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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百三十六話 黒狐を煙に巻く

 
前書き
新作UPしました。 

 
宇宙暦793年 帝国暦484年 1月30日

■フェザーン自治領 自治領主オフィス  アドリアン・ルビンスキー

この日、フェザーン自治領主アドリアン・ルビンスキーは補佐官ニコラス・ボルテックから報告を受けていた。

「自治領主閣下、由々しきことに帝国開発庁の為に最近フェザーン資本の締め出しが続いております」
「うむ。アイゼンフート星系から2000兆トンの水資源を移動させ複数の星系で50億人分の食料を生産するプロジェクトすら受注出来なくなるとは思わなかった」

「誠に最近の帝国はフェザーン資本に嫌悪感を見せて居る模様です」
「ふん、散々搾り取ってきたのだから、気がつく輩が出ても可笑しくはなかったが」
「今まででしたら、鼻薬を嗅がした者達がどうにでも出来ましたが」

「いきなりの皇帝の開眼だ。私とて驚いている」
「やはり、グリューネワルト伯爵夫人の影響でしょうか」
「それが判れば、申し分ないが、未だに判らんのが不気味と言えよう」

ルビンスキーよ、果たして皇帝の開眼が一寵姫の影響であろうか?考えるのだ何か真綿で頸を絞めてくるようなこの不快な違和感を。
「しかし、皇帝の悪運は驚きです」
「マンフレート2世のようにならなかったのだからな」

「皇帝の暗殺が成功していれば、帝国はフェザーンの影響が増した物を残念です」
フフ、ボルテックよ、余りそう声を出す物ではないぞ、誰が聞いているのかわからんのだぞ、まるで皇帝の暗殺をフェザーンが示唆したように聞こえるではないか。

「帝国各省庁には再度協力者を得なければ成るまい」
「その点については、現在弁務官事務所が接触を行うべく動いておりますが」
「はかばかしくないという訳か」

「は、何しろ勅命により不良官刺が一掃された為に我々に与する人材の確保に苦慮しております」

しかし、思い切ったことをしたものだ、下級貴族や平民を尚書にするとは、マクシミリアン・ヨーゼフ2世以来の名君と言われるかも知れんが、そうは行かん。我がフェザーンの恐ろしさを知らしめることに為さねばならんな。未だ未だ二手三手を放てば良いだけだ。この俺を舐めないことだ。

「弁務官事務所には焦って尻尾を捕まれないように命じよ」
「判りました」

「所でイゼルローン方面への輸送増加については何か情報が無いのか?」
「シャフト科学技術総監からの情報ですが、イゼルローン要塞の改築作業を行うらしくその資材も搬入されているようです」
「ほう、あの守銭奴も役に立つな、量的にはどの程度なのだ?」

「先頃、要塞の第4層で大規模な火災が発生し第4層の5%ほどが消失したらしく、其処の修理だそうで、凡そ6億トンほどの資材が搬入されているようです」

「その程度ならば、気にする程度では無かろうが、それにしては移動する輸送船の数が多いのではないか?」

「はい。その点でありますが、惑星開発庁がクラインゲルト星系、ボルソルン星系、リューゲン星系などに水、木材、建築資材などの惑星開発資源を搬送しているそうです、なんでも輸送の効率化を図るためにイゼルローン要塞への資材もついでに混載している模様です」

「つまりは、我々の開発計画を先取りしたと言う事か、しかも辺境の惑星の開発とは、今までであれば門閥貴族の所領から開発を行うものを、この計画自体が辺境貴族の不満を解消させることも狙いだな。しかも輸送資金の節約をするとは、我らフェザーン商人並みの経済感覚の人間が輸送計画を立てたのかもしれんな」

「自治領主閣下のお考えに同意いたします。誰かフェザーン人が入れ知恵したのかもしれません」

ふん、アイデアは我々の方が先だと言うのに、まんまと先取りしそれどころか帝国の安定を狙うとは、国土尚書ブルーノ・フォン・シルヴァーベルヒという男のアイデアかはたまた別の者のアイデアか、或いはこのフェザーンに裏切り者がいるかだな。これは早急に調べねばならんな。

「各尚書、次官、長官を調べる様にさせよ、さらに輸送計画の立案者も探るのだ」
「その点も既に命じております」
ほう、ボルテック、お前も段々と判るようになって来たか、そうでなければ、この俺の補佐官は勤まらないのだからな。

「帝国での行動は暫く停滞と言う事に成るであろうな」
「残念ではありますが」
「仕方があるまい、暫くは同盟から搾り取ることにするしか有るまい」

「はい。同盟では、先頃同盟でも最大規模の電気機器メーカーイースタン・デジタル社と食品メーカーキャンベラ社の株式の過半数を入手しております」
「それは、気づかれないように名義を複数に分けてあるのだろうな」
「その点は、お任せ下さい」

帝国が皇帝開眼で力を付けつつ有る中、同盟はファザーン資本に内部を食い荒らされていく、このまま行けば遠からず同盟はフェザーンのコントロール下に置かれるであろう、そうすれば我がフェザーン自治領主アドリアン・ルビンスキーが銀河の戦雲を確実にコントロールする時代が来るわけだな。

「うむ、同盟の産業全般をコントロールする日も近いであろう」



宇宙暦793年 帝国暦484年 2月20日

■フェザーン自治領 自治領主オフィス  アドリアン・ルビンスキー

この日、フェザーン自治領主アドリアン・ルビンスキーは補佐官ニコラス・ボルテックから緊急の報告を受けていた。

「自治領主閣下、大変です。シャフト科学技術総監からの情報ですが、新たなことが判明致しました」

慌てて来たかボルテックよ、お前に届く前に俺の所に既に情報は入っているが、それほど驚くほどのことではあるまい、第二イゼルローン要塞など建設にいったいどれだけの時間がかかるかわからんでも無かろうに、その程度のことで慌てるのであるから、お前は補佐官止まりなのだよ。

「いったいどうしたのだ、皇帝でも死んだのか?」
「自治領主閣下、そうではありません、イゼルローン回廊に第二イゼルローン要塞なる物を帝国が建設を開始した模様です」

此処はボルテックの能力を見て見ることにするか。

「なるほど、最近の輸送の増加はそのカモフラージュでも有った訳か、それにしても搬入量が少ないのではないか」

「はい、それに因りますと、未だ基本フレームすら建設を開始していない状態だとの事です」
「なるほど、イゼルローン要塞が建設に十数年の時間と莫大な予算をかけて建設されたのだからな、直ぐに出来る訳が無いと言うことだな」
「はい、シャフト科学技術総監の言う事には、最低でも10年はかかるとの事です」

「しかし、第二イゼルローン要塞が完成すれば、イゼルローン回廊は難攻不落になるという訳か」
「第二イゼルローン建設の情報ですが、同盟に知らせますか?」

建設途中で攻め込ませるのも、一興だが完成後に同盟が攻めあぐみ、銀河を巡る暗雲がたなめき益々戦いが長引けば、我がフェザーン自治領が肥え太る訳だな。

「ボルテック、今は知らせぬ事だ、知らせるにしてもある程度完成して建設中の要塞が被害を受ければ、それだけ予算がかかり建材の値段が上がる、その建材を輸出すればフェザーンの利益になるのだからな」
「なるほど、了解致しました」


ボルテックの退出後に満天の星をペントハウスで見ながらルビンスキーは独白していた。
「同盟も帝国もそして地球教もこの俺の掌で踊るがいい、最後に生き残るのはこの俺か」



帝国暦484年 3月1日

■イゼルローン回廊 アルテナ星系 イゼルローン要塞

イゼルローン要塞の秘匿回線通信室では要塞司令官トーマ・フォン・シュトックハウゼン大将と駐留艦隊司令官ハンス・ディーリッヒ・フォン・ゼークト大将が、何故か連絡してきた科学技術総監シャフト技術大将と会話を行っていた。

『要塞司令官、駐留艦隊司令官、お久しぶりですな』
「科学技術総監もお変わりないようで」
『ははは、相変わらずですよ』

画面に映るシャフト科学技術総監はビアホールの主人を思わせる風貌で有りながら、何か探ろうという感じが目の端々から感じ取れていた。

「所でいったい何の御用ですかな」
シュトックハウゼンが冷静な表情で尋ねる。
『いや、其方で建設中の第二イゼルローン要塞に関してなのだが、進展率はどの程度かと思って』

「此は如何に、科学技術総監ならば、ご存じかと思いましたが」
ゼークトが大げさに驚いてみせると、シャフトは汗を拭きながらモゴモゴと言い始めた。
『今回の要塞建設は即在の設計図を元にイゼルローン要塞のコピーを作る様で、科学技術総監部はタッチして居ないのだよ、軍務省直轄事業として認可され実際の建設は軍務省建設局が指導しているのだよ』

「それならば、建設局へお聞きになるのが筋というのではありませんかな?」
シャフトの言葉にシュトックハウゼンが応え、それにシャフトも答える。

『うむ、建設局は科学技術総監部には手伝うことがないと言う事で、細評を教えてくれんだのよ、30年前の設計では折角建設する要塞が陳腐化するからこそ、新たな技術を入れるべきなのにもかかわらずだ。其処で悪いと思ったが、要塞で叛徒共と戦う卿等に意見を求めて新技術の第二イゼルローン要塞への配備を後押しして貰いたいと思った次第だ』

「なるほど、そう言う事でしたら吝かではありません」
『そう言って頂けるとありがたい。所で第二イゼルローンの建設はどの程度進んでいるのかね?』
「映像を見て頂いた方が良いと思いますな」

そう言いシュトックハウゼンとゼークトの副官達が映像を見せると、其処にはフレームの上に多数の布で囲った不格好な姿の要塞が映し出された。
「取りあえず、外見を完成しているように見せるために、布で囲っていますよ」

『ほう、外から見たら完成間近の様に見せるわけですな』
「そうなりますな」
シュトックハウゼンとゼークトの言葉に納得したのかウンウンと納得するシャフトであった。

『要塞司令官、駐留艦隊司令官、今回はありがたかったですぞ。それでは宜しく』
「科学技術総監も御達者で」

映像が切れると、シュトックハウゼンとゼークトそして副官達が次第に大笑いを始めた。
「アハハハハ」
「ハハハハ」
「アー苦しいの」
「全くだな」

「科学技術総監閣下も御苦労なことだ、直ぐさま飼い主にご注進するだろうな、第二イゼルローン要塞建設はまだまだだと」
シュトックハウゼンの話にゼークトが頷く。
「そうだな、あの真剣な表情を見たか、滑稽を通り越して哀れでもあるな」

「あの真剣さを仕事に回せばさぞかし出世したであろうに」
「機密漏洩に公金横領など叩けば埃が出る体だからな」
「泳がされているとも知らずに哀れだな」

「ふん。皇帝陛下を裏切った連中だ、所詮行き着く先は地獄よ」
「まあ、違いない」

「これで黒狐と叛徒共がどう出るかだな」
「建設はまだまだと、攻めてこないであろうが。用心だけはしておいても悪い事事は無いからな」
「うむ、駐留艦隊も回廊出口に機雷原を敷設して万が一の侵入に備えているからな」

「あとはツヴァイと首飾りだけだな」
そう言うと、2人とも副官に顔を向けて苦笑いし始める。

「卿等に話を聞いた時は驚いたが、陛下の御考案とは誠に素晴らしい事であるな」
副官達が2人に返答する。
「閣下の御演技お見事でした、陛下も御喜びにお成りでしょう」

その言葉にシュトックハウゼンとゼークトは照れたような顔をする。

「皇帝陛下にはお任せ下さいとお伝え下さい」
「はっ」

この様にフェザーンは見事に騙されていたのであった。
 
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