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戦国異伝

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第八十四話 炎天下その五


 そしてその中でだ。佐々が言った。
「しかしとりあえずじゃ」
「そうじゃな。まずはな」
「飲まなくてはならぬな」
「水を」
「その通りじゃ」
 柴田もだ。佐々のその言葉に答えた。
「今はとにかくじゃ」
「水を飲む」
「それが大事ですな」
「とりあえずは」
「そうじゃ。まずは飲まなくては誰ももたぬ」
 柴田はわかっていた。このことがだ。
 そしてそれと共にだ。こうも言うのだった。
「とにかく皆水を飲め」
「わかりました。それでは」
「今はそうします」
「そして飯を食え」
 水だけでなくだ。柴田はこのことを言うことも忘れなかった。
「よいな」
「はい、それではですな」
「水を飲み飯を食いそのうえで」
「明日のことは明日のことですな」
「そうしますか」
「夜襲があるかも知れぬ」
 このことは忘れていなかった。流石は織田家きってのいくさ人だ。
 その柴田がだ。夜襲の恐れも言うのだった。そしてそれと共にだった。
「よいか。それに警戒しつつじゃ」
「そのうえで、ですな」
「外の者達も」
「そうじゃ。近くに川がある」
 野洲川の他にだ。小さな川があるというのだ。
 そしてその川でだ。水を手に入れるというのである。
「よいな。今はじゃ」
「はい、水を飲み」
「明日は戦ですな」
「いよいよ」
「その通りじゃ。とにかく今は飲め」
 そのだ。水をだというのだ。
「今をどうにかしてからじゃ」
「これからがある故に」
「それ故にですな」
「そうじゃ。まずは飲め」
 生きる為、それに他ならなかった。
「わかったな。明日のことは明日考えるのじゃ」
「はい、さすれば」
「今はその様に」
 こうしてだった。柴田達はまずは水をたらふく飲み飯を食い休んだ。城の外でも夜襲を警戒しながら水を手に入れて飲んだ。こうして織田家の軍勢は何とかその命を保った。
 だが次の日もだった。早朝からだった。
 呆れる位に暑い。その暑さにだ。
 織田の兵達は唖然としてだ。こう言い合った。
「近江とはここまで暑かったのか」
「いや、聞いておらんぞ」
「わしは近江の生まれじゃが最近特別じゃ」
「そうじゃ、この暑さはない」
「何か違うぞ」
 こうだ。朝から暑さの話だった。朝飯もその暑さの為だ。
 あまり喉を通らない。朝から喉が渇いてだ。しかしだった。
 柴田はわざわざ彼等のところに来てだ。大声で言ったのである。
「何としても食え」
「この暑さでもですか」
「飯は食わねばなりませんか」
「これから戦じゃ。それで何も食わずに動けるものではない」
 だからだというのだ。 
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