とある星の力を使いし者
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第31話
火野がどこにいるか分かったので、麻生達はタクシーを呼んで急いで上条の実家に向かう。
麻生は上条が記憶喪失なので正確な位置が分かるのかと聞く。
携帯のGPSやテレビに映っていた周りの建物などを見て、調べて何とか正確な位置を知る事が出来たと言っていた。
タクシーに乗り込み(運転手は女子高生が握っているので少し不安があったが)何とか現場から、約六〇〇メートル離れた位置に着く事が出来た。
テレビの情報が正しいなら、上条の家から半径六〇〇メートルにわたって大包囲網が敷かれているらしい。
「で、此処まで来たのはいいけどこれからどうするんだ?
警官隊の包囲は元より野次馬だっていっぱいいる状況で、どうやって俺ん家まで向かうんだよ?」
「もちろん、そこを通っていくに決まっているぜい。」
土御門は近くになる民家のコンクリート塀を指差した。
警官隊は全ての道路を封鎖したとはいえ、道路でないところまで警官は立っていない。
無人となった民家の庭や植え込みなどを通り上条の家に近づいていく。
警官が隣の警官と言葉を交わしたり、無線通信に意識を集中したり、何気なく空を見上げたり、そういったほんの一瞬の空白を突いて土御門達は警官のすぐ近くを走り抜けていく。
こういった人間離れした技術を見せつけられて、上条はやはり土御門もプロの人間なんだと痛感させられた。
何より驚いたのは、それに難なくついていけている麻生だ。
確かに麻生の能力は上条の右手に比べて絶大な能力である事が分かる。
だが、今は麻生は能力を使っていないにも関わらず土御門達に着いて行っているのだ。
半径六〇〇メートルの包囲網を超えるとしばらく人の姿が見えなかったが、走り抜けると今度は装甲服と透明な盾に身を包んだ物々しい面々が現れた。
「さてはて、流石にここから先は隠密だけでは難しいぜい。
カミやん家を取り囲んでいる機動隊は全員、双眼鏡でカミやんの家に大注目しているし。
誰にも気づかれずカミやん家に突撃して、火野を押えるのは不可能っぽいぜよ。」
「不可能って、じゃあどうするんだよ?」
「そうですね、機動隊を眠らせたり放心させたりする意識介入の術式は可能ですが、それでは無線通信などの沈黙で異常を感知される恐れがあります。
ですので、認識を他に移すという手法を取るのはどうでしょうか?」
「それが一番無難だな。」
路上駐車の車の陰に隠れながら、上条を置いてけぼりにしつつ話を進める。
何の話をしているのか分からない上条はとりあえず麻生に聞いてみる
「えっと、どういうこと?」
「簡単に言えば他人の家を「当麻の家」だと誤認させるって事だ。
それなら本来の当麻の家で何があっても、異常だと気付かれないだろ。」
少し溜息を吐きながら説明をする麻生。
「それで術式はどういう風な感じだ?」
「私の鋼糸を使って半径一〇〇メートルに禁糸結界を張ります。
糸を張り巡らすのに二〇分くらいかかりますので、その間はどこかに身を隠してください。」
「糸の結界なら俺も手伝えるから着いて行く。
それなら時間もそうかからない筈だ。」
麻生に右手には糸の束がいつの間にか握られていた。
神裂は麻生が手伝う、と聞くと少しだけ困ったような顔をする。
どうやら一般人に手伝ってもらうのは気が引けるようだ。
その神裂の考えが分かった麻生は言う。
「結界を早く張るのにデメリットはない筈だ。
それにもたもたしていると火野が御使堕しを完成させる可能性がある。
一刻も早く結界を張る必要があると俺は思うが。」
麻生の意見が正しいと分かった神裂は依然と困った顔をしているがと了承した。
神裂と麻生が結界を張りに行こうとするとき、何を思い出したのか神裂は上条の方に向く。
「それと、上条当麻。
あなたはこの糸には触れないでください。
結界の核たる糸にあなたの右手が触れてしまうと、魔術が解けてしまう恐れがありますので。」
「いや、いくら何でもこんな指ごとスッパリ切断されてそうな糸に触れようとは思わねーよ。
触れてしまって右手が切断されたら、それこそ「不幸だから」の一言で済む問題じゃねーだろ。」
神裂は上条の言葉を聞いてぴく、反応して表情が消えた。
それに気づいた麻生は早く行くぞ、と神裂に話しかける。
ええ、と神裂は答えると振り返り結界を張りに行こうとするが上条がその背中を見た時、ゾクリ、という背筋に感触を覚えた。
麻生と神裂は結界を張る為に走り去っていく。
無人の住宅街を走りながら糸を張り巡らせ結界を築いていく。
神裂はこういった細かい作業は苦手だが、麻生がうまくフォローしてくれているので順調に結界を張りつつある。
すると、糸を張り巡らせながら麻生は神裂に聞いた。
「当麻の言葉を聞いてから何だか暗いな。
何か癇に障る事でもあいつは言ったのか?」
え、と少し驚く神裂。
どうやら顔に出ているとは思ってもみなかったのだろう。
少し考えた後、神裂は自分の過去を話す。
本当ならこんな話を他人である麻生に話しても意味はないし、何より昔の事を思い出すので話したくはない。
なのに神裂は麻生なら話してもいいと思った。
「私は誰よりも幸運でした。
生まれる前から天草式十字教の「女教皇」の地位を約束されました。
代わりに「女教皇」を目指していた人たちの夢を潰しました。
たった一つの当たりくじを必ず引き当てました。
代わりに残りの人々に外れくじを引かしてしまうことになりました。
人々の中心に立つ人望がありましたが中心にいた人を輪の外へと追い出し、願った望みは全て叶い、日常は嬉しい誤算に溢れ、命を狙われても何故か生き残りました。」
神裂の表情が徐々に曇っていく。
麻生はその話を黙って聞いている。
「なぜ生き残ったのにも理由があります。
私を慕ってくれる多くの人が私を庇って飛んできた弾丸の盾として、爆風を防ぐ鎧となってくれたからですよ。」
思い出すのもつらいのに神裂は話を続ける。
まるで自分の罪を懺悔するかのように。
「私はこの幸運が許せなかった。
この幸運が周りの人たちを不幸にするのが耐えられなかった。
私の幸運で倒れていく人たちが、最後に私に出会えた事を幸運だと言って笑みを浮かべるのを見るのが耐えきれなかった。
だから私は全ての地位を捨て、自分の幸運や不幸に振り回されないほど強い集団、必要悪の教会に入る事にしたのです。」
ちょうど麻生に背を向けるように話していたので、自分の過去を話し終えた神裂の顔を麻生は見る事が出来なかった。
「お前はその仲間の為に天草式十字教を出て行ったんだな。」
神裂の過去を聞いた麻生は神裂に問いかける。
「そうです。」
そう一言だけ告げる。
麻生から返ってきた答えは神裂が予想しているのとは全く別の答えだった。
「俺はお前のような境遇になった事もないから、知ったような口を聞く事は出来ない。
だから俺が言えるのはこれだけだ。」
麻生は神裂の前に立ち神裂の目を見る。
「その生き方で、その選択で後悔はしないか?」
予想外の麻生の言葉に神裂は戸惑う。
単に慰めの言葉などを期待していたわけではない。
だが、この言葉はあまりにも予想外だった。
「どう・・いうことですか?」
「簡単な事だ。
お前のその生き方で本当に後悔しないかと聞いているだけだ。」
「だから、どういうことなんですか!?」
周りに警官がいるかもしれないこの状況にもかかわらず神裂は声を荒げる。
幸いにも周りに警官は居なかったらしい。
麻生は少し周りを警戒して何もない事を確認すると、神裂に背を向けて結界の設置のための最後の糸を張り背を向けながら言った。
「そんなの自分で考えろ。
前にも言った筈だ、答えは他人からもらっても意味はない。
自分で見つける事に意味はあるんだってな。」
結界がちゃんと起動していることを確認して麻生は土御門達がいる所に戻る。
神裂もこのままじっとしている訳にもいかないのでそのまま麻生に着いて行く。
だが、頭の中は麻生の言葉がずっと繰り返されていた。
土御門達の所に戻り結界がうまく起動している事を伝え、確認すると警官達は上条の家とは別の家を包囲していた。
上条の家の前に立つとカーテンが全て閉められており中の状況がよく分からない状態だ。
上条は麻生と神裂が戻ってきたとき神裂の表情が暗かったので、心配して神裂に視線を向けるとさっきの暗い表情から少しだけ明るい感じがした。
火野が目の前にいるので余計な事を考えている暇はないんだろうと考える。
神裂とミーシャは二階から潜入すると言って何の助走も無しで屋根に飛び移った。
上条はその光景に唖然としていたが、麻生と土御門は特に気にすることなく上条の家の玄関から潜入する。
玄関の扉を開けて中に入るとカーテンを閉め切っているが、完全な暗闇ではなくカーテンの隙間からわずかに光が入っていた。
中に入りリビングに行くと麻生は部屋の中に充満している異臭に気づき小声で土御門と上条に話す。
(ガスが充満している。
下手に火花とか起こすと爆発するぞ。)
麻生の言葉にギョッと二人は肩を震わせた。
だが、麻生が忠告したにも関わらず前に進んでいく。
(とりあえず上条は窓を開けるようにしてくれ。
土御門はその護衛を、俺は一階をくまなく探す。)
(危険だろ、一緒に行動した方が良い!)
(時間がない、それにガスが充満しているこの部屋で火野が余計な事をすれば大惨事になる。
窓を開けないと話にならない。)
これ以上の話は火野に場所を教えてしまう可能性があるので麻生は一人で奥に進んでいく。
台所に向かいガスの元栓を閉めようとした時、ゆらりと音もなく痩せぎすのシルエットが麻生の後ろから現れる。
火野は最初から台所に隠れていて麻生が横を通過した時に現れたのだ。
上条と土御門は火野の存在に気付いたが、麻生から見ると後ろにいるので麻生は気づいていない。
「きょう、・・・!!」
すけ、と上条が名前を呼ぼうとした時には既に三日月のナイフは麻生の頭に向かって振り下ろされていた。
上条と麻生の距離は離れているので助けることも出来ない。
上条は最悪の結果を想像した時だった。
火野の持っているナイフが麻生に当たる直前で止まったのだ。
正確には麻生とナイフの間に何かが挟まって、これ以上前に進めないといった表現の方が正しい。
麻生は振り返り、ナイフを持っている手首を殴りナイフを手から離させる。
「ぎぅ!!」
火野は後ろに下がろうとするが麻生がそれに合わせて前に進み、掌底を火野の腹に突き出すように繰り出しそのまま後ろの戸棚にぶつかった。
「残念だったな。
お前が後ろから奇襲を仕掛けてくると思ったから、背後に空間の壁を設置していたんだよ。」
麻生はそう言って台所のガスの元栓を閉める。
さっきの物音が二階まで聞こえたのか神裂とミーシャが二階へと降りてくる。
ミーシャは火野の顔を見るなりL字の釘抜きを引き抜こうとするが、土御門がミーシャの手を掴み事情を説明する。
上条に部屋の窓を開けるように指示するとそこから光が入り部屋の中の様子が分かる。
部屋中には海外からの民族性のあるお土産で溢れていた。
しかし、全員はそんな事に気にしている暇はない。
「さて、「審問」でも開始すっか。
一応、降参する場合は御使堕の儀式場を吐く事を覚えておくぜよ。
土御門は楽しげな口調で話しミーシャの右手にはドライバー、左手にはノコギリが握られている。
そんな状況でも火野の態度は変わらなかった。
何度もしらない、と呟き、エンゼルさま、とも呟いている。
麻生と上条以外は火野の威嚇行為などと思っているが、この二人は全く別の考えを考えていた。
そしてテレビで話していた事を思い出した。
「そうだ、二重人格だ。」
上条の言葉に麻生以外の全員が反応する。
神裂達は二重人格が何を意味しているのか分かっていないようだ。
上条に続けて麻生が説明をする。
「御使堕しの影響で火野の中で「人格A」と「人格B」が入れ替わっている事だ。
これなら外見が変わらない理由に説明がつく。
中身、つまり人格と言う中身が入れ替われば外見が入れ替わりに変化は起こらない筈だ。
火野は犯人じゃない。
こいつも御使堕しに巻き込まれた被害者だ。」
神裂は信じられないような顔をして火野に問い掛ける。
「医者に、医者に言われたのですか?
あなたのエンゼルさまはただの二重人格と、そういう診断を受けたのですか?」
「ひっ!やめ、やめろ、そんな目で見るな。
あの医者は何も分かっていないんだ、何も分かっていないだけなんだ!!」
その言葉を聞いて全員分かってしまった。
その結果を上条が告げる。
「火野神作は御使堕しの犯人じゃない。」
全員がその場で固まってしまった。
完全にとばっちりを受けた火野神作は「エンゼルさま」が偽物だった事にショックだったのか気絶している。
完全に犯人を追う手がかりを失ってしまった。
そこで上条の視界の中で違和感を感じた。
火野が寄りかかっている戸棚へと近づく。
そこには写真立てがあり、そこには幼い上条と両親が映っている筈だった。
御使堕しは写真の中まで影響を及ぼす。
ゆえに写真に写っている詩菜の姿もインデックスになっているのだが、父親である刀夜は海の家であった刀夜と同じ姿をしていた。
つまり入れ替わっていないのだ。
その事実にその場にいた全員が気づく。
「ま、さか・・・父さん。」
上条の呟いた時、隣にいたミーシャは冷たく息を吐いた。
「解答一、自己解答。
標的を特定完了、残るは解の証明のみ。
私見一、とてもつまらない解だった。」
言うな否やミーシャは開いた窓から庭へと飛び出し、どこかへと走り去ってしまう。
神裂は慌ててミーシャを引き止めようとするが既に姿はなかった。
「まずいぞ、ミーシャは上条刀夜を殺す筈だ。」
「ッ!?
何でだよ!!」
上条は麻生に迫り来るように問い詰める。
麻生は冷静に端的に告げた。
「ミーシャがお前や俺にした事を思い出してみろ。」
その言葉にゾッ!、と背筋を凍らせた。
ミーシャは犯人を追い詰める事に何のためらいも見せなかった。
それは経験した上条が一番分かっている事だ。
「火織、当麻、お前達は今すぐに「わだつみ」に戻ってお前の父親を保護しろ。」
「・・・・・分かりました。
あなたはどうするのですか?」
「俺はここに残って御使堕しを解除できるか試しみる。
出来ないと分かったらすぐにそっちに向かう。」
「俺も麻生と一緒にここに残って調べるぜい。」
神裂と上条は頷くと急いで家を出て行く。
「ちくしょう、ちくしょう!!」
容赦なく刀夜に金槌や釘抜きを振り下ろす姿を想像して、上条は歯を食いしばりながら、上条は絶叫しながら急いで海の家に戻る。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
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