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戦国異伝

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第百十一話 青を見つつその三

「これではじゃ」
「危ういですな」
 酒井もこう言う。
「武田のこと、何かあれば」
「はい、忍を送ってきます」
 本多は酒井にも答えて述べる。
「しかも武田の忍といえば」
「確か十勇士という者達がおるとか」
「その者達、数は確かに少のうございます」
 無論武田家には彼等以外にも忍がいるがとりわけ有名なのは幸村の腹心でもある彼等十人であるのだ。
「ですがそれでも」
「その十人がでございますな」
「まさに一騎当千の者達です」
「では十人で一つの忍群にも匹敵しますか」
「おそらくは」 
 本多はここで服部を見て述べた。
「一人一人が半蔵殿に比肩するかと」
「何と、そこまで」
「それ程の者達が十人」
「それだけいますか」
「半蔵殿は間違いなく伊賀でも随一の忍でございます」
 このことは本多も確かに言う。
「ですがそれでも」
「十勇士はその半蔵殿と比べて」
「一人一人全く引けを取らぬ」
「そこまでの者達でございますか」
「その十勇士の主である真田幸村もです」
 この男の名前も出る。
「やはりかなりです」
「智勇兼備の者です」
「そして人望もあり忠義の塊だとか」
「そこまでの者だとか」
「武田と二十四将だけでも厄介なのにのう」
 家康にしても幸村のことは困った顔で話す。
「それに加えてじゃな」
「左様です、真田幸村と十勇士です」
「その者達がいます」
「十人の半蔵殿に匹敵する忍達に加えて」
「真田です」
「平八郎、どうじゃ」
 家康はここで本多忠勝を見て彼に声をかけた。
「御主ならば真田に勝てるか」
「武だけなら五分でやり合えます」
 本多忠勝はこう主に答える。
「槍だけなら」
「しかしじゃな」
「智ではとても勝てませぬ」
 それではとてもだというのだ。
「あれだけの智恵者になりますと」
「殿、真田の智略ですが」
 四天王筆頭であり徳川家の重鎮でもある酒井が幸村の智略についてこう家康に対して話したのだった。
「それこそあの山本勘助にも匹敵するとか」
「あの隻眼の軍師にか」
「織田家なら竹中殿や小寺殿に」
 それに生駒だ。織田家の軍師達にも引けを取らないというのだ。
「雪斎殿も舌を巻かれているとか」
「ううむ、そこまでの智略か」
「その様です」
「そして忠義もか」
「あの武田家においても随一だとか」
 武田家は主である信玄に家臣達が絶対の忠誠、崇拝に近いまでのそれを持っていることで知られている。
 その中でも幸村の忠義は随一のものとして天下に知られているのだ。
「そして信義にも篤く仁義も重んじる」
「一本気なよい若武者だとか」
「だからこそ一癖も二癖もある十勇士達が従っているそうです」
「あの者に」
「聞けば聞く程凄いのう」
 家康の言葉は唸っているものだった。
「真にな」
「左様ですな。相手ではありますが」
「そこまで見事な者が天下におるとは」
「天晴れな者でございます」
「そしてその者がです」
 徳川の領地に十勇士達を送り込んで来るやも知れぬというのだ。このことは徳川にとって大きな脅威である。 
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