はそれに何て答えてやれば良いのか分からず、黙して団子を食べていた。
「お~い!」
遠くから声が聞こえた。聞き覚えの無い女の声だ。
声の方向からは、皮製の戦闘服を着た見知らぬ女がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「朱美さん! ヴォル君。あの人がヴォル君を運んでくれたんだよ」
む、知らぬ内に貸し作っていたか。何にせよ助けられたことには感謝しよう。
「やあ。キミがヴォルフ・ストラディスタだね? 本当に目を覚ましているとはタフな男だね」
「アンタには助けられたようだな。感謝する。何れ何処かで恩を返そう」
俺の言葉に朱美という女は少しびっくりしたようだ。
「オイオイ。そんな事イチイチ気にしなさんな。あとこれ、キミの肉焼き道具」
彼女はそう言って、俺の肉焼きセットが入っているらしい革袋を差し出してくる。
受け取って中身を確認する。ご丁寧に綺麗に洗ってある。
「何から何まで悪いな」
「ん? ああ、洗ったのはアタシじゃない。椿と梓だ。昨日、信号弾のせいでジンオウガと戦闘に入ったのを理解してたみたいでね。君を運んだ後にアタシが回収してきたのを見て、洗わせてくれと言ってきたんだ。少しでも詫びて置きたかったんだろうね」
……ああ、あの二人か。あの時、火を土で消したときは無礼な奴だとは思ったが、そうでもなかったようだな。あの時は俺も悪かったが。
「一応言っておくけど、焼きかけの肉と残ったガーグァは無理だったからね。昨夜のうちに消えてたよ」
「あの辺りにはメラルーがいた。器具が残っていただけでも僥倖だ」
肉焼きセットが入った袋を地面に置、茶を飲む。む、この苦味と渋味が何とも言えん美味さがある。この団子甘味と実に合う。
「そうそう。キミに訊きたかったんだけどさ?」
言葉と共に朱美の気配が鋭くなる。この女……この針の先を目の前に突きつけられるような感覚……小銃使いの狙撃手か。
「正太郎の奴に何してくれたんだい?」
朱美は完全に殺気立っている。その雰囲気に神無は戸惑いを隠せないようだ。
正太郎……ああ、あの門番か。
「勝負を挑まれたから受けて立った。それだけだ」
俺の言葉を聞いた朱美はあからさまに顔を顰めた。
「どんな負かし方したら、あんなに落ち込むんだい?」
「どのように落ち込んでいるかは見当もつかんが、身の程を思い知らせただけだ」
「へえ? じゃあ君自身は身の程を知っているのかな?」
「ああ。少なくとも奴よりは」
「見せてみなよ?」
そう言いつつ、朱美の右手がゆっくりと肩に水平になるように持ち上げられ、俺はその動きを封じる。
朱美の背中に掛けられた小銃を掴もうとする手を、抜き放った刀を手首に添える事で止める。
「っ!?」
「ヴォル君!?」
「左手がナイフを握っているのも見抜いている。アンタも身の程が分かったか?」
神無が声を上げるがこの際だから無視する。余計な事に巻き込んだのは申し訳ないが、この女には理屈よりも身体で理解させるほうが手っ取り早い。
「……成程。アイツじゃキミの足元にも及ばないな」
朱美は悔しそうだったが事の次第を理解したようだった。肝を冷やしたらしく、大きく息を吐いている。神無も隣でホッと息を吐いている。
「とんでもない速さと正確さだ。一体いつ抜いたのか見当も付かないよ」
そう言いつつ両手を下ろして負けを認める。
潔いな。どこぞの誰かとは大違いだ。
「それはそうとして、アイツを何とかしてくれないか?」
「何故俺が?」
唐突に出てきた言葉に思わず疑問が出てくる。
「アイツを打ち負かしたのはキミ」
「そうだ」
「ならアイツを立ち直らせるのもキミ」
「何故?」
意味が分からない。
「そりゃ男同士だし。自分を打ち負かした相手に手を差し伸べられるってのは屈辱だろうけど、それを切っ掛けに復活するかもだ」
……滅茶苦茶な理由だな。それともコイツは負けた腹いせに面倒ごとを押し付けたいのか?
「そんな訳で任せたよ」
「待て、勝手に決めるな」
「悪いね、これから出発するんだ。結構遠出になるからね。アタシにはあの馬鹿に構ってる余裕は無いんだ。じゃ、頼んだよ」
言うや否や走り去って行った。やれやれ、どうやらやるしかないようだな。
「ヴォル君?」
「仕方ない。奴に会いに行くとしよう」
団子屋で勘定を済ませて去るヴォルフと神無を、建物の影から朱美は観察していた。
身体は小刻みに震え、全身が冷や汗でベタベタになっている。先程ヴォルフに刃を向けられた時に向けられた重圧は、まるで飛竜にでも睨まれたかのような感覚で、我ながらよくも逃げ出さなかったものだと感心するくらいだった。
あの一瞬で、彼女の首は身体と別れていたかもしれないのだ。それは明確な恐怖として朱美を苛んでいた。
「……人狼か。ま、問題を起こすような奴じゃあなさそうだね。だが……」
一度ヴォルフの隣を歩く神無の背を見る。ヴォルフに視線を向ければ恐らく気付かれるので、意識しての行為だ。
「人斬りだってのは、間違いなさそうだ」
そう呟いてから物陰から出た朱美は、集会場のほうへと歩いて行った。
ユクモ村には農場がある。
ここは村の農民が作物を育てる為の田畑があるだけじゃなく、ハンター達が狩りに使う道具となる物を栽培する所でもある。
現に、畑にいるのは鍬を持つ農家の人間だけではなく、戦闘服を着たハンターが自身の植えた薬草などの栽培結果などの確認、更にはアイルーが主の変わりに田畑を耕し岩場を掘って鉱石などを探している。
また、農場は河川に面しており網に掛かった魚を引き上げる場面もあった。
この魚は食料となるばかりか、骨や鱗が弾丸や爆薬の部品に使えるなど、用途が多いものが多く獲れる。
そんな中で、作務衣姿で頭に手拭いを巻いた小野寺正太郎は、ぼんやりと空を眺めていた。
いつもなら村の入り口に立って門番を務めているのだが、今の彼にはそれを行う気力が無かった。それは――――――
「門番の仕事はどうした?」
見下ろすように立った金髪の男ヴォルフ・ストラディスタに昨日、完敗したからである。
「なっ! てめぇ!?」
正太郎は飛び起きてヴォルフと距離を取る。
彼はは顔を引き攣らせてヴォルフを……正確には腰に差された刀を見ている。
背中に手を伸ばすが、肝心の太刀が存在しないことに愕然とする。当然だ。太刀は昨日、切られたばかりなのだから。
「安心しろ。お前を斬る気は無い」
当の本人は腕を組んでつまらなそうに言う。
「じゃあ、何しに来やがった? 見下しにでも来たのかよ?」
「そんな暇も理由も無い」
溜息混じりに告げるヴォルフに掴みかかりそうになる正太郎だったが、ヴォルフの後ろには神無がいた。心配そうに様子を伺っているのが分かる。
「じゃあ何だよ? 何しに来たんだよ?」
「為すべき事を為せ。そう言いに来た」
正太郎はヴォルフの言葉に目を見開いた。だが、目を逸らして舌打ちする。
「辞めだ。門番なんざ、廃業だよ」
「何故だ?」
「ああ!? 決まってんだろ! お前に負けちまったからに決まってんだろうが! 負けちまった門番に何の意味も無ぇ!」
正太郎は激昂し、感情に任せて怒鳴り散らした。その剣幕に神無だけではなく、農場にいた全ての人間が驚いている。
「……本当にそう思っているのか?」
「ったりまえだ。弱くて門番なんざ勤まるかよ。ああ分かってたさ! 俺ぁ弱ぇよ! 狩りにだって怖くて行けねえよ! だけど俺は生まれ育ったこの村が好きなんだ。だからせめて門番にもなって村を守りたかった! 口だけでも自分を少しでも強く保ちたかったよ!」
ヴォルフは黙って彼の言葉を聴き続ける。
「けど、それももう終わりだ。お前みたいなバケモンが来たなら、俺なんかいなくても村は平和だろうさ。俺に意味なんて無ぇ! だから、俺にもう構うんじゃねえよ!」
正太郎はそう吐き捨てると共にヴォルフに背を向けて歩き始め――――――
「そうか。なら、時間の無駄だったな」
気が付いた時には顔から地面に叩き付けられていた。
「ヴォル君!?」
『!?』
神無や農場の人々が突然の事態に声を上げるが、ヴォルフは構わずに右手に握った正太郎の頭を地面に押し付け続ける。
「そうだな。お前の言うとおり、意味の無い者などいるだけ無駄だ。自害する気も無いのなら、止めを刺してやろう」
言葉と共に更に力が込められて指が頭に喰い込まんばかりに握り締められ、額が更に地面に押し付けられる。このままでは頭蓋骨骨折で死に至るだろう。
「が!? ぁぁぁぁっ!? あああああああああああ!?」
正太郎は必死になってもがいた。死にたくなかった。今まで惨めな思いをひた隠しにして自分すらも誤魔化して生きてきたというのに、この仕打ちは何だ? 一体何が自分をここまで不幸にするのだ?
「ふッッッざ……けんな! ふざけんじゃね……ぇぞ! この、クソヤロウ!」
だから叫ぶ。あらん限りの憎しみを持って! あらん限りの力を尽くして! この暴挙を犯す男にせめて一矢報いる為に!
「それで良い」
静かな言葉と共に身体が大きく引っ張られ、頭の拘束が抜けた感覚と共に宙を舞うような不思議な感覚が正太郎を襲う。
「へ?」
そんな間の抜けた声を上げた直後、激痛と共に背中を土が擦る音が聞こえた。
「ぐぎゃ!?」
正太郎は未だに激痛が走る頭を抑えつつ立ち上がると、こちらを見ているヴォルフを見据えた。
「てめえ! 一体何を……」
「俺が憎いか? なら俺を倒せ。倒せないのなら、自身に誇れるお前になれ」
そう言ってヴォルフは正太郎に背を向ける。
「そんなお前自身になってみろ」
ヴォルフはそう言って去って行った。その光景を、正太郎を含めた全員が唖然と見詰めていた。
「何だよアイツ。訳わかんねえ……」
「……励ましてくれたんだと思いますよ~」
呆然とヴォルフの背中を見送っていた正太郎に、いつのまにか現れた夏空が話しかける。
「え? どういうことなのお姉ちゃん?」
「夏空さん……なんでアイツが俺を励ますんで?」
正太郎と神無の言葉に、夏空はもう見えなくなったヴォルフの去った方向を見て言う。
「見ていられなくなったのだと思います。ヴォルちゃんは……詳しくは知りませんが、今までの人生をずっとモンスター達と戦いながら生きてきたのです」
「……」
「そんな人生を歩む中で、人と触れ合うことなく生きてきたんだと思うんです。ですから多分、人狼なんて呼ばれるようになったのだと……」
「人狼!? アイツが!?」
正太郎が目を見開いて叫んだ。
「ヴォルちゃんは弱気になって絶望して、死んだ人を多く見てきたんだと思います。だから見てられなくなって、せめて憎しみで正太郎さんを絶望から解き放とうと、あんな事をしたのでしょうね~」
乱暴過ぎますけど~、と夏空がそんなヴォルフの不器用な気遣いを締めくくった。
「そうなんだ。お姉ちゃん、よく気付けたね? 私、怖くてそんな事考えられなかった」
「あらあら、ヴォルちゃんはああ見えて優しい子なんですよ。神無ちゃんもまだまだです~」
自分自身の至らなさに不満な神無と、そんな神無を夏空は彼女の頭を撫でながらからかうことでその意識をそらす。
「もう。お姉ちゃん、普段ぽやぽやなのにこういう時だけはやけに的確なんだから……」
「お姉ちゃんですから」
逃げようとする神無だが、夏空の手は神無の逃げる先を知っているように神無の頭を撫で続ける。
「おっしゃあ! なんかやる気出てきたゼ!」
と、先程まで黙っていた正太郎が地面を大きく踏み鳴らしながら叫ぶ。
「あ、あら? 正太郎さん?」
「ありがとうよ夏空さん。俺はもう少しでアイツを恨んでいた所だった。だが、これからは違う。俺はアイツに追いついてみせるゼ! 見てろよ好敵手!」
「そ、そう? 良かったね正太郎さん」
妙なテンションが爆発している正太郎を、神無は引きながらも言った。
「そうと決まりゃあ特訓だ! だが、何をすれば良い? どうすりゃ俺は強くなれる!?」
正太郎は頭を抱えつつ晴天の空を見上げ、問いを投げかける。
農場の人々がそれぞれの作業に移って行く。また正太郎が暴走を始めた事が分かったのだろう。
そうして夏空と神無に見守られている中で天を仰ぎ始めたところで……
「分かったァ! アイツに剣を教われば早く強くなれる筈だ! うおおおおおおおおおおおお! ヴォルフ! 俺を強くしてくれええええええ!」
と、答えを見つけたのか、全速力で農場を走り去っていった。
「良いのかな。あれ?」
「た、多分大丈夫だと……」
盛大にドン引きした神無と夏空が、もう見えなくなった正太郎の去った方向をみて呟くように言った。
「成る程……その手があった。正太郎如きに出し抜かれるとは不覚ね」
不意に沸いて出たかのように小冬がその姿を現して呟いた。
「私も教わろう」
小冬はそう言いつつ正太郎の去った方向へと歩き始め、夏空と神無に肩越しに振り向き――――
「お先に」
いつもの挑発的な笑顔で言って農場を後にした。
「……」
「……」
夏空と神無は呆然とそれを見ていたが、お互いに顔を見合わせると――――――
「待ってぇええ!」
「お待ち下さいぃぃぃ!」
と、脱兎の如く駆け出した。
そんなこんなで二人が見えなくなった後、畑を耕していた初老の男が作業の手を休めて鍬の柄で肩を叩きつつ―――――
「若いねえ」
そう、しみじみと呟いた。
後書き
ご感想お待ちしております。
いやはや、にじふぁんで書いてたモノを書き直すのは、中々に楽しいですが、大変です。
何でこんなところを書き間違えるかな? とか他にもいろいろとアラが……
でわでわ
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